黄昏博物館へようこそ ー生命の欠片の物語ー   作:zenjima7

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はまべ

「ヒト?」

「ハイ、僕はヒトらしくて、何か知ってますか?」

 

 ディアトリマのディアは首を傾げている。良い答えは期待出来なさそうだ。

 

「ごめん、ちょっとわからないわ」

「そうですかぁ」

「昔はこの島にもいたらしいけど……。あ、もしかしたら!」

「もしかしたら?」

「スミロなら何か知ってるかも知れないわ」

「スミロ?」

 

 かばんとサーバルは顔を見合わせる。有力な手がかりなのかも知れない。

 

「うん、この島に一番昔からいるフレンズ。戦う素養のあるフレンズたちを集めて鍛えてガーディアンを組織したのもスミロ。戦えないフレンズたちのためにビレッジを作ることを教えたのもスミロ。そして島で一番強いフレンズ。私の友達で、先生!」

「何かすごいフレンズなんだね!」

「この島の長、ということなんですか?」

「長とはちょっと違うかな?基本、恥ずかしがり屋さんだからあまり皆と一緒いたがらないの」

「どんな子なの?」

「サーバルと同じネコ科の子だよ」

「へ~、会ってみたい!」

「スミロはたいてい博物館(ミュージアム)の裏にある《たちいりきんしくいき》のゲートにいるよ」

「じゃあ、博物館に行ったら会いにいこう!」

 

 ネコ科のすごいフレンズがいる、その存在に無邪気に喜ぶサーバルだったが、かばんはディアの何気ない言葉に不安感を募らせていた。

 

「立ち入り禁止区域? その出入り口に一番古くて強いフレンズがいる?それって何か……」

 

『博物館にバッテリーの充電装置もあるよ。それと、博物館にある端末PCからセントラルコンピュータにアクセスできるから、かばんが調べたいこともわかるかもしれないね』

「ラッキーさんからリンク出来ないんですか?」

『ガイドロボットの僕がアクセスできる範囲は限られていて、この島のフレンズを含む展示物の説明データだけだよ。それ以上の範囲へのアクセスはヒトによる認証が必要みたいだね』

 

 それは直感みたいなものだった。胸の奥が騒ついてどうしようもない不安感でいっぱいになる。

 この島には何か得体の知れない恐ろしい秘密があるような?

 テーマパークだったジャパリパークとは異質、根本的な何かが違っている。

 もしかしたら、開けてはいけないパンドラの箱、食べてはいけない禁断の果実……

そんなものなのかも知れない?

 

 

 

 ………………

 

 

 

 ディアに付き添いをお願いしたら、ガーディアンの義務だからと快く引き受けてくれ、一行は博物館を目指すことになった。

 

「とりあえず、ビレッジを目指しましょ、ビレッジから博物館は近いからね」

「わかった!」

「ハイ」

 

『ビレッジ……データ照合、ベースキャンプに該当。水道有り、10基のコテージ有り、トワイライトフード配給有り、現在地からの距離約20キロ……』

 

 浜辺近くの松林を歩いていく一行、ここにはかつて遊歩道が整備されていたのか半ば砂に埋もれているひび割れたアスファルトが見え隠れしている。

 

「ディア、この島にセルリアンはいるの?」

「うん、ある時期になると定期的に出現して、フレンズに襲いかかってくるわ。まあ今の時期はいないけど」

「そーなんだ~」

「一定期間に?」

「ガーディアンもビレッジも無かった昔はたくさんのフレンズが犠牲になったわ……」

 

 遠い目をするディア。

 彼女は明るくて気さくな反面、たまに憂いを含む哀しげな表情になることがある。先程のヒエイの事といい、他にもガーディアンとしていろいろな経験をしてきているに違いない。

 

「じゃあ、セルリアン以外の危険ってなんですか?」

「うん、それはヒエイみたいにセルリアンに襲われて……」

「うわ、何アレ!」

 

 サーバルが何かを見つけて大きな声をあげる。

 

「あれって……」

 

 それは巨大生物の遺骸、浜辺に横たわる謎の生物の骨。

 大きな口には肉食動物だったことを示す鋭いの歯。

危険を身を以て体験したかばんはすぐに察する。セルリアンに襲われて元の野生動物に戻ってしまったフレンズ。その中には危険な肉食獣もいる筈。

 例えば、今ここに遺骸を晒すこの巨大な獣が生きていたら……、考えただけで恐ろしい。

 

「アレ、この子、後ろ足がやたら小さいよ。これじゃ歩けないんじゃない?」

「身体が大きいし前足はヒレ状だし、クジラさんかな?」

 

骨を観察してあれこれと推測するかばんとサーバルだが、そこにディアがやってきて小さく洩らす。

 

「バシロよ……」

 

 テクテクと歩み寄り、優しく骨をさするディアの頬に一筋の涙が流れていた。

 

「ディア、どうしたの? 何で泣くの?」

「サーバルちゃん、きっとこの子も……」

 

 ディアはゴシゴシと涙を拭い、二人に説明する。

 

「これはバシロサウルスのバシロ。バシロも私たちと同じガーディアンだったけど、セルリアンにやられて……」

「もとの獣になったけど、ここで?」

 

 首を横に振ってかばんの推測を否定するディア。

 

「バシロはセルリアンに食べられて獣にならずにこの姿になったの。きっとこれがバシロのもとの姿、だからセルリアンに食べられた時点で彼女は、し、し、しん……」

 

 それ以上言葉にならず俯いてしまうディア。砂浜にポタリポタリと彼女の涙が溢れ落ちていた。

 

『バシロサウルス、原クジラ亜目バシロサウルス科。原クジラの仲間はムカシクジラとも言われ、現生クジラの仲間と違って蛇のように長い身体が特徴だよ。その為、発見当初は爬虫類の一種と間違われてしまったんだよ。龍王鯨の別名もあるよ』

 

「バシロはとても強くて力持ちで泳ぐのが得意で、私たちの優しいお姉さんで、海のフレンズたちを守るガーディアンだったの。あの日、この浜辺で苦戦する私たちを見かけたバシロが海から上がって加勢してくれて、おかげでセルリアンは撃退できたけど、もともと陸の上の戦いが苦手だったバシロは……」

 

 そこまで話したディアは顔を両手で覆って膝をついてしまう。彼女にとってそれはとても辛くて哀しい思い出らしい。

 

「よしよしディア、友達思いの優しい子、大丈夫だよ」

 

 サーバルがディアを抱きしめて慰めている。その光景を見つめるかばんの瞳も少し潤むのだった。

 

 この島、トワイライトミュージアムにはけっこう危険があり、何か秘密がある。

 でもステラもディアも、ここに住むフレンズたちはとても優しくて親切。

 彼女たちと出会えて良かった、それだけでも来て良かった。

 

 と、かばんは思うのだった。

 

 

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