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「提督、夜戦まだー?」
「少なくても、今お前が活躍する夜戦はないぞ。川内」
川内が持つ夜戦へのこだわり。これは提督の部屋で毎晩本人の手によって語られる。
「夜戦っていうのはね、提督。とても素晴らしいことなの」
「ふーん、どの辺が?」
提督は素っ気ない態度で聞き続ける。
「どの辺って言われればちょっと困るけど……」
「いやいや、川内が夜戦を好きなのはわかった。でも具体的に述べてくれなきゃわからないな」
「むー」
それを言われた川内の頬が膨らむ。
「とにかく全部なの! 暗いところとか、明るいところとか!」
「それじゃあ矛盾しているぞ……」
「もー! なんでわかってくれないの!?」
「痛い痛い、大体そんな説明でどう納得すればいいんだよ」
川内は子供のように腕を振り回して提督に訴える。
「だって夜戦よ、夜戦! 心が躍らない!?」
「俺はお前みたく夜行性じゃないんだよ」
提督は基本、早朝から仕事をこなしているので夜はかなり弱い。
「俺も眠いんだ。寝させてくれ」
最近は深海棲艦が活発なので、寝られるときに寝ないと一夜を超えるときがある。そのおかげで提督の目にはクマもできていた。
「駄目! 夜戦がないなら夜戦が始まるまで私の相手をしてもらうよ!」
「相手……?」
「そう!」
そういうと川内は何処からともなく酒瓶を取り出す。
「酒、川内飲めるのか?」
「んにゃ、あんまり飲めないよ」
川内はお酒をあんまり飲まない、というより飲む暇があまりない。夜は騒いで夜戦待機、朝と昼は大体寝ているからである。
「じゃあ……この酒はどうすんだ?」
酒のラベルを見てみるアルコール度数はかなり高い。
「提督が飲んでるところ見て、私が楽しむの」
「おおう、悪趣味だなオイ」
川内の行動には、たまに理解しがたいところがある。
「まあ、酒を飲むことは悪くない……」
そう言うと提督は、戸棚から酒瓶を3本取り出す。
「この程度の量じゃ物足りないから増やすぞ」
ここ連日の仕事で飲む暇がないので酒たちもそろそろ泣き出すころだろう。
「ところで川内。見るのは構わないけどお酌ぐらいは頼む」
「贅沢なのね」
「良いお酒には良い器。良い器には可愛い女の子のお酌って決まっているからな」
提督は川内にお酒を渡す。
「言ってることがオッサン臭いよ、提督」
「気にするな」
提督は川内が注いだお酒を一気に飲み干す。
「良い飲みっぷりね」
「そりゃどうも……」
予想以上に強いお酒だったのか、少しクラッときた。
「で、夜戦のことなんだけど……」
「却下だ」
「えー……」
酔わせてうっかりを狙った作戦は悪くないが、いつものんべえ相手にしている提督には、この程度の酒では口を軽くすることは難しい。
「川内、お前も飲んだらどうだ?」
提督は川内に器を渡して注ぐ。
「一杯ぐらいなら、罰は当たらんよ」
「そうね――んぐっ」
川内も良い飲みっぷりを見せる。
「…………」
しかし飲んだ直後、騒がしかった川内の声が止む。
「川内?」
心配になった提督は川内の肩を叩く。
「せくはらぁですよ~てーとくー」
川内の顔が赤い。これは十中八九酔っている。
「と、とりあえず水飲め」
「そんなことはぁどうでもいいんですよぉ!」
コップを払いのけた川内の目つきが狂暴になる。
「今ぁ夜戦の話をしてるのぉ!」
やはり酔っても川内は川内だった。ただ通常よりぐいぐいくる。
「私はねぇ、提督。夜戦はぁ素敵だと思うのぉ」
「…………」
絡み酒、こうなったら逃げることはできない。川内の豹変っぷりに酔いを醒ました提督はその場に正座をしていた。
「大体いつもいつもぉ提督はさぁ……」
川内の絡み夜戦は小一時間も続いた。
◆
「ん~……」
「や、やっと解放された……」
あの後、お酒を飲みながら夜戦話をデットヒートさせていった川内は、燃料が切れたのかすぐに眠ってしまった。
「まさか川内がここまでお酒に弱いとは思わなかったな」
提督は今後、川内にお酒を飲ませないようにしようと心に決めた。
「あら提督。まだ起きていたのですね」
「ん、神通か」
パジャマ姿の神通が部屋に入ってきた。提督は時間を確認するととっくに日をまたいでいた。
「ちょうどよかった。川内を部屋に運ぶから手伝ってくれ」
「わかりました」
提督と神通は川内の肩をもって運ぶ。
「提督、申し訳ありません」
「神通が謝る必要はないよ。俺も悪ノリしてしまったし……」
「姉さんは提督のことが好きなんですよ」
この状況で神通がいきなりカミングアウトをしてきた。
「姉さんはいつも夜戦のことばっかり考えてますけど、それは提督に輝いている姿を見てもらいたいからなんです」
「その話は誰から……?」
「姉さんからです、秘密ですよ」
神通は軽々とその秘密を暴露しているけど、大丈夫なのだろうか。
「だから、たまには提督も姉さんのお願いを聞いてあげてくださいね?」
「そうだな、夜戦の一つや二つ用意してみるか!」
「ありがとうございます」
神通は再び頭を下げる。
「よし。後は頼んだぞ、神通」
「はい」
提督は川内を運び終えて、その場をゆっくりと立ち去る。
「そうか……川内」
あそこまで夜戦に執着する意味が、今わかった気がする。彼女はそこでなら一番、誰よりも輝けると思っているからだろう。
提督は川内に向かい力込めて叫びたかったが、周りへの迷惑を考えて口をグッと抑えた。
今回は気分転換に投稿させていただきました。
また気が向いたら投稿させていただきます!