この素晴らしい世界に本物を!   作:気分屋トモ

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やぁ、加筆修正で話数が変更されたから前書きの内容も前と変わりました。新規の人は何のこっちゃですね。番外編に今回の話に入るまでの内容があるので暇な方はどうぞそちらの方も見てやって下さい。
それでは第十話、どうぞご覧あれ。


比企谷八幡は、再び彼女と出会う

 ベルディアが倒されてからもう一週間くらいだろうか。人々の喜びも落ち着きを取り戻し、いつも通りの静けさに生きる街並みがそこにはあった。

 

 大人は街で物を売ったり買ったりしていれば、子供はその辺りを元気よくウロチョロしている。冒険者は朝からクエスト掲示板を見ては自身の実力に見合った物を探しているし、飲んだくれは朝早くから酒を飲んではスタッフの女性に絡んでいたりする。

 

 そんな街の風景には、つい先日魔王軍が襲来したという雰囲気は微塵も感じられない。俺がこの世界にやってきた時と同じ、諍いや揉め事の少ない平和な日常だ。

 

 俺自身、新居を構えてからの生活も今のところ落ち着いたものとなっている。誰にも見つかってないし、ユキとセツは普段は寝てばっかだから基本静かだしな。本を読んだり一日中寝て過ごすにはもってこいだ。

 

 ただ、寝床を買ってやったのにちょくちょく俺の腹の上に乗って寝るのは何でですかね、セツさん達や……。小さくなってるからまだ良いんだけどさ、君達布団あるでしょ、モッフモフのやつ。顔とかに乗っかられるとマジ寝苦しくて仕方ないんだけど。どことなく行動がカマクラに似てきた気がする。俺の躾の問題だろうか。躾と称して今度逆にデカくなったユキかセツと寝てみようかな。毛並みもサラサラだからすげぇ気持ち良いんだよねアレ。

 

 時刻は五時頃。朝陽が顔を出すか迷っているような時間に顔を洗いながらそんなことを考えつつ、軽く身支度を整えた俺は以前ウィズさんから貰ったローブを羽織る。

 

 何だかんだで俺の所有物となってしまったが、意外と性能が良いので手放せずにいるこの逸品。実はゲームで言うと割と後半で手に入れられるような代物だったりするのだ。よく俺なんかにくれたとは思う。今度、あの店で何か買ってみよう。大金も入ったし、お礼の意味合いも込めて。基本ガラクタだけど。

 

「じゃあセツ、ユキ、今日も留守番頼むな」

 

『あいよ』

 

『いってらっしゃい!』

 

「おう」

 

 セツとユキに一言言って俺はテレポートである場所へ移動する。この魔法の為に、ここ一週間の間で街の色んな所にポイント設置したから大分移動が楽になったもので、本当、魔法様々である。そういえばこの世界では自転車を見たことがないが、こちらの世界では普及していないのだろうか。馬車的な乗り物は見たんだが。

 

「おう、待たせたな」

 

「お、ようやく来たか八幡!」

 

 俺がテレポートした先に居たのは、初期装備らしき剣を振っている和真だ。ようやくと言う割には汗はかいていないし、呼吸も特に乱れていない。

 

「ようやくって、お前ここに来たの数分くらい前だろ。嘘吐くな嘘」

 

「お前なぁ……そんなのこっちだって見破られるの分かってんだからノッてくれよ」

 

 どうやら冗談のつもりらしかった。いやまぁ、流石に和真が未だに俺の能力を把握してないとは思ってはいないが……。

 

「生憎内輪ノリだの何だのは苦手でな……。ただし内輪揉めは好きだぞ。基本俺はその内輪に入ってないからな」

 

「何て野郎だ……お前絶対友達いないだろ」

 

「それ、ブーメランだからな?」

 

 何自分はまともぶってんだお前は。性根のクズさでいえばあの童貞風見鶏こと大岡と同レベルで中々ステキ……って感じなんだぞ。因みに一番の屑はコイツの飲み仲間のダストだ。パーティメンバーの女性を襲おうとしたり、女湯を物凄い目で覗いていたりしていたりなど、問答無用で豚箱行きさせるべき人物である。まぁ、襲った女性にアソコ切られそうになったり、しばらく本当に豚箱に入っていたらしいので因果応報とはああいうことを言うのだなと感慨深く思ったりもしたけどな。

 

 類は友を呼ぶと言う。それは、似通った感性を持っているから波長が合ったり、自然と同じような境遇を生きていたりするからこそ備わった、同類を見つける能力の一端だと俺は思うのだが、何故今そんなことを言うのかと言うと――。

 

「じゃあ、そろそろ始め――」

 

「バインドォォ!!」

 

 ――どうやら俺もそのクズさ全開の人間の同類らしく、その同類たる和真のクズさを見ても何も思わないのである。

 

「話は最後まで聞け。ウインドカーテン」

 

 俺は瞬時に中級魔法のウインドカーテンを発動させると、和真が飛ばしてきた縄を綺麗に切り裂いていく。うむ、今日も満点の仕上がり、流石は答えを出す者(アンサー・トーカー)だな。もう一日中使っても頭痛も悪夢(?)も見なくなったし、脳が慣れたんだろうな。雪ノ下のパンさんパジャマが見れなくなったのは残念だが、それは無事元の世界に戻ってから頼むとしよう。絶対やってくれないだろうけどな。

 

「中級魔法をあっさり無詠唱とかマジチートだなチクショウがッ!!」

 

「神からの許可貰ってんだ、それを貰わなかったお前が悪い。鎌鼬(カマイタチ)

 

 ごちる和真に問答無用で俺はカマイタチを発生させて飛ばしていく。とは言っても中級魔法。駆け出しを卒業した和真だし、これくらいはやってもらわなければ困る。

 

「アクセルッ!」

 

「お」

 

 和真は強化魔法をかけると俺の攻撃を器用に躱していく。俺が驚いたのは、和真が使った魔法だ。

 

「それ、結局取ったのか」

 

「攻撃力がない俺みたいな奴はこうやって動きで相手をどうにかするしかないんでな。逃げるのにも便利だし、ポイントも少なかったからな」

 

「さいで」

 

 以前、和真に合ったスキルを打診した時にアクセルを勧めていたのだが、クイックアイズも取らなければ恐らくそこら辺に追突する可能性があるからと取っていなかったのだ。まぁ、俺の場合で考えたらむしろ出来ないことの方が少ないし、その辺りの細かい考えはあまり気にしていなかったのであまり言ってはいなかったのだが。

 

「この前も憲兵に捕まりそうになった時はマジ助かったからな。潜伏とタメ張れるんじゃねぇの?」

 

「おい、お前何やった」

 

「あ、やべ……」

 

 能力を使って問うてみると、どうやら先日ダストと共に女湯を覗きに行っていたらしい。んで、その際にアクセルを使ってダストだけ置いて行ったらしい。またアイツは覗きに行ったのかよ……もうどうしようもない辺りダクネスそっくり! 学習の無さはアクアそっくり! 後先考えない辺りはめぐみんそっくり! アイツ俺達のパーティの駄目な部分全部備えてねぇか? 驚きを通り越して軽蔑するぞ。

 

 まぁそれは置いておこう。今は、そんな奴の共犯に一体どんな罰を与えるべきかということが問題だ。

 

「……とりあえず、今日は上級魔法まで解禁な」

 

「ちょっ!? 待ってくれ、流石にそれは俺が死ぬ!」

 

「大丈夫、死なないレベルかどうかは俺がキチンと判断できる。何なら医者よりまともな治療が出来るぞ」

 

「クソ! チーターだ! 比企谷だからヒーターだ!」

 

「人を暖房器具みたいに言うんじゃねぇよ……ほれ、いくぞ」

 

 俺は喋りながらどの魔法を使うか適当に考えていると、今まであまり使ったことのない魔法を思い出したのでそれを使うことにした。

 

「アースシェイカー」

 

 俺は片手を振り上げると、それを思いっきりすぐさま振り下ろした。すると、地震の震源にいるかのように大きく揺れると同時に亀裂が入る。そして、すぐさま辺り一帯が激しく隆起する。

 

「うおっ!? 体が……た、立てねぇ!?」

 

 土魔法に分類されるこの魔法、直接的な攻撃ではない為あまり使う機会がなかったのだ。ほら、基本凍らしたり爆発したら事が収まるじゃん? 魔力消費による疲労とか普段はないのもあって基本楽な方を選んじゃうんだよな。

 

「体幹鍛えると思って踏ん張れよ。そんな訳でファイヤーボール」

 

「どんな訳だよこの人でなしがッ! 今なら無慈悲に倒されていく○リボー達の気持ちが分かるわ!」

 

 そう文句を言いつつ、和真はさっきからまだ効果が続いているアクセルを駆使しながら俺のファイヤを見事に避けていく。掠ったりもしているが咄嗟の動きにしては上出来だ。

 

 が、避けるだけの訓練でない事を忘れないで頂きたい。

 

「避けるだけじゃ、敵は倒せねぇぞ」

 

「ガハッ!?」

 

 俺は自分の身体能力のみで和真が避けた先に先回りすると腹に思いっきりパンチを放った。生々しい感触が離れると共に、和真は比較的平らな地面に飛んでいく。

 

 ゴロゴロと転がりながら吹っ飛んでいくのを見てちょっとやり過ぎたかと思ったが、容態を見ればすぐ分かるので特に心配するでもなく立ち上がって来るのを待つ。

 

「いってぇな……本当に素の能力だけかよ……」

 

「まぁ、この世界RPGと一緒で育てればそれだけステータスが上がるタイプだし、気持ちは分かる」

 

 和真が俺に悪態を吐きながら立ち上がるのを見ながら、俺自身複雑な気持ちになっている原因について考える。冒険者登録する時に思ってはいたが、この世界マジでゲームみたいな部分が多いしな。ステータスだのレベルだの、普通にそれらをゲームでしか見なかった俺達からすれば奇妙を通り越して不気味ですらある。

 

 ただまぁ、頑張った分だけ能力として反映されるのは良いことだと思う。頑張ったらそれだけ報われる実感は、前の人生ではなかったことだ。何やっても褒められないとか日本マジブラック過ぎない? 俺とか報われなさ過ぎて普通の人間だったら自殺するところだぞ?

 

「あと、チート能力を持ってるのを見ると割と真面目に殺意が湧いてくる」

 

「そこはお前の行動によるもんだろうが……」

 

 死因を馬鹿にされたとはいえ、普通女神を所有物として持って行こうとは思わない。というかそんな女神を持って行きたくない。俺ならたとえついて来ると頑なに言い寄って来てもアイツなら丁重にお断りした後巻き込まれる感じでこの世界に来ると思う。結局連れて来ちゃうのかよ……。

 

「黙らっしゃいこの天然タラシのチーター野郎がッ! これでも食らいやがれッ! ウインドブレスッ!」

 

 俺が頭痛を抑えるように頭を押さえていると、いつの間にか手のひらに発生させていた砂を風を起こしてこちらへ飛ばしてくる。子供騙し的な行動に俺は反射的に顔を防ぐ。

 

「また古典的な……」

 

「勝てば良いんだよ勝てばァァ!!」

 

 どこぞの究極生命体のようなセリフを吐きながら和真は近づいて来ると、腰元に装備していた剣を引き抜く。アクセルの効果はまだ続いているようで、速さは俺より少し速いくらいだ。

 

「……まぁ、無しでやってみるか」

 

 俺は答えを出す者(アンサー・トーカー)を意識的に引っ込めると、自身にクイックアイズをかける。チートばかりに頼っていてはもし何らかの要因で能力が使えなくなった時に対処出来なくなるからな。そんなことがあるのかは分からないが、ないとも言えないのがこの世界。割と何でもありだしな、本当。

 

「そりゃ! せい! やぁ! とぉ!」

 

 剣を振り上げ、様々な方向からを俺を斬りつけんとやってくる。上、下、左、右……。時には突きも交えながら俺に当てようとするその眼差しには、何故か俺に対する嫉妬的な何かも混じっている気がするが、まぁ気にしないでおこう。

 

「ん、よ、ほ、とっ」

 

 魔法で動きを目で追えるようにになった状態で俺は和真の攻撃を避けていく。スピードは若干あっちが上であるからギリギリの時はあるが、危なげなく避けながら俺は次の手を考える。

 

「んー……フリーズ」

 

「うおっ!? 冷てっ!?」

 

 俺は和真が突きを放って近寄って来た時を狙って軽い冷気を首辺りに吹き込む。思わぬ攻撃だったからか、和真は思わず冷気を当てられた部分に意識が向く。

 

「よっ、と!」

 

「え?」

 

「あ」

 

 そして、そのタイミングを狙って俺はしゃがみ、思いっきり腹を横から蹴る。もう一度言う。思いっきりだ。

 

 ここで俺と和真のステータスを簡単に紹介しよう。

 

 まずは和真、冒険職というのもあってかレベルは上がりにくいのかレベルは五。攻撃力、体力、敏捷その他諸々も数値が大体二十程度といったところだ。

 

 大して俺、アークウィザードは魔法上位職だが、意外とステータスも高い。ソースはめぐみん。筋力値は和真よりも上で、和真はその事実を知った時結構ガチでしょげていた。

 

 それで俺の能力値だが……確か運を除いたステータスが八十を超えていたはずだ。レベルは三十二、ここいらのアークウィザードの平均レベルが十五であることを考慮すると普通におかしい。魔力と知力はチートの影響でカンストしてしまっているが、それ以外も思いの外高くて驚いたのは、実はこの前ルナさんにカードを確認された時だったりする。だって自分に興味がないんだもの……。運は二十七くらいだったかな?

 

 で、だ。そんな俺が思いっきり人を蹴ったらどうなるか。それについては考えるまでもない。

 

 ボキッ、という鈍い音と共に、和真の体が物理法則を無視したかのように飛んだ。それは決して比喩ではなく、冗談抜きでそれなりに飛んだ。具体的には二十メートルくらいだ。その間に、和真が持っていた剣は持ち主の手を離れて地面に刺さる。

 

「ガハッ!?」

 

 その後、突然重力が自分の仕事を思い出したかのように働き、ベシャァッというデカい音を立てながら和真の体は地面に叩きつけられる。しかも顔面から。

 

「……あぁ」

 

 やっちまった……。俺が車に撥ねられた時より酷かった気がする。死んでないよな? 死んでたら俺はあの駄女神に頼み込んで和真を生き返らせてもらわなければならない。だが、今会うと何を言われるか分からないので出来れば会いたくはない。家もバレてしまうかもしれないし。

 

 俺はすぐさま和真に近寄って容態を能力で診る。素人目に見ても確実に気絶してるが、首とか折れてはないよな?

 

 その答えはまぁすぐに出た。どうやら吹っ飛んだ時に出来た擦り傷はないらしい。見た目よりも軽傷で良かった。蹴った所が腹だったのもあって骨も折れてないし。ちょっと内臓傷ついてるけど、薬草を口に突っ込んどけば問題もないだろう。一応買っておいて正解だったな。買ってから一か月一度も使ってないけどな。

 

 その後考えた結果、今日はもう特訓を終わらすことにした。特訓する本人、気失っちゃたし。俺の所為だけど。

 

 俺は和真を背負って馬小屋が一番近いポイントまでテレポートする。本当は近づきたくないが、自分が原因なので何とも言えない。一応フードを被っているが、これに隠蔽機能はあるのだろうか。

 

「あれ、カズマ?」

 

 ふと、後ろから和真を呼ぶ声がかかる。その声は女性である為、パーティメンバー以外が和真を呼ぶわけがないと不思議に思って俺は思わず振り返る。

 

 そこにいたのは綺麗な銀髪を揺らす、少し露出の激しい服を着た可愛らしい女性だった。装備品などを見る限り盗賊のようだが、彼女の雰囲気から何かを奪おうという意思は感じられない。となると義賊とかただのファッションだろうかと頭を捻っていると、少し不思議そうな顔をしてこちらへ問いかけてくる。

 

「あの……それカズマだよね? どうしたの?」

 

「あ、あぁ……ちょっとな」

 

 俺がぶっ飛ばしたというのもあれだし、特訓は本人が聞かれたくないというのも知っている身としては少し反応に困る質問だ。こういう時に最適な答が出てきてくれない辺りは答えを出す者(アンサー・トーカー)がある程度の人間味を残してくれているようにも思うが、今は割と本気で困っているのでどうにかしてほしい。

 

 仕方がないので俺の四十八の奥義の一つのそれっぽい対応を取るを使うとしよう。因みに大体は小町や戸塚が絡まないと使えない上に大体似たような行動しかないのでぶっちゃけ七不思議とかより少ないと思う。まぁ、それは別に気にしないでいこう。

 

「何か散歩してたら酔っぱらって寝た状態の和真を発見してな。それで今運んでる」

 

 咄嗟に出た言葉だが思ったよりも悪くない。実際和真はよく酒を飲むし、酒癖も悪い方だからかなり飲めばそんな感じにもなるだろう。知らんけど。

 

 けれど少なくとも、俺は彼女はそれで納得すると思っていた。どう考えても関わり薄そうだし、多分あっても飲み仲間くらいしか見られてないだろうし。

 

 しかし、俺の予想は彼女がサラッと言い放った言葉で覆されることとなった。

 

「あれ? 昨日私一緒に飲んだけど、普通に帰ってたよ?」

 

「え、マジで?」

 

 思わず口にして、すぐに口を抑えたくなった。和真を背負っているため実際には出来なかったが、そこでふと気づく。

 

 何者だ、と思った瞬間に、彼女についての情報が頭に浮かばなかったのだ。

 

 俺の能力は知らない情報を知るのではなく、知っている情報を瞬時に洗い出して答えを導くものだ。いわゆる芋づる式というやつで、その精度がチートなだけだ。

 

 なのに俺は今、彼女について何も分からないのだ。まるでフィルターをかけられたように、彼女の情報は閲覧することが出来ない。そして、大抵のことが分かる能力を得てから初めて、知らないことが怖いと思うのは同時だった。

 

「……その、和真とどういう関係で?」

 

 少し警戒しながら彼女の方を見る。久し振りに思考が読めない人間に会っただけでこうなるとは、慣れとは随分恐ろしい。

 

「私? そうだね~、師弟関係かな?」

 

「師弟関係? 何のです?」

 

「盗賊。私、義賊やっててさ。和真に盗賊スキル教えたの、私なんだ」

 

「え、じゃあ貴方がクリスさん?」

 

「あれ? 私のこと知ってるんだ」

 

「えぇ……まぁ」

 

 以前、和真に誰にその盗賊スキルを教えてもらったのかと聞いた時に聞いたのが"クリス"という人だとは聞いていた。シュワシュワを奢って教えてもらったと言っていたから酒飲みの厄介者みたいなイメージを勝手につけていたが、まさかこの人だとは……。

 

「で、結局和真はどうしたの? 見たとこさっきの説明通りじゃないようだけど」

 

 クリスさんは俺が自分のことを知っていることに興味がないのか、元の話題へと戻してきた。そういえば、適当に言ったのは嘘だってもうバレてんだよな。どうしよう。ゲロっちゃおう。

 

「その……コイツの特訓に付き合って相手してたら加減間違えて気絶させて……本人曰く誰にもバレて欲しくないそうなので、出来れば他言無用で」

 

「へぇ、あの和真が特訓……。ってことは君、強いの?」

 

「まぁ、それなりには……」

 

 実際は本気出したらほとんど勝てる奴いないんじゃないかなってくらいだけど、そこは別に言う必要もあるまい。

 

 しかし、彼女はどうやら俺が気になるようでこちらの顔を窺おうとしてくる。しかし、何故か近づいてから覗き込もうとしている。

 

「……あの、何してんですか?」

 

 俺の疑問の声に彼女は上目遣いの状態でこちらを見る。可愛いくて惚れそうになるんで不思議そうに首傾げないでくれません? ある種兵器よ? 可愛い子の可愛い仕草は。

 

「……そのフード、取ってくれない? 顔が見えないんだけど」

 

「え、そんなに深く被ってないんですけど……」

 

 どうやら俺の顔が見えなかったらしい。そんな奴とよく喋ってたなこの人。というか、見えないの?

 

「うん、でも何か靄がかかったみたいに上手く認識出来ないんだ。どことなく滅したい気分になってくる雰囲気もするし……どこで手に入れたの?」

 

「知り合いの店長から譲り受けた物ですけど……滅したい気分って、貴方義賊ですよね?」

 

「え? あぁ、うん、そうだよ。うん、義賊義賊!」

 

 ボソッと呟いたらしい言葉に、どうも違和感を覚えた俺はそこについて指摘すると彼女の反応が一気に怪しくなった。何隠してんだろ、この人。滅したいとか物騒過ぎる上にアホの女神がアンデッドと遭遇した時のこと思い出すから出来ればそういう表現は控えてもらいたいものだ。

 

「というか、何でそんな食いついてくるんです?」

 

「え?」

 

 俺の質問の意味が分からなかったのか、クリスさんは俺を見ながらキョトンとしている。

 

「いや、もうそろそろコイツ降ろしたいんでいい加減降ろしに行きたいんですけど……」

 

 ステータス的には一応楽っちゃ楽なんだが、何で長い時間男を背負ってなきゃいけないんだとも思うわけで。でも別に女なら良いって訳でもないし、何なら男より精神的に負担が大きいから結論として誰も背負いたくはないということになるな。流石俺、安定の面倒臭がり思考である。

 

「あ、ごめんごめん、忘れてた。引き留めて悪かったね」

 

「いえ、じゃあ、それでは」

 

 さっぱりした態度で話を終えてもらった俺は、そのまま元々向かう方向だった道を向いて歩こうとする。

 

「あ、ちょっと待って!」

 

「え、まだ何かある――」

 

 しかし何かを思い出したのか、クリスさんは俺を呼び止めてくる。面倒なことを言い出さなければ良いが思っていると、俺の頭のフードが彼女に掴まれる。

 

「よっと!」

 

「あ」

 

 俺に近づいてきた彼女は、余程俺の顔が見たかったらしく、俺のフードを掴むと勢いよく剥いだ。別に見られて困るような顔でもなし、見せることに大した躊躇いはないが、何故そこまで気になっているのかが不思議でならない。

 

 が、それよりも不思議で、驚くことが、彼女にはどうやらあったのだと、すぐ近くに見える彼女の顔から、俺はようやく彼女の思考を読むことが出来た。

 

「……ひ、()()()、さん?」

 

 そして、彼女から零れ出た微かな言葉は、俺を最も警戒させるに足る内容だった。

 

「ッ!? 俺の名前を……!?」

 

 思わず仰け反って距離を取ろうとする。この世界特有の、前の世界とは違う発音をした。俺の世界の、日本に住んでいた人間しか出来ない発音で、彼女は俺の名前を言った。

 

 そこで再び、彼女の顔を見る。すると、どこかで見覚えがある顔であったことに気づく。

 

 銀髪で、端正な顔。この二つの特徴を持った人間、いや、人物は、漫画でもない限りそう会わない。加えて、俺が出会った人物の中で銀髪の髪を持つ人は一人しかいない。

 

「……エリス、様?」

 

「ッ!?」

 

 その名前を口にした瞬間、すぐに彼女に口を抑えられた。混乱する俺に彼女は口元で人差し指を立てながらシーィッと、黙るように促してくる。

 

「……その名はここでは控えて下さい。誰かに聞かれれば騒ぎになりかねないので」

 

「は、はぁ……」

 

 俺は頷くことで了承したことを示すと、彼女は手を放してくれた。どうやら、女神として彼女がここに居ることは色々と不都合があるようだ。

 

「……比企谷さん。大切なお話があります。この後、どうか付き合っては頂けませんか?」

 

「え、いや……はい」

 

 別に彼女に付き合うことは吝かではない。しかし、彼女の表情から、その話の内容が何か良からぬことだということがヒシヒシと伝わってきて、どうも即答することが出来なかった。

 

「では和真さんをひとまず置いて行きましょう。誰かに聞かれるのは困りますので」

 

「は、はい。分かりました……」

 

 しかし、彼女のただならぬ雰囲気に何も言えず。結局俺は彼女に着いて行くことが決定してしまった。

 

 何故だろう。能力が発動していないのに、彼女の話は聞くべきではないと、そう思う自分がどこかに居る。他方で、聞いてはならないという本能に近い警告の鐘は脳内で鳴りやまぬのに、聞かなければならないと自分も居る。

 

 こんなことになるのなら、初めから能力に頼らなければ良かったと、今更ながらに思いながら、俺は先を行く彼女を追う。

 

 通った道は、どこも不思議と暗かった。

 

 

 

 

 俺は和真を馬小屋に置いた後、エリス様の住居があるという場所の近くまで彼女を連れてテレポートをした。

 

「便利ですね、その能力」

 

「えぇ、まぁ、それなりに重宝してますよ」

 

 そんな他愛のないことを、この世界に来る直前にもしていたはずなのに、その時とは打って変わって気まずく重い。彼女が務めて明るく振るまおうと積極的に俺に話しかけてくれてはいるが、その顔はどこか無理をしているように感じられて、ふと、あの凍てついた部室のことを思い出す。

 

 そう、まるで何もかもが終わる前の、あの痛々しい沈黙に近い。

 

 そして、多分今回は、本当に何かが終わるような、そんな予感がしてならない。今すぐにでも逃げ出したい衝動に駆られるが、きっと、逃げ出してはいけない。

 

 どんな事実を語られるのだとしても、俺はそれを受け入れなければならない。でなければ、前に進めないのだと思う。

 

「ここだよ、さぁ入って」

 

 案内されたのは女性冒険者が多く生活している寮の一つだった。

 

 女性だからか、基本的に馬小屋で生活する男とは違ってほとんどの女性はここで生活している。多少の生活用品が揃えられている為タダではないが、少しの料金で住むことが出来ると、以前めぐみんに質問した時に聞いたことがある。

 

 そんな一角に連れて来られた俺は、普段ならきっと女性の目を気にして挙動不審になっていたところだろう。いや、普通に今も挙動不審でしたわ。だって女子寮だよ? 妙に良い匂いするし連れて来た女性が可愛らしいのも相まって居心地の悪さが半端ない。可愛らしい女性はもっと自分の行動が相手にどんな誤解を招くか理解してから行動してほしいと思います。

 

「ま、また可愛いって……」

 

「ん、何か言いました?」

 

「い、いえ、何も……」

 

 何か呟いていたようだが、小さすぎてよく聞き取れなかった。能力もこの人には効かないから本当、どうしたら良いのか分からん。

 

 彼女に促され、リビングにある椅子に腰かけると、その対面に座ってこちらを向く彼女。正面から見るのがいつもの癖で憚られ、つい目線を横に逸らすとある物が目に入る。

 

「……あれは何ですか?」

 

 そこには、女性の部屋には似つかわしくないような、大の大男が装備してそうな武器から、どこかのゲームで見たような盾、その他装飾品などが多数置かれていた。

 

「あぁ、あれは盗品。一般人には渡せられないような物ばっかりだよ」

 

「……事情ですか」

 

 神様が物を盗め理由って何だろうか。この人、聞いたところじゃ幸運の神様らしい、何もしなくても手元に集めるくらい造作もなさそうだが……。

 

「……この世界に来て、死んだ人間の神器、とかですか?」

 

「正解。こればっかりは直々に回収しなくちゃいけなくてね。でも、大抵が金持ちの家とかに保管されちゃうことになるから、それで仕方なくね」

 

「大変ですね、神様も」

 

 まぁ、よくよく考えたら神様もそんなもんなのかもしれない。腹いせに神殿にウ◯コしていく神もいれば、女神孕ませといて責任逃れしようとする奴もいるし。そう考えるとどこにいようがブラックは存在するってことだな。嫌だもう世も末じゃん!

 

「……うん、大変。時にはね、誰かに嫌われたり、恨まれたりするようなことも、やらなくちゃいけなかったりするからね」

 

 彼女は俯きながらそう呟くと、次第に光始めていく。

 

「え、何これ、変身? プリプリでキュアキュアなやつ?」

 

 その光景を見ながら俺はトンチンカンなことを口走ったような気がするが、彼女はどうやら聞いていない様子で、次第に俺の見覚えのある姿に変わると、光は徐々に薄れていった。

 

「……見ての通り、私は貴方をこの世界に送った女神です」

 

 紺を基調とした修道服だろうか。それは、以前あまり注視せずにいた彼女の本来の服装で、溢れ出る品性が彼女が本物の女神であることを直に感じさせられる。

 

「しかし、私は本来”この世界の死人”しか導けません。神界でも、日本でいう市役所のように管轄が分けられているからです」

 

「え? それじゃあ、何で……」

 

 彼女の言葉が本当なら、俺は本来、彼女にここに導かれることはなかったはずだ。多分、和真がアクアを連れて行くと言った際に現れた女神とやらが俺を導くこととなる。

 

 けれど、そうならなかった。

 

「……これから貴方に話すのは、貴方がこの世界に来た原因についてです」

 

「原因、ですか?」

 

 彼女の口から出た言葉は、俺が予想していたものとは少し方向性が異なっていたので、少し驚く。俺はてっきり、彼女が俺に対して何らかの手違いを発生させたのかと思っていたが……。

 

「はい……本当はもっと早めに言うべきだったのですが、私の心が弱かったために、ここまで長引いてしまいました。そのことについて、まずは謝罪させて下さい」

 

 彼女はそう言って、俺に頭を下げる。女神である彼女が頭を下げる。その行為に、一体どんな意味合いが込められているのか、何をして、彼女はそのような行動を取ることになったのか。それらは決して分からない。

 

「ちょ、顔を上げて下さい、エリス様! どうしたんですか!?」

 

 ただ単純に居心地が悪くて、俺はすぐに頭を上げてもらうように頼んだ。顔を上げた彼女の顔は、罪悪感に押し潰されそうな、辛さが滲み出たような表情をしていた。

 

「……恨んでもらっても構いません。私は、貴方にそれだけのことをしています。贖罪の為なら、貴方にこの身を捧げても構いません」

 

 贖罪。その言葉を聞いて、俺の思考が徐々に停止し出す。言葉から読み取れるのは、彼女が俺に対して、何らかの罪を犯したということだけだ。しかし、それが何なのかは見当もつかない。

 

 いや、本当は気づいている。ただ、その可能性を、俺自身が否定しようとしているから、俺はそれを認めることが出来ない。

 

「比企谷さん……。貴方は本来、あの場所で、死ぬ予定はありませんでした」

 

 けれど、そんな思考を遮るように続けていく。

 

 あの場所。その単語で思い出されるのは、俺がトラックで轢かれた場所。由比ヶ浜と、雪ノ下に、プレゼントを渡してすぐの、少しだけ感じられた幸福を、壊した場所。

 

 けれど、彼女は言った。俺は、あの時死ぬはずではなかったのだと。では、何故俺は死んで、ここに居る?

 

「……あの場で、比企谷八幡を殺したのは……私なんです」

 

 世界が、止まったような気がした。それは、俺が今まで、何よりも恐れてきた、”裏切られたような”痛みだった。

 

「……私が、貴方を殺したんです」

 

 そして、彼女は訥々と語り出す。

 

「……ごめんなさい」

 

 事の真実と、彼女が犯した罪を。




いかがでしたでしょうか?
気持ちシリアスなのを書くのは初めてですが、上手く書けていたら幸いです。
今回の話はいわば前編、次話が後編となっております。分けた理由は、個人的に大体ssの読みやすい字数って一万前後だと思うんですよね。番外編は字数ガン無視で書いてるけど。
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