プリキュアコネクト   作:おじ

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2-2.愛と怒りのキュアルビー!

「つまり、あんたはよその世界から来た妖精で、お母さんを捜してる。そして、なぜかそれを邪魔する男がいて、ゆかりはそいつからこの子を守ってるってワケ?」

 妖精という非現実的な存在を目の当たりにして、ちなみが見せた反応は、昨日のゆかりと同じものだった。

 初めはどうやって誤魔化すかと頭をめぐらせていたゆかりだったが、タリアが勝手にべらべらと喋り始めたことで、真実を言うしかないと悟った。もっとも、タリアという生きた証拠がいるのだから、二人の話を信じるほかに合点はいくまい。

「なるほどねー」

 うんうんと、ちなみは大きく頷く。

「信じてもらえた!?」

「ぜんっぜん!」

 椅子にどっしりと腰をかけ、タリアを凝視する。よくできたぬいぐるみ……ではなさそうだ。自由に動いて、会話もできる。二十一世紀もまだ序盤だというのに、そんな技術がおもちゃ会社にあるわけがない。なら、本当に、生きた妖精なのか。

 自問自答を何度くり返しても、他に納得のいく答えは出なかった。

「じゃあ、昨日のホームルーム中に聞こえた音って、まさか……?」

「うん、私がオコリンボーっていう巨人と戦ってたの」

「戦ってた……って、あんたねぇ」呆れたようにため息を吐く。「何で戦う必要があるの?」

 質問の意味が、ゆかりにはよく分からなかった。異世界から現れた、常識外れの力をもつ怪物に襲われたのだ。戦わなければ、無事では済まなかっただろう。

「何でって、タリアを無理やり連れて行こうとしたんだよ?」

「いいじゃない、連れてってもらえば」

 簡単に言う。きっと、ちなみはイカリングの凶暴さを知らないから、そんなことが言えるのだ。

「話を聞いてりゃこの子、ただお母さんを捜すってだけで他のことは何も考えてないみたいだし。もしかしたら、誰にも言わずに出てきたのかもしれない。もし私の弟が勝手にいなくなったら、応援を呼んで一緒に探してもらうし、その……なんだっけ、イカリング? って人もそんなんじゃないの?」

「違うよ! だって、イカリングはタリアを力ずくで……」

 ゆかりにとっても、タリアの話に出てきた登場人物の関係性はよく分からないままだ。少しはちなみと同じ考えが頭をよぎったこともあれば、自分はタリアをどうしたいのかはっきりとしないままになっている。

 しかし、理屈は抜きにして思うこと。それは、プリキュアに変身したときの気持ちと変わらない。昨日の夢のように、タリアに悲しんでほしくない。それだけだ。

「こんな小さな子が、別の世界に一人で来てるんだよ? 帰りたくないって言っても、力ずくで連れ帰るでしょうが」

 ちなみの主張は変わらない。現実的ともとれる意見だが、ゆかりには、ただ面倒事を背負い込みたくないだけのように思えた。彼女が知っている愛花ちなみは、そんな排他的な人間ではないのに。やはり、落ち着いているように見えても、内心かなり動揺しているのかもしれない。

「ボクはお母さんを見つけるまで帰らないリア!」

 いきなり口をはさんできたタリアに顔を近づけ、ちなみはやんちゃな子を諭すような口調になる。

「家でいい子にしてたら、お母さん帰ってくるかもしれないよ?」

「嫌リア! ボクは早くお母さんに会いたいリア!」

「話の分かんない子だねぇ。あんたの我が儘で、色んな人が迷惑してるかもしれないんだよ。ゆかりも、イカリングって人も。それに、あんたのお母さんも」

「私は別に迷惑だなんて思ってないよ?」

 嘘つき、と自分を責める。もちろん、タリアの存在が迷惑だというわけではない。ゆかりには、たったの一晩しか身の回りで起こった現象について考える時間は与えられなかったが、自分はいい事をしていると確信していた。しかし、ちなみがすぐに的確な疑問を投げかけたことで、その気持ちが揺らぐ。

 タリアの母親捜しは、どのくらい順調に進んでいるのか。何の見当もついていないのではないか。いつでもゆかりが変身して戦い、タリアを守るなんてことは不可能だ。また、守りきれる保証もない。それなら、イカリングを信じて心の国に連れ帰ってもらうのが、みんなにとって最善の選択なのだろうか。

「だけど、お父さんとか、他のお家の人が心配すると思うよ。一旦お家に帰ってみるのはどう?」

 胸に、ちくりと毒針が刺さったような気分がした。その毒は彼女の心を浸食していき、自己嫌悪させる。迷惑じゃないと言った次の言葉が、これだ。遠回しに帰ってくれとの意味が含まれていることは、誰が聞いても明らかだ。

「ボクはお母さんを捜すリア!」

 変わらない頑固な姿勢に、ゆかりはほっとした。もし、先ほどの言葉で本当にタリアが帰ったら、どんなに自分を責めても足りなかっただろう。

「とにかく!」大きな声でちなみが言う。「埒が明きそうにないから、その続きは放課後にでも。ゆかり、早く着替えよう。朝練終わっちゃうよ?」

 今朝はどうにも時間の経過を忘れてしまう。またしても早起きが無駄になるところだ。二人はさっさと着替えて、ラケットをケースから取り出す。

「じゃあ、私たち行くから。そこで大人しくしてるんだよ?」

 部室を出ようとして、ゆかりは荷物の方を振り返った。タリアはかばんから顔だけ出した状態で、ぼやっとした表情をしている。考え事でもしているのか、彼女の言葉は耳に入らないようだ。

 ゆかりたちが部室を離れた後、残されたタリアは自身の体三つ分はある机の高さから飛び降りた。どうにか扉を開け、外に出る。

「お母さん……」

 コートの方から、ゆかりたちの元気な声が聞こえてくる。しかし、タリアはそちらに目もくれず歩き出した。どこに向かうのか、そんなことは考えていない。

 数十分後、朝練習を終えいち早く部室に戻ってきたゆかりは、タリアの姿を見つけられなかった。

 もしかして、先ほどのやり取りで居心地が悪くなってしまったのだろうか。そう思うと、ゆかりは何かもやもやしたものが心につかえているような気持ちになる。

 

 その日の授業はまるで手につかなかった。

 タリアは今どこでどうしているのだろう。そんなことをずっと考えているうちに、気がつけば帰りのホームルームが終わり、みんなは帰る支度を始めているところだった。

「ゆかり、部活行くよ」

 かばんとラケットを肩にかけ、ちなみはいつもと変わった様子はない。今朝の話を、もう忘れてしまったのだろうかと思うほど、タリアがいなくなったことにも無関心だ。ゆかりの額に拳をこつんと当て、「ぼーっとしすぎ」と顔を覗いてくる。

「うん、ちょっと待って」

 机上に出たままになっている筆記用具やノートをかばんにつめ込む。タリアが入っていたスペースが空いたため、かばんはすかすかだ。持ち上げるとき、軽くなったことを考えていなかったため、つい勢いがつきすぎてしまう。

「あの子のこと?」

 部室に移動する途中、ちなみが尋ねてきた。

「うん。何も言わずにいなくなっちゃうなんて」

「思ったんだけどさ、あの子ってひょっとすると迷子なんじゃない?」

 靴を履き替えて校舎を出たとき、ちなみはある仮説を展開した。

「お母さんを捜してるなんて言ってたけど、本当はいなくなったのはあの子の方で、お母さんがあの子を捜してるんだよ、きっと」

「どうしてそう思うの?」

「だって、心の国って場所が本当にあるとして、あんな小さい子がどうやって来たの。それに、捜してるお母さんだって心の国の人なんでしょ。だったら、どうしてこっちの世界にまで来るのよ」

 ゆかりは、昨日の出来事を現実だと受け止めたはずなのに、本当はひたすら現実逃避していたのだと知った。ちなみの言っていることは、あまりにも正しく、返す言葉が見つからない。

「きっと、何かの間違いでこっちの世界に迷い込んで、色んな人があの子を捜してるんだよ。で、今朝誰かが見つけて連れ帰ったってトコじゃない?」

「でも、もし昨日みたいに襲われてたら……」

「別にさ、怪力で巨人を生み出す能力があったとしても、心の国ではそれで悪人ってことにはならないんじゃない? 逆に向こうの人からしたら、道路を歩いてて自動車に出くわしただけで襲われたって思うかもよ」

「そうかな……」

「ほら、映画なんかでもよくあるでしょ。主人公が突如現れた謎の人物に関わったせいで、ごたごたに巻き込まれていく話。ゆかりはその立場にあったんだって」

 アクション映画が好きなちなみとは違い、恋愛ものやヒューマンドラマ系の映画しか見ないゆかりは、その“ごたごた”が悪いものだとは思えなかった。スパイ映画などでは、何も知らずに美人の女スパイを助けた主人公が、組織に謎の危険人物との判断をされ、散々な目に遭う。しかし、恋愛映画でもスパイ映画でも、最初の好ましくない出会いは、素敵な関係へと発展していくのだ。

「でも、せっかく会えたのに、もうお別れだなんてちょっと寂しいよ」

 基本的には、ストーリーの中盤で女スパイは組織に捕まり、危険人物と誤解されていた主人公は、彼女を忘れるように指示される。王道はそんなところだ。そして、主人公は機転を利かし、単身で彼女を奪い返すために立ち上がるのだ。

 ちなみが先を歩き、部室の扉を開けたとき、ゆかりは心を決めた。無駄骨でもいい。ただ、このままでは自分の気が済まない。

「私、タリアを捜してくる!」

 その辺の机に荷物を放ると、ゆかりは振り返って扉を開けた。ちなみは驚いて咄嗟に声が出ず、ゆかりの腕を掴んだ。

「ゆかり! アテもなくお母さんを捜してる子を、アテもなく捜すっての? そんなの無理だって」

「とりあえず近くを一周まわってくるだけ! すぐに帰ってくるから、キャプテンには走り込みに言ったって伝えておいて!」

 ちなみの手を振りほどこうとしたが、その力は強く、なかなか放してくれない。

「だめ、行かせない! あんた、昨日もあの子の為に危険な目に遭ったんでしょ? そんなのダメだよ!」

「ちなみちゃん……」

 ようやく分かった。どうしてちなみが、タリアに対してどことなく素っ気なかったのか。そして、ゆかりは少し嬉しくなる。

「ありがとう、心配してくれて」

「昨日はホームルームいなかったし、今日は部活を抜けようっての!? そりゃあの子のことも心配だけど、このままじゃあんたが駄目になっちゃうよ! それに、ゆかりは入学式の準備だけですごく頑張った! なのに、どうしてまた人の為に頑張らないといけないの!」

 昔のことを、すこしだけ思い出した。人の為に頑張る。それを教えてくれた人が、誰だったか。

「だけど、ちなみちゃんも頑張ってくれてる」

 腕を掴んでいるちなみの手に、自身の手を重ねる。

「ちなみちゃんは今、私のために怒ってくれてる。それと同じだよ」

 一つずつ、ちなみの指を腕からはずす。今度は力が入っておらず、あっさりと手を放してもらうことができた。

「今朝、私に言ってくれたでしょ? “変わった”って」

 ちなみは、何か言いたそうな顔をしていた。しかし、言うべき言葉が見つからないようで、口をぱくぱくさせている。そんな彼女を見て、ゆかりは微笑む。自分がタリアのことを心配している以上に、ちなみは自分のことを心配してくれているのだ。

「ちなみちゃんが、変えてくれたんだよ。だから、大丈夫」

 部室を出るとき、ゆかりは振り返らなかった。そのことにちなみは、何となく寂しい気がしたが、友人として誇らしくも感じた。

「あまり遅くならないでよね」

 ようやく言葉が出たときには、ゆかりの姿はもう見えなくなっていた。先輩への言い訳を考えながら、ちなみは体操着に着替える。

 

「どこに行ったんだろう。近くにいるといいけど」

 ゆかりが学校を離れて数十分、タリアはまだ見つからない。

 そもそも、今までの彼女の常識では、いるはずのなかった妖精を捜しているのだ。四月にサンタクロースを目撃するよりも、はるかに難しい。

 心当たりなどもあるわけがなく、ひたすらに町内を走り、公園の茂みの中を覗いたりもした。

 そのうち、ちなみの言うように、心の国から保護者が迎えにきたのかもしれないと考えるようになる。

 しかし、そうでなかったとしたら?

 一人で迷子になっているかもしれない。どんなに明るい性格でも、母親とはぐれ自分がどこにいるか分からなくなれば、不安になるものだ。または、イカリングに襲われているかもしれない。まだ諦めて帰るには早いと、ゆかりは思った。

 すると、彼女の根気が運に勝り、大きな手がかりを得ることができた。その手がかりは、人けのない路地で空から降って現れた。

「よう。タリアはどこだ?」

 まだ、タリアはこちらの世界にいる。そして、イカリングにも見つかっていない。かなりの収穫を得たが、大きな損失も出た。ゆかりの身の安全だ。

 しかし、プリキュアに変身すればとんでもない力が発揮される。彼女はそれをアテにして、いつ攻撃されてもいいように身構えた。

「どこだって聞いてんだろうが!」

 イカリングは地面を蹴って、ゆかり目がけて突進した。

 ――変身だ!

 右手を前に突き出し、昨日のことが一度限りの力でないことを願って、ゆかりは唱える。

「プリキュア! フィーリング・コネクト!」

 しかし、何も起こらない。

 彼女の右手の薬指に、指環は無かったのだ。

 

 基礎練習が終わり、休憩に入ったちなみは、冷水器で水を飲んだ。

 休憩時間は短い。急いでいたために、口元が少し濡れてしまい、ハンカチを取りに部室に戻った。

「あ! ゆかりはどこリア?」

 当たり前のように、タリアがゆかりのかばんに納まっていた。これが漫画であれば、ちなみは飲んだばかりの水を噴き出していたかもしれない。そのくらい驚いたが、水は既に飲み込んであった。

「あんた、何で一人で戻ってきてるの!?」

 落ち着く前に、まずは最初の目的を果たそうと、ちなみは制服のポケットをまさぐる。ハンカチの感触が指に伝わり、それを引っ張り出すと、ハンカチと一緒に何か固いものが床に落ちた。

「あ、これ……」

 それは、ゆかりから没収した指環だった。拾おうとすると、タリアがかばんから飛び出して、先に奪取した。

「これは、キュアリンクの指環リア! 早くゆかりに返すリア!」

「キュアリンクって、あんたたちの話に出てきたプリキュアのこと?」

「そうリア。この指環に込められた喜びの力が、ゆかりをキュアリンクに変身させるリア!」

「変身できないと、どうなるの?」

「戦えないリア」

 嫌な予感がした。そして、こういうときのちなみの予感は、必ず当たる。こと、ゆかりのトラブルに関しては。

 イカリングとかいうふざけた名前の男が、まだこの辺りをうろついているとしたら……。同じものを捜しているのだから、ゆかりと鉢合わせないとも限らない。

「もしかして、やばいんじゃない?」

 ちなみは指環を持って部室を飛び出した。しかし、すぐに戻ってくるとタリアをかばんにつめ込み、それを持ち出す。万が一のとき、役に立つかもしれない。もっとも、ゆかりが指環もタリアもちなみも必要としていない状況が、理想ではある。

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