プリキュアコネクト   作:おじ

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3-2.新たな敵と新たな仲間!

 季節によって数十分の違いはあるものの、彼女たちが通う中学校ではどの部活も決められた下校時間に従わなければならず、部活も残り一時間となった。

 キャプテンである忍のかけ声に従い、部員は反射的に所定の場所に集まる。そこはいつもなら顧問が座っているはずなのだが、今日はゆいがそこに座って練習を見学しており、気まずそうに姿勢を正した。

 これまでのところ、ゆかり達は彼女に口止めをする機会を得られないでいた。正式にはまだ体験入部も認められていない時期に、制服のまま運動させて怪我をされては困るというのだ。顧問もまだ来ていないため、責任の所在は部長兼キャプテンの忍にある。これにはゆかりもだだをこねるわけにもいかず、ゆいは貸してもらったラケットを持て余していた。

 休憩時間や練習の合間に、何人かの部員がゆいに興味を示して話しかけることはあったが、すぐにまた練習に戻らなくてはいかなかったため、彼女は三十分以上ずっと座った状態にあった。

 ゆかりとちなみも自分の練習に手いっぱいだったが、待ち時間の多い試合練習に入ったことで、ようやくゆいの近くに腰を落ち着かせることができた。

「いつものように第一コートは三年生、第二コートは二年生で使って。もちろん、三年生と二年生で試合してもいいけど、どっちかのコートに人数が集中しないようにね」

「はい!」

 忍の指示を受けて解散した部員たちは、それぞれペアを組んで対戦相手を探す。コートには早いもの勝ちで入っていき、ゆかり達はそれを遠慮することにした。

「ゆかり、次で入ろうよ」

「うん、いいよ」

 普段からペアを組んでいる二人は、それが当たり前であるかのように相方捜しをする必要もなく、最初の試合を傍観する。

「ごめんね、少しは打たせてあげられるかと思ったんだけど」

 ちなみは地べたに座り、高い位置にあるゆいの顔を見上げて言った。後輩の自分だけが椅子に座っていることを申し訳なく感じたゆいは、慌てて立ち上がり譲ろうとしたが、ゆかりもいることを思い出して、どうすればよいか分からなくなった。

 そんな彼女の気持ちを察して、ちなみは椅子の座面を軽く叩いて示した。

「お客さんなんだから、気遣わなくていいよ」

「すみません……」

 おずおずと椅子に腰を下ろし、両手を握って膝の上に置く。タリアとは楽しそうに話していたことを思い出したゆかりは、まるで借りてきた猫のようだと感じた。

「やっぱり、一人だと緊張するよね。私のときはちなみちゃんと一緒だったから大丈夫だったけど」

 目の前のコートで、こちら側の後衛が相手のスマッシュをロブで返したのを見て、ゆかりは心の中でナイスと叫んだ。

「そうだっけね。たしか、私がゆかりを誘ったんだよね?」

 懐かしむように、ちなみが言う。座っていることに飽きたのか、シャフトの間に人差し指を入れ、くるくると回しはじめた。

「その……、どうしてお二人はこの部活に入ったんですか……?」

 尋ねたあとで、気になったことをあっさり質問できた自分に驚くゆいをよそに、二人はお互いの顔を見て微笑み合った。そのままの表情でゆいに視線を移し、ゆかりが説明する。

「去年はちょっと色々あってね、二人で同じ部活に入ろうって決めたの。どうしてもやりたいっていう部活はどっちもなかったから。それで、せっかく同じ部活に入るなら個人競技は嫌だねって話になって、ダブルスがメインのソフトテニス部にしたんだ」

「え、でもバスケみたいな団体競技とか、他にも文化部があるじゃないですか」

「まぁ、それは何となくだね。フィーリングってやついうのかな? とにかく、心にびびっときたんだ」

「フィーリング……ですか」

 それは、ゆいにも分かる気がした。自分の心を引きつけるものに出会ったとき、理由など存在しない。気がついたときには、パズルの最後のピースがぴったりはまるような感覚があるだけだ。

「ほんと、ゆかりは自分の心に正直なんだよね」

 横からわざとらしく嫌味を言うちなみに、ゆかりは頬を膨らませて反撃する。

「ちなみちゃんだって、人のこと言えるのー?」

 第二コートの試合が終わり、選手たちがコートを離れた。ゆかり達はラケットを手にすると立ち上がり、ゆいを振り返った。

「じゃあ、私たちの活躍っぷり見ててよ」

「活躍できたら、ね」

 ちなみからのツッコミを受けたゆかりは、困ったような笑いをみせて、身を翻しコートに入っていく。そんな彼女の後ろ姿を見て、ゆいは立ち上がった。試合が終わればまたゆかりは自分のところに戻ってくるかもしれないが、後回しにはしたくなかった。

「ゆかりさん! あの……、入学式のときはありがとうございました!!」

 ゆかりは足を止め、回れ右をしてゆいを見た。変わらず不安そうな表情ではあるが、先ほどまでとはちょっと違う。ただ“ありがとう”と言うだけなのに、勇気を振りしぼっていっぱいいっぱいになっている。

 そのことが、ゆかりには嬉しかった。

「うん! どういたしまして」

 数日前にも似たようなやりとりをした。しかし、今とはやや状況が異なる。入学式のときとは違って、ゆかりはゆいを知っているし、ゆいもゆかりを知っている。そして、今や同じ学校の仲間であり、部活の先輩後輩の関係になろうとしている。

 たった数時間で、見ず知らずの他人からこれほどまで距離を縮められる。ゆかりの心は喜びで満たされ、試合どころではなくなった。

 

 辺りがすっかり夕闇に包まれると、下校を促す音楽が流れる。

 顧問は最後まで現れず、片付けの後の集合では忍が今日の練習の反省点を挙げた。「集中力が欠けている」という言葉には、ゆかりも閉口するしかなかった。

 解散してからほとんどの部員は部室に戻ったが、着替えるのも面倒臭いと体操服姿のまま帰路についた者もいた。せまい部室であるため、三年生が先に中で着替え、何人か出てきたのを確認して二年生も代わる代わる部室に入る。

 三年生は自分の着替えが済むとそのまま帰るか、まだ部室に残っている友達を待つのだが、忍は部長として部室の鍵を職員室に返さなければならず、他の部員を見送っていた。

「忍先輩、私たちが最後です」

「よし! 忘れ物ない? 閉めるよ」

 念のため部室の中を覗いて、ゆかりたちは頷いた。南京錠をしっかりと閉め、忍は立ち去ろうとしてゆいを気にした。

「途中で帰ってもよかったんだけどね、ごめんね。私がそう言えばよかった。時間、遅くなったけど大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です……」

「そっか、ならよかったよ。また入部の時期になったらさ、今度は友達も連れて見学に来てよ」

 ゆいは返事に困って俯いたのだが、それを肯定の意味で頷いたのだと勘違いした忍は、彼女の頭をぽんぽんと叩いた。

「じゃ、お疲れ!」

「お疲れ様でした!」

 職員室に向かう忍の後ろ姿を見送って、ゆいも同じ方向だと分かり三人で一緒に帰ることにした。人気(ひとけ)のない路地を選んで通り、タリアをかばんから出してやる。

「もうお家に帰るリア?」

「うん、そうだよ。もう少しで着くからね」

 出会ってほんの数日の間に、ゆかりはタリアの扱いに慣れてしまっていた。ときどき考えなしで行動することが悩みどころではあるが、基本的には人間の子どもと変わらない。彼女にとっては弟か妹ができたような気分だった。

「ゆい、明日も会えるリア?」

 すると、ゆいはぎこちない笑顔をつくり、ゆかりたちの顔色を窺って控え目な声量で言った。

「それはどうかな。分かんない」

「ま、次来るなら、忍先輩が言ったように入部が許可された頃にさ、友達と一緒に来たらいいよ。ただし、タリアを紹介するのはダメだけどね」

 ラケットケースのひもを左肩から襷がけにして、右肩にバッグをかけたちなみは、両手を頭の後ろで組みゆいの方を見た。そのおかげで、彼女の肘にぶつからないようゆいは自身の体をできるだけ縮めて、肩身が狭くなった。

「はい、その……分かってます。この子のことは内緒、ですよね?」

「言っても信じてくれる人はいないと思うけど、あんただって、友達から変人だなんて思われたくないでしょ?」

「そう、ですね……」

 人見知りなのか極度の恥ずかしがり屋なのか、なかなか心を開いてくれないゆいの態度に、ゆかりは違和感を覚えた。小学生では学年の差など関係なく友達のように接していたから、初めて後輩と呼べる存在ができたわけだが、後輩というのはこんなにもよそよそしいものだっただろうか。

 ゆかりたちは違ったはずだ。先輩にも恵まれたおかげで、すんなりと部に打ち解けることができた。もちろん性格が人それぞれなのは分かっているが、ゆいは初めて会ったばかりの――しかも妖精という奇天烈な生き物である――タリアと、楽しそうに話していた。

 わざわざ自分に二回目のお礼を言いにきたぐらいだから、人付き合いが嫌いというわけでもなさそうなのに。

「ねぇ、ゆい?」

「はい?」

 ゆいは小首を傾げる。ほんの一つしか変わらないのに、ゆかりはそのあどけない動作をみて、なんだか子どものようだと思った。

「余計なお世話かもしれないけど、何か困ったことがあったら私たちを訪ねて来てよ。タリアもゆいのこと気に入ったみたいだし、先輩としてアドバイスできることがあるかもしれないから」

 これ以上、不安がらせることのないようにゆかりはできるだけ優しく笑ったつもりだったのだが、ゆいがほんの一瞬だけ浮かべた失望の表情を、彼女は見逃さなかった。

「はい、ありがとうございます……」

 ゆいの返した笑顔は偽物であると、ゆかりは直感した。かばんから頭だけ出していたタリアは、ゆかりの腕をよじ登り、ゆいの肩に飛び移った。

「ゆいはボクの友達リア!」

 その言葉を受けて、ゆいは微笑んだ。それを見て、ゆかりは確信する。自分たちに向けられたものと、タリアに向けられた笑顔は、明らかに違うものだ。

「あ、私この辺なので……。失礼します」

 住宅街にさしかかる十字路で、ゆいは慎重にタリアを返してお辞儀をした。すると、彼女の胸ポケットから何かが落ち、アスファルトに当たって心地よい金属音を奏でた。小銭かと思ったが、それはシンプルな楕円形をした銀のロケットだった。

「ロケット? 珍しいね」

 拾ってみると、紐などを通す輪っかがくてんと倒れた。

「普通はペンダントの先にくっつけたりするんじゃない? そのままだと、また今みたいに落ちるよ?」

 ちなみがロケットに触ろうとしたとき、ゆいはまるで奪うかのようにゆかりの手からそれを取った。

「あの……それじゃあ」

 ロケットを握りしめると、彼女は走って去ってしまった。

「大人しいのかよく分からない子だね」

 触れるもののなくなった手を持てあましたちなみは、誤魔化すように手を払った。

「だって、まだ知り合ったばかりだもん。これから、分かるようになるよ」

 そう、分からなくて当然なのだ、とゆかりは思った。このままテニス部に入ってくれて同じ時間を共有するようになれば、自然と心を通じ合うことができるはずだ。そのころには、どうしてロケットを大事にしているのかという質問も許してくれるだろうし、もっと気持ちはほぐれているだろう。

 その後の帰り道では、ずっと自分たちが先輩になる妄想について語り合った。しかし、どちらも相手の話を聞いては心の中でひどい妄想だと突っ込むのだった。

 

 ほどなくして、一年生は午後の授業をつぶして体育館に集められた。各部活動の代表によって行われる部活紹介があり、それが終われば今日の放課後より部活に入部することが認められる。

 どの部も紹介に特徴的な演出を加え、それぞれの良さをアピールした。ゆいはそのどれも楽しそうに思ったが、いまいち自分がそれをやっている姿が想像できずにいた。

 そして、十番目あたりで女子ソフトテニス部の紹介となった。全員が三年生のメンバーで構成されている。ゆいはその中に見知った顔を捜し、忍と目が遭った。周りの者に悟られないくらいささやかなウインクをされたが、つい目を逸らしてしまう。

 二組のペアはそれぞれ体育館の端に寄り、模擬試合が始まった。室内なので球の勢いは弱弱しいが、それでも凛々しい選手たちの姿に一年生の列からは小さな歓声が上がる。

 紹介が終わり、拍手が送られるとゆいはまるで自分のことのように誇らしく感じた。しかし、また忍がこちらを気にかけていることに気付き、自己嫌悪に陥る。

 どうしてこんな気持ちになるのか。……分かっているくせに。

 もやもやした感情をどこに吐き出せばいいのか模索しているうちに、部活紹介は終わってしまった。最後に各部の顧問が紹介され、入部希望の者は自分のところに来るようにと呼びかける。

 ぱっとしない五十過ぎの眼鏡をかけた男性教員が、女子ソフトテニス部の顧問だった。この後、彼のところに行って入部したい旨を伝えれば、それでゆいは部の一員となれる。

 どの部活に入るかはもう決まっていた。わざわざ職員室を訪ねなくても、練習を見学に行けば顧問や部長が気をきかせてくれて、いつの間にか部員扱いされるだろう。だから、今日の放課後、また女子ソフトテニス部の見学に行けばいいだけなんだ、とゆいは何度も自分に言い聞かせた。

 教室でのホームルームが終わり、これまでならすぐに解散していたクラスのみんなは、友達とどの部活に入るか、見学に行ってみるかという相談を始めた。

 ゆいの席の近くでも、五人くらいの女子グループが固まって楽しそうに話している。それぞれ興味をもった部活は違うようだが、結局みんな同じ部に入るのだろうとゆいは推察した。

「私、ソフトテニス部にしよっかなー」

 一人がそう言った。入学してからの一週間、ゆいが見たところその子はグループの中心のようだった。すると、取り巻きも彼女に便乗する。

「じゃあ、私もそうしようかな」

「悦ちゃん、このあと見学に行く?」

 これは好機だと、ゆいは判断した。この流れなら自然に彼女たちを誘うことができるだろう。さりげなく、思い出したように言えばいいんだ。

 ――私もテニス部を見に行きたいんだけど、一緒に行かない?

 たったこれだけのセリフだ。躊躇う必要がどこにある。クラスメイトとしての、ごく普通の会話なんだから、何もおかしいことはない。

 彼女は心の中で復唱し、結果、それを飲み込んだ。

 もうちょっと機会を伺おう。今よりもっといいタイミングがおとずれるはずだ。最悪の場合、明日でもいい。明後日でも……別に急ぐようなことじゃない。

「ごめん、今日は犬の世話しないといけなくてさ。また今度でもいい?」

 悦ちゃんと呼ばれた子がそう言うと、周りは残念そうな反応をみせたが、ゆいだけはほっとした。“また今度”でいいんだ……。

 そして、彼女たちが解散したとき、教室にはゆい一人だけが残されていた。みんな、友達と部活見学に行ってしまった。悦ちゃんのように帰った者もいる。だから、焦る必要はない。今日すぐに行かないといけない決まりなど、ないのだから。

 ゆいはかばんを担ぐと、昇降口に向かった。あちこちから微かに運動部のかけ声が聞こえてきたが、彼女はそれらを無視することにした。




少しずつ更新頻度が落ちるかもしれませんが、
これからもよろしくお願い致します。
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