薄暗くて古臭い階段を降りていく。かび臭くて、埃だらけで目がシバシバしちゃう。息が詰まる。重苦しい。緊張した上に埃のせいで目をこすっていると階段が欠けてるところで踏み外しちゃって、お尻を打った。
「……いたい……」
「大丈夫かい? もう少しで着くから、頑張っておくれ。ほら、転ばないよう手をつなごうか」
おとうさんはそう言って、わたしの手を取って起こしてくれ、握ったまま降り始めてくれた。おとうさんと手はおおきくて、あたたくて、安心する。
「なんでおとうさんは転ばないの?」
「慣れてるからね。どこが欠けていて、どこが転びやすいのか目をつぶっていても分かるよ」
そう笑って返されちゃった。少ししたら目の前に木でできた古ぼけた大きな扉が見えた。古ぼけているけれど、どこか神秘的なそんな扉。
「この扉の向こうが工房だよ」
そう言いおとうさんは扉を開け
「我が工房へようこそエリサ」
笑顔で迎えてくれた。
部屋の中に入るとまず見えてきたのは中央にある大きな机。青い液体我満たされている容器と、空っぽの容器がおいてある。そして沢山の見たこともないルーン文字が机のあちこちに書かれてて、真ん中だけぽっかり何も書かれてないそんな机。
右を見ると今度は壁一面の色んな色をした液体の中に毛だとか羽とかが入ってる試験管の戸棚。大きさもバラバラで、わたしの顔くらいある試験管もあれば、すごい小さい試験管もある。それにカラフルな液体のせいで虹みたいに見えてすごい綺麗。
左を見るとこれまた大きな戸棚。沢山の木材が並べられてしっかりと扉が閉められてる。中には、瓶に入ってある木材や、紐で縛られている木材もある。
最後に部屋の奥へと目を凝らしてみると、わたしの身の丈はありそうな沢山の容器とその片隅に積み重ねられた木の欠片が入ってある木箱がおいてあるだけだった。
ここが、おとうさんの工房。すごい綺麗で、でも重苦しいそんな場所。そんな呆けているわたしの横を素通りして中央の机に向かうおとうさん。わたしが慌てて机のそばによると椅子を出してくれたのでそれに座る。
「さて、エリサ。お前さんは杖が何で出来ているのかはしっているよね?」
「うん。芯材と木材だよね」
「そうじゃ杖は最高の芯材とそれに合う木材を探してやらなければならん。まず木材じゃが、木材は芯材に適したものを使ってやらねば杖本来の力を発揮できん。今回使うのはお前さんを見つけた側にあった、このネムノキの木材を使うがな。そして杖を作る際に木材はあらかじめこの溶液につけて芯材となじみやすくしなくてはならん」
おとうさんは箱からネムノキの幹を取り出し青い液体につける。
「芯材はどれも強力な力をもっておる。私が使う芯材は、――ユニコーンの髪、ドラゴンの琴線、フェニックスの尾――。これらを普段用いておる。他にも強力な芯材といえば、ヴィーラーの髪を使う職人もおるが、これを使うと杖が気まぐれになるから、私は好かん。ちなみに、その戸棚にあるのはほとんどがその3つの芯材でな、木材にあう芯材があればそこから取り出すのじゃ」
そういいながらおとうさんは例の天馬の羽が入った箱のふたを外し、大切そうに羽を取り出し私に見せる。
「今回使う心材は、この羽。おまえに例の天馬がそっと置いていった羽じゃ。そして杖を作る際にはこの容器に芯材に適したエーテルをいれてやり、しばらくつけてやる必要があるのじゃ」
「エーテル?」
「エーテルといっても私が調合した特殊なものでな、芯材が木材となじみやすいよう、魔力浸透を上げるためのものなのじゃ。」
一度羽を箱にもどし、奥の大きい容器がある中で、一番小さい容器をゆっくりと運んで机の上の透明な容器に注いだ。透明な容器がエメラルド色の溶液で満たされた。
注ぎ終わった容器を戻し再度机に向かうおとうさん。
「今回使うエーエルは一番魔力浸透が高いものでいいだろう。芯材の魔力が低いのに魔力浸透が高いものを使ってしまうと芯材が消滅してしまったり、杖になった時に、最大限の力がはっきり出せなくなってしまうのじゃ」
そしてもう一度、箱から羽を取り出して、容器にいれようとしたところでおとうさんは手をとめた。
「エリサ、もう一度聞くが、本当にいいのじゃな? 今ならやめたいって言うのであればまだ取り返しはきくぞ……? しかしこの溶液に羽を入れるともう。取り返しがつかないが、いいんじゃな?」
「……うん、いいよ。……もう決めたからね」
わたしが頷くのをみると、おとうさんは例の天馬の羽をゆっくりとエメラルド色の液体につけた。すると机に書かれている見たこともないルーン文字が光り輝き、グルグルグルグル好き勝手に動き出した。次におとうさんはノムノキの幹を液体の中を取り出し机の中央に置くとルーン文字がもっと激しく動いた。
そして次に取り出した羽根を幹に重ね置くと、例の天馬の羽がネムノキの幹の中に溶けるように沈んで、ルーン文字がゆっくり消えたと思ったら、今度はネムノキの幹が激しく光りだした。すごくまぶしくて目が開けられないくらい激しい光。
うっすらと目を開けると、机の上には幹の形が変わって杖の形をしたものがうっすらと鈍い光を放ちながらあった。……完成したのかな?
「……完成したの?」
「まだじゃよ、これが最後の仕上げじゃ。よく見ておきなさい」
わたしが聞くと、そう言ったおとうさんは箱からネムノキの花を取り出して、ギュッと両手で潰して、鈍く輝いてる杖に雫をたらした。
そしたら光が私を包んだ、暖かくて心地よいそんな光。光が収まると全体が白くて、けど黒い持ち手に羽根の彫刻が彫られた杖が机のうえに出来上がってた。
「これで完成じゃよ」
おとうさんは机から杖を取り上げてあちこち触ったり、マジマジと杖を見る。
「ネムノキ、謎の天馬の羽根。28cm。軽くてしなやか。」
おとうさんが振ると明るい光の玉が部屋をグルグル回ってしばらくすると消えてった。
「問題ないようじゃの。ほら、エリサ。手にとって振ってみなさい」
差し出された杖を手に取ると杖から全身にかけて何かが全身を駆け巡った。やさしくて、けれど激しくて杖が喜んでるみたいな、そんな感じ。そして杖をふると部屋中を暖かい風とたくさんの羽根と花が舞い散って床に落ちると消えていった。
「決まりのようじゃの、やはり私の目に狂いはなかった。その杖はおまえを選んだようじゃの。ネムノキの花言葉は歓喜や安らぎ、夢想の他に創造力といわれておる。この杖はどんな苦難な道でも安らぎと、そんな状況をも切り開く創造力を与えてくれ最後には歓喜という喜びを与えてくれるじゃろう。大事にしておくれ」
おとうさんはそうわたしに伝え、一緒にお店に戻った。
もらった私だけの杖が嬉しくて仕方がなくて、夜寝れなかったのはここだけの秘密。