鎮守府の秘書艦生活と言えば提督の艦隊指揮のサポートや時報報告、等々思い描いていました。練習巡洋艦なので他の艦娘より火力は低いし戦力にはあまりならないのは自分でも分かっていたのでその分、裏方のサポートとして艦隊の皆さんの力になれればいいなと思ってました。
--けれど。
「市場の水揚げ手伝ってくる。バイトがんばってね」
「はいっ、わかりました!」
--提督と秘書艦の会話ではないですよね。
私は秘書艦として活躍しているように思えていません。
手帳を見て今日のスケジュールを確認します。午前中は大本営から送られてくる書類を片付け、午後からはコンビニのバイト、夜はドラマの「青葉は見た!」を視聴し明日に備えて早めに寝る。よし、明らかにおかしいです。私は大学生か何かですか?
そもそも艦娘がバイトをする時点でもうおかしいですし、提督さんが市場で働いているのもおかしいですし、それを許容している大本営もおかしいです。そもそもこんな生活をかれこれ3年している私もおかしいです。
ピンポーンとインターホンがなります。壁に取り付けられたディスプレイには曙ちゃんが映ってます。
「こんにちは、鹿島さん。うちのクソ提督からの書類を届けに来たわ」
「お疲れ様です。入ってきていいですよ」
玄関まで行くと曙ちゃんが感心したようにまじまじと玄関を見てました。もともとは提督さんの住む屋敷ですが、新たに鎮守府を作るよりも改造したほうが良いということで、大本営が魔改造したのがこの鎮守府です。もともと提督さんのご先祖様が旅館を旅館として建てた建物なので部屋も多いです。合宿演習や夏休みの慰安旅行で他の鎮守府の艦娘も泊まりに来たりと利用もしています。
「やっぱり何度来てもすごい屋敷よね。今日は中条、さんいないの?」
「提督さんは市場で水揚げの手伝いに行きました」
「ほっ、それじゃちょっとゆっくり出来るわね」
「別に提督さんがいてもゆっくりしていけばいいじゃないですか」
「うーん、でもあの人どうも苦手なのよね」
どんな人でも物怖じしない曙ちゃんですが、私の提督さん相手だとかちこちに固まっちゃいます。提督さんの前だと中条提督ではなく、中条、さんと少しの間が開いた言い方で呼びます。何があったか聞いても話したくないの一点張りです。提督さんは優しい方なのでひどいことはしてないと思いますが、何があったのでしょう?
とりあえず茶の間の形をした応接室に通らせて麦茶を出して書類を受け取ります。
「それにしても鹿島さん、本当にここになじんでしまったわね」
「そうですか?」
麦茶を飲みながら私の服装を見て曙ちゃんが言いました。何か変な格好でしょうか?白のワンピースを着ているので、少し涼しげにみえるからでしょうか。
「あの軍服の鹿島さんは見られないのかなってね」
「あ、それならちゃんと取ってありますよ。軍の関係者が来た場合ちゃんと着てますよ。制服ですから」
「いや私も軍の関係者なんだけど」
提督さんお手製の芋羊羹を食べながら呆れたように言いました。
「それで中条さんはいつも私服?」
「はい、そうですよ?」
「元帥が来たときは軍服?」
「普通に私服ですが?」
この前元帥がいらしたときはライダースジャケットと黒のパンツの格好でした。バイクを駆ってキックするつもりだったのでしょうか。小声で「でたな地獄大使」と言ってましたし。元帥もそれに気付いてか、提督さんを睨んでました。それに応じるように提督さんも睨み返し、2人の殺気でお気に入りのマグカップと鎮守府となっている中条邸のガラスが全部割れました。明石さんがいないので、治すのが大変です。本当割るなら大本営でやってほしいものです。
「そういえば中条さんの軍服姿見たのはいつ?」
「えーっとですねぇ……茜提督が腹痛で入院した時だけですね」
「クソ提督がノロウイルスにかかって代わりにうちの艦隊指揮やったときだけ?!」
曙ちゃんがいる鎮守府がAL/MI作戦をする際、曙ちゃんの提督である茜大佐がノロウイルスにかかって作戦指揮出来なくなり、代わりにうちの提督さんが艦隊指揮をしました。本土襲撃も予想し完膚なきまでに敵艦隊をたたきのめし、味方の艦隊には1人も怪我を出さない完全勝利Sランクを水平線に刻み込みました。いつもはアロハシャツにGパンの格好で釣竿の整備をしているか、タバコを吸っている提督さんですが本気を出して、真面目にやればやれるんです!ただその情熱が提督業に向かないだけです。
「でも作戦成功の次の日に蕁麻疹がでて寝込んでましたけど」
「どんだけ軍服着るのが嫌なわけ?!」
「ふふっ、でも提督さんは自分が戦わないで私たち艦娘だけ戦わせるのが嫌いなだけだと思いますよ。元々一般人ですし」
「そういえば中条さん、この島で漁師やっていたんだっけ」
「そうですよ、深海棲艦が攻めてくるときは漁師仲間と撃退しててその力を見込まれて提督業に就いた訳です。いまもやってますけどね、漁師兼提督です。ふふっ」
「T〇KIOじゃないんだから」
「まあ、ここの鎮守府はカッコカリがつきますからね。艦娘は私だけですし、やっていることは隣の鎮守府の資源を預かって保管管理してるくらいですから」
出撃も漁師さんたちの護衛と本土と私たちがいる島を行き来する船の護衛くらいです。たまにほかの艦娘と出会っても私の鎮守府に入れるよりも艦娘として戦えるよう基礎訓練してからほかの鎮守府に回します。それが私の鎮守府の方針です。
「妖精さんたちは何しているの」
「提督さんの船の整備とかですね」
私の艤装は月一のメンテナンスくらいですから。
「はぁ、ここだけ住む世界が違うわね。……それじゃあ私は行くわ。明日うちの新入りが訓練しにくるから鹿島さん色々とお願いするわ。あと、中条さんにおいしいお魚ありがとうって言ってて」
「ふふっわかりました。伝えておきます」
私は曙ちゃんを玄関まで送ります。
「鹿島さんは今日はこれからどうするの」
「午後からはコンビニでバイトです」
「うーん、突っ込む気も起きないわ。それじゃ、バイトがんばってね」
「はい、お気をつけて」
さて、もうすぐバイトの時間です。用意をしなければ。
「おはようございます」
「おはよ、鹿島ちゃん」
この島にはスーパーがありません。住人500人ほど平均年齢60以上のお年寄りが多いこの島ではここのコンビニで必要最低限の日用品はそろってしまいます。このコンビニの店長さんは提督さんと親友で、私が来る前までは提督さんと襲撃する深海棲艦と迎撃していたそうです。提督候補の一人でしたが、提督さんを身代わりにして丁重に断ったと聞いています。
「中条は何やっているんだ」
「市場で手伝ってくると言ってました」
「今鰹の水揚げ始まってきたからな、市場も人手足りていないからな」
「はい、今鰹の値段も高いですからね。一本30万円ですよ」
「深海棲艦出る前も鰹が獲れなくなって値上がりしていたけれど、せいぜい6千円くらいだったのになぁ。今は漁に出るだけで命がけだもんな。おかげでここ最近誰も獲らなくなったから、鰹やマグロが絶滅の危機になってた問題が解決してしまったから皮肉なもんだ」
「いつか昔みたいに安心して漁ができるようになれればいいですね」
「なるさ、少なくとも鹿島ちゃんのおかげでこの島の漁師が漁に出れるようになったんだ。深海棲艦がこの島を襲撃してきたときどの鎮守府も俺らの事を見捨てていた。助けを求めても艦娘を派遣してくれなかった。それなのに鹿島ちゃんは上官である前の提督の命令を無視して駆けつけてくれた。ほんと英雄だよ」
「……あの時は店長さんや提督さんを見殺しには出来なかったので」
「鹿島ちゃんの行動がなかったら艦娘の立場も変わっていなかっただろうね。君のお陰で奴隷のような扱いを受けていた艦娘が救われたんだ」
「それは提督さんたちが私を守ってくれたからです」
「そりゃあ命の恩人だし大切な仲間だからね、仲間が傷ついているのは許さないから」
店長さんのこの何気ない一言。この一言が私の胸を反響し視界がぼやけます。
あの当時私は別な鎮守府にいました。補給も修復も満足にさせてもらえず演習や出撃を強要させられていました。無理な出撃で沈んでしまった仲間もいました。今で言うブラック鎮守府そのものでした。私も常に大破状態でしたが、たまたま秘書艦でたまたま電話にでたのが今の提督さんからのSOSでした。前の提督に話しても「捨てておけ、守ったところで何も利益は無い」といってました。この時、今まで抑えていた怒りや不満が爆発して私は駆け出そうとしました。
--待てっ!勝手な出撃は許さんぞ!!貴様のような出来損ないが行った所で何になる!
--私のような練習艦でもやれる事はあるはずです!!
--助けに来てくれてありがとう。
--ごめんなさい、私そこまで強くないんです。補給も満足にしていないのであまり力になれません。
--いや、敵に砲撃できるだけでもありがたい。敵は三体、3発の砲撃できれば十分さ。俺たちが囮になる、だから君は……
--や、やりました!やれました!!
--ああ、ありがとう。君はこの島の英雄だ。……君はこれからどうするつもりだ。
--……おそらく解体されるでしょう。上官の命令を無視し出撃しましたから。最後に貴方達を守ることが出来てよかった。
--そうか、なら今度は俺たちが君を守る番だな。
--俺たちの仲間を傷つけるやつは何人なりとも許さん。
一筋の涙が頬を伝います。嫌ですね、バイトとはいえお客さんの前に立つお仕事なのに泣くなんて。幸いお客さんは居ないのでよかったです。私は涙を拭い無理やり笑いました。
「えへへっ、皆さんに出会えて鹿島は幸せです!」
店長さんは笑って頭を撫でてくれました。
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様、また今度も頼むね」
「はいっ、お先に失礼します」
店長さんからは明日演習に来る艦娘のためにたくさんの飲み物と、お菓子を貰いました。夜空には満点の星空。流れ星が1つ流れていきました。
「提督さんたちと一緒に居られますように」
私は歩みを止め流れ星に1つ願いをこめて言いました。そして真っ直ぐ提督さんのいる鎮守府に向かいました。
私はほかの鎮守府とは違い異色な秘書艦だと思います。それでも私を支えてくれる人たちのためこの鹿島、誠心誠意任務を全うしたいと思います!
「お帰り鹿島」
「提督さん!鹿島、ただいま帰還しました!!」