鹿島と小さな島の鎮守府   作:真紅マフラー

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鹿島のデイリー任務

 ピリリリリと目覚まし時計が私の眠りを覚醒させます。時刻は午前4時半。もう少し寝たいところですが目覚まし時計のアラームを止め布団から起きて身支度を整えます。

 外に出るとまだ夜空の星星が輝いていています。5月半ばとはいえまだこの時間帯だと気温は少し低いです。提督さんがプレゼントしてくれたマフラーを巻いて港へと向かいます。

 徒歩数分で港に着きました。鎮守府から直接海に出ることも可能ですが、眠気覚ましに歩いていきます。港には提督さんがタバコを吸って待っていました。

「おはよう鹿島」

「おはようございます、提督さん♪」

 いつものやり取りですがこのやり取りだけで体が温かくなります。

 私の鎮守府のデイリー任務の1つ。今日獲れた魚を茜提督の鎮守府へと配達です。今の時代天然物の魚はとても希少で流通も少ないです。その魚を私は届け、間宮さんや鳳翔さんが調理します。魚の値段は流通している養殖の魚と同じくらいの価格なのでとってもお得。

 提督さんは私の艤装にドリンクホルダーをつけて紙コップに七割ほど水を入れます。それを見た私はジト目で見つめて言いました。

「てーいーとーくーさーん。これの意味店長さんから聞きましたよ」

 最初は魚を傷つけないためと言われた為納得してましたが、本当は某人気レース漫画の物まねで特に意味は無いことを知りました。

「『あいつは鹿島ちゃんを峠の走り屋にするつもりか』って言ってましたよ」

「ちっ、ばれたか」

「あーっやっぱり!そもそも船が海の上でドリフトなんて出来ませんよ!!」

「んじゃあ艤装を白黒カラーにして『中条鮮魚店(自家用)』って書いてある服を着てもらおうか」

「それは提督さんの軽トラで十分です!」

「んじゃあ一定のスピードになったらキンコンなるように……」

「それも結構です!妖精さんも『それはいいな』って顔しないでください!!まったく……」

 私は提督さんに背中を向けスクリューを回し始めます。

「結局それつけていくのか」

「外したら外したで寂しいですし、このまま行きます」

 ふーんだ、提督さんの意地悪!

「そうか、……それじゃあ気をつけて。頼むぞ」

 ちょっと意地悪な提督さんですが心配してくれてます。そのやさしさが少し嬉しいです。

「はい、鹿島出撃します♪」

「ああ。それとブラインドアタックはするなy「提督さんのバカー!!」」

 やっぱり提督さんはちょっぴり意地悪でした。

 

 

 

 海の上をスケートのようにすいすいと進んでいきます。海は静かで穏やかです。雨の日や雪の日は提督さんや漁師さんの船で届けに行きます。その日は早起きする必要は無いのですが、護衛も兼ねて一緒に行きます。船を操縦する提督さんたちはまさしく海の男といった感じでとてもカッコいいです。大漁旗を海風にたなびかせ進む船は軍艦とは違ったカッコよさがあります。

 表面張力を利用し、コップのふちから水がこぼれないようにコップの中で水が回るようにスクリューの力加減や私自身の姿勢などわずかに調節しながら進んでいきます。

 しばらくすると水平線の彼方からまぶしい光が私を照らします。広い海で朝日を見るのは格別です。潮風で冷え切って固まった体が解けて体のそこから力が漲ってきます。

 さて茜提督がいる鎮守府まであと30分ほどスピードを緩めることはしません。このままぐんぐんと進んでいきます。

 しばらくすると1つの艦載機が鎮守府側から飛んで来ました。この時間に艦載機を飛ばすのはただ一人だけ。

「ふふっ、今日のお出迎えは鳳翔さんですね」

 いつも鳳翔さんは艦載機を飛ばして案内してくれます。艦載機のパイロットの妖精さんが手を振ってくれています。私も手を振り替えしながら鎮守府に向かって進んでいきます。あっもちろん手を振ってコップから水をこぼすようなことはありませんよ。

 

 

 しばらくすると赤レンガの建物がある港に着きました。そこには鳳翔さんとここの鎮守府の提督である清水茜提督が待っていました。

「おはようございます!茜提督、鳳翔さん。鹿島お魚を届けに参りました!」

「いつもご苦労様です、鹿島さん。道中大丈夫でしたか?」

「うふふっ鳳翔さんの艦載機がいつも迎えに来てくれるので大丈夫です♪」

「鹿島君いつもありがとう、中条君は元気かい?」

「はい、変わらず漁師の仕事を専念しています」

「まったく、たまには提督として顔を出せって言っておいて」

「ふふっ、それが出来たら苦労しません」

「ははっそうだね。ああ、あと今日はうちの新しい艦娘が世話になる。色々と鍛えてやってほしい。あと天龍と龍田が同行すると言ってね新入りといくから宜しく」

「そうですか、提督さんも喜ぶと思います」

 天龍さんと龍田さんの姉妹は昔提督さんのもとで剣術の稽古をしていた時期がありました。二人は提督さんを「先生」と呼び慕っています。今ではこの鎮守府のエースです。

「それでは私は行きますね」

「もう戻るのですか?よろしかったら朝ごはんを食べて休憩していったらどうかしら?」

「鳳翔さんありがとうございます♪戻って準備をしないといけないので」

「そうですか、それではまたの機会にでも。今度は中条提督と一緒に食べていってくださいね」

「はい、ありがとうございます」

「ああ、そうだ鹿島君。これを中条君に渡してくれ」

 茜提督は1つの便箋を私に渡しました。軍のやり取りで使う封筒ではなくカモメの絵がプリントされた可愛らしい封筒です。

 これは、もしかして……。

「まぁ他愛の無い手紙さ。中条君は漁師の仕事がなかなか忙しいみたいでね。メールやっても見てるんだかどうかわからないくらい反応が無いんでね、ちっとばかり意地悪の意味もこめて手紙をしたためたまでさ」

 少し照れながら茜提督は言いました。けれどそれだけではないと私は感じました。

「わかりました、確かに受け取りました。ちゃんと返事も書くように言っておきますね」

「やっ、そこまでしなくていいよ。届けてもらえれば十分さ」

 照れている茜提督をみて鳳翔さんは困ったように笑っていました。

「それじゃあ、失礼しますね」

「うん、お勤めご苦労」

 私は提督さんの元に戻るべく進み始めました。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく提督は後一歩の所で逃げてしまうんですか?せっかく早起きして手紙まで書いたのに」

「だって、鳳翔さん。相手は鹿島ちゃんだよ。あんなかわいい子と張り合えないよ」

「聞く耳持ちません。ただでさえ中条提督は顔を出してくれないのにこのままでは鹿島さんに取られてしまいますよ。さあ、戻って仕事です」

「そんなぁ、鳳翔さん!」

 

 

 

 私は鎮守府に戻る道、茜提督から預かった手紙のことを考えていました。茜提督と提督さんは年も同じだし交流もそれなりにあります。いくら提督業に不真面目な提督さんでも、なんだかんだ書類には目を通すしメールだって返しています。それなのに手紙をしたためるとなると……。

「これはかんぜんにらぶれたーなのです」

「せいさいせんそうぼっぱつですか」

「……やっぱりそうなのでしょうか」

 妖精さんの言葉にふと心に影がかかります。茜提督は美しくてスタイルもよく、若輩ながらも大佐として艦隊を指揮しています。元帥など大本営の信頼も厚くさまざまな武功を打ち立てています。私みたいな半端者と比べもなりません。

 もし提督さんが茜提督と付き合い出したら茜提督を守るため漁師の仕事を捨てて一提督として戦いに漕ぎ出していくでしょう。作戦指揮能力の高さは他の誰よりも高いのは私が一番知っています。

 そして多くの艦娘を仲間にしたら私はもうお役ごめんですね。私は所詮戦艦でも航空母艦でもない半端物の練習巡洋艦。所詮その程度なのですから……。

 

 

 

 

 ブルーな気持ちのままいるといつの間にか住み慣れた鎮守府のある島が見えて来ました。懐に仕舞っている手紙がやけに重く感じます。港に向かうと提督さんがいつものようにタバコを吸いながら待っててくれました。いつもだったらすごく嬉しいのになんででしょう、気分が高揚しません。

「お帰り鹿島」

「あ、提督さん。鹿島ただいま帰還しました」

 とりあえず提督さんには心配かけたくないので笑顔を作って帰還報告をしました。しかし、いつもだったら笑顔で迎えてくれるのに少し困ったような顔をしています。まさか、顔に出ていたのでしょうか。だとしたらやっぱり私は駄目な艦娘ですね。

「鹿島、どうした?元気ないな」

「えっ、そんなこと無いですよ!今日も元気です♪」

 提督さんに心配かけさせたくない気持ちと、心配してくれていることに嬉しい気持ちがぶつかり合って涙となって今にも溢れそうです。

「そうか、それならどうした」

 提督さんが指差す先には私の艤装についているドリンクホルダー。紙コップの水は3割ほどまで減っていました。

「あっ……、これは、その、そう!これ、これを預かってきたので!!」

 私は話を逸らすために預かった便箋を提督さんに押し付けるように渡しました。

「えへへ、急いできたのでお水もこぼしちゃって♪ドリフトなんてまだまだ先ですね♪」

「そう、そうか。どうする、朝ごはんの用意が出来ているが、食べるか?それとも一眠りするか?」

「そうですね、鹿島今日はお昼から新入りさんと演習があるので一眠りしたいと思います♪」

 艤装解除して陸に上がり、そのまま提督さんの横を通り過ぎようとしたとき。

「鹿島」

 不意に呼び止められて手をつかまれました。驚いて提督さんを見るとそのまま私をやさしくひっぱって歩き始めました。

 一歩先を提督さんは歩くので表情はわかりません。鎮守府の玄関まで黙ったまま歩いてくるとお互い向き合いました。

「鹿島、お疲れ様。いつもありがとう。ゆっくり休めよ」

 ただそれだけなのに、それだけの短い言葉なのに。どうしてこの人の言葉は私の心を優しく照らしてくれるのだろう。気がつけば私はこんなことを言っていました。

「提督さん、私は提督さんのお役にたてているのでしょうか?」

「鹿島じゃなきゃ駄目だよ」

 俺の秘書艦はな。そう笑って言う提督さんをみて私の心を覆っていた曇天は一気に晴れ渡りました。

「ふふっ♪そうですね、私が居ないと提督さんは提督さんじゃなくなりますもんね」

「ただの漁師じゃないか」

「うふふ、そうでした」

「なんだ急に元気になりやがって」

「そんなことはないですよ!おやすみなさい提督さん」

「ああ、おやすみ鹿島」

 私と提督さんだけのデイリー任務無事成功です♪

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