全力で部室棟の廊下を駆け抜け、一つ下の階に着いた俺は、そこで速度を緩める。そして、停止していた思考回路を再起動させる。……何だったんだろうか、アレは?
考えてみたが、アレは所謂男子校ノリという奴ではなかろうか? 見るからに男所帯なサークルっぽいし、サークルに入ってる以上はリア充だろう。……偏見か? そうでもないだろう。とにもかくにもだ、リア充というのは騒ぎたがるものである。そこに男だけという羞恥心を薄める、もしくは無くす要素が加われば脱衣に対する抵抗も無くなるというものだろう。男子校の体育祭とかが良い例である。まあ、俺は男子校じゃなかったからよく分かんないけどね。
しかし、冷静になって良く良く考えてみるとアレは只の悪ノリだった事が分かってくる。どちらにせよ相容れない人種である事には違いないが、部室内で裸になるくらいなら特に問題は……問題は……いや、ないとは言えないけどさ……。
少し落ち着いた俺は、飲み物を買うために自販機に向かう。良いな大学の部室棟。なにせ各階毎に自販機がある。そしてなにより、この大学の自販機には絶対数こそ少ないものの、マッ缶が売っているのだ! ウチの高校は千葉のくせにマッ缶は売ってなかったから、スポルトップばっかり飲んでたよ。え? スポルトップ知らない? 紙パック入りのスポドリなんだけど。もしかして千葉にしか売ってないのかな……教えてエr偉い人!
とまあ、自販機に小銭を投入することにした。正直130円は微妙に高く感じるよな。もう百円玉じゃ温もりは買えないんですよ尾崎さん! そんなことを考えながらマッ缶を購入する。しかし、マッ缶って何が
ガタンと落ちてきたマッ缶を取り出してプルタブを開けようとした瞬間。何者かに肩を叩かれる。なんだよ、これから俺の至福のマッ缶タイムきららが始まるってのにさ。冒頭の不機嫌顔に負けないくらいの――いや自然に出てる以上はそれより上だろう―― 不機嫌な表情で振り向いてみると、そこには、
「待てよサークル見学者」
全裸の金髪マッチョと半裸の黒髪マッチョが立っていた。
「部室の外だと完全にアウトだ!」
マッ缶を握りしめ再び猛ダッシュをする俺と追い掛けてくるマッチョ裸族。なにこれ! 超恐い!
「待て、見学者! 何故逃げる!!」
「逃げるに決まってんだろ! なんなんだよお前ら!?」
てかヤバい、コイツら足速えっ! 逃げ足の速さに定評のあるこの俺が振り切れない!!
「さてはお前、人見知りのシャイボーイだな!!」
「それは否定しないが! それ以前に自分らの格好を考えろ!!」
何で、納得したような表情なんだよ金髪マッチョ!!
「そんな事はどうでもいい!!」
「よくねえよ! 最重要事項だ!!」
「とにかく俺達の話を聞くんだ!!」
「嫌だぁぁぁーーっ!!」
妹よ……お兄ちゃん、無事に実家には帰れないかもしれません。
「あ、航おかえり。ホームシックは大丈夫?」
「帰ってきたくはなかったよ……てか、ホームシックってなんぞ?」
「いや、ここに来るときに実家がどうとかブツブツ言ってたから」
ああ、あれ口に出てたのね。いや、別にホームシックとかじゃねえし、妹に会いたいだけだし。……シスコンじゃねえか。
「まあ、男はいずれ親元を離れるもんだ。すぐに慣れるさ」
いやいやそこの黒髪半裸マッチョ、親元離れてもう一年以上経ってますから、流石に慣れたっての。
「困った事があれば、何でも相談してくれ」
おい、そこの金髪全裸マッチョ。誰が好き好んで全裸の人間にお悩み相談せにゃならんのだ。というか……。
「何で俺に原因があるかのような話になってんだよ……」
「え? 違うの?」
「違えよ! 部室入ったらいきなり全裸の野郎共がいたからビビって逃げたんだよ!」
心底不思議そうな顔しやがって! クソッ、慣れない大声のツッコミで喉が痛くなってきやがった……。こういうときに西緒がいたら楽できるってのに、肝心なときにいやしねえ。
「何だ何だ、お前は俺達が好きでこんな格好をしていると思っているのか?」
「……違うのかよ?」
「否定はしない」
即答すんなよ……変態じゃねえか……。頭を抱えて苦悩する俺の肩に、金髪マッチョが優しく手を置いてくる。なんか嫌だなこのシチュエーション……。
「まあ聞けよ見学者、この格好には理由があるんだ」
「そら理由もなく全裸になってたら、文明レベルは原始時代まで遡るっての」
「温故知新というヤツだな」
無視だ無視。突っ込んだら負けだ。まあ、その理論だと今日だけで何敗したか分からんけど。良く分からん事を言い出す黒髪マッチョを無視して、俺は金髪マッチョに尋ねる。……そろそろマッチョがゲシュタルト崩壊を起こしかねないな。
「んで、
「うむ、実はだな、買い出し要員をジャンケンで決めていたんだ」
「買い出し要員?」
「ああ、知っての通り、ウチの部室は部室棟の最上階の最奥にある。広いし、多少ヤンチャをしても苦情は来ないが、買い出しはちと手間でな」
多少のヤンチャ? 全裸で叫んだり、サークル見学者を走って追いかけて拉致するのが多少のヤンチャで済まされるんですかね?
「それで、買い出しにいくヤツをジャンケンで決めてたって訳だ」
「はあ……それで?」
俺の疑問に金髪マッチョが首を傾げる。何でコイツら皆、俺の言葉に素直に頷いてくれないの? シャフトのアニメでもこんなに頻繁に首傾げないよ。
「それでとは?」
「いや、買い出し役は分かったけど、それと全裸の因果関係は?」
「何を言っている。
「お前らは野球拳以外のジャンケンを知らんのか!?」
何が悲しくてウホッ! 男だらけの野球拳! なんてやらにゃならんのだ。いや、女子が参加させられてたら、この程度の問題じゃなくなってるんだろうけどさ……。いや、参加させられなくても、この場にいるだけで問題か。
声を荒げる俺に、金髪マッチョが真面目な表情で口を開く。
「いや、誤解しないで聞いてほしい。俺は服を脱ぐつもりはなかったんだ」
「はあ……」
「――ただ自然と脱げていた――俺の言っている事が分かるよな?」
「いや、微塵も」
何でかっこよさげに言うんだよ……無駄に『
「ほらほら、バカなこと言ってないで自己紹介でもしようよ」
……な……なに……猪上が、この場を取り仕切っているだと――――!? いや、まあ、冗談じゃなくてマジで。今世紀最馬鹿と呼ばれた男が、今この場において一番まともな反応をするとは……。
「航、なんか失礼なこと考えてない?」
「いや、そんなことない、しよう、自己紹介」
何でカタコト? と首を傾げられながらも自己紹介が開始されたのだが……正直、裸族共の格好が悪い意味で気になりすぎて、相手が何て名乗ったのかも、自分が何て名乗ったのかすらもあまり覚えておらず、分かった事と言えば今日はまだ全員は集まっておらず、本当はそこそこ人数のいるサークルであることくらいであった。
自己紹介が終わった後、野球拳最下位決定戦が行われ、全裸になった金髪マッチョ……めんどいな金先輩が買いに行った。そう、どうやら黒髪マッチョと金髪マッチョは先輩だったらしい。ちなみにイケメン細マッチョはタメだった。追記すると、流石に服は来ていった。
「すいません、先輩とは知らずタメ口きいてしまって……」
「いや、名乗ってなかったし、俺らはあまり気にしないぞ。まあ、気にする奴もいなくはないから一応は敬語で頼む。ただ、そんなに畏まる必要はない」
良い人だな黒髪マッ……黒先輩。久し振りに人の優しさに触れて感動している俺のシャツの裾を、後ろから誰かが躊躇いがちに引っ張ってくる。まあ、この場でこんなことをしてくるやつは一人しかいない。
「……なんだよ、猪上?」
なんでコイツは一々やってくることが『全俺に聞いてみた~女子の魅力的仕種ランキング~(俺調べ)』の上位に食い込むようなことをしてくるの? 何? 俺のこと好きなの? ……それは困るっていうか普通に嫌だ。
「僕に対しては、そういう気遣いっていうか、歳上に対する敬意みたいなのはないの?」
そう言って少し不満そうにする猪上。成る程、ヤキモチですね? 分かりません。
「ああ、お前は特別だからな」
俺のそんな何気無い一言に、猪上が嬉しそうに目を輝かせる。
「そ、それって、僕らが親ゆ……」
「お前は俺の知ってる中でも特別に馬鹿だからな、敬意を払ってもらいたければその馬鹿を治してこい」
「よし上等だ。表でろ」
先程までの表情を一変し、急に殺気だつ猪上。仕方ないじゃん、事実だし。それに、低い身長や童顔のせいであまり歳上には見えないし、言動が妙に子供っぽいのも原因か。後はまあ、一応、曲がりなりにも、友…………知り合いだしな。
殺意の波動に目覚めた猪上を宥めていると、金先輩が帰ってきたのでサークル見学が再開する。といってもみんなでゲームをするだけなんだが、正直、大勢でゲームをする勝手が分からない俺は積極的に見学に回ることにした。……そっか、桃鉄って複数人数で出来るんだよな……。
一応見学なので、部室を見て回るとレトロゲームから最新ゲーム、マイナーからメジャー、果ては洋ゲーまで様々なゲーム機やソフトが並んでいた。所謂コンピューターゲームと呼ばれるTVゲームや携帯機ゲームのほかにもPCゲーム(アダルトや同人含む)や、ボードゲームやカードゲームといったテーブルゲームの類いもマニアックなレベルで揃っている。おっ、クトゥルフTRPGじゃん。キャラメイクに一時期凝ってたな、無駄に凝ったキャラ設定とか考えたり……まあ、人数いないと絶対に出来ないゲームだからプレイしたことないけど……。あ、人狼だ。コイツもメジャーになっちゃったよなぁ、マイナーだからよかった所があるのに……中学の頃にクラス全員でやったときは凄かったな、あの「誰が人狼か分からないから取り合えず誰か殺しとけ」って風潮、真っ先に俺が狙われるんだもんなあ……。ふむ、ジェンガか。これも一人でどんだけ高く積めるかとかやったなあ……。あれ? 何でだろう……涙がとまらないなぁ……。
俺が涙ちょちょぎらせながらお邪魔者やらパンデミックの箱を手に取っていると、何やら歓声が聞こえてきた。どうやら、黒先輩が目的地に一番乗りしたらしい。……いや、待て待て、何で脱ぐんすか黒先輩! そういうのって敗者が脱ぐもんじゃないんっすか!? 何で勝者が率先して脱いでんの!? 何? 勝者には服を脱ぐ権利が与えられるの!?
驚愕の表情を浮かべる俺に気付いた猪上が、イケメン細マッチョ……めんどいな、ハンサムでいいや、顎尖ってないけど。そのハンサムにコントローラーを押し付けて俺の方に向かって来る。
「どうしたの航?」
「いや、このサークルにまともな人間はいないんだなと思ってな」
「航含めて?」
「猪上筆頭に」
俺と猪上がほぼ同時に臨戦体制に入る。俺の手にはプラスチック製のトランプが、猪上の手には幼児が使うようなスポンジ製のバットだ。俺は的確に距離を取りながらトランプでの遠距離攻撃を謀るが、猪上のバット捌きに防がれる。しかし、俺の距離を保ちながらの戦術に猪上も攻めあぐねているようだ。ただ、残弾数が限られている俺の方が長い目で見ると不利であることは明白だ。ならば、
「止めようぜ、不毛だ」
「そうだね」
急に白けた声で終戦を申し入れる俺と、すんなり受け入れる猪上。床に散らばったトランプをかき集めて整え、元の通りケースにしまうと、近くの椅子を引っ張って来て座る。
「まともな人間がいないねえ……別に普通だと思うけどなあ」
「いやいや、お前はこのサークルに毒され過ぎなんだっつうの」
これが普通だったら世界中のビーチがヌーディストビーチになっちまうよ。……案外悪くはないかもと思ってしまったのは秘密な。てか、男としては正常な思考だろ。
くだらない思考をしながら、猪上に疑問をぶつけるために口を開いてみる。正直、聞くのが恐いとこがあるのだが、先に聞いておけば心構えが出来る分、いざというときに狼狽えないでいられるはずだ。余談だが、「聞く」を「訊く」とか書いちゃうのは結構好きです。(中二並感)
「なあ、まだ来てない連中ってのは、どんな奴らなんだ?」
「え? 普通だよ」
「お前の、というかこのサークルの普通はあてにならないんだよ……」
変な頭痛がしてきた俺は、思わず頭を押さえる。……体調不良を理由に帰ろうかしらん。そんな俺を見ながら、少し考えるような仕種をしてから猪上が口を開く。
「えーっと……男子は、不良みたいな見た目のガタイがいいバカと、盗撮趣味のムッツリスケベなバカかな」
馬鹿ばっかじゃねえか……てか、後者は大丈夫なのか? 普通に犯罪だと思うんだが……。あと、盗撮とかやっちゃってたら、それはもうムッツリとかいうレベルの話ではないのでは?
「女子は、ことあるごとに僕の関節を外してくる
よし、流石に無視できねえ。
「関節を外してくるってなんだよ! 並の人間じゃなかなか出来ねえぞ!」
「あ、大丈夫大丈夫。慣れると結構簡単にはめられるからさ」
「そういう問題じゃねえ!」
コイツ結構メンタル強いな……俺だったらそんなジェノサイダーがいる部室には二度と近寄らないぞ。
「あと、人が殺せるってのは流石に比喩表現だよな? メシマズ的な」
俺がそういうと猪上が視線を逸らす。それだけでも不安を煽るというのに、猪上は明後日の方を向きながら遠くを見るような目をする。あ、これ、アカン奴や……。
「航はさあ……肉じゃがが鍋を溶かすところを見たことがあるかい?」
「猪上、いい、もう言わなくていいから!」
泣きそうな顔で言うなよ、こっちまで泣きたくなってくるだろ……。てか、肉じゃがで鍋が溶けるって何ぞ? それ、完全に殺る気ですよね? コレが本当のメシテロですねってか? やかましいわ!
「で、自分を男だと思い込んでるってのは?」
「それはそのまま。見た目はスゴく可愛い女の子なんだけどさ、ことあるごとに『わしは男じゃ!』って言うんだよね」
そら訳分からんな。てか、男の娘設定の上にババア口調だと? キャラ詰め込みすぎだよ、早く止めてあげなくちゃ。じゃないと数年後に思い返して死にたくなっちゃうよ? ソースは俺。
「あとは、別の学校から来てる女の子が二人かな。他にも十人近く会員はいるけど、毎回部室に来るのはそれくらいだね」
ほう、所謂インカレって奴ですな。しかし、意外と女子多いな。それだけでリア充の巣窟っぽくて、気にくわないって感想を抱くのは俺だけではないはず。
「一人は最初に言った不良っぽい見た目の奴が好きで、同じサークルに入ってきた娘だね」
何だと? けしからんな、その不良っぽい奴。もげればいいのに……。
「ソイツが留年したら、一緒に留年するし」
それはどうなんだ? 学生の本分は勉学だろうに。好きな人と同じ学年であることはそこまで重要なのか? 俺は恋する乙女ではないので、よく分からんな。
「朝は部屋の鍵を抉じ開けて起こしにいくし」
ほうほう…………ん? 今、何か可笑しなことを言わなかったか?
「後は携帯のGPS機能を
「アウトーッ!」
怖いよ、何その娘!? 普通にストーカーじゃねえか!!
「やっぱ普通じゃないのな……」
「え? でも、本人は好きな人の事を思えば普通だって……」
「ダウトーッ!!」
んなもんが普通だったら世の中にストーカー規制法なんてねえよ……。え、俺正しいよね? もしかして今時女子の中では当たり前だったりしないよね? ……一応、今度妹に聞いとくか。
「あと、もう一人はスゴく厳しい娘だね」
「厳しい?」
パッと頭に浮かんだのは堅物委員長みたいな奴だった。三つ編み眼鏡で「ちょっと、男子~! 真面目にやってよ~!」みたいな。もしくはアレだな、フルメタのマオ姐さんみたいな奴か。「貴様らはウジ虫以下の存在だ! この訓練を無事に潜り抜けたものだけがPeek a Boo会員となるのだ!」みたいな? ……嫌だなそんなサークル。
「ああ、確かにアレは厳しいな」
口を開いたのはいつの間にか近くまで来ていたハンサムである。気付けば黒先輩と金先輩も近くにいた。ちなみに、全員もれなく全裸である。しかも、何か酒臭ぇし……もしかしなくても呑んでるのか? こんな時間から? 部室で? 何だろう。この人達なら特に違和感がないな……。
「そんなに厳しいのか?」
「そりゃあもう……」
物憂げな表情で拳を握るハンサム。どこか中二っぽい仕種も、イケメンがやればなかなか様になる物である。しかし、全裸が全てを台無しにしているが……。すげえな全裸。イケメンすらギャグキャラにできんのかよ……。
「そうだな、アイツは手厳しいな」
ハンサムの言葉に同意した黒先輩は、渋い顔をしながら顎に手をやっていた。これまた全裸じゃなけりゃそれなりに様になってんだけどなぁ……。
ふと、回りを見ると、猪上や金先輩も似たり寄ったりの表情を浮かべていた。
「それで、具体的には?」
「俺達が呑んでいるとだな……」
「……はい」
「――服を着ろと言ってくるんだ」
「それが正常な反応ですよ」
そんなこの世の終わりみたいな表情とポーズで嘆かんでくださいよ……。てか、なんなのこの人達? 服を着たら死んじゃう病気なの?
「何を言っているんだ! そんなの紐を付けないでバンジーをしろと言っているようなものじゃないか!!」
そういう病気だった!? しかも結構な重病患者だ!!
しかし、ソイツはかなり貴重な人員なんじゃないか? このサークルの人間にしては、かなり常識的な思考の持ち主のようだ。恐らくこの後に来るだろうし、その娘にツッコミを丸投げすれば、あとはゆっくり出来るはず……勝ったなガハハ!
「おい、猪上。ソイツはどんな感じの見た目なんだ?」
取り合えず、見た目だけでも確認しておくか。ソイツが来たらゲームクリアだし。
「え~、なになに? もしかして、気になっちゃった? 航もついに恋に目覚める季節?」
「うるせえ馬鹿、早くしろ殺すぞ」
「ツッコミが辛辣過ぎない!?」
だって本当にウザいんだもん。疑問符付けすぎだし。そもそも、恋に目覚めるとか人が恋愛経験皆無だったみたいに言いやがって。舐めんなよ、俺ほど恋愛経験豊富な奴はいないっての。100戦101敗はしてるぞ。……惨敗じゃねえか。え? 戦数と敗数があってないって? いや、まあ、戦わずして負けたって言うか……コクってないのにフラれたのが一回あるだけだ。あれはビックリしたね、呼び出されて校舎裏に行ったら、初対面の人間にいきなり「お前とは付き合えない」とか言われたからね。「あ……はい……」としか言えなかったもん。しかも、次の日学校行ったら、俺が付きまとった上に告白してフラれたみたいな噂が流れてたし……。ちなみに、別にとある二次創作作家の実話とかではない。ないったらない。
「見た目ねえ……地味目だけど、普通に可愛いよ」
いや、正直可愛いかどうかはどうでも良いんだよ、他の奴と見分けがつけばいいから。何か特徴みたいなものはないのかよ。あと、普通って使うな、一気に信用なくなる。
「あ、写真持ってるぞ、俺」
「マジか、ちょっと見せてくれ」
ナイスだハンサム! よくやった。俺はハンサムが差し出してきたスマホを受け取り、画面を見る。そこには、焼きそば片手にはにかむ女の子が写っていた。金髪のツインテールに、ファンデーションを厚塗りしすぎて真っ白になった顔、アイシャドウを重ね塗りして真っ黒になった目の周り、マスカラの付けすぎでバサバサの睫毛、ルージュで真っ赤に染まった上に、グロスの塗りすぎでテカテカになった唇、最後にチークの塗りすぎでピンクに染まった頬。つまりはとんでもなくケバい奴が写っていたのだ。
「アウトォーッ!」
スマホを床に叩き付けたくなる衝動を、なんとか抑えて叫ぶ。やっぱりコイツらの
「どうしたの航? ……うわっ」
心配そうに俺に近付き画面を覗き込んだ猪上も引いている。……お前も引いちゃうのかよ。
「これケバ子モードの奴じゃん。これは文化祭でテンション上がっちゃってる奴だから、普段とは違うよ。……確か僕の携帯に普通のが……」
そういって自分の携帯をいじり始める猪上。お前、まだガラケーなのかよ……ていうか、お前の携帯止まってるから携帯してる意味ないじゃん……。
「あ、あった」
猪上が見せてきた画面には、黒髪で目立たない感じはするが、確かに美少女と言えるレベルの女の子が、さっきの写真とほぼ同じ構図で写っていた。
「ね、普通に可愛いでしょ?」
まあ、確かに可愛いよ。及第点どころか予想以上でビックリだよ。でもな?
「文化祭でテンション上がっちゃってるだけで、ハー○クインに変身する奴は普通じゃねえよ!!」
プリティーでキュアッキュアな五人組でも此処までメタモルフォーゼしないぞ! てか、つい引き合いに出しちまったけど、最近じゃあハーレク○ンだって此処までケバくねえよ!! 取り合えず、ファンデは自分の肌の色と合ったものを選びなさい、あとグロスはリップやルージュを塗る前に塗りなさい、それと無駄な重ね塗りや厚塗りはやめましょう。ベースメイク前のスキンケアも大切に。それだけでだいぶましになるはずだ。……何を言っているんだ俺は?
「文化祭だけじゃないよ! 合宿とか合コンの時もこうだったよ!」
「なお悪いわ!」
「合コンの時に至っては連れてきた奴らもこうだったぞ!」
「マジか!?」
いや、恐いよ。なんだよ、○ーレクインの集団って。嫌なスーサイド・スクワッドだな……コウモリ男さんでも関わりたがらないレベル。ていうか、お前らのそれ、何のフォローにもなってないからね? 警戒心増しただけだからね? しかし、マジでまともな人間がいないのな……。
完全に諦めムードな俺と、変なテンションになってしまっているハンサムと猪上。そんな俺たちに先輩二人が声を掛けてくる。
「まだ揃ってないけど、先に始めちまうか」
「え? 始めるって、何をすか?」
と口にしてから後悔した。嫌な予感が寒気になって背筋を駆け上がっていく。先程も言った通り、俺の嫌な予感は良く当たる。HPがヤバイときの闘技場での山賊の攻撃くらい当たる。あれ、何で当たるんだろうな? 9%が当たった上に3%のクリティカルが発生とかマジでイミワカンナイ! ……と、現実逃避したくなるレベルで嫌な予感がする。
そっと横目で確認すると、金先輩が先程買い出しに行ってきた袋から中身を取り出していた。……出てくるわ出てくるわ。酒、つまみ、酒、酒、つまみ、酒、酒、酒、酒、つまみ、酒、つまみ、つまみ、酒、酒、酒。
「「「「宴会じゃああぁぁっ」」」」
……ダレカタスケテー!