俺の心が叫びたがっている間にも、着々と準備が進められ、あっという間に簡易的な宴会場が出来上がった。……あんたら部室を何だと思ってんだよ。
「さて、亘。お前は何を飲む?」
差し出されたグラスを受け取り周囲を見渡してみる。いやいや、何をって、辺り一面アルコールしかないじゃないっすか……。どうしようかな、正直なところ酒って飲む機会があまりないから得意じゃないんだよなあ。
「……じゃあ、ウーロン茶で」
「おう、ウーロン茶だな」
ダメ元で言ってみたのだがすんなり注文が通る。なんだよ、あんのかよウーロン茶。アルコールしかないと見せ掛けて、しっかり用意してんのな。というか、よくよく考えてみればウーロン茶なんて割り物の定番を用意していない訳がないよな。しかし、さっきのやりとり、何となくHEROのバーのシーンを思い出すな。あんの? あるよっ、てやつ。
少し安堵しつつグラスを渡すと、黒先輩がウォッカとウィスキーのビンを持ってくる。そして、俺のグラスにウォッカ八割ウィスキー二割くらいの割合で入れる。
「ほらよ、ウーロン茶だ」
「これの何処にウーロン茶の要素があるんですか!?」
烏も龍も茶も不在だよ! チャイナ要素ゼロ! ロシアとスコットランドの要素しか見当たらない!
「ちゃんとウーロン茶の色をしてるだろう?」
「色以外の要素は!?」
「ほ~ら、火も着くんだぞ」
シュボッと百円ライターの火が移り、理科の実験を思い出す青白い炎がウーロン茶(仮)に灯る。
「可燃性のウーロン茶とか聞いたことないわ!」
全力で叫ぶ俺の横にグラスを持った猪上が並ぶ。そして、俺の方を見るとニヤリと意味ありげに笑う。なんだよ、俺がいじられてるのがそんなに面白いかよ、性格悪いなお前。
「ちゃんとサークル見学者を連れてきたから、約束通り僕は
…………何を言っているんだコイツは? 本日三度目の嫌な予感が身体中を駆け巡る。
猪上の問い掛けに応えるのはウーロン茶(可燃性)を持った黒先輩だ。
「ああ、サークル見学者を連れてきた者は、今回の飲み会で特別扱いをする。約束した通りだな」
「俺を売りやがったな猪上……!」
「悪いね航。僕も毎回こんなふざけた催しに付き合っていたら、身体がもたないんだよ」
此処に来る前に猪上が言っていたことを思い出す。『航が一番頼みやすいし、何より気が楽だからさ』。つまりこの言葉は、『航が一番(生け贄を)頼みやすいし、何より(騙したところで)気が楽だからさ』という意味だったのだろう。……コノヤロウ……! 普段は馬鹿の癖に、たいした策士っぷりじゃねえかよ……!
俺が心中に殺意の炎を灯していると、猪上が黒先輩に呼ばれる。嬉々として先輩に駆け寄る猪上の手に何やら黄色い半透明容器が手渡される。何か俺、あれに見覚えあるぞ。
「……あの、これは?」
困惑する猪上が持つ、半透明の黄色い容器。全体的に丸っこくて、それでいて頑丈そうな印象を受ける。てか、あれってアレじゃね?
「ん? ケロ○ンだが?」
「洗面器じゃん!」
そう、銭湯などでお馴染み、ケ○リン桶である。唖然している井上の両サイドから、ハンサムと金先輩がスピリタスをドバドバとケロリ○に流し込む。 ちなみにスピリタスとはポーランド原産のウォッカの一種で、そのアルコール度数はなんと95%~96%。驚くなかれ、実はこれ一般的な消毒用アルコールより度数が高いのだ。ちなみに、北米の一部地域では販売禁止だったりする危険物。だってWikiとかで調べると『消防法上の扱い』とか出てくるんだぜ。まじヤバくね?
そんな
「ちょっと待って! 僕を特別扱いしてくれるって話は何処にいったのさ!?」
我に返って抗議の声を上げる猪上に対して、先輩二人が心底不思議そうに首を傾げる。お前ら首を傾げ過ぎだよ。そんなに傾けまくってたら、世界だって傾いちゃうんじゃないか? ゾンビ溢れる世界に全裸の男が二人とか
「何を言っているんだ。十分特別扱いしているじゃないか」
金先輩の一言に猪上がハッとする。そして、もともと青かった顔から血の気がさらに引いていく。
――そう、先輩方も井上も
「僕だけが
うをぉいコルァッ!? 猪上てめえぇっ! 何言ってやがる!?
抗議(物理)しようと猪上のもとに向かう俺の両肩を、ハンサムと黒先輩が掴んでくる。
「うむ、一理あるな」
「ないないない! 全然一理ないっすよ!」
全力で否定してみるが聞き入れて貰えず、ケロ○ン弐号機の中が
持たされた
絶望感で目を腐らせていると――もともとだろとかいうツッコミは受け付けない―― いつの間にか横に立っていた猪上が、転生して戦場でライフルをブッ放す幼女よりも悪辣な笑みを浮かべていた。
「死なば諸共ってやつさ、航」
「お前、いつか絶対死なす……」
お互い瞳の奥にギラついた鈍い光を灯しながら悪態を吐く。今なら怒りで伝説の超戦士になれるレベル。
そんな俺達を見ながら、先輩二人とハンサムがさも愉快そうに笑っていた。おそらくは普通に宴会を楽しんでいる笑顔なのだろうが、疑心暗鬼と怒りに支配された俺の瞳には、俺達を見下し、嘲笑しているように写る。
この、裸族共が……これだからリア充ってのは嫌なんだよ。人を貶め、嘲り、自分達の愉悦こそが正義だと宣う。ならば、俺はそれに抗ってやる。けしてコイツらの
「っしゃあぁっ! なんぼのもんじゃこらぁ!」
「おー、亘お前、残り一枚でなかなか粘るな」
「余裕ですよ! むしろ、早く負けて俺のご立派様を披露したいくらいですわ!」
「ハハッ、何を言っているんだ。どうせつまようじだろう?」
「いやいやいや、待って! おかしくないかな!?」
「ぬわぁにがおかしいんだよ、猪上~」
「いや、もうこの際だから、まだ30分も経ってないのに染まるの早くない? とか、そういうツッコミは置いとくよ」
「お酒には勝てなかったよ……。って奴だな」
「うるさいな! 野球拳で航が負けたら脱いでいくのに、僕は服を着ていくっておかしくない!?」
「おかしくない! ここは総合ゲームサークルなんだろ? だったら、新しいゲームを考えるのも活動の内だ」
「そうなのか?」
「そうなんじゃないか?」
「そして、これは、俺が考えた新ルールの野球拳! 負けた人間は一枚ずつ服を着ていく『着る野球拳』だ! 酒が入ったら脱がざるをえないお前らに、効果的にダメージを与える罰ゲームなのさ!」
「なんて恐ろしいルールなんだ……!」
「亘、末恐ろしい奴だ……!」
「いや、1000歩譲って服を着るのは良いよ!」
「1000歩も譲らないと服を着たくないのか」
「堅二もだいぶウチのサークルに染まってきたよな」
「何で着るのがメイド服なのさ!?」
「ふっ、愚問だな……なあ、ハンサム?」
「ああ、愚問だ」
「「そこにメイド服があったからさ!」」
「意味が分からないよ! そこにメイド服があったという事実も! わざわざ声を合わせて名言っぽく言ったことも!」
「そんなことより猪上、お互いにライフは残り1。ラストゲームといこうじゃないか」
「ええ……そんな、かっこよさげに言われても……」
「いくぞ! アウトッ! セーフッ!」
「あー、もう! どうにでもなれ!」
「「よよいの、よい!!」」
「お、亘が勝ったな」
「よっしゃあぁっ!」
「うわあぁぁぁっ……」
「最後はウィッグか……ほらよ、亘」
「サンキュー、ハンサム。さて、このヘッドドレス付きのウィッグをつけてもらおうか」
「くっそぉ……………………ほら、つけたよ。これでいい?」
「「「「……………………」」」」
「……いや、黙ってないで何か言ってくれない? もしくは笑うとかさ。無言が一番心にくるんだけど……」
「…………集合。猪上以外な」
「え? 何で僕以外?」
(……ちょっと、シャレになってないんすけど)
(違和感が仕事してないな)
(お兄ちゃんと呼んで欲しいですね)
(普通に可愛いってどういうことだよ……)
「「「「……………………」」」」チラッ
「…………?」クビカシゲ
「よし、分かった。猪上、結婚しよう」
「航!? どうしちゃったの!?」
「おお、アイツいったぞ」
「猛者だな」
「……ご主人様、いや変化球でにぃにってのも……ブツブツ」
「どうもしていない、俺は本気だ」
「なお悪いよ!?」
「だって、しょうがねえじゃねえか! 大学入ってからまともに関わりがあるのなんてお前と西緒しかいないんだぜ!? じゃあもう、お前に決めるしかないじゃん!」
「しかなくはないんじゃないかな!? 早まらないで! まだ可能性は捨てないで!」
「なあ……いいだろ?」
「よくないよくない! いい声で言わないで! ていうか、三人も黙って見てないで助けてよ! ちょっ、航! 何処に手入れてんのさ!? や、やめ……イヤァァッ!」
――ガチャッ
小さな音だったが、妙に耳に響いた。その瞬間、靄がかっていた意識がクリアになっていく。音のした方に目をやると、6人の女子が突っ立っていた。
順番に見ていくと、一人目がピンクがかった長髪の女の子だ。髪はなんというか……なんていうんだっけ? あ、そうだ、ゆるふわパーマだ。高校のときにクラスの女子が言ってたのを寝たふりしながら聞いたわ。まあ、髪型と同じく、全体的な雰囲気もゆるふわしてた。あと、一部分の主張がスゴいです。
二人目はザ・ツンデレといった見た目の奴だ。茶色い髪をポニーテールにして、目は気の強さを現すようなつり目だ。ちなみに一人目と違って控えめだった。なにがとは言わない。ていうか、どっかで見たことあるような気がするんだが……。あ、そうだ、この間課題のこと教えてくれた奴じゃん。島……島……なんだっけ? まあ、いいや。
三人目と四人目は同じ見た目をしていた。いや、マジで。まだ意識が本調子じゃないのかと思ったが、どうやら双子かなにかのようだ。片方がジーンズで、もう片方がスカートだから分かった。活発そうなショートカットにつり目ぎみの瞳。二人とも文句なしの美少女である。
五人目はお嬢様然とした黒髪ロングの美女だった。こちらも先の三人どうよう慎ましいが、スレンダーでよろしいと思います。
六人目は……あ、コイツはさっき写真で見たな。ケバ子だケバ子。いや、ケバ子メイクはしてないけど。
そして、六人全員に共通するのが、全員が全員、顔を真っ赤にして唖然とした表情を浮かべていた。
よし、少し落ち着いてきたところで、今の自分の状態を確認してみる。服装はパンツのみ。目の前にはメイド服姿で赤面する猪上。目は涙で潤み、妙に色っぽい。俺はそんな猪上を左手で組伏せ、右手をスカートの中に突っ込んでいた。そして、その周りには全裸の野郎共。……あ、コイツら目逸らしやがった。
なんというか、うん。完全に最中ですね、はい。
おそるおそる、もう一度女子たちの方を見ると、双子のスカートの方がスッとスマホを取り出した。通報かな? そんなことを考えた瞬間、スゴい勢いでシャッター音が鳴りはじめた。え、なに!? 連写モード!?
「ち、違うんだ! これは誤解なんだよ! な、猪上?」
「そ、そうだよ!! 勘違いしないでよ、みんな!」
そこから小一時間ほど、猪上と俺とで釈明を行ったのだが、どれだけ信じてもらったかは分からない。……ともあれ、俺、亘航は、この歳になって黒歴史の1ページを増やしてしまったのでる。
翌日、二日酔いで痛む頭と、全身の気だるさに鞭を打ちながら講義室に向かう俺は、誰に言うわけでもなく呟くのだった。
「……やはり、
完
何故に今更分割したかと言いますと、読み返した時に「長っ、読みにくっ!」となったのと、こうしておけば別の番外編が書きたくなった時の投稿先として使えるかなと言う打算です。
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