この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い 作:ネオアームストロング少尉
グレンは頭を掻きながら周囲を見渡す。結界の外に締め出された生徒達、講師達、衛士達が、何が起きているのかまるで理解できず、困惑にどよめいている。
事件の全てが収束したがその内容を知るのは、ほんの一握りの関係者達だけだ。
「さぁて、どう説明すっかな......てか、収拾つくの? これ」
事後処理の方法に、頭を悩ますグレンだったが、一つ気がかりになることがあった。未だに混乱している自分の受け持つ生徒達を見る。
「......いねぇ、フォルティスはまだ戻ってないのか?」
どうやら昼から姿が見えなくなったらしく、後半の競技にも出てこなかった。それが、ただのサボりなら閉会式には戻ってきていてもいいはずだ。
これが、まだ普通の生徒なら不安になるような事はないが、フォルティスは普通の生徒とは違う。少なからずあの歳で経験しようの無いことを経験している。
それを知っているからだろうか。先ほどから胸騒ぎがしてたまらない。
「おい、ルミア。フォルティスを見なかったか?」
「え? ......そういえば、あれから見てないと思います」
そのルミアの言葉にますます嫌な考えが浮かんでくる。
いや、そんな、バカな。こっちが本命のはずだ。だが、これがもしアイツを──
その時、騒がしくなっていた会場の注意を全て持っていくことが起きた。まるで、大きな爆弾が爆発したような音がしたと思ったら、今度は激しく立ち上る火柱。
例え、貴族の屋敷を燃やしてもあれほどの火の手は上がらない。
しかし、これで予想は的中したと言ってもいいだろう。
「──セリカッ! 後は頼んだ!!」
一度、落ち着いた身体に鞭を打って、その場から弾かれるように走り出す。そのグレンの行動が、まだ事件は終わっていない事を証明した。
~Ω~
目の前で起きる惨状は、さながら大きな窯の中のようだ。しかし、どうやら薪の代わりに燃やしたゾンビ達は、もう骨すら残っているのか分からない。
「......どこだ?」
周りを見渡す。エレノアが姿を現した瞬間、すぐさま燃やせるように指に力を入れる。その姿は早撃ちのガンマンを彷彿させた。
しかし、まだガンマンの方がマシだろう。銃などより強力で弾丸より速い。今のフォルティスなら着火させるまでに一秒もかからない。
が、姿を見せる気がない。いや、これは......。
「──フォルティスッ!!」
聞き覚えのある声が後ろからした。だが、今まさに動けば撃つ、といった状況にあったフォルティスは頭とは裏腹に身体が動いてしまう。
「おい、大丈夫──オィイイイッ!? 何ってもん向けてんだッ!?」
グレンにとってその手は撃鉄の起こされた銃なんかより恐ろしいものに見えた。
何とか踏みとどまったフォルティスと、奇妙な体勢のまま固まったグレン。そのままちょっとした間の後、ぐらつき尻餅をつくフォルティス。
それでやっと動き出したグレンが駆け寄る。
「はぁ、遅いですよグレン先生」
「こっちだって色々大変だったんだよ......それより何があった」
グレンはフォルティスの身体に異常が無いか確かめながら、これまで自分達の裏側で起きていた事の全容を知った。
「にわかには信じられないが、この惨状を見れば信じるしかねぇか」
未だに熱が籠っている大きな窯の中は焦土に変わっている。そこだけではない。周りの至るところに魔術の爪痕が残っていた。
しかし、これほど濃い魔力残留を見るに、宮廷魔導師団時代の戦闘とそう大差が無い、いや、寧ろ大規模な作戦以来見たことがない。
そんな魔術戦を繰り広げたというのに、フォルティスは義足を駄目にしたものの身体の方は、かすり傷程度で済んでいる。
それと同時に、話を聞く限りいくら相手が動く死体とはいえ、人に躊躇なく魔術を行使する......人を殺すことに何も思っていないのか、と考えてしまう。
こんな学生の身でそんなことあり得ない。育った環境が悪いのかと思えば、システィーナを見る以上、それは考えられない。
どうしてそうなってしまったのだろうか?
それを聞くのは野暮だろうか。たが、これだけは言わなければいけない。一人の人として、上に立つものとして、何より自分のようになってほしくないために。
「フォルティス、よく聞け。魔術は人殺しのクソッタレだと言うことは変わらない。だけどな、それは使い方によっては人を助ける魔術にもなり得る。だからな──」
ガサガサッ、と藪を掻き分ける音が聞こえる。もしや敵が戻ってきたのではないかと、警戒する二人の前に現れたのはローブを纏った二人組。
「アルベルト!? それにリィエルも?」
何処か、ウズウズしているリィエルと険しい表情を微塵も揺るがさず押し黙るアルベルト。しかし、その視線の先はグレンではなくフォルティスに注がれていた。
「フォルティス・フィーベルだな」
~Ω~
結論から言えば、騒ぎは大事なく収まった。それは、アリシアが身に降りかかった事件を学院生徒達の前で演説し、勇敢な魔術講師と学院生徒の活躍で事なきを得たとして説明したからだ。
国難に関わることなどはぼかして、華々しい部分はあえて美化して強調する、その巧みな話術は流石と言えるだろう。
最後に一騒動あったものの、魔術競技祭はここに無事終了する運びになった。
「ったく、やぁっと終わった。俺が
とぼとぼと、グレンはすっかり夜の帳に包まれたフェジテの町を歩いていた。あの騒ぎの後、学院運営陣との緊急会議やら、事件解決の功労者としての勲章授与式の日程調整やら、事情聴取やらですっかりと時間が経ってしまった。
「俺たちは被害者だっつーの。しかも後日召喚? 面倒臭ぇなぁ、もう」
不満も隠そうともせず、ぶつぶつ言うグレンの隣でルミアが苦笑いした。
「仕方ないですよ。私達が事件の中心人物であることには変わらないですもの」
「まぁ、そりゃそうなんだがな......」
「でも、なんか丸く収まりそうでよかったじゃないですか」
「.....そうだな、なんだかんだで被害はなかったわけだしな」
結局、今回の不手際をした王室親衛隊に大きな咎めはなさそうだ。総隊長のゼーロスはやはり建前上、厳しい懲戒処分が下されざるえないが、全ては女王陛下を守るために行ったこと、酌量の余地は充分にあるとのことだった。
とはいえ、万事解決ってわけじゃない。
重要なのは、黒幕が女王陛下の侍女長兼秘書官たるエレノアだったことだ。女王陛下付きの侍女長......しかも四位下の官位を持つレベルまで天の知恵研究会が入り込んでいたという事実は、今後、帝国政府に大きな波乱を呼びそうである。
「それにしてもフォルティス義兄さんも運が無いですよね、事件に巻き込まれたなんて」
そのルミアの表情から罪悪感を感じられる。自分が巻き込んでしまった、と思っているのだろう。しかし、それは違う。どちらが優先だったかは分からないが、奴らの狙いの中にフォルティスは元々入っていた。
それもある上にフォルティスの錬金術の特異性もあって周りには詳しい事情は説明されていない。クラスの皆には昼の出来事に巻き込まれたことになっている。
「......まぁ、そうだな」
「後から合流するっていってたけど、間に合うのかな?」
アルベルトなら悪くならないようにするとは思うが、まだ長くなりそうだ。
「ああ、あの店でうちのクラスの連中は打ち上げやってるんだっけ?」
「ええ、システィーナがそう言ってましたよ?」
ルミアが指差す先に店がある。魔術学院の生徒、御用達の飲食店だ。生徒達の中には貴族階級や富裕層出身の者も多いが、そんな彼らでもそこそこ満足できるそれなりの風格を備えた店のようだ。
「流石にもうお開きになって、皆、家に帰ったんじゃないのか?」
「まぁ、一応、覗いてみましょうよ、先生」
「そうだな」
グレンとルミアは連れだって、店の中へと入っていった。
さて、これで『魔術競技編』は完結とします。色々と気になる部分や謎が残る部分等は次のリィエル編で紐解いていけたらいいな、と思っています。
結構、原作部分を削ってしまったので原作を見てない人には分かりにくい感じになっていて申し訳ありません。この作品自体あまり長く書くつもりが無いので、どうにか今年までに終わらせるつもりです。ですので、これからまた削ったりしてしまうかも知れませんのでご了承下さい。
それと、この後の店の中の話は番外編なんかで書きたいと思っています。勿論、フォルティスもいれていくつもりです。
※少し次話が遅れてます。
9/8 私情が忙しく更新が出来てません。月末辺りに出せたらいいなと思います。