この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い   作:ネオアームストロング少尉

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三話

 生徒達がすっかりと帰宅した放課後。グレンは一人学院の屋上で、閑散とした風景を見ていた。ふと、ここに非常勤講師としてやって来てからの日々を思い出す。

 何故か妙になついてくる、子犬みたいなルミア。逆に、妙につっかかってくる、生意気な子猫みたいなシスティーナ。

 

 未だに若く、そして幼い彼女たちは何をやっているのか、どう成長していくのか。少なくとも手助けしてやりたいと思っている自分がいる。

 相変わらず、魔術は嫌いだ。こんなもの早くこの世から無くなるべきだ。この考えもこれから変わらないだろう。だが、こんなにも穏やかな日々なら――

 

「悪くない……か」

 

 気がつかないうちにグレンは笑みを浮かべていた。

 

「おー、おー、夕日に向かって黄昏れちゃってまぁ、青春しているね」

 

「……いつからいたんだよ? セリカ」

 

 そこには、淑女然としたすまし顔のセリカがたたずんでいた。

 

「さ、いつからだろうな? 先生からデキの悪い生徒に問題だ。当ててみな」

 

「アホか。魔力の波動もなければ、世界法則の変動もなかった。だったら、忍び足で来たに決まってる」

 

「おお、正解。あはは、こんな馬鹿馬鹿しいオチが皆、意外とわかんないんだな。特に世の中の神秘は全部魔術で説明できると信じきっちゃってるヤツに限ってね」

 

 グレンの即答に、セリカは満足そうに微笑み、真面目な表情をする。

 

「グレン、お前のクラスに『フォルティス=フィーベル』と言う生徒はいるか?」

 

 その名前で思い出すのは一人の生徒しかいない。あの生意気な子猫の兄で、明らかに他の生徒とは違う雰囲気を持っている生徒。成績、実技、共に優秀で、特に錬金術に関しては天才と見ていいだろう。だが、それだけだ。他に見張る物はない。

 

「ああ、確かにいるが……ソイツがどうした?」

 

「……いやなに、中々優秀なヤツだと思ってな」

 

「お、おお、セリカが人を褒めるとか……明日、槍でも降ってくるんじゃないか?」

 

「お前の血を降らせてやろうか?」

 

 握り拳を作るセリカにグレンは平謝りする。だが、グレン自体、本当に珍しいと思っていた。しかし、ただ優秀なだけで褒めるだろうか? それなら、白猫の事だって褒めてもおかしくない。

 と、なれば他にも何かあるのかもしれない。

 

 そう考えている間も、セリカの話は続いていく。学会のこと、明日授業があること。そして何より、前任のヒューイが失踪したこと。

 

「ま、近頃はこの近辺も何かと物騒だ。お前に心配はいらんと思うが、まあ私の留守中、気をつけてくれ」

 

「……ああ」

 

 グレンはなんとなく心に棘が刺さったような不安を抱いた。

 

「あ、やっぱりここにいた! 先生!」

 

 屋上の出入り口の扉が開かれ、もうすっかり見慣れてしまった、いつもの二人組が姿を見せた。片や笑顔で、片や仏頂面で。

 

「あれ、アルフォネア教授? ひょっとして、私達お邪魔しましたか?」

 

「いいや。私はもう上がるところだ。どうした? グレンに用か?」

 

 笑顔のルミアがグレンの前に歩み寄って、それにシスティーナが渋々続く。

 

「今日の授業で復習していたんですけど、どうしても先生に聞きたいことかあるって……システィが」

 

「ちょ、ちょっと!? それは言わないって約束でしょ!? 裏切り者ッ!」

 

 やんややんやと騒ぎ立てる三人を、セリカはしばらくの間微笑ましく見守って、安堵したようにそっと屋上を後にした。

 

 

 

 

 

 

 グレンに頭を下げて教えを請うという屈辱の一時をなんとか耐えきったシスティーナは、その苛立ちと不機嫌さを隠そうともせず、ルミアを伴って帰路についた。

 そんなシスティーナの心境とは裏腹に、フェジテの町はいつも通り平和そのものだ。

 

 そんな帰り道。何故か昔の話をルミアが掘り返し、少々気恥ずかしい事や、悲しい事、楽しい事を思いだした。黄昏の夕日が燃えるフェジテの町並みを歩く二人の目に、見知った顔が映った。

 

「システィ……あれってフォル義兄さん?」

 

「え?」

 

 二人の視界に映ったのは、制服を少し砂ぼこりで汚しただらしない格好で歩いているフォルティスだった。その格好を注意しようとするシスティーナが、ルミアに止められる。

 

「ルミア?」

 

「私……フォル義兄さんのこと、余り知らないなって思って」

 

「……別に、アイツの事なんて知らなくていい」

 

「そんなの嫌だよ。私たちは家族なんでしょう?」

 

 うっ、と痛いところを突かれたとシスティーナは唸り、渋々といった様子で、ルミアの手を引きフォルティスの後を着けていく。システィーナはフォルティスが何処に行くのか大体予想がついていた。

 

「アイツが義足なのはもう言わなくてもいいよね?」

 

「うん。でも、最初会ったときは全然分からなかったよ。義足とは思えないぐらい普通に歩いてたから」

 

 普通は何かしら歩き方に違和感を感じたり、もしくは、無意識に庇うような歩き方をしたりするが、フォルティスの場合は、周りの人と遜色ない歩き方だった。

 そして、初めて義足を見たとき……見た……と、き。

 

「……ルミア、顔赤いけど大丈夫?」

 

 フシュー、と湯気があがってもおかしくないぐらい、ルミアは顔を真っ赤にしていた。ルミアは頭の中の煩悩を取り払うために、頭を激しく左右に振る。

 

「そ、それで?」

 

「? まあ、付いていけば分かるし……って、あんな格好で入るつもりっ!?」

 

 見れば砂ぼこりすら払おうともせずに、店の中に入ろうとしているフォルティスがいた。飛び出して行ったシスティーナがギリギリの所で止めて、口うるさくいってる。

 

「ホント、兄さ……アンタは礼儀ってのを知らないの? 少しはこっちの身にもなりなさい」

 

「悪かったって」

 

 態度や言葉では嫌いだと言っているが、よく会話の最中でフォルティスの話題が出てくるし、なんやかんやで気にかけているような行動をしている。

 数日前も、ルミアとフォルティスが編み物をしている時にお茶を出してくれた。ルミアのついでだと謂ってはいたが。

 

「あれ、こんな手袋してたっけ?」

 

 システィーナがフォルティスの右手を指差しながら言った。制服には汚れが付いていたのに、その手袋だけは雪のような白さを保っていた。少し変だと思うところがあるなら、ば甲の側に赤い法陣のような物が編み込まれている事ぐらいだろう。

 

「あ、出来たんですね」

 

「ん、まあな」

 

「出来たって……これ、アンタが作ったの?」

 

「おうとも」

 

 確かに、編み物をしていたの知っていたが、どうみても既製品のようで、手作りとは思えない。優しい肌触りに、重さを感じさせない程の軽さ。だが、物を持っても滑るような事も無い。もし編み物をしているところを見ていなかったら信じていないだろう。

 

「でも、ダサい」

 

「ダ、ダサいってお前……」

 

「何この変な法陣。訳のわからないデザインね」

 

「ま、まぁ、お前には分からないだろうな。この良さが」

 

「ルミア、分かる?」

 

「正直、私もあんまり……」

 

「……そうか」

 

 落ち込むフォルティス。価値観が合わないのは仕方がないだろう。男と女。それに、フォルティス自身、記憶は殆ど無いがこの世界とは違う物を見てきている。この世界の価値観とズレていてもおかしくない。それか、単にフォルティスのセンスが無いだけか。

 

「取り敢えず、さっさと終わらせないとな」

 

 服の汚れを叩き、背にしていた店に振り返る。小さな店で、周り家や大きな店の中にポツンとあるような、何処か孤立した印象を抱いた。看板を見ればそこは──

 

「──人形屋さん?」

 

 首を傾げながらルミアは口にした。二人は何の疑問も無しにドアを押す。カランカラン、と客を知らせる鐘がなる。

 ルミアは周りの棚に並べれている人形に圧倒された。色とりどりなドレスで着飾った人形から、帝国の軍服を着た人形まで。多種多様な人形が見渡す限り並んでいた。

 

「スゴイよね、ここの人形。私も小さい頃に一つ買って貰った事があったなぁ……」

 

 懐かしい記憶を刺激されたシスティーナが、近くにあった人形を触ったりしている。ルミアも一つ近くにあった人形を手に取って見れば、その人形のデキの良さに舌を巻いた。

 衣装は勿論のことだが、何より人形がスゴイ。人に近すぎず、けれども、離れ過ぎず……その絶妙な間を保っていた。どれか一つ欲しい、と心の奥底から思うほど。

 

「おっと、悪いねぇ。手が離せなかったんだ」

 

「いえ、気にしてませんよ」

 

 店の奥から出てきたのは、ボサボサの金髪に眼鏡を掛けた女性だった。軽くフォルティスと話して、私達の方を向く。

 

「おや? もしかしてシスティーナちゃんかい? 大きくなったねぇ」

 

「はい、お久しぶりです」

 

 システィーナは頭を下げる。

 

「して、そっちの子は……?」

 

「あ、はい。私はルミア=ティンジェルです」

 

「そうかい、可愛らしいじゃないか……まあ、好きに見てっておくれ」

 

 そう言うと、彼女は長い髪を後ろで結んで、フォルティスを椅子の上に座るよう促した。フォルティスも素直にそれに従い、椅子に座ると右足のズボンを捲り上げる。

 一瞬、本当の足だと思ってしまうぐらい見事に出来た義足だった。間接部分に隙間が空いていなかったら、分からなかっただろう。

 

「……成る程ね、ゴミが隙間から入り込んでる。これじゃあ、信号が遅くなるのも当たり前だ。少し洗うから外すよ」

 

 フォルティスが返事をする前に、女性は太ももの根元にスパナを当てていた。素人が見ても複雑な繋ぎ目をしている部分を簡単に外していく。そうして数分とかからずに義足を外して奥の部屋まで行ってしまった。それを見届けてシスティーナはここまで着いてきた本題に入った。

 

「……ねぇ、その足の事ルミアにも説明してよ」

 

「ん? ああ、別にいいけど」

 

 返って来た返事は軽々しい物だった。自分の足を無くした事を何とも思っていないような、そんな印象を抱く返事だった。

 

「アッチの義足の中に魔道具が入っててな。俺もそっち系は専門外なんだけど、何でも魔力を流して──」

 

「──いや、そっちじゃない」

 

 確かに足の事ではあるが、誰が義足の原理を説明すると思うだろうか。気になるは気になるが、そっちではない。

 

「……何回も言ったと思うが覚えてない(・・・・・)。自分でもどうしてああなったのか分からないんだ。ほら、大きくなると小さい頃が思い出せない事があるだろう? それと同じだ」

 

 システィーナも呆れていた。いや、元々それしか返って来ないと分かっていたようにも見える。ルミアもそれ以上聞くことも無かった。

 

「行こう、ルミア。本人に聞いてもこうなんだから」

 

「……うん」

 

 自分から聞いておいてあれだが、どうも違和感を感じた。フォルティスは嘘を言っていないだろう。しかし、それと同時にまだ言っていない事もあるような気がしたのだ。

 

 その時、システィーナはふと兄を見た。そして、どうしてあんな顔になるのか、理解出来なかった。

 

 ()()()だった。

 

 何も感じてない、何も思っていない。

 

 その人形ような義足も相まって、まるで人形のようだと思った。

 

 

 そんな事を思ってしまう自分に嫌気がさした。

 

 

 

 




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