この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い   作:ネオアームストロング少尉

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遅れて本当に申し訳ありません。この時期だと色々と大変なんですよね。取り敢えず、短いですが生存報告も兼ねてます。



八話

 焦げ臭さが廊下に空いた穴から風に乗って流れていく。フォルティスの最後の錬金術によってテロリストの一人であるレイクは灰と化した。

 ぐらり、とグレンが崩れ落ちる。

 

「先生ッ!?」

 

 システィーナが駆け寄り地面に倒れ込む前に抱き留めた。

 

「酷い出血......兄さん、どうしよう!?」

 

「取り敢えず、医務室に運ばないとな」

 

 と、言ったもののフォルティス自身も身体が動かず、立っているのがやっとの状態だった。無理に無理を重ねた結果なのか右足の義足も油を何年も差していないブリキのように動かない。

 

「悪い、システィ。もう動けそうにないわ」

 

「ちょ、えぇ!? 二人も運ぶなんて絶対無理!!」

 

 何とか壁に背をつけてそのままズルズルと座り込む。座ってしまった以上もう立つ事は当分キツイだろう。下手に重症のグレンを運ぶことに手を貸して、こけたりしたら目も当てられない。

 

「俺は後でいい。早く先生を運んで応急手当を。まだ、終わってない」

 

 そう、まだルミアが攫われたままだ。多分、もう自分は今日一日役立たずになる。だが、グレン先生なら動いてくれるハズだ。それに、微かに残る記憶が確かならちゃんと助かるだろう。

 

「でも......ううん、分かった。すぐ戻るから!!」

 

 ああ、とても眠たくなってきた。システィーナが何か言ってるのが聞こえる。だけど、少しだけ寝たい。後は頼みましたよ、グレン先生。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──何で、できないッ......!?』

 

 焼けるような痛みが右足から伝わってくる。それで、理解した。もう既に自分の右足は無いのだろう。だが、今はそんなこと気にして居られない。

 這いずって目の前に横たわっている祖父の身体に近づく。

 

 触れば温かいハズだ。

 

 息をしているハズだ。

 

 何時ものようにあの温かい手で撫でてくれるハズだ。

 

 また、『メルガリウスの天空城』の話を聞かせてくれるハズだ。

 

 なのに、どうして──

 

 

 ──こんなにも冷たい?

 

 

『出来るハズなんだ! この世界なら──この術式ならッ!!』 

 

 頬を伝う涙を拭う。

 

 諦めるか、諦められるものか。

 

 例え、真理(絶望)を見せられたとしても。その知識から決して人体錬成が出来ないとも。この世界にはまだ魔術(希望)がある。だからこそ、自分は何もかも代償にする覚悟で錬成をした。

 

『諦めれるかよ、アイツの──システィーナのあんな顔はもう見たくはない......!!』

 

 手を合わせる。それは、まるで神に祈るように。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 アルザーノ帝国魔術学院自爆テロ未遂事件。

 

 一人の非常勤講師の活躍により、最悪な結末の憂き目は逃れたこの事件は、関わった組織のこともあり、社会的不安に対する影響を考慮して内密に処理された。学院に刻まれた数々の破壊の傷跡も、魔術の実験の暴発ということで公式に発表された。

 

 自分の事もまたグレン先生が色々と説明してくれたお陰で特に事情を求められることは無かった。それと、徹底的に情報統制を敷かれ結果として詳しく事情を知るのは一部の講師と教授陣、そして、当事者の生徒達しかいない。

 

 そして、あの事件後。自分とシスティーナとグレン先生は何でも事件解決の功労者として帝国政府の上層部に密かに呼び出され、ルミアの素性を聞かされた。自分としては何となく凄い身分だった、ぐらいの記憶が残っていたのでそう驚きはしなかった。

 一応、事情を知る側として秘密を守るために協力することを要請された。とは、いえ、何が変わる事は無い。異能に少し興味があるが、いずれ分かることだ。

 

 こうして色々とあったが、また平和な日常が戻ってくるだろう。

 

 

「悪いな、待たせたか?」

 

「いえ、別に待ってませんよ」

 

 振り返ればローブを両袖に腕を通さず羽織っただけで、まともに着用していなグレンの姿があった。

 

「あれ、アルフォネア教授?」

 

「あの時以来かな? フォルティス=フィーベル君」

 

 あの時以来とは、自分がちょうど錬金術の試行錯誤をしていた時の事だろう。

 

「フォルティス、悪い。あんな状況とは言えお前に......人殺しをさせちまった」

 

 そう言って、頭を下げるグレン。

 

「その事なら別にいいですよ、直ぐ割り切れましたし」

 

 その言葉の驚きを隠さず表情に出すグレン。別に割り切るとか割り切らないとかの話では無く、そもそも、何も感じなかったのだが、こう言った方が面倒にならずにすんだと思ったからだ。

 もし、何も感じないと言ったらどんな反応をするかは火を見るより明白だろう。

 

「割り切れたって、お前......そうか、でも本当にすまなかった」

 

「大丈夫です。それに、ソレだけではないですよね?」

 

 別に謝るだけならグレン先生だけで良いハズだ。だが、こうしてアルフォネア教授もいると言うことは──

 

「──俺が使った魔術、いえ、『錬金術』の事ですか?」

 

「なんだ、分かってたのかよ。なんつぅーか......お前もアイツみたいに生意気な感じがするな」

 

「兄ですからね」

 

 そんな話をしていた時、横槍が入る。

 

「すまないが私には時間が無い。単刀直入に聞こう......ソレは本当に『錬金術』なのか?」

 

 アルフォネア教授が自分の右手に嵌められている手袋に目を向けながら言った。否、厳密には手袋に刻まれた『錬成陣』を見ながらだ。

 

「説明するより実践した方が早いですね」

 

「なに?」

 

 自分はポケットから先ほどの錬金術の授業で使った触媒の鉱石を取り出した。

 

「今からこれを金に変えます」

 

 自分は手を合わせる。パン、と乾いた音が鳴った。そして、先ほどの鉱石に手を取ると、青い稲妻が走り鉱石が手の掌で分解され再構築されていくのが見える。

 

「はい、どうぞ」

 

 出来上がった鉱石をアルフォネア教授に手渡すと驚いた表情で言った。

 

「金、だな。確かに錬金術だが......錬成陣も触媒もいらないのか? それは、まるで──」

 

「──『魔法』のよう、ですか?」

 

 そう、正しくこの世界では魔法の領域と言ってもいい。それほどフォルティスの、『あの世界の錬金術』は神秘のような現象だ。

 

「おいおい、マジかよ......お前触媒も錬成陣もいらないで錬金術出来るんだよな?」

 

「え? あ、はい。そうですけど」

 

 先ほどまで黙っていたグレン先生が何かに閃いたように手を顎に当てぶつぶつ、と小声で何かを言っている。

 

「なら......いや、待てよ。さっきの鉱石は石ころ同然のような物。なら、低価格で金に換えられるなら......いける!! なあ、お前......いや、フォルティス君。先生と一緒に──」

 

「──生徒になにさせようとしてる、このバカ!!」

 

「痛ェ!?」

 

 アルフォネア教授がグレン先生に重たい一撃を頭に叩き込んだ。

 

 まあ、そうだろう。グレン先生の考えていることは良く分かる。事実、自分もそれでちょいちょい、義足の整備費や小遣い稼ぎをしている。親は勿論、システィーナにでもバレれば相当痛い目に合いそうなのでボロを出さないようにしなければ。

 

「んんっ......そうだな、余りその力の事は口外しないように。正直、私でも良く分からない。固有魔術から来ているのか、それとも、また異能なのか。これから、少しずつ調べさせて貰うが、いいね?」

 

「そうですね、分かりました」

 

 真理の扉や人体錬成のことは伏せておこう。それに、いざとなったらお爺様の事を()()()()()()()()

 

 

「あっ、先生!」

 

「......先生! と兄さんも!」

 

 廊下の向こうから見慣れた二人の生徒が見える。

 

「それじゃあ、私はこれで失礼しようかな。頑張れよ、グレン?」

 

「おう、またなセリカ」

 

 互いに笑みを交わし合う。と、そこにシスティーナが割って入った。

 

「ちょっと、先生! 今日という今日は一言いわせてもらいますからね!」

 

「なんだ、白猫。また説教かよ......よく毎日あきねーな。ひょっとして説教が趣味か? だから、白髪が増えんだよ」

 

「白髪じゃなくて銀髪です! ああ、もう! それは置いといて、先ほどの錬金術の授業、あれはなんなんですか!?」

 

「えーと? 下級元素配列変換法を利用した『金にとてもよく似た別の何かを錬成する方法』のことか? 何か手順に不備でもあったか?」

 

「違います、それも違うけど、問題はその後です! それと、兄さん!! さっき、触媒用の鉱石を盗ったでしょう!? 何に使う......って、またあの変な魔術で金を錬成したの!?」

 

 システィーナは先ほどアルフォネア教授が去り際に返してもらった金を指さしながら言った。というかまた、とはどういう意味だろうか?

 

「前からなんかお小遣い以上のお金持ってたからおかしいと思って見てたんだからね!!」

 

「おおう、マジか」

 

 どうやら、とっくの昔にバレていたようだ。しかし、ここはあえて言おう。

 

「いや、先生に教えて貰ってさ」

 

「おいぃ!? お前なにちゃっかり俺に罪を擦り付けてんの!?」

 

「先生、頼みますよ」

 

 チラリ、と金を見せつける。すると、グレン先生はシスティーナに向き直った。

 

「馬鹿め。いいか、無から金を生み出す......そして、道端の石ころは一枚の金貨に変わった。これぞ、まさに『錬金術』の神髄だろう?」

 

「それ犯罪じゃないですか!? 魔導法第二十三条乙項に思いっきり喧嘩売ってますよ!? てか、生徒に何を教えてるんですか!?」

 

 喚き散らすシスティーナを見て微笑ましい笑みを浮かべるルミア。すると、視線が合ってこちらに駆け寄って来た。

 

「フォル義兄さん、ありがとうございました。システィに聞きましたよ。あの日一番に動いてくれたって」

 

「まあ、『家族』だしな。妹の一人ぐらい守れなくちゃあ、兄は名乗れないよ」

 

 その言葉にまた柔らかい笑顔を見せるルミア。昔のルミアとは全く別人だ。こちらのほうが断然いいだろう。

 

「ちょっと兄さん、聞いてるの? 兄さんも同罪だからね?」

 

 ふと、横を見てみればグレン先生が土下座をしていた。

 

「......勘弁してくれ」

 

 

 




結局、後日談で終わってしまった。重ねて言いますが、本当に申し訳ありません。次はもう少し余裕が出来そうなので来週には更新できそうです。
これだけ短いなら前の話と結合した方がいいかも? もしかしたら、そうするかも知れません。

それと、今回ちょっと人体錬成に描写を書きましたが、あれはとても簡潔に書いています。詳しくはまたちゃんと書きますので。それと、お爺様の事を利用するとか、なんとか書きましたが......まあ、今は何となくフォルティスがそう言った考えをした、と思って下さい。

追記: 感想にあった四話の所を知り修正しました。いや、ホント、あれですね。考えて書いてるつもりでも辻褄が合わない所がボロボロと......。今度から書くときはちゃんと見直して書くようにします。
そして、指摘して下さった方、ありがとうございます。困惑させてしまって申し訳ありません。

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