この世界では考えられない錬金術を使って何が悪い   作:ネオアームストロング少尉

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『魔術競技祭』の話は大変悩みました。どうフォルティスを使うか、割り込ませるか、といった感じで悩み。また、この小説の醍醐味でもある錬金術をどう交えていくか、という所も唸りましたね。実際、この『魔術競技祭』の話の最後でどうしても無視できない大事な場面を書きたいので飛ばすわけにもいけません。
......こういうと察しのいい方、または原作を読んだ方は分かりそうですね。


九話

 慌ただしく学院長室を飛び出したグレンの後ろ姿をため息交じりで見送った。

 

「......で、学院長。現実的な話、グレンのクラスは優勝できるのか?」

 

「......正直、厳しいじゃろうな」

 

 リックは微妙な表情で、セリカの問いに応じた。その解にセリカは目を丸くする。その表情から読み取ったリックは説明する。

 

「確かにグレン君のクラスには学年トップクラスの成績優秀者であるフォルティス君とシスティーナ君の二人がいるが......やはり総合力で言えば一組の方が高い」

 

「ああ、ハーレイ担当のクラスか。あそこはやたら粒が揃ってるからな......」

 

 フォルティスとシスティーナ。確かにこの二人は優秀な生徒であるが、その分、グレンのクラスはその二人を除けるとどうも弱くなってしまう。勿論、不得意があるが総合力を見れば明らかだ。

 

「それに、フォルティス君は右足がのう......」

 

 そう。フォルティスの右足が義足である事は周知のことだ。走ったり飛んだりすることは可能だが、それもごく日常における基本的な事までだ。現に前のテロリストの事件により一度義足は破損していた。

 

「もし、フォルティス君とシスティーナ君を全競技種目で使い回しで、なんとか......と言った所じゃろうて」

 

「全種目で使い回す......ね」

 

 その時、セリカは何故か辟易したようにため息をつく。

 

「いいのかね? セリカ君。このままだと君の愛弟子は本当に餓死してしまうかも知れんぞ? 助けてやらんのかね?」

 

「ま、それは心配ないさ、学院長」

 

 セリカはあっけらかんと応じた。

 

「あいつなら草を食うなり、枝をかじるなりなんなりで生き延びるさ。昔、そういうことも教えたしな。それよりも、あのまま捨て置いた方がどうやら面白くなりそうだ」

 

「......ほう?」

 

 そんなセリカの物言いに、学院長も興味をひかれたように口の端を吊り上げる。

 

「動機はアレだがグレンの奴、ようやく『その気』になったようだ。それに、フォルティスを上手く使えば......さて、あいつはどうするかな?」

 

 どこか楽しそうにセリカは笑った。

 

 それは、ここ最近のフォルティスの錬金術の万能性が高い事を知ったからである。法陣も触媒もいらず、何より起動するまで五秒もかかりはしない。ある意味、ズルになるがバレなければそれはズルにはならない。

 それに分かったとしても理解出来やしないだろう。現にセリカ自身もよく分かっていない。

 

 何でも『お爺様から貰った石を触媒に()()()()をしてから使えるようになった』らしい。その石と錬成の事を聞いてみたが、その錬成は失敗に終わってしまったらしくどちらとも無くなってしまった。

 

「......あ、何を錬成したのか聞いてなかったな」

 

 まあ、それは些細な事だろう。問題はその石の事だ。その石が何かしらあるのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 ~Ω~

 

 

 

 

 

 

 

 

「はーい、『飛行競争』の種目に出たい人、いませんかー?」

 

 壇上に立つシスティーナがクラスの皆に呼びかけるが誰も応じない。寧ろ、クラス全体がまるで葬式が行われているように静かだった。

 その後も、何度かシスティーナが競技の出場を枠を皆に問うがやはり無反応であった。それはルミアの穏やかな声で説得しても、気まずそうにするほどのことだった。

 

 それもそうだろう。負ける事が分かっているのに何故出たがるか。それに、今回は、あの女王陛下が賓客として来る。誰が陛下の前で無様に恥をさらしたいわけがない。

 

 自分としても右足を理由にして出たくない。何故なら、最近はもっぱら錬金術のほうばかりにかまけて、魔術の方はからっきしなのだ。そんな状態で出ればきっと失敗する。またシスティに小言を言われるに違いない。

 寧ろ、バレているのかもしれない。魔術を疎かにしている事を。

 

「無駄だよ、二人とも。それより、システィーナ。そろそろ、真面目に決めないかい?」

 

 この膠着状態に嫌気が差していたギイブルがシスティーナに言った。

 

「......私は今でも真面目に決めようとしてるんだけど?」

 

「ははっ、冗談上手いね。足手まとい達にお情けで出番を与えようとしてるのに?」

 

 ギイブルは皮肉げな薄笑いを浮かべ、クラスの生徒達を一瞥する。

 

「見なよ。キミの突拍子もない提案のせいで、元々競技に出場しようとしていた優秀な連中たちも気まずくなって委縮している......もういいだろう?」

 

「わ、私はそんなつもりじゃ!? それにみんなの事を足手まといだなんて......っ!」

 

 眉を吊り上げ、声を荒上げるシスティーナ。それを、ギイブルはさらりと受け流しさらに物を言わせないように言葉でたたみかけた。

 

 正直、ギイブルの言っている事は正しかった。どこのクラスもしていること。成績優秀者たちで固めてやった方が断然勝率は上がる。

 ついに、我慢できなくなったシスティーナが怒声を上げようとしたそのとき、ドタタタと、外の廊下から駆け足の音が迫って来たかと思えば......次の瞬間、ばあん! と勢いよく前方の扉が開いた。

 

「話は聞いたッ! ここは俺に任せろ、このグレン=レーダス大先生になッ!」

 

「......ややこしいのが来た」

 

 システィーナが頭を抱えため息をついた。グレンはシスティーナを押しのけるように教壇に立つ。

 

「喧嘩はやめるんだ、お前たち。争いは何も生まれない......何よりも──」

 

 グレンはキラキラと輝くような、爽やかな笑みを満面に浮かべて──

 

「──俺たちは、優勝という一つの目標を目指して共に戦う仲間じゃないか」

 

 ──キモイ。

 

 その瞬間、フォルティスを除いたクラス一同の心情は見事に一致した。なんとも悲しい統率力だった。

 実の所フォルティスは見てなかっただけである。グレンと言う濃い存在が来た事によって皆、と言うよりシスティーナのヘイトがグレンの方を向いている間に錬成陣の改良を考えていた。

 

 今回の戦闘で多くの事を学んだ。まずはこの指パッチンこと『焔の錬金術師』の十八番である錬金術の燃費を良くする。

 この錬金術はどちらかと言えば魔術寄りになっている。本来の錬成陣で行うと燃焼物・酸素を生成するだけで魔力を多く持ってかれる。故に、本来の錬成陣に変質と変換の術式を加える事によって補助する形にし、多少の燃費削減にはなったが結局燃費の悪さは解消されていない。

 

 これをすることによって使えるようになったが調整が難しくなった。それにより、マスタング大佐がやっていた目の中の水分を蒸発させるような、限定的に火力などを絞る事が上手くいかない。

 が、しかし。今回の事で分かったがあそこまで高火力の物にしないで元々、火力を絞った錬成陣を作る事にすればいいのではないだろうか? 実際、ジンの場合もあるので絶対とは言い切れないが、人を燃やし尽くすのには十分な火力だ。

 

 で、あれば絞り込むような術式を組み込んで部位ごとに燃やせるようにすれば、戦術の幅はもっと増えるハズだ。ならば話は早い。一度、組み直して実践を繰り返しつつ改良していこう......いや、待てよ。もし、高火力が必要になったときの事を考えると残しておいた方が良さそうだ。

 なら、もう一つ作ると言った方向でやった方がいいか。

 

「──『飛行競争』なら、カイとフォルティスだな」

 

「.....え?」

 

 ふと、自分の名前が呼ばれたので前を向けばグレン先生の采配でどの競技に出るか決められた所であった。

 

「ん? 聞いて無かったのか? たく、しゃーねえな。お前はどの分野でも優秀だが惜しい事に足が悪いからな。でも『飛行』なら得意だろ? 【レビデート・フライ】から【グラビティ・コントロール】重力操作系ならお前の右に出るヤツはこのクラスにはいない」

 

「は、はぁ。そうなんですか」

 

 まさか、これも錬金術に応用するから練習していたなんて口が裂けても言えない。システィがいる前では。しかし、一通り出来るとは言え『飛行競技』か......足を理由にしても辞退出来そうに無い。まあ、決まったものは仕方ない。さあ、続きを考えなけれ──

 

「──ノートを仕舞って、兄さん?」

 

「はい」

 

 あの日の事件からシスティが自分、と言うより自分が使う錬金術に対しての当たりが強くなった。こんな風に手が空いてるときにしようものならすぐ飛んでくる。最近では、遅くまで残って実験も難しくなってきている。

 それと、些細な事だが最近システィは自分の事を昔のように『兄さん』と呼ぶようになった。

 

「あと、これ没収ね」

 

「いや、ちょっ「没収ね」......はぁ、後で返してくれよ」

 

「一位とったらね」

 

 そういうとクスリ、と笑った。

 

 何だかんだで、強くなったシスティーナだった。

 

 




どうにか、夏が終わる前に書き終えたいと思っています。難しいそうですがね。そして、本来はフォルティスの代わりに出場するハズだったロット君。本当にごめんなさい。他の何らかの競技に出すと言った形にするつもりです。描写されないかもしれないけど。

一応、錬金術に関する競技を考えてそちらにフォルティスを出そうと考えていたんですが、まずこのロクでなしの錬金術の事に関してよく考察できていないのと、簡単に錬金術で正確さと出来の良さを競うとかで良ければ書けれそうですが、余り面白味が無いなと思ったのが理由です。ゴメンね、ロット君。



それから、錬金術の説明ですが、まあ簡単に言うと本来なら燃焼物・酸素を用意し、そしてそこに火種を送って火をおこしますが、この世界だと魔力を消費して錬金術を行います。となると、あれほどの火力をするためには燃焼物と酸素の量は多くなります。(燃焼の詳しい説明は燃焼の三定理なんかを調べていただけると分かりやすいのではないかと)
本来なら地殻変動エネルギーを使いますが、フォルティス自身の魔力を使うので消費が激しいと思っていただけると嬉しいです。
それと、何故『錬金術に魔力を使うのか』と言う疑問で困惑した方も多いかも知れませんが、それはこの小説の“後半”の方で説明するのでしばしお待ちください。

で、変質と変換の術式を加えると燃費が良くなるのは、本文で書いたように、燃焼物・酸素の生成の『補助』の結果によるものです。まず、本来通り錬金術による生成を行います。ですが、それはごく少量の物です。そこから周りの物を変質又は変換させることにより広げていきます。
少々、説明しにくことなので簡単に言うとカレーのような濃い料理に水などを入れる事によって量を増やす、といった感じだと思ってください。まあ、難しく考えず「へぇー、そうなんだ」程度に考えて頂けると嬉しいです。

重要な事はこの世界の魔術と鋼の錬金術師の錬金術は根本的に違う、ということです。それを、無理やりこの世界の魔術に『当てはめている』のです。

手合わせ錬成のことに関してはまた手合わせ錬成が出て来たときに説明いたします。


これは、些細なことですがシスティーナを白猫と呼んでいるように、フォルティスも何か付けようかな、と考えたことがありますが余り良くないと思いつけませんでした。白猫呼ばわりするのはグレン先生の話に理由がありますしね。

少々、長くなりましたが今回も読んで下さってありがとうございます!! 

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