このビッチな女神に祝福を   作:nyasu

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アンデッドに真理を

ダクネスという女がいる。

騎士の中の騎士、そう称される固い女だ。

クルセイダーという上級職の癖に攻撃系のスキルを一切抜いて防御のみに特化した存在。

それは民を守る騎士としての理念か、あるいはそれ以外の為かは本人以外知らない。

だが、一つ言えることは極振りによる防御力は計り知れないということだ。

 

めぐみんという女がいる。

その破壊力は最強、並外れた魔力と精緻な魔力制御が無ければ扱うことすらままならない。

多くの才能ある魔法使いが、その魔法を習得することすら憚る恐るべき魔法。

紅魔族のですら手を出さないそんな魔法を習得し、さらにそれを際限なく鍛え上げていく。

まさに最強の一撃、その魔法に並ぶ攻撃力の魔法は存在しないだろう。

一つ言えることは、極振りによる魔法攻撃力は計り知れないということだ。

 

アクアという女神がいる。

そのステータスは知性と幸運以外、高レベル。

治癒魔法のみならず、素手や杖を用いた近接格闘も得意としている。

致死の一撃すら片手間で治し、人の手に余る呪いすら余裕で解呪する。

死者すら蘇らせ、いるだけで水を浄化し、そのステータスはカンストしている。

一つ言えることは、ステータスがカンストしている存在は侮れないということだ。

 

では、一つ問いかけよう。

もし、全てのスキルを攻撃系で固めている攻撃のみに特化した存在がいたら。

もし、全てのポイントを攻撃力を上げるために際限なく鍛え上げていたら。

もし、ステータスを攻撃的に上げていたら。

それは魔王軍への恐ろしい脅威へとなるのではないだろうか。

 

えっ、女神エロース?

そんな卑猥な名前、知らない名前ですねぇ……。

 

 

 

ベルディアというモンスターがいる。

不死の肉体による無限の時間によって研鑽し、生前のスキルを所有し、リミッターを解除されたことによる強力な身体能力。

状態異常はほぼ無効化し、弱点となる光属性は魔王の加護により人間の物程度なら無効にする。

無限に死者の兵団を生み出し、ステータスに関係なく人間が解呪できない死の呪いを与える。

痛みに恐怖を覚えず、死を克服し、その高レベルは弱点の水や火すら並のアンデッドのように効かない。

まさに最強の一角、魔王軍の幹部として申し分のない存在。

その、はずだった……。

 

「ぐおぉぉぉぉ!なんなんだ畜生!ちょっと、文句を言いに来ただけで、ふざけんなよ!」

「ダクネス、やれ!」

「任せろ、あぁん!こ、この程度か!この程度じゃ満足出来ないぞぉ!」

「クソがぁぁぁぁぁぁ!」

 

攻撃を躱す技術を持っている。

急所を狙う技術を持っている。

無限の研鑽は、いかに効率よく破壊するという技術を突き詰めている。

だが、こんな経験は初めてだった。

 

「何なんだよぉぉぉぉ!攻撃しないで、全部受けるのに喰らってないとかぁぁぁぁ!」

「あぁん、もっともっとだ!さぁ、早くしないか!満足させろ、私を満足させ、ひゃぁん!」

「変な声出すなよぉぉぉ、気が散るだろうがぁぁぁぁ!」

 

ベルディアの攻撃が、悉く防がれる。

自分から当たりに来るという予想外の行動のせいでだ。

悲しいことに、ベルディアは今まで常識的な存在としか戦っていなかった。

そう、まさに未知の戦い。アンデッド故に得た戦闘経験の活かせない相手だ。

 

「よし、やれアクア」

「ターンアンデッド、ターンアンデッド、花鳥風月、ターンアンデッド!」

「くっ、クソ、なんで効く!気が散るから、狙ってくるんじゃねぇ!」

 

魔王の加護すら超える威力の聖なる力、自らのレベルすら超えてくるほどの水の魔法。

召喚した死者の兵団は何故か言うことを聞かず、他の冒険者によって討伐されていく。

致死の一撃を狙えそうな時ばかり、邪魔が入る。

まるで運良く死の運命から遠ざかるように、言いタイミングで指示が出る。

これでは敵を減らすこともままならない。

 

「この時を待っていた、行け!」

「経験値寄越せぇぇぇぇ!」

「ぐあぁぁぁぁぁ!クソが、オラァ!」

「ガハッ!フフフ、フハハハ!どうしたデュラハン!まだ腕が千切れただけだぞ、ハリー!ハリー!」

「あり得ねぇ、鎧に罅とかどんな攻撃力してるんだ。なのに掠っただけで死にかけてるって、まるで意味が分からんぞ」

 

ベルディアは知らない。

死者のように死を恐れず、まるで死んでも次があると思っているかのような存在を知らない。

まさか、攻撃力だけを鍛え上げた存在だと思いもしない。

だから、これだけの高レベルなのになんで死にかけるほどに弱いのか理解できない。

紙装甲だという事実に気付くことが出来ない。

 

「えっちゃん、君に決めた」

「ポイズン、パラライズ、アーマーブレイク、カース、スリープ、コンフェ、パワーブレイク、スロウ、フリーズ、レサジー、フィアー、ミュート、コラプション、バーサク」

「■■■■■■■■■■■■■!」

「おい、何やってんだぁぁぁぁ」

「よ、良かれと思って!わざとじゃ無いよぉぉぉぉ!」

 

想像することは出来なかっただろう。

アンデッドは状態異常になることはまずない。

だが、アンデッドはモンスターである。

無効では無く耐性があるだけで、強力な状態異常にならば効いてしまう。

魔王軍にはリッチーやデュラハンすら汚染する毒を持つ者もいる。

強力ならば、効いてしまうのである。

人間程度の魔法は効くはずがなかったのだ。

 

「こっち来た、喰らえ聖水ローション!」

「■■■■■■■■■■■!?」

 

理性を失ったベルディアは本能的に理解した。

あの男を、かの邪知暴虐の男を殺さなくてはいけないと。

だが、自己保身に掛けては右に出る者のいない彼はそれすら対応して見せた。

 

「私のエロ魔法が有効活用されてる」

「いつか使おうと思ってたんだが、バインド!」

 

透明化の掛けられた、よく見なければ分からない縄がベルディアを拘束する。

それもエロ魔法が掛けられた特製の縄だ。

 

「ねぇ、カズマさん。何に使おうと思ってたのかしら?」

「そりゃもちろん暗闇とかで特定されないときに……おいアクア、今は戦闘中だ後にしろ!」

「まだ終わってないんですけど!私に何するつもりだったの!」

「安心しろ、お前だけはない」

「なんでよぉぉぉぉ!」

 

泣き叫ぶアクアに正気を取り戻したベルディアは困惑した。

困惑して、気付けば視界が変わっていた。

 

「はぁ?」

 

いつの間にか、自分の身体が見えていた。

先程まで見えていた青い髪の女が消えた。

 

「何が起きているか分からないようだな」

「ふぇ?」

「お前は一時的に意識を飛ばされていたんだ。聖水で弱っていなければ使えなかっただろう」

 

それは、時間停止企画物によく使われる魔法であった。

なんと、ベルディアは気付かぬ間に頭部を奪われていたのだ。

それだけじゃ無く、鎧すら剥がされてミイラのような身体が晒されている。

何をされても時間停止されたら抵抗できないのである。

そう意識を固定する魔法によって、あたかも時間停止したかのように錯覚していたから仕方ない。

 

「だが」

「無駄だ。寝ながらでも物を取ることが出来る念力スキルでお前の身体は拘束している」

「くっ、どうなってやがる!」

 

ベルディアは危機感を抱いていた。

このままでは、あのアークプリーストに浄化されてしまうと思ったからだ。

だが、その様子はない。

 

「何故だ、何故浄化しない?そうか、死の宣告を取り消して欲しく交渉しようとしているのか。だが、無駄だアレは――」

「まさか、俺が見逃すとでも思ったのか?おいおい、そんな俺を見逃せば後悔するだろうみたいな事を言う奴を俺が見逃すわけ無いだろ」

「あれぇ?」

 

答えはたった一つだ。

たった一つのシンプルな物だった。

 

「お前はこれから自分の身体が攻撃されるのを見るんだよ!なぁ、今どんな気持ちだ!最弱職だからって舐めやがって、こちとら普段から苦労してんだから絡んでくるんじゃねぇよ!ふざけんな、魔王軍の幹部だからって調子のんなよなぁ!」

「どっちが悪役か分かりませんね」

「自分が有利だからって調子に乗ってるのはカズマさんだと思うの」

「騎士として流石に同情を禁じ得ない」

 

うるせぇ!と仲間達に罵声を放つ男がいた。

 

 

 

そんな男の前に、ベルディアは自分の死を見た。

 

「お前が、お前が俺の死か……」

 

無数の剣が突き刺さった戦場に其奴はいた。

自らが武器破壊したそれらを見向きもせず、ただ進む其奴。

ようやく気付く、何故あれほどの攻撃力を持っていたのか。

それは恐らく仲間を信頼し、自らのステータスを攻撃系だけに絞っていたのだろう。

どれほどの信頼があれば、命を投げ捨てるような、防御力を捨てるという覚悟を出来るのだろうか。

ならば、と疑問が湧く。

 

「何故、職業の中で一番の攻撃力を誇るソードマスターではなくプリーストなのだ!」

「何時から私がプリーストだと錯覚していた」

「なん……だと……」

 

今までプリーストのような戦い方はしていなかった。

だがヒールや支援はプリーストの十八番。

ならば、パラディンかと言われれば剣技のスキルは用いていなかった。

そこで一つの可能性にベルディアは辿り着く。

 

「まさか!聖職者系の上級職なのか!」

「ソートマスターなど剣が無ければただの人、装備依存の職業など使い勝手の悪いだけだ。真に信じられるのは自分自身、つまり素の攻撃力である」

 

例えば、レベルカンストしているキャラがいるとする。

そして、雑魚モンスターが存在するとする。

そんなモンスターに、こっちの剣を使うか鎧はどうしようとか装備を考える人はいない。

そんなモンスターに、この技を使おうかどのくらいMPを消費して魔法を使おうかと悩む人はいない。

恐らく、無表情で技コマンドの上のこうげきコマンドを連打することだろう。

つまり、レベルカンスト前提で考えれば装備もMPも不要である。

 

「弱い今は考える必要があるかもしれない。だが、スキルは使い続けることでレベルが上がる。ジョブチェンジでスキルレベルがリセットされるなら、最初から目指す職業に就いた方が効率的だ」

 

この世界でモンスターを倒せば、魂の記憶を取り込みレベルを上げる事が出来る。

しかし、それで強化されるのは自身の魂、つまりステータスだけである。

それとは別に、使えば使うほど上がるスキルレベルというのがある。

だが、それは職業を変えるとリセットされてしまう。

もし同じステータスなら、スキルレベルの高い方が強いのだ。

ならば、カンスト前提で考えるなら早い内から職業を絞った方が良い。

 

「装備が必要な職業は装備が無ければただの人だ、魔法使いはは魔力がなくなればただの人だ、聖職者はアンデッドしか戦えない。聖職者でなければ、特殊な方法以外で不死者を殺せない。なら全てのモンスターと戦える職業は何か」

 

武器や魔法とは所詮、人の使う道具だ。

恐ろしい兵器も、最終的には人が使うのだ。

世界を滅ぼす核のボタンが目の前にあり、それをどちらが使用するか二人の人間がいて言葉による交渉が出来なかったとしよう。

最終的に人は暴力に、己の力でその使用権を争う事だろう。

その時、勝敗を分けるのに使う武器はなんだ。

それは、当人の肉体に他ならない。

 

「拳なら、装備する必要は無い。魔法を使わなければ、MPは必要ない。聖職者なら、不死者を浄化できる。なら、選ぶ職業は一つだけだ」

「拳……聖職者……そうか、貴様モンクか!」

「そう、力こそパワー!モンクこそ最強の職業である」

 

そう彼女は人類が初めて使った武器を、最後に使うであろう武器を選んだ。

その肉体による素の攻撃力を選んだ。

それすら効かない不死者すら、殺せるように聖なる力を宿した。

後は、経験値を捧げてレベルを上げるのみである。

 

「レベルを上げて物理で殴ればいいじゃない!オラァ!」

「ただの脳筋じゃねぇーか!あばばばばばばば」

「経験値になったモンスターだけが、いいモンスターだ!」

 

その日、魔王軍幹部ベルディアは拳によって浄化された。

 

「よし、鎧は売って今日は飲み会だな」

「やったー!今日は飲むわよー!」

「アクア、お前は吐くから飲むなよ」

「なんでよぉぉぉぉぉ!」

 


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