ギルドでグダグダすること二日目、遂にクラスチェンジしたナナシちゃんがやってきた。
白いローブに鉄の杖、一見ウィザードに見えるが同時に清廉さを感じさせる。
恐らく、それは露出の少ないせいでこの世界の魔法使いっぽさが無いからだろう。
この世界の魔法使いはスカートとか穿くので魔法少女風だからね。
「プリーストになったわ」
「ジョブがダブるからウィザードは無いと思ったけど、プリーストなの?」
「攻撃魔法は使えないけど、えっちゃんを装備するから問題ない」
つまり、私に働けだと。
ウソダドンドコドーン!オデノカラダハボドボドダ!
「その全身から働かないって言う意思表示やめなさいよ」
「週休七日を希望します」
「それ、毎日が夏休みよ」
ナナシちゃんは深いため息を付いて、私をおんぶする。
なんてことだ、意地でも連れ出す気のようである。
しかも、ステータスが上がったからか難なく持ち上げられてる。
逃げられない、カンストしているので成長の見込みも無い、これからずっと拘束されること決定である。
「大丈夫、楽して強くなる方法を考えてきたから」
ぐでーとした私をおんぶしながらナナシちゃんがそんなことを言ってきた。
さて、そんなナナシちゃんと一緒にギルドに来たアクア先輩はカズマさんと何やらもめている。
何だ、いつものことかとスルーしよう。
「でも、プリースト?アクア先輩の下位互換だし、効率悪くない?」
「要は戦い方よ、問題ないわ」
「そーなのかー」
何故か自信のあるナナシちゃん、まぁ考えがあるのだろう。
と思ったけど、普通にクラスチェンジ出来そうなジョブがプリーストだけだったらしい。
特に考えては無い模様。
「あー、二人とも集合」
呼ばれて私達がカズマさんの所に行くと、何やら一人増えていた。
大きい帽子に大きい杖、そして眼帯を押さえながら目がなんたらとブツブツ言っている。
この間の紅魔族の子だ。
「紹介するぞ、こい――」
「くっくっくっ、我が名はめぐみん!紅魔族のエリートにして、やがては」
「ていっ」
「いったぁぁぁぁぁ!目がぁぁぁぁ、目がぁぁぁぁ!」
ゴロゴロ転がり回る自称エリートめぐみん。
彼女はカズマさんの発言を遮ったせいで、眼帯を引っ張られてダメージを負ったのだ。
「取りあえず、凄腕アークウィザードらしいめぐみんだ」
「私、いらない子?」
「えっちゃんは固有魔法で引き続き働いて貰うので悪しからず」
「くそったれぇ……」
しばらくして、めぐみんとやらが回復してから冒険に出ることになった。
ジャイアントトードー、それはでっかいカエルである。。
繁殖期の前になると農家や家畜を食べるモンスターで、捕食中の動きは鈍い。
特徴として物理攻撃が効きにくく、また金属を嫌うため、金属製の装備を着けていれば食べられない。
「事前に情報を調べておくと効率がいいわ」
「wikiとか見てからゲームするタイプか」
「みんな、金属は持ったわね」
カエル対策を施したことを確認して満足そうにナナシちゃんは頷いた。
ちなみに、今回はめぐみんの性能を見る冒険でもある。
なので、二チームに分かれてジャイアントトードーを狩ることにした。
カズマさん達から離れた私達は色々な魔法を試すことにした。
あっちは凄腕のアークウィザードがいるのでサクサク行くだろうが、こっちは未知数な魔法なので時間が掛かりそうなために分けたのだ。
「取りあえず、えっちゃんの魔法から今回の作戦を考えたわ」
作戦内容は簡単だ。
カエルを見つける、チャームで魅了状態にする、金属のせいで捕食できない、カエルは右往左往する、そこを攻撃するだ。
「とにかく、モンスター寄せとチャームで集めまくって撃破するわ。広範囲に聞くように揮発性の毒もあるから安心して」
「えっ、それって私達もヤバいんじゃ……」
「大丈夫、プリーストだから問題ない」
ナナシちゃんのやりたいことが分かってきた。
私は逃げだそうとした、しかしナナシちゃんからは逃げられない。
知らなかったのか、ナナシちゃんからは逃げられない。
「や、やめろー!筋力ステータスが足りない、くそぉ!」
「逃げることだけに全力になるのやめなさいよ、さぁ来たわよ!」
ナナシちゃんはどこで買ったのか知らないが、魔物除けの香を焚いた。
この魔物除けの香、モンスターの好む香りを発生させるお香である。
使用方法は、引火させて投げるだけ、それでそっちに意識が向く。
ただし、強力すぎて持っているだけで臭いが移り、投げたところで自分からも臭いが数日間発生させられるためにモンスターがお香だけでなく自分の方にもよってくる。
「よく見つけたね、こんな地雷アイテム」
「それより援護頼むわよ、たぁぁぁぁ!」
臭いに釣られてやってくるカエル達、それに向かっていくナナシちゃん。
対策さえすれば初心者用のカエル、そんなの相手になるわけが無かった。
初撃、ナナシちゃんがロッドの先端で小さいながらも傷を付ける。
そして、援護の指示が飛ぶ。
「ポイズン、パラライズ、アーマーブレイク、カース、スリープ、コンフェ、パワーブレイク」
「見事にデバフ系ばっかね」
堕落とは、つまりはやるべきことを放棄すること。
楽な方に流されているようで、何もしないのだ。
それは要するに、生者の本分である生きることを放棄すると同義。
生命力の低下とは堕落に通じる物がある。
生きていく上で必要な元気を奪うデバフは、要するに堕落させることとしても考えられるのだ。
「白目向いたまま痙攣して寝ながら吐いてる……」
「腐っても神ですので、もう働いたし休んでもいいよね」
「何言ってるの、止めを刺さなきゃ」
そう言って、ナナシちゃんは傷口に向かってロッドで攻撃を加える。
そして、目を瞑って呪文を詠唱した。
「ヒール、ヒール、ヒール、ヒール」
「ゲ……グゲッ……ゲボォォォォ!?」
「ヒエッ!?」
カエルを回復させて何がしたいのだろうか、そう思われるような方法を取ったナナシちゃんの新しいプリーストの戦い方は壮絶であった。
回復の重ね掛け、それは肉体に過剰な回復を与える。
時間の回帰ではない回復というそれは、肉体の細胞分裂を加速させ、加速させ過ぎて悪影響を与えた。
体内に発生する腫瘍、所謂ガンの大量発生。
結果、ジャイアントトードーは内蔵を丸出しにした状態で嘔吐して固まった。
「気管に腫瘍が出来て呼吸困難になったのね」
「…………」
「カエルは胃袋ごと嘔吐するって本当なのね。次、行くわよ」
死体に一別して獲物を探すナナシちゃん。
怖い、あと怖い。取り敢えず怖いよ。
最早それは冒険ではなかった。それは作業だった。
「目標をセンターに入れてヒール。目標をセンターに入れてヒール」
「君はどこのチルドレンなんだよぉ……」
カエルを嘔吐させる簡単なお仕事です。
私達がそんな作業をしていると、暗雲が立ち込めた。
上空を覆う魔法陣、周囲を旋回する大量の魔力。
「ば、馬鹿な……」
「どうでもいい、それよりカエル探して」
「ブレない、ブレないよこの子」
真顔やめーい、こんなのに動じないとか大物かよ。
将来大物になるよ、絶対。
だが、これはネタ魔法である爆裂魔法の気配。
爆発させるだけではない、炸裂するだけではない。
爆発しながら炸裂もする、そんな魔法である。
「うおー」
「あっ」
動じないナナシちゃんと違って、表面積の大きい私は影響を受けていた。
荒れ狂う暴風が私の身体を捕らえ、ナナシちゃんから拐っていく。
「へぶっ!?」
私は大の字で地面に落ちた。
あっ、地面からカエルとか予想外です。
助けてください、ナナシちゃんがいないと金属がないから食べられてしまいます。
あっ、やめっ……。
夕暮れの帰り道、私達のパーティーはカズマさんとナナシちゃんを残して全滅した。
二人以外ヌルヌルである。
「ヌルヌルですよ、ヌルヌル……」
「口の中って意外と温いんですよね」
私をナナシちゃんが、めぐみんをカズマさんが背負っている。
なお、アクア先輩は泣きながら歩いてる。
「ありがとう、ありがとうカズマさん……ぐすっ、うわぁぁぁぁん」
「泣くな泣くな、変な目で見られるだろ」
「心なしか、私の後ろにいるコイツが元気な件」
だってヌルヌルですよ、ヌルヌル!
「でもネタ魔法でも高火力な魔法が手に入って良かったね」
「えっ?」
「えっ?」
「おいめぐみん、どういうことだ?」
めぐみんが視線を反らしながら口を開く。
「私は爆裂魔法が好きなんです。爆裂魔法も!ではなく爆裂魔法が!好きなんです。つまり爆裂魔法以外に興味はありません」
「ふーざけんなっ!戦闘不能になる高火力とかピーキー過ぎるだろ!アーラシュなのか!ステラってしまうのか!ステラぁぁぁぁ!」
「今なら食費と雑費だけで、凄腕アークウィザードが無報酬で雇えますよ。お買い得です」
「いらねぇーわ!」
「あー見捨てないでください!もう他のパーティーに行く宛もありません!ヌルヌルプレイでも何でもしますから!」
「や、やめろ!よし分かった、落ち着けめぐみん」
「カズマさんカズマさん、ヌルヌルプレイ、私もしたい」
「今、言うなよぉぉぉ!ややこしくなるだろ、えっちゃんー!」