ダクネスが仲間に加わるまで紆余曲折あったため、今日はこの間出来なかったスキルを教わることになったらしい。
まぁ、カズマさんがまたやらかした訳だが……。
「ひやふぅぅぅぅぅ!当たりも当たり、大当たりだぁぁぁぁ!」
「い、いやぁぁぁぁ!パンツ返してぇぇぇぇぇ!」
朝、騒ぎを聞きつけて視線を向けてみれば、何故かパンツを振り回しているカズマさんがいた。
もう、この時点であぁ先輩が盗賊スキルでも教えたんだろうと把握する。
しかし、幸運の女神より幸運があるとかカズマさんってばすげぇ。
あと、幸運の女神なのに不幸とかエリス先輩不憫で可愛い。
「引くわ、マジ引くわー」
「ふははは、返して欲しければ金を払うんだな!さもなければ、これはこの場で売り払う!」
「分かったから、パンツ返してぇぇぇぇぇ!」
周りに冷たい視線を向けられながらも、もう慣れたのかカズマさんは先輩から平然とパンツを人質に金を毟り取った。
私達が出来ないことを平然とやってのける、そこに痺れる憧れる。
「なんですか、ステータスが上がって冒険者から変質者にジョブチェンジしたんですか」
「おいめぐみん、これは確率なんだから誤解だぞ」
「狙ったとしか思えないのですが……」
「おい、公衆の面前でそんな鬼畜なことやるなら私にしろ!」
「しねーよ」
わーわー、騒ぐカズマさんのパーティー。
相変わらず楽しそうである。
そんな風に彼らを見ている私の元に、レベル上げ中毒の廃人ナナシちゃんが無表情でやってきた。
なんだか最近無表情がデフォになってきてる彼女なんだが、休息が必要なんじゃ無いか。
「そろそろアレの季節だ。行くぞ」
「えっ、アレってなに?」
『緊急事態、緊急事態。冒険者の皆さんは正門に集まって下さい』
なんの話か分からなかったが季節とギルドの招集に私はピンときた。
キャベツだ、この世界のキャベツの収穫に違いない。
冒険者達が混乱している中、彼女は無駄に洗練された無駄の無い動きで私を拉致する。
もう一秒でも惜しいというのが態度で現れていた。
正門に辿り着くと、地平線の彼方から緑色の波がやってきていた。
ヤバい数の暴力とか勝てる気がしない。
雑魚でも囲まれたら死ぬと思うので、タゲ取りして一体ずつ確保するべきそうするべき。
「あの、ナナシちゃん。どうして、正門から離れていくのかしら?」
「狩り場に集中されると困るから、別の場所で戦う」
「どうして、それに私も付き合うのかしら?」
「アンタの魅了スキルでタゲ取りしたら効率いいから」
いやぁぁぁぁぁぁぁ!もう一回、いやぁぁぁぁぁぁ!
だから言ってるじゃん、囲まれたらお終いなんだよ。
紙装甲の私が囲まれたら、直ぐ死んじゃうよ。
「はいこれ」
「これは?」
「麻痺の魔法が入ったスクロール、魔力を込めれば大丈夫」
な、なるほど。
でも、たぶん普通のスクロールじゃ無いよね。
「欠陥品では?」
「それを捨てるなんてとんでもない」
拒否権は無かった。
何故なら、既にキャベツは近付いてきていたからだ。
前門のキャベツ、後門の効率厨。
恐ろしいのは後者である。
「野郎、ブッコロッシャァァァァ」
もう自棄であった。
逃げ場が無い私は、仕方ないので魅了のスキルを発動した。
すると、キャベツ達が進路を変えて私の方に向かってくる。
その光景は、鎌首を上げた蛇のようですらあった。
「スクロール発動!あっ、あばばばばば!?」
「言ってなかったが、広範囲なせいで発動者も麻痺する」
畜生、やっぱり欠陥品だった。
全身に電流が走ったような激痛に痺れながら私は思った。
そんな私の周囲にはキャベツが落ちている。
どうでもいいけど、どうやってキャベツが飛んでるのか不思議である。
「ブレイクスキル!さぁ、あっちでやって」
「えっちゃん、私冒険者やめたい」
「はぁ?」
「……やらせていただきます」
ワントーン下がった返事に私は怯えながら従うことにした。
何が彼女を変えてしまったのか。
人生の為のレベル上げが、レベル上げの為の人生になってる件。
金とか名誉とかそんなもんじゃない、貪欲に強さだけを求めてやがる。
あんなの人間じゃ無いよ、廃人だよぉ。
「バリア!バリア!バリア!」
「おかしい、プリーストの結界が攻撃に使われてる」
ナナシちゃんが痺れたキャベツ達を回収せず、魔法を使って止めを刺していく。
モンスターが入ってこれないようにする結界の魔法を使ってだ。
普通、薄い半透明の壁としか使えない結界を、彼女はぶつける事で攻撃に使っていた。
対象に、結界を投げつけて分断するという使い方でだ。
「違う、そうじゃない。なんで刃物みたいに使ってるの……」
「キャベツは柔らかいから強度が足りる。他のモンスターじゃこうはいかない」
「そういうことを言ってるんじゃ無いよ」
やめろ、結界を投げるんじゃ無い!
なんだそれ、気円斬なのか!斬新な使い方ですね、おい!
「あと、どうして回収しないの。お金になるのに」
「えっちゃん本気で言ってるの?金じゃレベルは買えないんだよ!」
「すいません、なんかすいません!」
私がタゲを取り、全体麻痺攻撃で動きを封じる。
ナナシちゃんが結界を作り出し、投げることで進行方向のキャベツを真っ二つにする。
そして、ブレイクスペルで解除して、再び私をタゲ取り要因として使う。
あと何回だろうか、心が折れそうだ。
「スクロール……ない、終わった!やった、やってやったぞ!」
「はい、追加で」
「ウソダドンドコドーン!」
デデドン、なんて効果音が聞こえてきそうな絶望だった。
このあと滅茶苦茶キャベツを狩った。
私達がキャベツと戦っていた頃、普通に収穫していたカズマさんのパーティーはちょっとした小金持ちになっていた。
「なんでよぉー!私のキャベツが、なんでこんな額なの!」
「それがレタスが混じってまして」
「なんでよぉー!」
若干一名、不幸な目に遭ってるがいつものことである。
あれ、何回も麻痺した私の方が不幸なんじゃ無いだろうか。
電撃プレイとかちょっとMじゃないんでツラいです。
耐性スキル超えてくるとかどんだけだよ、どれだけ強力な麻痺の魔法を入れてるんだよ、上級の魔法を入れるなんて作った奴は馬鹿である。
「あー、キャベツが美味い」
「マズい、もう一杯!」
「なんでナナシちゃんは青汁なんて飲んでるの?」
「乾燥させたキャベツの粉末の方が普通よりも多く摂取できるから、経験値効率がいい」
「それ、キャベツから作られてたの!?」
あと食べたら経験値が入るから高いんですね、知らなかった。
ちなみに、ナナシちゃんは新しいスキルが手に入ってホクホクであった。
なお財布はホクホクでは無い模様、悲しい。
「もっと攻撃的な神様とかいないかしら、宗派変えたい」
「やめなよナナシちゃん、邪神でも崇めるつもり?」
「アンタのせいか分からないけど、ジョブチェンジ先にダークプリーストって出てドン引きされたわ」
「待って、邪神じゃ無いよ!」
確かに、生理的に受け付けないサキュバスのような悪魔や生理的にヤバいオークに信仰されてるけどさ。
嘘、私の信者モンスターいすぎぃ!?
ひ、否定できる要素が無い。私ってば、邪神だったの?
「邪神、人類悪、快楽天ビースト、うっ、頭が……」
「こんな神様を祀ってもなぁ、今のところエリス様でいいか。アクア様なら、アンデッド寄ってくるけど、もう経験値低い雑魚しか来ないから別にいいかな」
「ちょっと働きすぎだから私の信者になって休んだらいいと思うの、魅力値的なのも上がるよ、色気が自然と出てくるよ」
「……人間って倒せば経験値得られるかな」
「やっぱ私の信者にならないでいいです、闇討ちしそうだから」