このビッチな女神に祝福を   作:nyasu

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デュラハンにゲーム脳を

その強烈な一撃が、頭上を掠める。

 

「…………」

 

彼女はそれを慣れたように回避して、頭上に向けてスクロールを投げた。

落ちてくるスクロール、物を大量に収納できるが発動までに一日掛かる欠陥品。

それを彼女は目の前にいる敵の近くで投げたのだ。

 

「グオォォォォ!」

「55、56、57、58」

 

吠えるモンスターに彼女は意識を誘導する、モンスター寄せの魔法を放つ。

青い炎が地面に放たれると、理性では罠であると狡猾なモンスターは気付きながらも本能に従って一瞬目を奪われた。

だが、それが間違いだ。

 

「ジャスト、一分」

 

遠く離れた彼女を覆い隠すように大きな影が重なる。

それは空から降ってくる巨大な岩石によって生じた物だ。

安全な位置取りをした彼女は無事だが、敵であるモンスターは被害を受ける。

それほどの大きさだ。

 

「グォォォォォ!」

 

怨嗟を孕んだ叫びを上げて、そのモンスターである一撃熊は殺意を持って襲いに掛かる。

だが、もう遅すぎたのだ。

衝撃に足を滑らせ、背後から迫る超重量に押しつぶされ、ブチブチと足から潰れて最後には赤いシミとなったのだ。

 

「無駄が多すぎる、この案はダメかもしれないわね」

「びえぇぇぇぇぇぇん!」

「何を騒いでるのよ、えっちゃん」

 

何でも無いような感じで一撃熊を処理したナナシちゃんが、木に吊されてモンスター達に襲われてる私を見てため息をつく。

そんな私の周りには人型の巨大なキノコがモキュっという効果音を出しながらパンチを集団で繰り出していた。

キノコに周囲をぐるっと囲まれ、そして攻撃力は無いけど毒攻撃を繰り出すキノコ達。

ふはは、貴様は胞子の苗床となるのだとでもいいそうに、顔のように見えるキノコの皺が恐ろしい。

 

「最近は少ないわね、インフェルノ」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そんな私をナナシちゃんは仕方ないなと言いながら、スクロールを取り出して私ごと焼き滅ぼす。

やめて、それ上級魔法にしては威力高くて耐性スキルを超えてくるんだけど!

ちょっと、本当に熱いんだけど。

 

「うぅぅぅぅぅぅ」

 

ギャグかな、とでも言いたげな感じでプスプスと身体から煙が出る。

クソッタレェ、炎耐性はあっても防御力皆無なんだぞぉ……。

 

「キノコに囲まれてエロいな、喜べよ」

「うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

女子にセクハラされる日がくるとは、このあと滅茶苦茶泣いた。

 

 

 

上手に焼けました状態で帰った私はしばしの休憩を与えられた。

そんな私の元にカズマさんがやってくる。

 

「おいえっちゃん、アレはなんだ?」

 

カズマさんの指さす先にはいつものナナシちゃんの姿があった。

 

「幹部死ね幹部死ね幹部死ね幹部死ね」

 

掲示板を見ながら、机にナイフを抜いたり刺したり、目は血走り殺意の波動に目覚めそうである。

あぁ、フラストレーションが溜まっている。

 

「おい、俺がめぐみんと爆裂魔法を撃っては寝ている日々の間に何があった」

「モンスターが刈り尽くされてる状況で、魔王軍の幹部のせいでリポップしないって言ってた」

「おい、やっぱり転生のせいでゲーム脳になってないか?頭、パッパラパーになってないか?」

 

世界が悪い、私は悪くねぇ!

ゲームみたいな世界のせいでゲームみたいな感覚になってしまうのも仕方ない。

 

「カズマが、カズマがうわぁぁぁぁぁん」

「ところで、あそこで先輩はどうして泣いてるんですか?」

「よく見ろ、アレは嘘泣きだ。チラチラ見てるだろ、殴りてぇ……」

 

どうせ本音でもぶちまけたのだろう。

大概の女性はカズマさんの本音でフルボッコだからである。

私達が雑談していたら、受付のルナさんがプルプルしながら掲示板の前に立った。

どうした、トイレでも我慢しているのか?

 

「緊急、緊急……冒険者の皆さんは直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!」

「なんだ、また野菜か?」

「取りあえず、行ってみましょう」

 

移動した先にいたのはキャベツでは無かった。

黒い鎧を身に纏い、首の無い馬に乗った首なし騎士。

生者に死の宣告を行い、剣技と不死性から近接戦闘までこなす。

アンデット特有のリミッターを外した状態での無茶な身体の使い方により、生前を凌駕するパワーのあるモンスターだ。

 

 

 

あぁ、アレはダメだ。

私の理性でもカバー出来ないレベルの害悪だ。

神としての本能が、アレを滅ぼせと訴えかけてきている。

そうか、許容できないと言うことは私もまだ女神として存在しているようだ。

少なくとも、受け入れられる邪神としては存在してないと再確認できた。

 

「俺はつい先日、この近くの城に越してきた魔王軍の幹部の者だが……」

 

怒りに震えているのか、デュラハンがプルプルしていた。

それに対し、正門からダッシュで移動する者がいた。

私の担当した転生者、迷える魂ちゃんことナナシちゃんだ。

 

「ままま毎日――」

「こんにちは死ね!」

「――うおっ!?まだ人が喋ってる最中でしょうがぁ!」

 

振りかぶった剣を不意打ちに使うが、そこは腐っても騎士、技量によって受け止め且つ剣を切るという武器破壊まで行う。

斬りかかったナナシちゃんは、即座に武器から手を離し距離を取る。

 

「動きからして剣術スキル……生前のスキルを引き継いでるのか」

「見ただけで分かるとか人間やめてるな」

「キチィ……何なんだよ人が下手に出てれば毎日爆裂魔法撃ってくるし、いきなり斬りかかってくるし!」

 

地団駄を踏むデュラハンにめぐみんがふふんとドヤ顔で前に出て言った。

まんまと騙されて出てきたなと。

まさか、爆裂魔法は囮でおびき出すための作戦だったとは……やはり天才か。

 

「どうせ雑魚しかいない町だと放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって……!頭おかしいんじゃないのか、貴様ら!」

「うるせぇ!お前幹部だろ、魔王軍の幹部なんだろ!なぁ、経験値寄越せよ!経験値寄越せぇぇぇ!」

「えっ?」

 

再び特攻するナナシちゃん、かっこいいぞナナシちゃん。

それはそれとしてアンドッドは死ね、おっぱいないアンデッドと悪魔は滅んでどうぞ。

 

「おい、えっちゃん流石にヤバくないか?止めないと」

「何で?ゴミは駆除しないといけないんだよ。あんな喋るゴミクズ気持ち悪いでしょ、アンデッドは人間じゃ無いから人権なんてないんだよ?」

「こっちもヤバい!?」

 

何を言っているのかと首を傾げる。

アクア先輩を見てみれば、その通りだと関心する様子が見られる。

アクア先輩が私を肯定している、ならばこれは間違いない、正論である。

 

「うおぉぉぉぉ!?おかしい、初心者の攻撃力じゃねぇ!?」

「筋力強化、速度強化、防御力強化、魔法抵抗力強化、ターンアンデッド」

「コイツ、息切れしないで!馬鹿な、王都の奴よりも手強いだと!?」

 

この世界は、人に対して有利に出来ている。

例えばそれは、レベルさえあれば素人がスキルの補正で達人の動きになれるのだ。

 

「ポイズン、パラライズ、アーマーブレイク、カース、スリープ、コンフェ、パワーブレイク、ターンアンデッド

!」

「筋力強化、速度強化、防御力強化、魔法抵抗力強化、ターンアンデッド!」

「面倒くせぇ!コイツら二人だけ、なんでこんな殺意に溢れてるの!俺が何かしたのか!?」

「うるせぇ、経験値は死ね!」

「うるせぇ、アンデッドは死ね!」

「もう死んでるよ!」

 

ナナシちゃんの剣舞が冴え渡る。

この流れに、良いぞと周りの冒険者も駆け出す。

だが、ただ一人静観を決めていたカズマさんが気付いた。

 

「待て、様子がおかしい!」

「もう遅いわ!」

 

デュラハンが自分の首を真上に投げる。

すると、今までの剣技が嘘のように向上した。

まるで見えているかのように、周囲にいた冒険者達を一瞬のうちに殺したのだ。

 

「フハハハ、甘く見たな冒険――」

「経験値、置いてけぇぇぇぇぇ!」

「えぇぇぇぇ!?なんで、なんで生きてんの!?」

 

腹が半分切れた状態で、ナナシちゃんが飛び掛かっていた。

その傷は、既に治りかけている。

ヒールと回復アイテムの重ね技による再生だ。

 

「だ、だがこの鎧は魔王様から頂いた、痛っ!無駄だって言ってるだろ、やめ、やめろー!話を聞け!」

「うるせぇ、痛いって事は1ダメは入ってるんだろ!ダメ入ってるんだから、倒せるだろうが!そんぐらい分かれよカス!」

「どういう神経してるんだこの女、本当にプリーストなのか!?戦い続ける為にプリーストって、どう考えてもバーサーカーだろ!えぇい、『お前は一週間後に死ね!』俺は今貴様に、だから攻撃をやめろ!」

 

本来なら、こうは行かなかっただろう。

女神によるデバフと、自身によるバフによってギリ耐えたのだ。

耐えたなら、彼女は回復職。元の状態に戻るのは容易い。

だが、そんな彼女と戦うのは嫌だったのか卑劣にも死の宣告を奴は撃ってきた。

なんて、卑劣なスキルなんだ。

 

「ナナシちゃぁぁぁぁん!」

「なんて羨ましい、私がいながら」

「おいお前達、仲間なんだろ!コイツを止めろ、ねぇなんで心が折れないの!死ぬんだよ、死ぬことが確定してんだよ!」

「大丈夫だ、一週間は死なないからな」

「そういうこと言ってるんじゃねぇんだよぉぉぉぉぉ!頭がおかしいぞ、このプリーストォォォォォ!」

 

デュラハンが泣きながら再び応戦し始めた。

なんだか撤退したいのか、隙を見ては馬の方を見ているがダメである。

知らなかったのか、女神からは逃げられない。

私達の戦いが始まった。

 

「畜生、力も出ないのに相手が強化されてるとかふざけんなよ。俺が何したってんだよ」

「お前中ボスだろ、中ボスなんだから雑魚じゃねぇよな、よし死ね!今すぐ死ね!経験値寄越せ!」

「経験値経験値うるせぇぇぇぇぇ!せめて敵として見ろ!」


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