The beginning of a castle 作:里芋(夏)
多分、次話の投稿は来週木曜になると思います。
さて、プロジェクトメンバーを当てられる人はいるのかな?(挑発)
「俺!上手く言えないんすけど!歌もダンスもスッゲー上手かったです!これからも頑張って下さい!」
「ありがとうございます!」
「ーーはーいじゃあ、翼くん一旦休憩入りまーす!」
ドカッとパイプ椅子に座り込む
が、座っていても足が痛い。
幸い店内でのイベントなので冷房は効いているが、それも行列のせいで開け放たれた扉から夏空へ抜けて行く。
握手会が歌以上に辛いとは思ってもみなかった。と零すと、剥がしスタッフをやってくれているプロダクションの事務員さん(ナイスミドル)にバシバシ背中を叩かれた。
曰く、元気出せよとのこと。
そう思うんなら手を止めてください(懇願)
体感時間では1時間ちょっと経ったような気がするが、列を目で辿るとまだ店外に続いている。
ぼーっと外を眺めていると、開きっぱなしの自動扉から今西さんがペットボトルを持って走ってきた。
すぐさま受け取り一気に喉に流し込むと、痛みを訴える足を気力で抑えつけて立ち上がる。
「…残りは?」
「およそ半分。この炎天下でファンの皆さんを放って長々休憩はさせられない。大変だろうけど、もう1時間頑張ってくれよ」
言うなれば、100人と40秒ずつ立ち話するだけの作業。
文字にすればたかだかそれだけのことが、辛い。
メガホンで俺の休憩の終了を告知した今西さんは、また誘導係として外へ。
今更だけど、このクソ暑い中店外で動き回ってる
「…はいっ、次の方どうぞー!」
◆
「くぁ〜、疲れたぁぁぁあ」
靴を脱ぐなり廊下に倒れる俺。
これを見て誰がアイドルだと気付こうものか、なんてくだらないことを考えながらズルズルと床を這い、風呂場へ直行。
脱皮するイモムシのように寝転がって服を脱ぐ。
結局握手会が終わったのは6時を少し過ぎたくらい。
ライブについてスタッフさん達にベタ褒めされ酒を飲み、
そのまま流れで解散して今に至る…と。
明日は頭ガンガンだろうなぁ…後で味噌汁作っとこ。
…っあーやばい、寝る。これは寝る。これは寝r
◆
「無名のアイドルが1週間で120000枚。オリコン週間首位獲得、ねぇ…」
「良かったではないですか。
346発のアイドル事業、プロジェクト【ビギニング】の要たる彼。
…元の予定とはズレていても、それが上方修整ならば特に支障はないでしょう」
「…美城くん、敬語になってるよ」
言いながら、自分も上司に対して敬語を使っていないことに気づいた。
ここは数ある常務室の一つ。
平日の真昼間。普段なら翼くんの仕事を取りに外回りするこの時間に、元部下である彼女の元に来ているのは、別に暇つぶしのためじゃない。
先ほど言った通り、新田 翼の初シングル『Sizzle Squall』はアイドルにしては異例のオリコン週間トップを記録した。
いままでアイドル業界でそんなことをやってのけたのは、伝説とまで言われる日高 舞を除いて他にはいなかったというのも後押しし、既にネットで彼は
「…こうなってくると、彼と新人を組ませるのはやめた方がいいんじゃないか、ってね」
「それは、新人へのプレッシャーを考えてのことでしょうか?」
「それもあるけど…
正直、翼くんの成長率や将来性は並みじゃない。
足並みを揃えさせることでそれが抑制されてしまうんじゃないかっていうのも大きいね」
その証拠…と言えるかは分からないが、既に4件、翼くん宛に
内一つは今年の冬にキャスト総入れ替えをする番組のレギュラー枠。
最初に個人で売り出した以上、入って来る仕事も彼個人へのものが多くなることは自明の理だ。
…やはり、どう考えても今更ユニットデビューさせる旨味が無い。
「予定は所詮予定でしかなかったか」とは、目の前の常務の父親でもある美城社長が報告会で零した言葉だが、全くその通りだったと彼の才を見抜けなかった自分を責める他ない。
「…いやぁ、美城くんも
こんな中年のおっさんの愚痴聞いてもらっちゃって。」
「いえ。
「…『中年のおっさん』は否定してくれないのかい?」
「ええ、事実ですから」
数秒の沈黙。
直後、堰を切ったように腹を抱えて笑い出す僕と美城くん。
…一頻り笑った後、挨拶もそこそこに彼女の部屋を出た。
今日の日付は8月29日。
翼くんは
笑う時にあまり歯を見せない練習だとかで「表情筋が攣った」と騒いでいたのは記憶に新しい。
そして、いよいよ
「さて君たちは、彼に負けない輝きを魅せてくれるのかな?」
ーー
美城常務も、原作開始の頃にはちゃんとポエムおばさんになるので、ご安心を。