転生なんて信じてなかったけど、私、保科優姫は少し前に転生した。しかも、遊戯王の世界に。
こういうのは、物語の中だけだと思ってたけど、まさか自分がだなんて⋯⋯。転生した直後はそんな感情でいっぱいだった。
生前、私は友だちに誘われて遊戯王カードはやってたけど、アニメは観てなかったので、今後、どうなっていくのかわからない。
そのため、期待はあったが不安もあった。多分、危険なことが起こったりするんだろうし、それに巻き込まれるかもしれない。
でも、不安はそこまで大きくない。主人公がなんとかしてくれると楽観視していた。
そういうわけで、今はデュエルアカデミアで実技試験の順番待ち。私の受験番号は101番で、そろそろだ。
「——それでは、受験番号101番から110番、会場に来なさい」
そのアナウンスに呼ばれて観客席を立ちあがり、会場に移動する。
今からデュエルかー、緊張するなー。しかも、観客たくさんいるし、下手なデュエルはできないよ⋯⋯。
心臓がバクバク鳴っていた。今までたくさんの人に見られながらデュエルなんてしたことなかったからすごく緊張する。
会場に入ると、一人の試験官がいた。緊張もあって、いかつい顔が少し怖い。
「そんなに緊張しなくても良いよ。リラックス、リラックス」
「あ、あはは。ありがとうございます」
見た目に反して、にっこりと気さくに笑う試験官のおかげで、少し緊張が解けた気がする。
「これは君の実力を見るデュエルだから、負けたからといってダメなわけじゃないからね。それじゃあ、始めようか」
「はい、お願いします」
「「デュエル!」」
試験官LP4000
保科優姫LP4000
「俺のターン、ドロー!」
あっ、先行ってもしかして、早い者勝ち? その場のノリで決めるものなんだ。
「俺はモンスターを一枚とカードを二枚伏せ、ターンエンド。君のターンだ」
試験官LP4000 手札3枚
セットモンスター1枚
セットカード2枚
試験官のターンは始まってすぐに終わった。
わからないカードが3枚。私がどう対応するのか見たいのだろう。
「私のターン、ドロー」
6枚の手札を見る。
私のデッキは悪魔族主体。この状況でそれが有利か不利かなんてわからないし⋯⋯、とりあえず攻めてみよう。
「私は《デーモン・ソルジャー》を召喚。伏せモンスターに攻撃します!」
ソリッドビジョンの《デーモン・ソルジャー》が伏せられたカードに斬りかかる。するとモンスターが現れた。
そのモンスターは、
「残念! 俺のモンスターは《ビッグ・シールド・ガードナー》だ。さらに、罠カード《D2シールド》を発動する! この効果で《ビッグ・シールド・ガードナー》の守備力を倍にする!」
うわ⋯⋯。守備力5200⋯⋯。
保科優姫LP4000→700
ライフ4000はやっぱり、キツイな。
「⋯⋯私はカードを二枚伏せてターンエンド」
保科優姫LP700 手札3枚
《デーモン・ソルジャー》
セットカード2枚
「俺のターン、ドロー。俺はモンスターを一枚伏せ、ターンエンドだ。さあ、どうする?」
試験官LP4000 手札3枚
《ビッグ・シールド・ガードナー》
セットモンスター1体
セットカード1枚
またもや、試験官はすぐに終わった。
向こうからは攻めてこないのかな。
「私のターン、ドロー!」
これは、ツイてる!
「私は《サイクロン》を発動! その伏せカードを破壊します!」
「なにっ」
伏せられていたカードは《魔法の筒》。
ヤバかったな。もしサイクロンを引けてなくて攻撃してたら、反射されて負けてた。
それに、さっきのターン。試験官の伏せモンスターが、ダメージを倍にする《アステカの石像》だったら、それでも負けてた。試験官のデッキなら絶対入ってるカードだろうし⋯⋯。
まあ、何はともあれ相手のバックはガラ空きだ。私のライフも少ないし、このターンで決めたい。
「私は《デーモン・ソルジャー》を生贄にして《軍神ガープ》を召喚します! ガープの効果でフィールドのモンスターは全て攻撃表示になります!」
「そう来たか」
ガープの効果は裏側表示のモンスターにも適用される。
開かれたモンスターは今さっき、危険視したばかりの《アステカの石像》だった。
《軍神ガープ》攻撃力2200
《ビッグ・シールド・ガードナー》攻撃力100
《アステカの石像》攻撃力300
「私は《軍神ガープ》の効果を発動! 手札の《冥府の使者ゴーズ》を見せて、攻撃力を300アップさせます」
「ほう、ゴーズが手札にあるのか。いくら攻撃力を上げるためとはいえ、俺にその情報を与えて良かったのか?」
《ゴーズ》は直接攻撃されたとき、トークンと共に手札から特殊召喚できる強力なカードだ。それにその効果の特性上、相手の意表を突き、計算をずらすことができる。
普通ならしない行動だと私もわかっているけど、
「良いんです。私は《闇の誘惑》を発動して、2枚ドローし、《ゴーズ》を除外します」
ドローしたのは、《月の書》と《魔界発現世行きデスガイド》。
良いカードだけど、このターンに限っては不要だ。特に《月の書》は、《ガープ》がいるうちは使ってもすぐ表側表示になっちゃうし、今は要らない。
でも、このターンで勝てるならなんの問題もない!
「バトルフェイズ! 私は《ガープ》で《アステカの石像》を攻撃します!」
試験官LP4000→1800
「ぐっ、受けよう。しかし、破壊するのは《ビッグ・シールド・ガードナー》じゃなくて良いのかな? 《D2シールド》の効果はまだ続いているぞ?」
この口ぶりから言って、私のターンが終わったら、《ガープ》をどうにかできるみたいだ。
でも、あなたのターンはもうこないっ。
「わかっています。だから私は、伏せカードを発動します! 永続罠《闇次元の解放》! 除外された《ゴーズ》を特殊召喚! そのまま《ビッグ・シールド・ガードナー》に攻撃!」
《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700
これで終わりだっ。
「なるほど、良い戦略だ。だが、まだだ! 俺は手札から、《虹クリボー》の効果を発動する! このカードを《ゴーズ》に装備し、その攻撃を封じる!」
「あっ。いや、だったら! 手札から《月の書》を発動! 《ゴーズ》を裏側表示にします! これで、《虹クリボー》は手札から破壊され、《ゴーズ》は《ガープ》の効果で表側表示になり、攻撃できます!」
ごめん《月の書》! 要らないとか言って! ちょうど良いときに来てくれてありがとう!
「《ゴーズ》で攻撃! 今度こそ終わりです!」
「ぐわあああああ!」
《ゴーズ》の攻撃が、モンスター越しに試験官に襲いかかった。
試験官LP1800→0
「くっ、見事だ」
勝った、そう思った瞬間。
『うおおおおおおおお!』
会場全体が大きな歓声で震えた。
えっ、えっ、なにこれ。さっきまで他の人の試験デュエル観てたけど、こんなのなかったのに。なんで私のときだけ。
「はははっ、すごいじゃないか。みんな君のことを応援してくれてるんだよ」
戸惑う私を見かねたのか、試験官は説明してくれたが、わからない。
「でも、他の人のときはこうじゃなかったですよ?」
「それは、君が良いデュエルをしたっていうのと——」
「優姫ちゃん、かわいいぃいいよぉおおお!」
「俺と付き合ってくれぇええええええええ!」
「私の妹になってぇええええええええええ!」
「食ああああべええええたあああいいいい!」
「——ってことだからかな⋯⋯」
観客が口々に私に向けて自分の願望を叫んでいた。
試験官は引き気味だし、私も、デュエルを評価されたのが、嬉しくないわけじゃないけど、怖い。特に最後の。
「あの、私、もう行ってもいいですか?」
早くこの場を去りたい。
「ああ、良いよ。試験結果は後日伝えるが、まあ、合格だと思うよ」
「ホントですか! ありがとうございます。それでは失礼します」
そう言って、私は足早に会場を後にした。
やったー、合格だ。
実は結構嬉しい私。
アカデミアは海の真ん中にポツンとある島に建てられた、全寮制の学校だ。そんなところに通えるなんてすごくワクワクする。
「フフフッ」
自然と笑みがこぼれたが、廊下には私以外誰もいないから気にすることもない。
いやー、テンション上がってるなー、私。
『テンション上がってるねー、優姫ちゃん』
「うわああ! なにっ! だれっ!」
誰もいないはずの廊下で、しかも耳元に声と息がかかり、思わず跳び上がった。
「うわああ! モンスターだあ!」
『モンスターだなんて失礼ね。まあ、モンスターなんだけど』
そこにいたのはバスガイド風の服を着た、肌が白く髪が赤い女の子。
「ていうか、《デスガイド》じゃん! えっ、なんで? コスプレイヤーさん?」
《魔界発現世行きデスガイド》、のコスプレ? にしてはクオリティー高すぎだけど。
『違うよ! あたしは本物のデスガイドよ。あなたの精霊のね?』
デスガイドはウインクして答えてくれた。
「せ、精霊⋯⋯。聞いたことある、かも。見える人と見えない人がいるんだよね?」
どうやら私は見える人らしい。
生前の友だちが話してくれたことだけど、アニメの中にはカードの精霊というのがいて、主人公も見える人だそうだ。
『やっと見えるようになってくれたね。あたし、寂しかったんだから。いくら触っても触れないなんて』
触る?
「やっとって、いつから一緒にいたの?」
『半年前くらいからかな。そのときから、ずっとだよ? 寝てるときも、お風呂に入ってるときも』
うわー! 変態だー!
『優姫ちゃんは気づいてなかったけど、今は違う。⋯⋯ほら、触れる』
頰を赤く染めて私の手を握ってきた。
えー、この人、じゃなく、このモンスター、百合的なアレなのかな。否定はしないけど。
「あー、なんかよくわかんないけど、これからよろしく?」
『うん。よろしくねっ』
「うわっ、急にくっつかないでよ」
『急じゃなかったらいいの?』
「それは、まあ、いいけど」
慣れっこだし。
友だちにもよく腕にくっつかれてたし、普通だよね? 他の友だちはされてるとこ見たことないけど、普通だよね?
「でも歩きにくいから少し離れてね」
『このくらい?』
「⋯⋯うん、いいよ」
あんまり離れてない。歩けるからいいけど。
しばらく歩いてると、正面から猛ダッシュで走ってくる人影が見えた。
かわそうと思って、右に寄ったけど向こうも同じ方に寄り、だったらこっちだ、と左に避けるが、また同じ方に避ける。
数回のフェイント合戦のうちに距離はどんどん縮まり、最終的にはとうとうぶつかってしまった。
「いったー」
「いてて」
派手にぶつかると思いきや、寸前でスピードを落としたみたいで、衝撃は小さい。しかしそれでも、転んで尻もちをついてしまった。
「スマン! 大丈夫か!」
「う、うん大丈夫」
ぶつかった少年に手を引っ張ってもらい立ち上がる。
「俺、遅刻してさ、急いでるからまたな!」
「あ、うん」
少年は、私の返事も聞かずに会場に向かって走っていった。
「あっ、あの人も精霊がいるよ」
『ホントだ。あれは《ハネクリボー》だね』
「意外と多いのかな、精霊持ち」
遊戯十代。
今会った少年が主人公だと知るのは、もう少し後のことだ。