遊戯王GX 転生したけど原作知識はありません   作:ヤギー

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夜会

 時刻は18時45分。19時から夜会が開かれるので、その時間まで後15分。

 夜会というとオシャレに聞こえるが、実際に行われるのはただの食事会だそうだ。

 そろそろ頃合いなので部屋を出る。そのまま会場に向かおうとしたけど、道中、エリカの部屋が目についたので寄ることにした。

 もう部屋に居ないならそれでいいし、居るなら一緒に行こうと思ったのだ。

 

「エリカー、居る?」

 

 ノックして声を上げたけど、反応がない。もう居ないのかもしれないが、この目で確認したいという好奇心が湧いてきて、悪いと思いつつドアを開けた。

 居たら勝手に入ったことを謝るつもりで身体を室内に入れると、エリカは居た。しかし、ベッドの上で眠っている状態でだ。

 このまま放って置いたら、確実に遅れる。

 近づき呼びかけることにした。

 

「エリカ?」

「わた⋯⋯ゆ、き」

 

 寝言だ。ちょっといたずらしてみようかな。

 

「エリカー?」

 

 名前を呼びながら、頰をツンツンする。柔らかくてスベスベモチモチだ。なんだか癖になりそう。

 

「フフフ」

「⋯⋯」

 

 まだ寝てるよ。寝付きがいいのかな。

 

「んぅ? あむっ」

「うわあ! 食べられたっ! 舐められたっ!」

 

 いきなりエリカの口が開いたと思ったら、くいっと顔をずらし私の人差し指を咥えこんでしまった。

 その動きといたずらがバレてしまったことに驚き一歩後退し、エリカは上半身を起こし私をねめつける。

 

「今何をしていたんですの」

「ご、ごめん。もう時間だから一緒に行こうと思って来たんだけど、寝てて⋯⋯。だから起こそうといたずらを⋯⋯」

 

 冷静に考えると本気でダメなことをしてた。親しき仲にも礼儀ありだね。

 

「もしわたくしが同じことを優姫にしたら、優姫は許せる?」

「いや、ホントごめん。魔がさしたよ」

「わたくしは許せるかどうかを聞いたんですのよ?」

「⋯⋯正直なとこ、エリカにされることならなんでも許せると思う」

「わたくしもそうです、こんなことで本気で怒ったりしませんわ」

 

 それなら良かった。危うく友だちを失くすとこだったよ。

 

「でも」

 

 そう言ってエリカは立ち上がり、私のすぐ目の前まで詰め寄る。

 

「な、なにかな?」

 

 距離を保とうと後ずさるけど、その分エリカも一歩こちらに踏み出す。そんなことをしているうちに、壁際まで追い詰められてしまった。

 

「あはは、やっぱり怒ってる?」

「怒ってませんわ。ただ、わたくしはやられっぱなしは趣味じゃありませんの」

「ふぃあぁぃい!?」

 

 両頬をつねられた。結構強めに引き伸ばされ痛い。そしてあろうことかエリカは、痛がる私を見て嬉しそうにしている。

 

「ふう、気が晴れましたわ。それにしても優姫も意外とお茶目なことをしますのね」

「珍しかったからついね。あっ、時間だよ。行こう?」

「ええ」

 

 時刻は18時50分になった。

 

 

 

 会場に着くと、すでに私とエリカ以外は全員いた。

 テーブルはやや細長いコの字型に並べてあり、真ん中の奥にお祖父さんが座っている。

 入り口から見て右側はお母さんたち親の席みたいだ。手前から、2番目3番目に、五典さんお母さんという順番で座っていることから、奥から手前にかけて兄妹の順番になっていることが察せた。

 そして左側は少し不思議なことになっている。1番奥と手前から2番目が空席になっていた。これは私とエリカの席だとわかるが、なんで飛び飛びになっているんだろう。

 どっちに座ったものかエリカと悩んでいると、お祖父さんの低い声が会場に響いた。

 

「優姫がここに座りなさい」

「あ、うん」

 

 その指示を聞き、エリカはホッとしたように手前側の席に着く。よっぽど苦手なんだろう。

 対して私は席の後ろを通り、奥に移動する。すると、統治が身体ごとこちらに向けて睨みつけてきた。多分この席順が気に入らないんだろう。

 本来だったらここの席に統治が座る予定だったはずだ。それなのに私が座り、統治はお祖父さんと1席離される形になった。

 自分が最もお祖父さんに近い存在なのに! というのが統治の心の内か。そんなの気にするようなことじゃないのに。

 私は統治の睨みつける視線を浴びながら、彼の左隣に着席した。

 座ると同時にお祖父さんが口を開く。

 

「全員揃ったな。時間もちょうど19時だ。本来ならこうして、挨拶まがいのことはするつもりがなかったんだが、お前らが集めた理由を言えとうるさいからな。仕方ないから今話す。っと、その前に、おい、運んでくれ」

 

 お祖父さんの一声で入り口の脇に待機していたウェイターさんのような人たちが、テキパキと行動を開始した。これから料理を運ぶんだろう。

 

「さて、理由だが、単にお前らの顔が見たくなったからだ。こうして家族総出で飯でも食いたかった。ま、当初はそれだけだったんだがな。デカくなった孫たちを見たら、どんなデュエルをするか見たくなった。しかしそれは後日だ。まだプランはなにも考えていないからな。そういうわけでお前らはしばらくここにいろ」

 

 人の都合を考えない自分勝手な物言いだ。しばらくだなんて曖昧な言葉は、この場の全ての人の予定を狂わせているだろう。

 私はチラリと視線を右に移す。統治はじっと黙って傾聴していた。こんなデタラメなお祖父さんの血がそんなに誇らしいのか。

 正面を見ると、皆一様に諦観の表情だ。これを見るにもうどうしようもないことなんだと悟った。

 

「はあ、もうジジイの好きにすればいいじゃない」

「俺はもともとそのつもりだが?」

「ま、いいけどね。それより、なんで優がそこにいんのよ。ジジイが指定したんでしょ?」

「お前ならわかるだろ。気に入ったんだよ、優姫をな」

 

 私気に入られてたの。ていうか、右からの視線がすごく痛いんですけど。

 

「ジジイはそうかもしれないけど、優は違うんじゃない?」

 

 うわっ、お母さん変なこと聞かないでよ。

 

「そうなのか? 優姫?」

 

 ほらー、こうなる。困った質問が飛んできたよ。

 私は好きじゃない、と答えてしまっていいんだろうか。機嫌を損ねてまた変なもやをださせたくはない。

 けど、お母さんだってこうなるって予想はできただろうし、どう答えても大丈夫か。

 

「そんなことより、そろそろ食べてもいい?」

「おう、そうだな。皆、食ってくれ」

 

 旅館で出てくるような豪勢な料理がすでに各席に運ばれていた。お祖父さんの許可が出て、各々箸やお酒の瓶を手に取る。

 お祖父さんは特別さっきの質問を気にしてないのか、追求してくることはなかった。

 

「優姫、注いでくれないか?」

「うん」

「お祖父様! 俺が注ぎますよ!」

 

 そう発したのは統治だ。いつの間にか席を立ち、私とお祖父さんの間に割って入った。

 お酒の場でのマナーというやつか。そういうの私は全然わからない。多分だけど、今の統治みたいに自分から行かなきゃダメなんだろう。

 さすが、歳上なだけあってこういうときは頼りになる。まあ、歳上ってのは私の予想でしかないけど、2つか3つは上なはずだ。

 

「俺は優姫に頼んだんだがな」

「こんなやつより俺の方がいいですよ!」

 

 こんなやつって、随分嫌われたな。別にあなたの大好きなお祖父さんをとったりしないから。

 

「ハッハッハ。俺のやることにけちをつける奴がいるとはな。随分と久しいよ」

 

 笑い声を上げてはいるけど、目は鋭かった。もしかしたら怒る一歩手前なのかもしれない。

 

「す、すいませんでした⋯⋯」

 

 統治もそれを察したのか、すごすごと自分の席に戻る。戻りつつ、八つ当たりのように睨みつけられた。

 

「優姫、注いでくれ」

「上手くできるかわからないけど」

 

 傾けられたコップになみなみとビールを注いだ。

 

 

 

 夜会はつつがなく終わった。

 その帰り際、統治に因縁をつけられてうんざりしたが、話しの最後にデュエルで決着をつけようと提案してきたので、かなみとの約束もあり、私は好都合とばかりに乗った。

 お祖父さんは孫のデュエルを見たいと言い、そのプランを考えるとも言っていたので、そのときが統治とのデュエルになるだろう。

 私は部屋に戻ると、ベッドの上でぴっしりとしたシーツにデッキを広げた。

 60枚だけど自由自在に回ってくれる、あらゆる悪魔族のテーマを混合したデッキだ。

 

『ゆ・う・き・ちゃんっ』

「デスガイド?」

 

 私の背後からデスガイドが抱きついてきた。お腹に手を回され、肩口に頭を乗せてきている。お尻も太ももで挟まれて、完全に密着している状態だ。

 

『ここ、いいとこだねぇ。あたしたち悪魔族にかなり適した場所だよ』

「そうなんだ」

 

 人間の世界にも種族によって、良い場所、悪い場所があるんだ。

 

「あ、それだったら精霊のコンディションによってデッキの回り方も変わってくるとかある?」

『あるかもね。そういう意味ではここは悪魔族のデッキを使う優姫ちゃんにとって、1番力を発揮できる場所だってことだよ』

「そしてエリカにとっては1番力を出せない場所ってことか」

 

 それは悪魔族が好きな場所は天使族は嫌いだろうという、ただの予想でしかないけど、互いに正反対の存在だし、多分あってるだろう。

 

『あれ、そのカード何?』

「これ? さっきお祖父さんから貰ったカードだけど』

『ふうん。それはデッキに入れないの?』

「グラファはもう入ってるからこれじゃなくてもいいんだ」

『だったら入れ替えよう! そっちの方が絶対いいよ!』

「それって意味あるの?」

『んー、ないっ。けど入れ替えよう!』

 

 この強引さは怪しい。

 理由もなしに同じカードを入れ替える必要があるんだろうか。

 

「なんか企んでない?」

『企んでないから、ほらほらー』

「うわぁ! わかったから、胸から手を離して!」

 

 お腹に回されていた手で、胸や脇をくすぐられた。

 上へ下へと行ったり来たり。そんなにされたらズレるからっ。 

 

「もう、入れればいいんでしょ!」

『えへへ。まあ、そんなに悪影響はないから』

 

 そんなにって、少しは影響があるってことだよね。

 

「よし、デッキはもういいや」

 

 私はシーツに広がったカードたちをまとめて仕舞った。

 

「デスガイド、ちょっと離れて」

『あれ、もしかして怒ってる?』

 

 デスガイドから少し離れて向き合う。

 ちなみに怒ってはいない。

 

「怒ってるよ。だから——」

 

 こうしてやるっ。

 

『あ、ははははは! ちょ、優姫ちゃっ、やめっ! あはははは!』

 

 飛びかかって馬乗りになり、全力でくすぐった。いつもはやられっぱなしだから、ここぞとばかりにくすぐった。

 

『い、いつもはこんな、こんなことしないのにっ!』

「私だってたまにはやり返すんだから。どうだ、参ったか!」

『あっは! ゆ、優姫ちゃんっ! あっ、はぁっ、んっ、はははぁっ、あんっ、あぁっ、ごめん! ゆ、許してっ』

 

 わかればいいんだ。

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