夜会の日からもう一週間が経つが、お祖父さんからの指示はまだない。だから今日まで、各々自由な生活を送っていた。
一週間もあれば、身近で過ごす人の性格や特徴も少しはわかってくるし、その関係性も進展するものだ。
具体的に言うと、エリカとかなみの仲が良くなっていた。どうやらかなみは姉というものに憧れがあったらしく、1つ歳上のエリカに懐いてしまったみたいだ。
私もエリカと同じく歳上だけど、かなみの私に対する態度はどこか冷めている。
なんでだろう。
「なんでなの?」
募った疑問を部屋にいるかなみにぶつけてみた。
「優姫さんはちんちくりんだし、いざってときに頼りにならなさそうだからです」
聞くと辛辣な答えが返ってくる。冗談めかす振りもなく、真顔だ。
「確かに優姫は、頼られる姉と言うよりも、可愛がられる妹のような感じですわね」
「ですよねー、エリカさんっ」
私に対するときとは打って変わって、エリカに笑顔を向けるかなみ。エリカも慕われて嬉しいのか頰が緩んでいるし、私は妙な疎外感に襲われた。
ただ、だからといってかなみを好きになれないというわけじゃない。むしろ好ましかった。
生意気な態度で接してくるけど、跳ねっ返りは可愛いのだ。そして、そう思える私は、存外姉気質な性格なのかもしれない。見た目はともかくとして。
「エリカちゃん、居る?」
部屋の入り口から、ノックと共にエリカを呼ぶ声がした。部屋の主であるエリカは応対するために出向く。
ドアが開かれると声を発した涼介とその隣に圭がいた。
夜闇涼介と夜闇圭。エリカとかなみが仲良くなったように、この2人も一緒に談笑しているところをよく見る。
年齢的に同じくらいだし、男同士で話しやすいんだろうか。
そんな2人がエリカになんの用だろう。
「おっ、3人共ここにいたのか、丁度良かった。お爺さんがお呼びだよ、全員地下のデュエルコートに集合だって」
「ええ、わかりましたわ」
「それじゃ、僕たちは先に行ってるから」
2人はこの場を去って部屋の中からは見えなくなった。
ようやくこのときが来た。
そう思ったら、心が妙に高ぶってくる。まるでデッキが早くデュエルをしろ、と急かしているような感覚だ。
この一週間、こうなることがよくあった。その度にエリカやかなみとデュエルをすることで、自分を慰めて気持ちを落ち着けようとしてきた。
しかしそれでも、心の疼きは止められなかった。
物足りないんだ。エリカとかなみだけでは物足りない。もっとたくさんの人とデュエルしたい。
そして、
「⋯⋯力を示したい」
「ん? 優姫さん、今なにか言いました?」
「ううん、なにも」
私はどうしてしまったんだろう。
デュエルコートに来た。
そこにはすでに、私たち以外の従兄妹が集まっていて、それぞれの親の姿も見える。
この場に全員が集まったのを見計らって、お祖父さんは口を開いた。
「さて、これからお前たちにはデュエルをしてもらうのだが、ただするのでは面白味に欠ける。よってトーナメント方式で戦ってもらうことにした。まあ、勝ったからといってなにか賞品があるわけではないがな。⋯⋯そこで、ここに6枚の紙が入った箱がある。紙には数字が書いてあるので、まず全員、引いてほしい」
その言葉通り、私たちは順番に箱から紙を1枚取り出す。私が掴んだ紙には2と書かれていた。
他は、1が圭、3が涼介、4が統治、5がエリカ、6がかなみとなっている。
「その数字はトーナメントの組み合わせに使われる。1と6はシード枠で、最初にデュエルするのは2と3、次は4と5の紙を持った者だ。そしてそれぞれ勝った方が1と6とデュエルして、そこで勝ち抜いた者が決勝に進むといった具合だ」
つまり最初のデュエルは私と涼介ということか。
「さあ、早速始めてもらおうか。2と3は前に出ろ」
よし、行こう。
「やあ、優姫ちゃん。お手柔らかに頼むよ」
定位置につくと涼介が朗らかに話してきた。
「涼介は全力できてもいいよ」
見た目の優しい印象もあって、その台詞が戦意に欠けているように聞こえたので、軽い挑発を混ぜて返す。
「いいのかい? 僕はこれでもプロなんだよ? まあ、なりたての新人なんだけどね」
「へえー、すごいね。だったらなおさら全力できなよ」
「見た目によらず、以外と好戦的だ。いいよ、早速始めようか」
「さあ」
「「デュエル!」」
夜闇涼介LP4000
保科優姫LP4000
「僕から行かせてもらうよ、ドロー! まずは魔法カード《トレード・イン》を発動。手札のレベル8モンスター、《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》を捨てて、二枚ドローだ」
《デーモン》か。私のデッキにもその名のつくモンスターは入っている、骨っぽくていかついモンスターたちだ。そうじゃないモンスターもいるけどね。
「そして手札から《デーモンの騎兵》を召喚、さらに自分フィールド上に《デーモン》があるときこのカード、《デーモンの将星》を特殊召喚だよ」
《デーモンの騎兵》攻撃力1900
《デーモンの将星》攻撃力2500
「《デーモンの将星》は今の方法で特殊召喚したターン、攻撃はできない。まあ、1ターン目だから関係ないけどね。もう1つ、今の方法で特殊召喚したとき自分フィールド上の《デーモン》を破壊しなければならない。僕は《デーモンの騎兵》を破壊する」
「そしてカードの効果で破壊された《デーモンの騎兵》の効果で、墓地の《ジェネシス・デーモン》を特殊召喚?」
「その通りだよ、よくわかってるね。《ジェネシス・デーモン》を特殊召喚だ」
《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000
《デーモン》のボス格のモンスターだ。その攻撃力も大台に達していて迫力がある。
「《デーモンの騎兵》の効果で特殊召喚されたモンスターは、そのターン攻撃できないけど、これも1ターン目なら関係ない。僕はカードを1枚セットしてターンを終えるよ」
夜闇涼介LP4000 手札3枚
《デーモンの将星》攻撃力2500
《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000
セットカード1枚
「私のターン、ドロー!」
さあ、どうしてやろう。
色々手はあるけど、まずはこれだね。
「《魔界発現世行きデスガイド》を召喚。効果でデッキからレベル3のモンスターを効果を無効にして特殊召喚する。私は《魔犬オクトロス》を特殊召喚」
《魔界発現世行きデスガイド》攻撃力1000
《魔犬オクトロス》攻撃力800
「そして手札から魔法カード《トランスターン》を発動する。自分フィールド上のモンスターを墓地に送り、そのカードと同じ種族、属性でレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する。《オクトロス》を墓地に送り《メルキド四面獣》を特殊召喚。さらに、墓地に送られた《オクトロス》の効果で、デッキから悪魔族のレベル8モンスターを手札に加える。私は《仮面魔獣デス・ガーディウス》を加える」
《メルキド四面獣》攻撃力1500
「フィールドの《メルキド四面獣》を含む2体のモンスターをリリースして、手札の《仮面魔獣デス・ガーディウス》を特殊召喚!」
《仮面魔獣デス・ガーディウス》攻撃力3300
「君もそのモンスターを使うのか」
「悪魔族だからね」
高い攻撃力とその効果。いると安心できるモンスターだ。
まあ、かなみはその効果を利用されて統治に負けたんだけど。
「バトルだよ。《デス・ガーディウス》で《ジェネシス・デーモン》に攻撃!」
夜闇涼介LP4000→3700
「くっ、こうもあっさりとやられるとはね。だが、リバースカード発動《デーモンとの駆け引き》! 自分のレベル8以上のモンスターが墓地に送られたターンに発動できる速攻魔法だ! この効果でデッキから《バーサーク・デッド・ドラゴン》を特殊召喚!」
《バーサーク・デッド・ドラゴン》攻撃力3500
「私はこれでターンエンド」
保科優姫LP4000 手札4枚
《仮面魔獣デス・ガーディウス》攻撃力3300
《バーサーク・デッド・ドラゴン》か。あのバカみたいに高い攻撃力は魅力だけど、アンデッド族だからなぁ。悪魔族だったらデッキに入れてたのに。
「僕のターン、ドロー。僕は《トランス・デーモン》を召喚する」
《トランス・デーモン》攻撃力1500
「《トランス・デーモン》の効果を発動。手札の悪魔族モンスターを1枚捨てて、このターンのみ攻撃力を500アップさせる。捨てるカードは《トリック・デーモン》だ。よって、捨てられたことで効果を発動する。デッキから《デーモン》のカードを手札に加える。僕が加えるのは《伏魔殿—悪魔の迷宮—》だ」
《トランス・デーモン》攻撃力1500→2000
伏魔殿と書いてデーモンパレスと読むこのカードは《トリック・デーモン》でサーチ可能だ。《トリック・デーモン》はサーチ可能な範囲が広すぎるんだよね。発動条件もそこそこ緩いし。
まあ、だからこそ私のデッキにも入ってるんだけど。
「そして、今手札に加えたフィールド魔法《伏魔殿—悪魔の迷宮—》を発動だ! このカードがある限り、自分フィールド上の悪魔族モンスターの攻撃力は500ポイントアップする」
《デーモンの将星》攻撃力2500→3000
《トランス・デーモン》攻撃力2000→2500
「次に魔法カード《デビルズ・サンクチュアリ》を発動、自分フィールドに《メタルデビル・トークン》を1体特殊召喚する。さらに《伏魔殿》の効果だ。自分フィールド上の《デーモン》と名のつくモンスターを選択して発動する。選択したモンスター以外の悪魔族モンスターを除外し、選択したモンスターと同じレベルの《デーモン》モンスターを手札、デッキ、墓地から選んで1体特殊召喚する。僕が選択するのは《デーモンの将星》で、除外するのは《メタルデビル・トークン》。そして、特殊召喚するのは《暗黒魔族ギルファーデーモン》だ!」
《暗黒魔族ギルファーデーモン》攻撃力2200→2700
《ギルファーデーモン》とは渋い。しかもモンスターとしてフィールドに召喚するとは。なかなかやるね。
「バトルだ。《バーサーク・デッド・ドラゴン》で《デス・ガーディウス》に攻撃!」
保科優姫LP4000→3800
「くっ、でもこのとき、《デス・ガーディウス》の効果発動。デッキから《遺言の仮面》を相手モンスターに装備する。《バーサーク・デッド・ドラゴン》に装備。そして装備された《バーサーク・デッド・ドラゴン》のコントロールを奪うよ」
「わかってたさ。それなら《ギルファーデーモン》で《バーサーク・デッド・ドラゴン》に攻撃だ!」
「《バーサーク・デッド・ドラゴン》の方が攻撃力は高い。よって返り討ちだよ」
夜闇涼介LP3700→2900
「ここで、墓地に送られた《ギルファーデーモン》の効果発動だ。《バーサーク・デッド・ドラゴン》の装備カードとなり、その攻撃力を500ポイントダウンさせる」
《バーサーク・デッド・ドラゴン》攻撃力3000
「これで攻撃力3000! 僕は《デーモンの将星》で《バーサーク・デッド・ドラゴン》に攻撃!」
「両者同じ攻撃力のため、どっちも破壊される」
《ギルファーデーモン》はこのためだったのか。《デス・ガーディウス》が破壊されるにしても、《バーサーク・デッド・ドラゴン》まで対処されるとは思わなかったな。
「最後に《トランス・デーモン》でダイレクトアタックだ!」
「受けるよ」
保科優姫LP3800→1300
「フィールドがガラ空きでダメージを受けたこの瞬間、手札から《冥府の使者ゴーズ》を特殊召喚する! そして《ゴーズ》の効果! 今受けた戦闘ダメージと同じ攻撃力と守備力を持つ《冥府の使者カイエントークン》を特殊召喚!」
《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700
《冥府の使者カイエントークン》攻撃力2500
「厄介なモンスターが次から次へと出てくるね。僕はカードを1枚セットしてターンエンドだよ」
夜闇涼介LP2900 手札0枚
《トランス・デーモン》攻撃力2500→2000
セットカード1枚
「私のターン、ドロー!」
ライフや手札から言って、デュエルは終盤、考え抜けばこのターンで決着をつけることができるかもしれない。
セットカードを見なければ総攻撃で勝ちだけど、多分そうは行かないだろうな。まずはあのセットカードをなんとかしなきゃいけないけど、今の私に安全に処理する方法はない。
かと言って攻撃しないのは問題の先送りにしかならないし、弱気すぎる。
仕方ない、攻撃してから考えよう。モンスターの召喚もしない。場の2体だけで攻撃だ。
なに、このターンがダメでも、次の自分のターンが回ってきたら攻めればいいんだ。
「よし! バトルフェイズ! 私は《ゴーズ》で《トランス・デーモン》に攻撃!」
「《トランス・デーモン》は破壊される」
夜闇涼介LP2900→2200
「《カイエントークン》でダイレクトアタック!」
「ここでリバースカード《デーモンの雄叫び》! 500ライフポイント払って発動する! 墓地の《デーモン》と名のつくモンスターを1体特殊召喚する。《トリック・デーモン》を守備表示で特殊召喚だ!」
夜闇涼介LP2200→1700
《トリック・デーモン》守備力0
「なら、そのまま《トリック・デーモン》に攻撃!」
「墓地に送られた《トリック・デーモン》の効果発動! デッキから《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》を手札に加える!」
ヤバいカードをサーチされたな。でも《デーモンの雄叫び》で蘇生されたモンスターはエンドフェイズに破壊されるから、攻撃するにしろしないにしろ、効果は発動されてた。だから悪手ではなかったはずだ。
「メインフェイズ。魔法カード《おろかな埋葬》を発動。デッキから《ヘル・エンプレス・デーモン》を墓地に送る。そしてカードを1枚伏せてターンエンドだよ」
保科優姫LP1300 手札2枚
《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700
《冥府の使者カイエントークン》攻撃力2500
セットカード1枚
結果論を抜きにしたら、そこそこ最良の手を打てたと思う。後は向こうがどう来るかだ。
「僕のターン、ドロー! いやあ、今のターンで負けるかと思ったよ」
「もしかしたら勝てたかもしれないけど、それは結果論だからね」
「いいや。結果論でも君は攻めるべきだったんだよ」
「まるでもう勝ったかのような口ぶりだね」
「まあ、見てなよ。僕は装備魔法カード《堕落》を発動だ! 君の《ゴーズ》のコントロールを奪う!」
《冥府の使者ゴーズ》攻撃力2700→3200
《伏魔殿》の効果で《ゴーズ》の攻撃力は500ポイント上がる。
「そして手札から《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》を妥協召喚だ!」
《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力1500→2000
「このモンスターはレベル8だけど妥協召喚することができる。そうした場合、攻撃力と守備力が元々の半分になりこのターンのエンドフェイズ時に破壊される。さらに僕は《伏魔殿》の効果を発動する。《ジェネシス・デーモン》を選択して《ゴーズ》を除外。そして墓地から《ジェネシス・デーモン》を選択して特殊召喚だ!」
《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3000→3500
「優姫ちゃん。君なら《ジェネシス・デーモン》の効果は知っているだろう?」
「《ジェネシス・デーモン》の効果。1ターンに1度、手札、墓地から《デーモン》のカードを1枚除外することで、フィールドのカードを破壊する、だね」
「そうだ。僕のフィールドには《ジェネシス・デーモン》が2体いる。君のカードも2枚だ。この意味、わかるだろ?」
もちろんわかっている。効果を使われたらガラ空きになるということだ。
さらに言えば、涼介にはわからないことだけど、私の手札にはもう《ゴーズ》のようなカードはない。
でも、勝ちを確信するのはまだ早いんじゃない?
「《ジェネシス・デーモン》の効果発動! 墓地の《トリック・デーモン》を除外して、《カイエントークン》を破壊! そして2体目の《ジェネシス・デーモン》の効果! 墓地の《デーモンの将星》を除外してセットカードを破壊だ!」
「その効果にチェーンして伏せカードオープン《リビングデッドの呼び声》! 私は墓地のモンスターを特殊召喚する!」
「そのカードは!?」
「そう。私は《デス・ガーディウス》を特殊召喚する!」
《仮面魔獣デス・ガーディウス》攻撃力3300
「そいつは⋯⋯ っ!」」
「そうだよ。《リビングデッド》が破壊されたことで、《デス・ガーディウス》も破壊される。でもこの瞬間効果を発動する! デッキから《遺言の仮面》を攻撃力3500の《ジェネシス・デーモン》に装備してコントロールを得る」
《戦慄の凶皇—ジェネシス・デーモン》攻撃力3500→3000
「そうか。なるほどね⋯⋯」
涼介がそう呟いた。多分、負けを悟ったのだろう。手札は0枚、フィールドに残った《ジェネシス・デーモン》はターンの終わりに破壊される。
もう打つ手はないんだ。
「僕はターンエンドだよ」
夜闇涼介LP1700 手札0枚
「私のターン、ドロー。《ジェネシス・デーモン》でダイレクトアタック!」
夜闇涼介LP1700→0
終わった。