私たちはあれから互いの自室に戻った。
あっと言う間に一晩明けてしまい眠気を押しながら学業につく。
そして今は昼休み。昼食を終えゆったりと微睡んでいるところだ。
「ゆ、優姫」
隣から私を呼ぶ声がした。その声を発したのはエリカ。目を合わせると照れたように逸らされる。
「どうしたの?」
「時間が空いたから、昨日のことを話し合って整理しておこうと思って⋯⋯」
「それはいいけど顔が赤いよ?」
「⋯⋯一晩寝て、昨晩わたくしがしたことを振り返ったんですが、その⋯⋯、過激なことを優姫にしてしまったな、と思いまして。すいませんでした」
「気にしなくていいよ、私も気にしないから。全部、カードにかかった呪いのせいってことにしておこうよ」
改まって謝られて、エリカは悪くないという風に答えた。
「そう言ってくれると助かりますわ」
「丸く収まったし。それで、呪いのことだよね」
断片的にその情報は頭の中にあるけど、それらは繋ぎあってない。エリカの言う通りにここで整理しておこう。
「まず、発端はお祖父さんからもらったカードだね。これに呪いがかかってた。理由はわからないけどね」
「そして、呪いの効果は精霊との親和性を高めるもので、わたくしが堕天使をデッキに入れても回せるようになったのは、これのおかげというわけですわね」
エリカもよく知ってるな。イシュタムからちゃんと話しを聞けたみたいだ。
「ただ、呪いには副作用があってそのせいでエリカは昨日みたいになってしまった、と」
「ま、まあそうですわね。本心や願望が大きくなり、それに忠実に行動するようになるから、普段しないようなこともしてしまうんですわ⋯⋯」
エリカはバツが悪そうに解説する。見た目に変化がないからそこからはわからないけど、こうなってるってことは、やっぱり本当に元に戻ってるんだ。
「呪いに関してはこんなところかな。一度落ち着いてしまえば再発はないってデスガイドは言ってたし、エリカはもう大丈夫だと思うよ」
「そうなんですの?」
『そうだよー』
いつの間にかデスガイドが現れて私越しにエリカに返答し、言葉を続ける。
『こういうのって一回克服したら大丈夫になるんだよ。自分の内面を理解することで、心が成長するから』
「⋯⋯なんとなく漠然としているけど、わかる気がしますわ。わたくしたちは子供で、その心もまだまだ成長過程の途中にあり弱い。呪いはそこにつけこんできたということですわね」
『ん? んー、うん、そうだよ』
曖昧に答えるデスガイド。本当にわかって言ってるのかな。
「私たちって呪いの悪影響に対する耐性は元々高いから、平常時は大丈夫だけど心のキャパを越えるようななにかがあったときには、すぐに呪いの影響を受けちゃうってことでいいんだよね?」
『そうそう、そういうこと!』
今度は合点がいったように頷いた。
要は心の問題。どうしようもない悩みだとかを抱えてしまうことで変になってしまうわけで、普段からそうならないようにしておけばオッケーなんだ。
「優姫は悩みとかないんですの?」
「私は特にないかな。まあ、今の所だけど。でも他の従兄妹たちはどうだろうね。多分みんなが貰ったカードにも呪いはかかってるだろうし、危ない人もいるかも」
「そうですわね。でもここにいるわたくしたちにはどうにもできませんし、自力でなんとかしてもらうしかありませんわね」
『他のみんなも備わってる呪いの耐性は高めだし、必ずしも悪影響を受けるとは限らないしね』
圭や涼介なんかは大人だし、自分の心に向き合って折り合いをつけられると思う。涼介に関してはプロの世界が厳しくて、ていう想像できるけど。
反面、統治やかなみはちょっとヤバそう。二人はエリカに似てるとこがあるし、壁にぶつかったらすぐヘコみそうなイメージがある。
まあでも、今なにか考えてもできることがあるわけでもないし、自分のことに気をつけておこう。
「そうだ、エリカ。エリカのデッキって今どうなってるの? 堕天使一色?」
「そうですわ。堕天使はアテナのデッキとは別に作りましたの」
「混合にしないの? その方が強そうだけど」
「わたくしもそう思うんですけど、アテナとイシュタムに反対されたから混ぜることはしてませんわ」
「そうなんだ。勿体無い」
『あはは⋯⋯。精霊って力が強いと、それだけ我も強いからねー』
デスガイドは呆れ顔で言う。
「でもいつかは二人に納得してもらって混ぜ合わせたデッキを作りますの。そのときわたくしは最強になるんですわ!」
「おお、期待してるよ」
「ええ!」
まだ見ぬ未来に想いを馳せるエリカは闘志を燃やした。エリカはまだまだ強くなる余地を残している。
私と対等でないと思い込んだからエリカは呪いに侵されてしまったけど、私だってなにかのきっかけでそうなってしまう可能性はある。悩みなんて誰しも抱えているものだから、それは当然のことなんだ。
大事なのはそうなってしまったときに、頼れる人がいるかどうか。呪いの有無は関係なく、人は独りでは生きていけないんだと私は思う。
もしもこの先、私が呪いでおかしくなってしまうとしても、私に不安はない。だって、そのときはエリカが助けてくれると確信しているから。