遊戯王GX 転生したけど原作知識はありません   作:ヤギー

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VSカイザー 普通のデュエル

 沙夜が来てから数週間が経ち、私の生活は見事に改善された。前よりも随分と有意義な人生になった気がする。想像以上に沙夜は有能だったのだ。

 食事は美味しくてヘルシーになったし、朝と夜のジョギングも私の体力に合わせてしっかりとプランニングをしてくれて、無理なく今日まで続けてこられた。ひとえに沙夜のおかげであり、今では感謝の気持ちでいっぱいだ。

 今夜も当然ジョギングがあり、そろそろその時間となるので私は走る格好に着替えることにした。ベッドを見るとトレーニングウェアが綺麗に折り畳まれている。これらは沙夜が私に合わせて見繕ってくれたものだ。

 早速私は全裸になって用意されたスポーツショーツを履き、七分丈のランニングタイツを身につけ、ハードタイプのスポーツブラに首を通す。そしてナイロンジャケットを着た。

 上から下まで全てにおいて私にぴたりとハマる服だ。沙夜の有能さが窺える。これが使用人という職業なんだろうか、それとも沙夜個人だけなのか。沙夜の他に比べる相手を知らないからわからないけど、少なくとも沙夜は優秀だ。それはこの服や私の生活改善のことだけでなく、立ち居振る舞いとかなんか変なアイテムを持ってたりするとこもそうで、いざってときはすごい頼りになると思う。変なアイテムとかドラえもんみたいだけど。

 まあ、とにかく。闇のゲームのことさえなければ沙夜は私にとって良い奴ってことだ。

 準備もできたしそろそろ行こう。

 

「さよえもん、もう着替えたよ」

「はい。それでは参りましょうか、コロ助様」

 

 のび太呼びじゃないところに悪意を感じるんだよなあ。

 沙夜はこういうところもある。

 

 

 最近のコースは女子寮から灯台まで。

 沙夜と並走すること二十分、私たちは灯台付近まで辿り着いた。いつもはここで折り返して復路をまた走るんだけど、沙夜に制止をかけられ立ち止まる。

 

「どうしたの?」

「あちらに二人の人影があるのが見えますか」

 

 沙夜は灯台の根元を指差して言う。指の先には確かに二人いた。男と女、よくよく見ると見知った顔だ。

 

「明日香と三年のカイザーとか言われてる人だね。こんな時間になにしてるんだろ」

「優姫様、ジョギングは一旦終了してあの男性とデュエルしませんか」

 

 その提案に私は訝しげな表情を沙夜に見せた。考えを見透かそうとするけど、沙夜相手にそんなことができるわけもなく、ただじっと見つめる。

 正直、生徒の中で一番強いと言われてるカイザーとのデュエルはしてみたい。だから沙夜を見つめているのは、疑いよりもなにも企んでないことを証明してくれるならして欲しいという気持ちからの挙動に近かった。

 

「普通のデュエルです。これに嘘はありませんよ。強いて理由を上げるのなら、力のある方との接点作りといったところでしょうか。彼は将来プロデュエリストになる方ですので一度面識を得てコネクションを作ることが得策だと思ったのです」

 

 なるほど。それなら信じても良い理由になるな。

 

「でもあの二人、なんか良い雰囲気だし邪魔することになるよ」

「いいえ。二人に恋愛関係はありませんよ」

 

 きっぱりと言い切ったね。沙夜がそう言うならそうなんだろうけど。

 

「断られなかったらやるよ」

「大丈夫です。私が申し出たら、向こうの方がデュエルに積極的になりますから」

「わあ、意味深」

 

 なにかを含んだ物言いが少し気になったけど、問題はないと判断して私たちは灯台に向かった。

 沙夜は恋仲を否定したけど、行くまでの間になんかされたら気まずいから、大げさにならない程度に足音を立てながら近づく。その音に二人は気づくと意外そうな顔でこちらを見てきた。

 

「あら、優姫と⋯⋯、そちらは?」

「これは沙夜。私の使いパシリだよ」

「私は沙夜です。夜闇家の使用人でございます」

 

 沙夜は表情を変えずに私の紹介を訂正する。茶目っ気心をスルーされたみたいでちょっと寂しい。

 

「知り合いか?」

「ええ、まあ」

 

 カイザーの問いに明日香は曖昧に頷く。確かに私と明日香は自己紹介をしたし知り合いと言えるけど、それ以来会話は殆どしてない。だから今のところ、悪い印象はないけど良い印象もないのだ。

 

「俺は丸藤亮だ」

「カイザーだよね。二人はどうしてここに? そういう関係なの?」

「ち、違うわ。私はただ、相談を⋯⋯」

「相談」

「現在、行方不明の天上院吹雪のことです」

「沙夜には聞いてないけどそうなんだ」

 

 調べればすぐわかることだけど、ホント沙夜は物知りだ。もしかしたらその人の所在も知ってるかも。

 

「ちなみに沙夜はその人がどこにいるのかわかる?」

「わかりますよ。教えましょうか?」

「ああ、ホントにわかるんだね」

「⋯⋯それは本当なの?」

 

 明日香の怪しむ姿を見て沙夜の言葉が冗談事じゃないことに気づく。行方不明ってつまり人が一人居なくなったってことだ。これで嘘だったらさすがに不謹慎だけど、沙夜ならそうじゃないだろうな。

 

「この二人に教えないのなら、優姫様にだけ特別に教えて差し上げます」

「いや、教えてあげなよ。知ってるってのは嘘じゃないんでしょ?」

「本当のことにございます。ですがこれはおいそれと人に話して良いことではないので。大変に危険なことに巻き込まれかねないのですよ」

 

 知っていて教えない。または、知っていると思わせて期待を煽る沙夜に、明日香とカイザーの表情は険しくなる。二人からしたら、よく知りもしない人におちょくられてるようなものだし、こうなるのは当然だ。

 

「ですが、デュエルで勝つことができたなら吝かではありません」

 

 ああ、そういうつもりで。手段を選ばないというかなんというか⋯⋯。

 

「吹雪の所在を知っているのは本当なんだな?」

「はい」

「ならば俺が相手だ」

「はい。ディスクはこちらで用意しておりますが、デッキはお持ちですか」

「当然だ」

「それでしたらどうぞ。優姫様も」

 

 背負っていたバッグから二つのデュエルディスクを取り出し、私とカイザーに手渡す沙夜。わざわざ持ち歩いていたということは、この状況を見越していたんだろうか。用意周到なことだ。

 

「相手は優姫なのね」

 

 明日香が言った。

 言い出した沙夜じゃなく私。これはつまり私と沙夜はグルだと思わせる要因だ。実際私は沙夜を黙認してるわけだから否定はできないけど、嫌われたなら心苦しい。かと言って、わさと負けるつもりもないから頑張ってね、としか言えない。口に出して言うわけでもないけど。

 

「ごめんね。悪いのは全部沙夜だから。それより沙夜。このディスク、この前みたいに細工してないよね」

「はい。今回は試練ではなく普通のデュエルですので、優姫様は存分に楽しんで下さい」

 

 そうは言ってもこの二人にとっては重いデュエルっぽくて素直に楽しめない。いや、内心では楽しむけど。

 

「悪いがこのデュエル楽しむ暇はない。始めから本気で行かせてもらうぞ」

「いいよ。始めようか」

「「デュエル!」」

 

丸藤亮LP4000

保科優姫LP4000

 

「先攻は譲る!」

「じゃあ私のターン、ドロー!」

 

 威勢良く私に先攻を譲ってきたけど、後攻が良かったのかな。確かカイザーのデッキは《サイバー・ドラゴン》のデッキだったから、後攻ならその特殊召喚効果が使いやすいという考えか。もしくはいち早く攻撃を仕掛けたいからか。

 でも《サイバー・ドラゴン》の攻撃力は2100で、それだけでは大した脅威じゃない。警戒するべきなのは融合だ。そこまで詳しくはないけど、確か複数回攻撃できたり、攻撃力4000の貫通効果があったりするモンスターがいたっけ。さらに機械族だから《パワー・ボンド》とか《リミッター解除》もあるだろう。4000の倍の倍。攻撃力16000の貫通とか適所でやられたらそれで終わる。

 まあ、どちらも魔法カードでサーチ手段がないから一編に揃うことはそうないし極端に怯える必要はない。

 

「私は《魔界発現世行きデスガイド》を召喚、効果でデッキから《魔犬オクトロス》を特殊召喚するよ」

 

《魔界発現世行きデスガイド》攻撃力1000

《魔犬オクトロス》攻撃力800

 

「《魔犬オクトロス》を墓地に送り、魔法カード《トランスターン》を発動! このモンスターと同じ種族、属性でレベルが1つ高いモンスターをデッキから特殊召喚する。私は《メルキド四面獣》を特殊召喚!」

 

《メルキド四面獣》攻撃力1500

 

「《魔犬オクトロス》かフィールドから墓地に送られたとき、デッキからレベル8、悪魔族モンスターを手札に加える。加えるのは《仮面魔獣デス・ガーディウス》。そしてフィールドの《メルキド四面獣》を含む2体のモンスターをリリースしてこのカードを特殊召喚する!」

 

《仮面魔獣デス・ガーディウス》攻撃力3300

 

「カードを1枚伏せてターンエンドだよ」

 

保科優姫LP4000 手札3枚

《仮面魔獣デス・ガーディウス》攻撃力3300

セットカード1枚

 

「俺のターン、ドロー! 魔法カード《パワー・ボンド》を発動! 手札にある3体の《サイバー・ドラゴン》を墓地に送り《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合召喚!」

「うわっ!」

 

《サイバー・エンド・ドラゴン》攻撃力4000→8000

 

「《パワー・ボンド》によって召喚されたモンスターの攻撃力は、その元々の攻撃力分アップし、ターンエンド時、俺は上昇分のダメージを受ける」

「いきなり来たな⋯⋯!」

「言ったはずだ。楽しむ暇は無いと! 俺は《サイバー・エンド・ドラゴン》で《デス・ガーディウス》に攻撃!」

 

 攻撃力の差は4700。でもまだ大丈夫。

 

「この瞬間、私は手札から《ジュラゲド》を特殊召喚!」

 

《ジュラゲド》守備力1300

保科優姫LP4000→5000

 

「《ジュラゲド》の効果でライフを1000回復。さらにこのモンスターはリリースすることで、自分のモンスター1体の攻撃力をターン終了時まで1000上げることができるよ!」

「無駄だ! 攻撃を続行する!」

 

 この自信は《リミッター解除》もあるってこと? だったら負けるけど⋯⋯。

 

「⋯⋯私は《ジュラゲド》をリリースして《デス・ガーディウス》の攻撃力を1000上げる」

「破壊だ!」

 

保科優姫LP5000→1300

 

 ダメージは痛いけど、《リミッター解除》はなかった。とりあえずは助かったな。

 よし、ここからは私が攻める。

 

「墓地に送られた《デス・ガーディウス》の効果! 《サイバー・エンド・ドラゴン》を対象にデッキから《遺言の仮面》を装備するよ!」

「そうはさせない! 速攻魔法《融合解除》! 《サイバー・エンド・ドラゴン》を融合デッキに戻し、墓地の3体の《サイバー・ドラゴン》を蘇生させる!」

「なっ!? それはダメだよ! 罠発動《悪魔の嘆き》! 相手墓地の《サイバー・ドラゴン》を1体デッキに戻し、私のデッキから《彼岸の悪鬼グラバースニッチ》を墓地に送る!」

「くっ⋯⋯! 防がれたか!」

「《融合解除》は素材になったモンスターが一式ないと特殊召喚できないからね。⋯⋯墓地に送られた《グラバースニッチ》の効果でデッキから《彼岸の悪鬼ガトルホッグ》を守備表示で特殊召喚」

 

《彼岸の悪鬼ガトルホッグ》守備力1200

 

 危ない、危ない。《リミッター解除》じゃなかったとは言え、宣言通りの手札構成だ。

 

「俺は《サイバー・ジラフ》を召喚、このモンスターをリリースしてこのターン受ける効果ダメージを0にする。⋯⋯ターンエンドだ」

 

丸藤亮LP4000 手札0

 

 でも防げた。結果論だけどたとえ《リミッター解除》があったとしても私にとどめを刺すことはできなかった。⋯⋯今回に限っては、だけど。

 きっと彼はこういった攻めをコンスタントにできるんだと思う。今回、私に対してはただの攻め急ぎに終わったけど、並みのデュエリストが相手だったら余裕で勝てたはずだ。それほどまでに優れたデュエリストだと誰が見ても思うだろう。

 とはいえ現状、カイザーのフィールドにモンスターはなく、手札もない。墓地にもフィールドに効果を及ぼすカードはなく、真の意味でのガラ空きだ。この隙を逃すほど私は間抜けじゃない。ささっと決着をつけよう。

 

「私のターン、ドロー。《ガトルホッグ》をリリースして《魔帝アングマール》を召喚!」

 

《魔帝アングマール》攻撃力2400

 

「召喚時の効果で墓地の《トランスターン》を除外し、デッキから同名カードを手札に加える。同時に《ガトルホッグ》の効果を発動。《グラバースニッチ》を墓地から特殊召喚。フィールドに《彼岸》以外のモンスターがいることで自壊して効果発動。デッキから《彼岸の悪鬼スカラマリオン》を特殊召喚。このモンスターも自壊する。そして墓地の3体の悪魔族モンスターを除外し《ダーク・ネクロフィア》を特殊召喚!」

 

《ダーク・ネクロフィア》攻撃力2200

 

「2体のモンスターで攻撃。終わりだよ」

 

丸藤亮LP4000→0

 

 まあ、こんなもんかな。さっき沙夜はコネ作りとか言ってたけど、十分力を示せたと思う。友好的になれたかはまた別だけど。

 

「あの亮が、負けた⋯⋯?」

「くっ。すまない、明日香」

 

 明日香の呟きに、申し訳なさと悔しさを滲ませて謝るカイザー。

 勝ってしまって気まずい。なにかしらフォローしたいけど、いい案が浮かばず半ば責任転嫁ぎみに沙夜を睨んだ。すると、沙夜が口を開く。

 

「さて優姫様。参りましょうか」

「え、もう行くの?」

「はい。用は済みましたから」

「うーん。教えてあげたら?」

「教えることは重要ですか。この方々の事情は我々には関係のないことです。意味がないのですよ」

 

 無関係だから余計なことはしない。これが沙夜の考え方、スタンスだ。それにケチをつけるつもりはないけど、良心に欠ける気がする。そういうのはなんだかんだ、後からしっぺ返しがあるというのが私の持論だ。

 損はしたくない。

 

「それでも教えて」

「⋯⋯わかりました。お二方、お聞き下さい。現在、天上院吹雪はとある組織に所属しています。そしてもう時期、その組織の一員としてこの学園にあなた方の敵として攻め入ってきます。ですので待っていればそのうち再開できるんじゃないですかね。それが良いことかはわかりませんが」

 

 私にとってはいまいち着いていけない話しだけど、二人にとっては大事だということは察せる。だからこそ沙夜の投げやりな台詞が気になった。二人に悪印象を与えないで欲しい。

 

「⋯⋯その話しが真実だという証拠は?」

「以上です。行きますよ、優姫様」

「待って! 兄さんはなぜ敵になったの? もっと詳しく教えて!」

「優姫様、少し失礼します」

「え? うわぁっ」

 

 沙夜はこの場にいる全ての人を無視し、私を横抱きにした。そして明日香の制止の声を背に走り出す。

 私は落ちないようにしがみ付くばかりだった。

 

 

 

「言いたくなかったの?」

 

 道中、無言で走り続ける沙夜に聞いた。表情こそいつも通りだけど、怒ってるように感じたからだ。

 

「⋯⋯あの情報は優姫様の為に手に入れたのです。それを有象無象の学生に、あろうことか気遣いのみで教えたのですよ。これではただの損失でしかありません。全くの無意味なのです」

「そうかな、私はそうは思わないよ。悪いことをしたら自分に返ってくるし、その逆だってそうだ。あの二人に対して最善を尽くせたとは思わないけど、情報を教えたのは少しは私たちにとって有益だったと思うよ」

「彼らに力試し以上の価値はありません。恩を売ったところで大した見返りは期待出来ないと私は考えます」

「仮にそうだとしても、ぞんざいな扱いをしてたら恨みを買っていた。それはさらなる損失に繋がると思わない?」

「思いません」

 

 きっぱり。

 沙夜には沙夜の言い分があるのはわかるけど、使用人ならもう少し私に同調してくれてもいいのに。

 

「しかし優姫様のお考えはよく分かりました」

「うん。私は損をしたくないんだよ」

「成る程。ですが間違っています」

「間違ってるかな? そう決めつけてると痛い目を見そうだけど」

「間違っています。自業自得とか因果応報とか、そんなものは無いんですよ。真に力を持つ者の前では」

「それって私のこと? それとも沙夜?」

「貴女や当主様のことです。あなた方は特別な人間で、その歩む道を凡人ごときが邪魔をしてはいけないのです。また、私が邪魔をさせません。そして優姫様。貴女も考え方を正すべきです」

「どうなれって言うの?」

「主我主義者にお成り下さい」

 

 唯我独尊、我田引水。要は我儘になれってこと。

 なぜか沙夜は私のことをすごい奴だって思ってるけど、私はそうは思わない。そんな私が自己中心的になれば当然のごとく反発されるだろう。痛い目を見るのは目に見えてる。

 

「考えておくよ」

 

 考えるまでもない。結局私は損をしたくないだけなんだ。

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