この学校には、月一試験というものがある。
その名の通り月に1回試験があるらしい。
試験には筆記と実技があって、良い成績を残すとオシリスレッドからラーイエローに、ラーイエローからオベリスクブルーに、という風に昇級できるようになっている。
だから生徒たちは今日のために必死に勉強したり、模擬デュエルしたりするのだ。
まあ、女子でオベリスクブルーの私には関係のない話しだけど。
そんなこんなで、筆記試験が終わって今は昼休み。
生徒たちは実技試験に備え新入荷したカードパックを買いに、売店に集まっている。
私は売店には行かず、デスガイドと2人で——側から見たら1人で——教室に待機していた。
『優姫ちゃん、友だちいないの?』
「いきなりだね」
しかも、鋭利。
『ちょっと気になって』
「⋯⋯デスガイドがいる」
『あたし以外で』
「⋯⋯」
いない、と口には出したくなかった。
いや、いないんだけどさ。
『あたし的には独り占めできるから別にいいんだけど、さすがに友だち0人は心配になってくるよ』
こういうことで心配されるとすごいみじめだ。
「でも不便はしてないよ。授業でデュエルするときとか、誰かは誘ってくれるから最後まで余ったことはないし」
教師の『2人組作って』攻撃は今のところちゃんと防げてるから大丈夫だ。うん。
『いやぁ、その人たちって友だちってよりはファンって感じだよね』
「ファン?」
『うん。互いを牽制し合ってローテーションで優姫ちゃんに近づいてるみたいだし』
「ローテーションって⋯⋯、気を遣われてたってこと?」
今日はお前があいつに構ってやれよ、みたいな会話が私の知らないところであったり?
それはそれでみじめなんだけど⋯⋯。
『そういう感じじゃなくて、みんな、優姫ちゃんと話す口実が授業しかないから順番を決めて話したがってるんだよ』
絶対嘘だよ。私と話したってつまんないって。
「デスガイドの心遣いが身に染みるよ」
『そうじゃないんだけどなー。まいっか。それはそれとして、優姫ちゃん、筆記試験はどうだったの?』
今度はテストの話か。
そうそう、学生は友だちどうこうより勉強に気を配らなきゃ。
「筆記試験? 余裕だったよ。ほとんど常識問題だったし」
魔法カードの種類を答えよ、とか。
「この感じだと、筆記だけなら学年1位もありえるかも」
『おおー、大きくでたね』
「それはあり得ませんわ! 保科優姫さん!」
「うわっ」
唐突に、後ろから大きな声がして振り向くと、入り口に1人の女子生徒が仁王立ちしていた。
「縦ロールさん⋯⋯。じゃなくて常勝院さん」
常勝院エリカ。私と同じクラス、同じブルーの生徒だ。
お嬢様のような仕草と髪型だが、それがよく似合う人だというのが第一印象だし、今でもそう思う。
「なぜなら、1位はこのわたくしだからですわ!」
常勝院さんは大仰な台詞と共にわたしに近づく。
もしかして、話し聞かれてた? だとしたら、独り言を喋る変な人だと思われてるかも。
「あの、常勝院さん、話し聞いてたの?」
「たった今来たところですので、貴女たちの話しを盗み聞きしたりはしてませんわ」
それなら良かった。
ん? 貴女たち? たちって言った?
『あたしのこと、見えてるの?』
「当然ですわ。精霊を見ることなんて、このわたくしにとっては造作もないことですわ」
常勝院さんの目はしっかりとデスガイドを捉えている。
「じゃあ、常勝院さんも精霊を連れてるの?」
「その通りですわ。⋯⋯アテナ、出てきなさい」
『何よ。なんかよう?』
常勝院さんが虚空に呼びかけると、ふわっとその人物が出現した。
「これがわたくしの精霊のアテナですわ」
「おー、アテナだ」
天使族の結構強いやつ。
『⋯⋯気安く私の名前を呼ばないでくれる?』
アテナはこちらを冷たい目で見据えてくる。
「ご、ごめんなさい」
あれ、私嫌われてる?
『エリカ、帰っていいかしら』
「ええ、どうぞ」
不機嫌そうなアテナは常勝院さんの言葉を聞くと、すぐに消えてしまった。
「ごめんなさいね、あの娘、機嫌が悪いみたいで」
「別にいいけど、私、なにかした?」
『優姫ちゃんがっていうより、あたしかな。天使族と悪魔族って仲が悪いから、あたしを連れてる優姫ちゃんの印象も悪いんじゃないかな』
「へぇー。じゃあ、デスガイドもアテナが嫌いなの?」
『嫌いというか、あの人は結構偉い人だからね、文句は言えないよ』
「上下関係ってやつか」
精霊界にも、社会があるんだなぁ。
「そんなことはどうでもいいんですの。保科優姫さんっ。次の実技試験で勝負ですわ!」
常勝院さんは私に向けて指をさして言った。
「え、勝負? でも、試験の対戦相手って先生が指定するもので、自分たちで勝手に決められないんじゃ⋯⋯」
「そこは大丈夫ですわ。わたくし、先ほどクロノス先生に頼み込んで了承を得てきたところですの」
わざわざそこまでしたんだ。
「そうまでして、なんで私なんかと」
「貴女は! 少し可愛いからといって、ちやほやされすぎですの! ですので、どちらがより美しいのかデュエルで勝負ですわ!」
ちやほやされてるんじゃなくて、気を遣われてるだけだし、美しさってデュエルで決まるものなの?
「まだありますのよ。わたくしたちのデュエルに、秘密ルールを設けますわ」
「ひ、秘密ルール」
「ええ。負けた方は勝った方の下僕となるんですの!」
「下僕に⋯⋯」
焼きそばパン買って来いですの! とか言われるのかな。
「せいぜい覚悟しておきなさいな。それではわたくし、これで失礼しますわ!」
「ちょ、待って⋯⋯」
常勝院さんは私の制止を聞かず、身をくるりと翻して行ってしまった。
「⋯⋯言うだけ言って出ていっちゃった」
台風みたいな人だな。
『優姫ちゃんっ。ヤバイよ! 負けたら下僕にされちゃう!』
「いや大丈夫でしょ。下僕って、その場の勢いか冗談だと思うし」
これだって、いわば常勝院さんなりの気遣いだと思う。
⋯⋯この学校。良い人しかいないな。
『大丈夫じゃないよ! もし本当に下僕にされたら、なにをされるかわからないんだよ? 口には出せないあんなことやこんなことをされちゃうかも』
口には出せないこと。⋯⋯まさかっ。
「誰かを暗殺して来い、とか命令されるってこと?」
だったら怖いけど、
『それはないでしょ。普通に考えて』
だよね。
「じゃあ、口には出せないことってなに?」
『え、それはアレだよ、アレ。⋯⋯あはは』
「⋯⋯アレがなんなのかわからないけど、なんか変なこと考えてるのはわかった」
なんか顔がいやらしいし。
『か、考えてないよ? そ、そう! 勝てばいいんだよ。勝てば』
「⋯⋯ごまかされた気がするけど、まあ、その通りだね」
そう、勝てばいい。
始めから負けた後のことを考えるのは弱気すぎる。
「勝つよ、私」
勝ってデスガイドは強いってことを証明したい。
『やる気満々だね。⋯⋯はっ、もしかして、勝ってエリカを下僕にしてあんなことやこんなことを!』
「しないよ」
この娘、ちょっと頭が⋯⋯。
「ああ、でも下僕はないにしても、勝ったらなにかあってもいいよね」
向こうから言い出した、いわばアンティルールみたいなものだ。
カードを寄越せとは言わないけど、なにか、軽めで負担にならないくらいの報酬があってもいいはずだ。
『それなら丁度いいのがあるじゃん』
「丁度いいの?」
なんだろう、思いつかない。
『友だちになってもらえばいいんだよ』
「あっ、それはいいかも」
ちゃんとした友だちができたら、もう気遣いでみじめな気持ちになることはない。
「俄然、やる気がでてきたよ!」
まだ実技試験までは時間がある。
私はデッキを取り出して、脳内シミュレーションを始めた。