「常勝院! 優姫さんを賭けて、俺と勝負だ!」
「受けて立ちますわ!」
エリカと男子生徒が見合った。
それを取り巻くように、周りには私とたくさんの人。
「デュエル場までついてこい!」
「ええ!」
いきり立つ2人が歩きだすと、周りの人も一緒に動いた。
『あはは。なんか面白いことになったねー』
デスガイドは他人事のように笑う。
「⋯⋯」
こうなったのにはわけがある。
それは数日前のこと。
「優姫さん。今日の授業のデュエル。一緒にやらない?」
ある男子生徒が私に話しかけてきた。
これはいつものことだ。私を気遣い、交代で誘ってくれている。
「あ、大丈夫だよ。私、組む人いるから」
でも、私には、常勝院さん——エリカという友だちができたのだ。だからもう、気遣って誘ってもらう必要はない。
⋯⋯ありがたいことなんだけどね。
「え、でも、今日は俺の日なのに⋯⋯ 。一体、誰と組むんだ?」
「エリカだよ」
「あの人が⋯⋯。わかった、また今度誘うよ。じゃあね」
こんな感じで、クラスメイト(主に男子生徒)が善意で私を授業デュエルに誘い、私はエリカとやるからと断る。
エリカと授業デュエルをするようになってから、そんなやり取りが増えた。
善意はもう必要ないからと誘いを断ってきたが、こう何度も続くとさすがに罪悪感もわいてくる。
だから、たまにはエリカ以外の人とも授業デュエルをやることに決めた。
もしかしたら、それが原因だったのかもしれない。
時間は今日に戻る。
「優姫さん。今日は俺とやろうよ」
今日も今日とて、懲りずに誘ってくれる生徒がいた。
良心の呵責で誘いを受けようと口を開いた、丁度そのとき。
「優姫。今日もわたくしと授業デュエルをやりますわよ」
横からエリカが口を挟んできた。
「あ、うん」
その、あまりにも当然だと言わんばかりの口調に、つい、頷いてしまう。
「そ。では、行きますわよ」
「待てよ!」
男子生徒は私を連れて去ろうとするエリカを呼び止める。
「なんですの」
「最近、いつもいつも優姫さんと一緒に⋯⋯。ずるいぞ! 順番くらい守れよ!」
男子生徒は声を荒らげて言った。
「順番ってなんですの。第一、優姫はわたくしの友だちですのよ。他人にとやかく言われたくありませんわ」
「わわっ」
エリカは私の肩に手を回し腕に引き寄せる。その拍子に少しよろめき、つい、声が出た。
「そうやって、金の力で優姫さんを脅して従わせてるんだろ! ⋯⋯優姫さん、今、俺が助けてやるからな!」
「聞き捨てなりませんわね。わたくしと優姫は、対等な友だちですの。貴方の言うような事実は存在しませんわ!」
うわあ、ヒートアップしてきた。
2人が大声を上げるから、周りの人もどんどん集まってきてる。
『恋は盲目とはよく言ったものだね』
デスガイドもいつの間にか隣にいて、よくわからないことを呟いていた。
その意味を聞きたかったけど、周りの目から見るとただの独り言にしかならないので、聞くことはしない。
「言っておきますけど、今後、1度だって貴方がたに、優姫を譲ることはしませんわ!」
「なんだと!」
「優姫もその方が良いんですわよね!」
「えっ、私?」
飛び火がっ。
「優姫は、わたくしが、良いんですわよね!」
「う、うん」
「ほら、見なさい。優姫だって、こう言ってますわ」
いや、完全に言わされたんだけど。
『エリカも大概、優姫ちゃんにハマってきたよね』
デスガイドめ、他人事だと思って。
「わかった。こうなったらデュエルだ!」
「いいですわね!」
「常勝院! 優姫さんを賭けて、俺と勝負だ!」
「受けて立ちますわ!」
こうして、冒頭に戻る。
一同はデュエル場に来ていた。
「俺が勝ったら、常勝院は優姫さんを独占しない」
「わたくしが勝ったら、優姫はわたくしのものですわ」
2人は賭けの内容を宣言し合う。
そして——。
「「デュエル!」」
常勝院エリカLP4000
沢木龍馬LP4000
「俺が先行だ、ドロー! 俺は、儀式魔法《高等儀式術》を発動する! 儀式モンスターとレベルの合計が同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地に送り、手札から儀式モンスターを儀式召喚する。俺は《弾圧される民》と《逃げまどう民》を墓地に送り、儀式モンスター、《精霊術師ドリアード》を儀式召喚する!」
《精霊術師ドリアード》攻撃力1200
「⋯⋯貧弱なモンスターですこと」
「はっ、言ってろ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」
沢木龍馬LP4000 手札3枚
《精霊術師ドリアード》攻撃力1200
セットカード1枚
エリカはわかっただろうか。沢木くんの墓地に送られたカードを。
私は何度かデュエルしたことがあるからわかるけど、気を抜いてたらすぐにアレを発動されちゃう。
あまりナメてかかると負けるよ、エリカ。
「わたくしのターン、ドロー。手札から、《ヘカテリス》の効果を発動ですわ。このカードを墓地に捨てて、デッキから《神の居城—ヴァルハラ》を手札に加えますわ。そしてそのまま発動」
永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》
「《ヴァルハラ》の効果で手札から《アテナ》を特殊召喚! さらに、《ジェルエンデュオ》を召喚しますわ。ここで、《アテナ》の効果。天使族が召喚されたとき相手に600ポイントのダメージを与えますわ!」
《アテナ》攻撃力2600
《ジェルエンデュオ》攻撃力1700
沢木龍馬LP4000→3400
「バトル! 《アテナ》で《ドリアード》に攻撃ですわ!」
「この瞬間、リバースカードオープン《風林火山》! フィールドに風、水、炎、地属性がいるとき、効果を選んで発動する! 俺は相手モンスターを全て破壊する効果を選択だ!」
「なっ! どこにその属性がいると言うの!」
「《ドリアード》は風、水、炎、地の4属性としても扱う。よって、常勝院のモンスターは全て破壊だ!」
「くっ。⋯⋯メインフェイズ、カードを1枚セットして、ターンエンド」
常勝院エリカLP4000 手札2枚
セットカード1枚
永続魔法《神の居城—ヴァルハラ》
「俺のターン、ドロー! 俺は手札から《逃げまどう民》を召喚する」
《逃げまどう民》攻撃力600
「バトルだ。《ドリアード》と《逃げまどう民》でダイレクトアタック!」
常勝院エリカLP4000→2200
「優しい攻撃ですのね!」
「その余裕がいつまで続くかな! 俺は魔法カード《馬の骨の対価》を発動する。フィールドの《逃げまどう民》を墓地に送り、2枚ドロー! ⋯⋯来たぜ。俺はカードを1枚セットしてターンエンドだ」
沢木龍馬LP3400 手札3枚
《精霊術師ドリアード》攻撃力1200
セットカード1枚
どうやら揃ったみたいだ。とすると、今伏せたあのカードはアレだろう。
もしかしたらエリカがまともに動けるのはこのターンで最後かもしれない。
「わたくしのターン、ドロー! 《ヴァルハラ》の効果で、手札から《光神機—轟龍》を特殊召喚ですわ!」
《光神機—轟龍》攻撃力2900
「2900か。強いな」
「貴方のモンスターとは違いますのよ」
「そうだな。で、それだけか?」
「⋯⋯そうですわね。バトルフェイズに移行しますわ」
攻撃力2900の《轟龍》を前にしても沢木くんは動じない。
それに対して、エリカは不信感があるようだ。
そしてエリカは通常召喚をしなかった。手札に下級モンスターがいないのだろうか。
「バトルですわ! 《轟龍》で《ドリアード》に攻撃!」
沢木龍馬LP3400→1700
エリカは気を取り直すように攻撃を宣言した。《ドリアード》を破壊し、大ダメージを与えることができたけど、追撃するモンスターがいない。
これで終わりなら、いよいよヤバそうだけど⋯⋯。
「わたくしはこれでターンエンドですわ」
常勝院エリカLP2200 手札2枚
セットカード1枚
「俺のターンだな、ドローだ。俺は手札から魔法カード《トライワイトゾーン》を発動。墓地のレベル2以下のモンスターを3体選び特殊召喚する。俺は《逃げまどう民》2体を攻撃表示で、《弾圧される民》を守備表示で特殊召喚する。そして、手札の《団結するレジスタンス》を召喚だ」
《逃げまどう民》攻撃力600
《逃げまどう民》攻撃力600
《弾圧される民》守備力2000
《団結するレジスタンス》攻撃力1000
「雑魚モンスターの勢揃いですわね」
エリカ、わかってないの? このモンスターたちの意味を。
「そう言えるのも今のうちだ! リバースカード《大革命》! お前の手札を全て墓地に送り、モンスターも全て破壊だ!」
やっぱりそれだったか。
内心、私は絶望した。
私としてはエリカに勝って欲しい。それは賭けの内容どうこうじゃなく、単純に友だちとしてそう思うからだ。
「エリカ⋯⋯」
私の口からは、勝手に心配の声が漏れる。
「優姫、大丈夫ですのよ。⋯⋯速攻魔法《光神化》を発動しますわ!」
それは手札の天使族モンスターの攻撃力を半分にして、特殊召喚するカードだけど、
「無駄だ! 特殊召喚したところで、そのまま破壊される!」
「甘いですわね! わたくしが特殊召喚するのは《幻奏の音女レイジー》!」
《幻奏の音女レイジー》攻撃力1300
「このカードがフィールドにいる限り、特殊召喚された《幻奏》は効果では破壊されない。そして特殊召喚されたこのカードがいる限り、自分の天使族の攻撃力は300アップする」
上手い。これなら《レイジー》1体は破壊を免れる。
攻撃力も、今のフィールドでは1番高い。
「さあ、続きをどうぞ?」
「くっ、⋯⋯ターンエンドだ」
沢木龍馬LP1700 手札2枚
《逃げまどう民》攻撃力600
《逃げまどう民》攻撃力600
《弾圧される民》守備力2000
《団結するレジスタンス》攻撃力1000
「だがな、今のお前は手札0枚。ドローカード1枚でどうにかできなかったら、次の俺のターンで今度こそ俺の勝ちだぜ!」
その言葉に、エリカは鼻を鳴らして答える。
「ダメですわね。貴方、まだ勝つ気でいますの? ⋯⋯まだ、勝負が五分五分だと思っていますの?」
「当然だ! お前こそ、祈らなくていいのか? 次のドローに!」
「祈らずとも、このわたくしなら勝利のカードを引けるに決まっていますわ! ドロー!」
エリカは自信たっぷりにドローする。
引けないわけがないと、自分は絶対勝つんだと、そのことをまるで疑ってないみたいだ。
格好良ささえ感じるその姿勢は、この世の誰よりも、目の前のエリカに似合っていると思った。
「当然、来ましたわ。わたくしは《レイジー》をリリースして《光神テテュス》を召喚!」
《光神テテュス》攻撃力2400
「《テテュス》で《逃げまどう民》を攻撃! とどめですわ!」
沢木龍馬LP1700→0
デュエルは終わった。
沢木くんは立ち尽くし、エリカは何事もなかったかのように私のところに歩み寄る。
「優姫、行きましょうか」
「う、うん」
実に自然な流れで手を差し伸べられたので、私は流れのままに手を重ねる。
なんだかすごい様になっていて、ちょっとときめいてしまった。
「待て」
呼び止めたのは気を取り直した沢木くん。
「まだ、なにか用ですの」
「今はない。だけど俺は、いつか強くなってお前に挑戦する。そのときはまた、こうしてデュエルしてくれないか?」
「ええ、良いですわ。それが強者の義務ですもの」
そう言って、エリカは踵を返し、私の手を引いて歩く。
私たちはその場にいた人を置き去りに、このデュエル場を後にした。