「——わたくしは《アテナ》でダイレクトアタック!」
「ぐあああああ!」
沢木龍馬LP0
「くっそー! 覚えてろよ!」
「ふう」
この前の出来事を皮切りにして、沢木くんは1日に必ず1回はエリカに勝負を挑むようになった。
エリカはその度に快く勝負を受け、その全てのデュエルに勝利してきた。
丁度今も、デュエルに勝利したところである。
「エリカ、お疲れ」
「ええ、優姫、ありがとうですわ。でもわたくし、疲れてはいませんの」
「でも、こう毎日だとさすがに飽きてこない?」
「それはまぁ、そうですわねぇ」
デュエルするときは毎回見てるけど、毎度毎度、飽きが来るほどに同じような展開だ。
それでも、沢木くんにターンを回さずに勝負が着いたりと、物珍しいものが見れるときもある。
「そういえば、毎日見てて気づいたんだけど、エリカのデッキってアレとか入ってないよね?」
「アレ?」
「スペルビアとか。アテナと合わせたら絶対強いと思うんだけど」
堕天使スペルビア。
蘇生時に更に天使族を蘇生できる上級モンスターだ。
それにスペルビアに限らず、堕天使ならエリカのデッキにはかなりマッチすると思う。
なんで入れてないんだろう。
「わたくし、基本的に堕天使は嫌いですの。だから、いくら強くても、デッキには入れないことにしてますわ」
「こだわりってやつかぁ。それならわかるかも。私も悪魔族のデッキに悪魔族以外を入れたら、たとえデュエルで勝てるとしても負けな気がするし」
ダムドとか、その辺。
「こだわりだけではなく、堕天使をデッキに入れると、途端にデッキが回らなくなるんですの」
「そうなの? そういうことってあるんだ」
「ええ。というか、優姫だってそうではなくて? 優姫も大概、おかしなデッキ構成ですわ」
「えー、そうかな。ちゃんと40枚だし、モンスター、魔法、罠のバランスも普通だと思うけど」
「普通はテーマを1つに絞って構成するものですわ。優姫は色々なところから、少しずつ取ってきてるでしょう?」
「うーん、これでも頑張って絞りに絞ってるんだけどなぁ」
本当なら、もっといろんなカードを使いたい。けど、使いたいからといってどんどん入れていったら、デッキが回らなくなってしまう。
確率的に、デッキを回すには、最低枚数の40枚が最適だ。
だから私は渋々使うカードを切り詰めていた。
「あるいは、優姫はそんなことをしなくても良いのかもしれませんわね」
「というと?」
「優姫なら、入れたいカードを好きなように入れても、デッキが回ってくれるかもしれないということですわ」
「そんなこと、ある?」
「カードには普通の確率論では計れない部分が多くあって、人によっては、必ずしも40枚が最適とは限らないし、カードの相性もありますのよ」
「なるほど」
確かに、世のプロデュエリストのデッキは見た目40枚より多そうだし、使用するカードの構成も、どこかオリジナルっぽいというか、それよく回せるね、と思う人はよくいる。
中には普通にガチっぽいプロもいるけど、やっぱり、前世からの記憶や常識には捉われない方がいいのかもしれない。
「色々試してみるのもいいかもね」
「そういうことですわね」
そして次の日。
「——《クリスティア》で攻撃!」
「うわあああああ!」
沢木龍馬LP0
「また負けた! 明日、もう1度勝負だ! 次は負けないからな!」
「ふう」
沢木くんがいつものように負け、いつものように負け惜しみの台詞を残して去っていく。
「エリカ、お疲れ」
「ええ、ありがとうですわ」
そして、いつものように私はエリカに労いの言葉をかけた。
ここまでの流れはもう恒例行事のようになっているが、よく考えると、今日まで1度も負けがないのはすごいことだ。
普通は手札事故とか起こしそうなものなのに、エリカには全然そんな気配はない。
昨日言っていた、人によって違う最適なデッキ枚数とカードの相性。
エリカはそれら全てを把握しているのかもしれない。
「エリカ、私、昨日の夜にデッキの調整をしてみたんだけど、今から試しデュエルに付き合ってくれない?」
「ええ、良いですわよ」
「まあ、調整って言っても何枚か突っ込んだだけだけどね。⋯⋯それじゃあ早速やろうか」
「「デュエル!」」
「——ありがとう、付き合ってくれて」
「それで、どうでしたの? デッキの調子は」
「うーん。悪くはないと思うよ。今までと同じ感じで回ってくれてるし」
何回かエリカとデュエルしてみたけど、感覚的には前と同じだ。
今のデッキ枚数は50枚。けど、これでもまだ遠慮はあった。一般的な確率論が脳内にあったから、デッキ枚数を増やすことに抵抗があったのだ。
けど、50枚でこれなら、もっと入れても回るかもしれない。
「でもまた調整をしてみるよ。今度は思い切って60枚にしてみる」
「まだ増やすんですの。でも、優姫ならその素質がありますわね」
「素質か。そういえば、エリカはデッキをいじったりしないの? なんだったら、私もデッキ調整に付き合うけど」
「わたくしも細かい手直し程度にはデッキの調整はしますのよ。ただ、どんなカードがわたくしと相性が良いのかとか、わたくしにとっての適切なデッキ枚数とかは既に調べてあるから、大幅に変えることはしませんわね」
「ふーん。エリカの安定した強さの秘密はそこにあるんだね。そういうのって、いつ気づいたの?」
「小さい頃、父に教えてもらいましたわ。父はデュエルだけは滅法強くて、わたくしは1度も勝ったことがありませんの」
「それはすごいね。エリカでも1度も勝てないのはちょっと異常かも。あ、でも、私のお母さんも強いよ。私もお母さんには1回も勝ったことがないんだ」
お母さんとは、今世のお母さんのことだ。
小さい頃から何度もデュエルをしてきて、トータルで多分3桁はやってきたと思うけど、それでも1回も勝てたことがない。
お母さんと戦うためだけの完全なメタデッキで挑んでも、勝つことはできなかった。
今だから思うけど、いくら強いにしても1度も負けないのは結構大人げない。わざとでいいから1回くらい勝たせて欲しかった。
「大人って卑怯だよね。絶対なにか隠してる必勝法とかあるよ」
「そうですわねぇ。今思うと、このわたくしが1度も勝てないのは、確かに異常ですわ」
世の中、悪い大人ばっかりだ。
次の日。
「——どうした、常勝院。お前のターンだぜ? もしかして、打つ手がなくて困ってるのかぁ? おぉ? サレンダーしてもいいんだぜぇ?」
「⋯⋯うるさいですわね。ただの考えごとですの。わたくしは《光神化》で《アテナ》を特殊召喚。このとき、《地獄の暴走召喚》を発動。手札、デッキ、墓地から《アテナ》を可能な限り特殊召喚しますわ。《アテナ》の蘇生効果で天使族を特殊召喚して効果ダメージをたくさん与えて終わりですわ」
「うわああああ、雑にやられたああああ!」
沢木龍馬LP0
「覚えてろよー!」
「⋯⋯」
沢木くん、今日は意外と接戦だった。
いや、というより、エリカの調子が悪いみたいだ。どこか、心ここに在らずといった風に見える。
「エリカ、お疲れ」
「ええ、ありがとう」
今でこそいつも通りだけど、さっきの不調は少し気になる。
「エリカ」「優姫」
⋯⋯ハモっちゃった。
「えっと、どうしたの?」
「⋯⋯優姫が聞きたいことは今のデュエルの不調のことですわね?」
「うん。集中できてないように見えたけど」
「ええ、言いますわね。わたくし、来週から休学することになりましたの」
休学。
⋯⋯休学っ! 当分はエリカと会えなくなるってことだ!
「え、いつまで? ていうかなんで?」
「⋯⋯昨日の夜、父から電話があったんですの。話しによると——なんだか要領の得ない話し方でしたけど——期間は1日かもしれないし、1か月かもしれないし、はたまた1年かもしれないと。理由の方は家族で集まるからだそうですわ」
「そんな理由で?」
「わたくしもよくはわからないんですけど、主催者はわたくしの父方の祖父で、父が言うにはその方はとても自分勝手で、我儘だとか。そういう理由で期間がはっきりとしないらしいですわ。ですので、あまり心配は要りませんわ。⋯⋯父は気が弱いところがあって、きっとそのせいで話しがややこしくなっていますの」
「そうなんだ。つまり、ただの家族の集まりだからそんなに休学の期間は伸びないってことだよね」
「そういうことですわ」
そう言ったエリカの表情に曇った様子はない。
心配させたくないから嘘をついてる、ということはないみたいだ。
「それでも、当分は会えないってことだよね。寂しくなるなぁ」
「まあ。お土産を買ってあげるから、泣かないで待っていらして」
「⋯⋯泣かないよ」
「あら、そう?」
それはエリカにしては珍しい冗談の声だった。
夜になった。
今日1日、60枚のデッキでいろんな人とデュエルしてみたが、デッキは良く回ってくれた。
もしかしたら、70枚でも回ってくれるかもしれないが、残念ながらそれはルール違反だ。
『うわー、デッキ、だいぶ厚くなったね』
「だよね。これでも今のところ事故がないから、カードって不思議だよ」
回る原理がわからないままデュエルしてるから、大丈夫だとわかってても、しっぺ返しが怖い。
「そういえばデスガイドって、デュエル中はどこにいるの? フィールドに召喚したら出てくるけど」
『そりゃあカードの精霊だから、デッキの中にいるよ。ちなみに手札事故がなかったり、ここぞというところで来て欲しいカードが来たりするのは、あたしたち精霊の力だったりする——こともある』
「そうなの? ていうか、こともある?」
『思い通りに操作できるわけじゃなくて、精霊が人に対して、勝って欲しいなーとか、喜んで欲しいなーとか思うと良い感じに良くなるんだよ』
なんか曖昧だな。
でも、それだけデッキに好かれてるってことか。
『いわば、あたしのラブパワーが優姫ちゃんを勝たせてるんだよっ。だから優姫ちゃんはもっとあたしに感謝するべきっ。具体的には——』
「はいはい。ちゃんと感謝してるから」
たまにデスガイドは変なことを言いだすんだよな。
いや、いつもか。
『あれ、携帯、だっけ? 震えてるよ?』
「ん、ホントだ。誰だろ」
ベッドの上で携帯のバイブレーションが鳴っていた。
学校の生徒ならPDAからかかってくるし、そもそも家族以外と番号を交換してないから、お父さんかお母さん以外は考えにくい。
誰だろ、とか言ったのはただの見栄でしかなかった。
携帯の画面を見ると案の定、母の文字が示されている。
「もしもし」
[もしー、お母さんだけど]
「うん、どうしたの?」
[元気にやってる?]
「うん」
[そっか、いじめとかない?]
「ないけど」
[あー、元気にやってる?]
「やってるって。なに、どうしたの?」
どうしたんだろう。急に電話なんかかけてきて。
それになんだか、歯切れが悪い。
言っちゃなんだけど、お母さんは物事をズバズバ言うタイプだ。それは誰に対してでも、どんな内容であってもだ。
少なくとも今までは見たことも聞いたこともない。
[もう、質問に対して一言で返さないでよ]
「それは、ごめんだけど。用事があってかけてきたんでしょ?」
[⋯⋯そうね。私らしくなかった。じゃあ、単刀直入に言うわ。あんた、しばらく学校は休みよ]
「はぁ? なんで。意味わかんないんだけど」
[⋯⋯ジジイに会いにいくのよ]
「じ、ジジイ?」
[優のお祖父さんのこと。詳しくはこっちに来てから話すわ、じゃあ]
「ま、待って! しばらくっていつまで?」
[⋯⋯しばらくはしばらくよ。1日かもしれないし、1か月かもしれないし、1年かもしれないってこと。じゃ、切るわよー]
「あ⋯⋯」
電話は切れてしまった。
言うだけ言って、謎だけ残してお母さんは会話を遮断したのだ。
お母さんの言葉にはどこかで聞いたことがあるフレーズがあった。
偶然だろうか。エリカと似た状況なのは。
考えたってわかるはずもない。
そのときがくればわかるか。そう思い、携帯をベッドに放った。