「優ー! そろそろ行くよー! 先車乗っててー!」
「わかった!」
正午、久しぶりの自宅。
と言っても、昨日の夜帰宅した後、疲れてすぐに寝てしまったから、自宅を堪能できたのは朝起きてから今までの数時間だけだ。
だから今からどこに、なにをしに行くのか詳しい話しはまだ聞いていない。
車の助手席に乗り込み、お母さんを待つ。
私の持ち物はデッキとデュエルディスク。これはお母さんに指示されてのことだ。
つまり、デュエルすることがあるということになる。
すっかり忘れてたけど、ここはアニメの世界だ。どのくらい主要人物に関わってきたかわからないけど、あまり物語の進行を邪魔したくない。
今から行く場所が物語と関わってなければいいんだけどな。
「お待たせ。それじゃあ、行こうか」
お母さんが運転席に乗りエンジンをかける。
車は目的地に向かって発進した。
「お母さん。教えてよ。今からどこに行って、なにをしに行くか。車で移動中に教えてくれる約束でしょ?」
「そうね。まず先に謝っておくわ。ごめん、せっかく学校に行ってるのに休学にさせちゃって。けどね、さすがの私もジジイには逆らえないのよ。そこはわかって欲しい」
「はあ。なにか理由があるなら、まあ、理由がなくてもお母さんのことを責めたりはしないけど⋯⋯」
「優しいのね。さすがは私の娘だ」
「この場合、さすがはお父さんの娘って感じだけどね」
私が優しいとしたら、それはお父さん成分が入ってるからだ。
「あんたはお父さん好きだもんね。まあでも、親として優に悪いことしたって思ったから、1回だけ謝ったわ。⋯⋯それはそれとして、本題に入ろうか。まずこれから行くとこだけど、電話でも少し話したけど、あんたのお祖父さんとこに行くわ。あんたも昔、いったことあるのよ? 覚えてない?」
「少し覚えてる。山奥の大豪邸だったっけ」
その記憶はかすかにある。かなり大きな家だ。
アカデミアの女子寮くらい大きくて、入り口の門が山のふもとにあったのを覚えてる。
今思うと、それって、山全体を所有してるってことだ。かなりの大金持ちなんだろう。
「お父さんは行かないの?」
「呼ばれてないからね。ジジイは自分の女と自分の血が通ってる人しか家族だと思わないからさ」
お母さんは忌々しそうに吐き捨てる。
お祖父さんのことで、なにか苦労でもしたんだろうか。
「家族を集めて、お祖父さんはなにをしようとしてるの?」
「それがねぇ、わかんないのよ。なんにも教えられてない。そういうとこあんのよ、あのジジイは。我儘で、自分勝手で⋯⋯」
「あはは、もしかしてお母さん、お祖父さんのこと嫌い?」
「そりゃ、嫌いよ! あんな奴のことが好きな人なんて⋯⋯、いるから私がいるのか」
「それって、お母さんのお母さんのこと?」
「そ。まあ、母さんだけじゃないけどね」
「というと?」
「ジジイにはね、6人の愛人がいるのよ。ちなみに私の母さんも愛人よ」
「はあ!? 愛人っ、しかも6人!」
「今はもうみんな歳で死んじゃったんだけどね」
ジジイ以外は、と続けて言うお母さん。
お祖父さんってそんな人だったのか⋯⋯。
お母さんのこの態度もわかる気がする。
「なんか、不潔だ」
「同感。けど、本人たちはそれでいいみたいよ。むしろ、みんなすごく仲良くしてたし、ジジイも平等に愛してたらしい」
「ハーレムってやつか。それで上手くいってたってことは、それだけカリスマ性があるってことなのかな」
「確かに、カリスマ性はあるわね。良い意味でも悪い意味でも」
金持ちで、たくさん愛人がいて、我儘で、カリスマ性がある。
お母さんが言った特徴を並べてみると、碌な人じゃないな。うちのお祖父さんは。
「まあ、退屈はしなかったよ。愛人たちにはそれぞれ子供が1人ずついてね、私たちは全員腹違いの6人兄妹だったけど、みんなジジイの子供なだけあって癖の強い奴ばっかりだったよ」
懐かしむように言うお母さんは口角がやや上がっている。
お祖父さんの悪い思い出ばかりというわけではなさそうだ。
「あいつらももう子持ちかぁ。ちょっと想像できないな」
「その子供たちも来るんだよね。名前とかわからない?」
「名前? 苗字だったらわかるけど。私たち兄妹の内、1番目から3番目までは男だからそのまま夜闇で、4番目が私たち保科。5番目は男なんだけど、戸籍が変わって常勝院。6番目が三上だよ」
「常勝院⋯⋯」
聞き覚えのある苗字だ。でもそんな予感はあった。
エリカと同じ時期に休学になり、その理由も同じで祖父に会うためだ。無関係とは考えにくい。
エリカだとまだ決まったわけではないが、常勝院なんて珍しい苗字はそういない。
もしかしたら、私とエリカは従姉妹同士なのかもしれない。
「なんか気になることでもあるの?」
「うん。偶然かもしれないんだけど、常勝院って多分学校の友だちだよ」
「へぇー。どんな人? 男?」
「女。自信家だけど、いい娘だよ」
「そう。デュエルは強いの?」
「強いよ。私とは正反対の天使族のデッキでね」
「⋯⋯え。天使族」
「うん、そうだけど、どうしたの?」
お母さんは固まってしまった。ブレーキを踏みしめたまま動かない。
赤信号だったから良かったものの、下手したら事故ってたよ。
天使族がどうしたんだろう。
「ほら、青に変わったよ」
「あ、うん。⋯⋯天使族かぁ、困ったな」
「なんかまずいの?」
「ジジイがちょっとね⋯⋯。うちって代々悪魔族のデッキを使ってきてるんだけど、ジジイはそこに誇りを持ってるっぽいのよ。だから、絶対機嫌が悪くなる。しかもよりにもよって、天使族か⋯⋯」
「うわぁ、すごい嫌そうな顔だね。そんなに酷いの?」
「酷い。私じゃ手に負えないくらい酷い。なんか変なオーラを放ってさ、威嚇してくるのよ。それに子供の頃だけどね、ジジイの機嫌が悪くなると下の2人はすぐ泣いちゃうし、それで私が慰めてると更に機嫌が悪くなるしで、ホント大変だった」
「お母さんも苦労したんだね」
「主にジジイのせいでね。でもジジイの扱いが1番上手いのが2番目の兄さんでさ、いつも困ってるときは助けてくれてたのよ」
「兄妹で助け合ってきたんだ」
そういうのは少し羨ましい。私は一人っ子だから、兄妹がいる感覚がわからない。でもきっと、助け合ったり、競い合ったりするんだと思う。
「ほら、見えてきたよ」
「ホントだ」
前方に目線をやると、関所のような門があった。
門の横にはこぢんまりとした部屋があり、その中には警備員が1人いる。
徐行で車をその横につけると、お母さんは警備員に名前を明かすことで門を開けてもらい、車を発進させた。
「ここに来るまでに1時間くらいか。意外と近いんだね」
「一応敷地内には入ったけど、ここからまだあるよ」
その言葉の通り、敷地に入ってしばらくは家らしき建物を見ることはなかった。
車はどんどん進むけど、山道特有の急なカーブや上ったり下ったりの繰り返しばかり。
十数分、ジェットコースターの気分を楽しんでると、一直線の道に出た。
その道の先にはようやく建物の屋根が見える。
木々を抜けると小高い丘となっていて、中央に大きな豪邸。その脇に屋根付きの駐車場があり、お母さんはそこに車を止めた。
「さ、着いたよ」
「うわー、なんか緊張してきた」
城のごとく顕在する豪邸。それと中に居るであろう家主を想像して、私は尻込みする。
でもここまで来ておいて、今更引き返すことはできない。
私は腹をくくってお母さんと車を降りた。
「よ、四葉姉さん、待ってたよ」
お母さんの名前を呼ぶ声がして振り向くと、2人の人がそこにいた。
1人はお母さんの名前を呼んだ、気弱そうな男の人。
そして、もう1人は、
「優姫!? どうしてここに!?」
「エリカ。やっぱりか」
私の友だちだ。