「流石に食い過ぎたな、身体が重たくなっちまった」
「そりゃあれだけ酒やら肉を食えばそうなるだろうよ、さてとこれから如何する?」
「俺は適当に散歩して帰る、このままだと流石にキツい」
「解った。俺は先に船に戻ってるよ」
食事をたっぷりと堪能した後ゾロと別れ一足先に船へと向かう。気分良く船へと向かうレウスだが風が妙に強く潮の香りが先程より強くする事に気が付く。島にいた際に何度も経験した事がある感覚、湿った風と強い潮の香り、大きな嵐が来ている。嵐が近づいている事を察し足早にゴーイングメリー号へと向かう。
「雲行きが怪しくなってきたな、これは出航の準備をしといた方が良いかもな!」
地面を強く蹴りつつ海岸線へと出ると波が大きく荒れ始め巨大な雲が近づいている事が分かった。そして遂に雨が降り出してしまった。
「ちっ降り出しやがった、面倒だ……んっ?」
雨が降り出し苛立ちを覚えたが次に思ったのはメリー号の傍で何かの作業をしている男と大型のライオンの姿。なにやら船には爆薬と思われる物が巻き付けられているのも見えた。ぱっと見ても敵だ、巨大なライオンを連れている男は何度も何度もマッチを付けようとしているが風と雨の勢で消えるせいが苛立ちながらもマッチをすり続けている。
「……脅かすか」
無駄な力を使うのも面倒臭いと考え左腕を竜化する、潮っ気が強い空気を勢いよく吸い込みつつ男の背後へと近づきある程度吸い込んだ所一気にそれを開放する。
「―――グオオオオッ!!!」
「うっひゃあああああああああ!!!??」
凄まじい爆音と本能に直接訴えかける竜の咆哮に男は身体を縮めこませ耳を思いっきり抑える、何が起きているのかも理解できずに理性は混乱し本能は恐怖に脅えている。
「ソイッ!!!」
「おわああああああ!!??」
驚き体が浮いた瞬間に男の身体を掴み一気に町の方へと投げ飛ばす。竜化していた為か一気に流星のような勢いで飛んでいく男を慌てて追いかけていくライオン、満足げなレウス。なんともシュールな絵となった。
「お~いレウス~!」
「んっ?」
男を片付け船に乗り込もうとすると背後からウソップの声がするので振り返ると大荷物を抱えたナミを連れながら巨大な魚を引きずるようにこちらに向かってきていた。
「大変なのよ大嵐が来るの!大急ぎで出港の準備をして!!」
「って大変だナミ後ろから海軍だぁ!!」
漸く船へと辿り着いた二人に続いて現れたのはこの世界で秩序と正義をもたらす軍隊の海軍。海賊である自分たちにとっては最悪の敵である、どうやら船長のルフィの存在がバレて船その物を拿捕しに来たのだろう。
「ウソップ帆を張れ!一旦海へと出るぞ!」
「ハァッ!?おいでもルフィにサンジにゾロは?!」
「俺の能力忘れたか?俺が飛んで迎えに行く!」
「そっかその手があったわ!ウソップ錨お願い!帆は私がやる!」
「わ、解った!!」
船の準備を任せレウスは船から飛び降り海軍へと相対する、なんだかんだで海軍と戦うのは今回が初めてだ。
「貴様大人しく投降しろ!!」
「誰がするか!!
再び竜化し今度は全力で喉が張り裂けんばかりの咆哮を放つ、爆音で周囲の地面は震えながら割れていき海軍の兵士たちの心を強く揺さぶる。精神に直接揺さぶるかのような爆音に本能が恐怖しその場で立ち尽くすようにへ垂れ込む。
「ァ………ぁぁぁ……」
「ひ、ひぃいいいい……!!!」
「こんなもんか、フッ!!」
海軍兵士の戦闘不能を確認すると船へと乗り込み出港の準備を手伝う、そして増援が来る前に船を出す。荒れ狂う波に船は大きく揺れながらも進み始めるとその直後にこちらへと走ってくるルフィ、ゾロ、サンジの姿を確認した。
「おおおお~い待ってくれよ~!」
「ナミスワァアアン只今戻りました~!!」
「もう船出したのかよ!」
「レウス!」
「よし来た!!」
大きくジャンプし身体を一気に竜化させる、普段のような人の形を留めるような生易しい物ではない。全身その物を竜へと変化させる竜化、身体は膨張しながら一気に鱗や甲殻が身体を覆っていき太く長い尾も生えてくる。大空を自由に飛ぶ為の翼を広がりレウスは完全なリオレウスとなってルフィたちの元へと向かっていく。
「うっひょひょひぃ~いカッコいい~!!!」
「助かったぜレウス!」
「おいルフィ何時まで感動してやがんださっさと乗れ!」
完全竜化し目の前に降りて来たレウスに感動するルフィを無理矢理引っ張って背中に乗る二人、そしてレウスは飛び立った。向かってくる砲弾などでは止める事など出来ずあっさりと回避しながらメリー号へと戻った。
「はははははっ面白かった~!」
「いやぁ危なかったなぁ……ありがとなレウス、後で美味い飯食わせてやるぜ」
「やれやれだな……」
嵐の中の飛行は初めてだったためかレウスは若干お疲れ気味だった。加えて完全竜化はそれなりに体力を消耗してしまう技である。
「はぁはぁ……なんか精神的に疲れたなぁ……。嵐の中は出来れば飛びたくねえな」
「こんな強風の中をだもんね。でもお疲れさまレウス、貴方のお陰で皆欠けずに行けそうよ見てあれ!」
「んっ島の灯台か?」
ウソップの言葉通りそこには光があった。嵐の中にポツンと浮かんでいる光は孤独だが強く光で先を指さす、これから無難に挑む冒険者達を祝福するように指された光。それが示すものは偉大なる航路、グランドラインの入り口。
「導きの灯……グランドラインの入口があるわ!」
「あの先に……!!」
「折角だからグランドラインに船を浮かべる進水式でもしようぜ」
「おっ良いなそれ!」
「おいこんな嵐の中で?!」
嵐の中、甲板に出された樽。それを6人のクルーが囲む。
「俺は、オールブルーを見つける為!」
樽を持ってきたサンジが一番最初に足をのせ自らの夢を語る。4つの海の魚が生息する奇跡の海を見つける事、どこにあるかも解らないのにそれを語るサンジの目は輝いていた。それはローグタウンにて見た近海物という魚にもあった。他の海の魚が取れる、それはオールブルーがあるのではないかという思いを加速させた。
「俺は海賊王!」
かつて偉大なる航路を制覇した偉大な海賊ゴールド・ロジャー。彼はそう呼ばれた、その称号をルフィは目指す。全ての海賊の頂点に立つ存在、それが海賊王。険しい道であるだろうが彼の表情は明るい。
「俺は……最果ての海を見る為に!!」
レウスが叫ぶ。元々は旅をするのが目的だった、だがそんな言葉はこの場に似つかわしくない。ならばもっとでかい旅を、大きな冒険をする事を目的とする。この世界に来て数年、もう元の世界に戻る事は出来ないだろう、ならもっと大きな世界を見たいと言う夢が生まれた。
「俺ぁ大剣豪に!!」
ゾロの夢、それは果てしない先の自分。ひたすらに強くなるという事、そしてある男に勝つ事。王下七武海、鷹の目のミホーク。世界最強の剣士、ゾロは一度敗北したがもう二度と負けない、必ず世界一の大剣豪になると誓った。この先に、あの男が待っている……静かにゾロの闘志が燃え滾る。
「私は世界地図を描くために!」
ナミの夢は壮大で凄まじい。自分の目で見て自分の力で地図を描く、素晴らしいと同時にスケールがデカい。幼き日に決めた夢を叶える為の一歩が始まる、苦難の旅に成るだろうとこの仲間ならば絶対に大丈夫!と思える。
「お、お、お俺は勇敢なる海の戦士になるためだ!」
ウソップは偉大なる海賊である父の背中を追っている、いつか自分もそんな父のようになりたいと願っている。子供だった自分と母を故郷に残してまで海に出た父、今もこの海の上で命を張って生きている父を尊敬しながら自分も勇敢な男に成り、戦士に成ると!
それぞれの夢を分かち合った一同、これから自分たちはそれを叶える事が出来る場所へと足を進める。その夢を目指す為に進むと誓い笑う、そして大きく足を上げ樽を―――割った。
「「「「「「行くぞ!!