ONEPIECE 空の王者が海を征す   作:魔女っ子アルト姫

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空の王者、居ぬ間に襲いかかる現実。

ちょうどレウスが本能に従った末に発見した店に入った頃、ルフィとウソップはメリー号の状態を見てもらおうとフランキーを岩場の岬へと案内した所だった。そこには既にこのウォーターセブン一という造船会社の船大工のカクという男が査定のために船を見上げている所だった。

 

「おう山猿、テメェこんな所で何やってんだ」

「なんじゃ騒がしいと思ったらフランキーか、ワシはこの船の査定じゃ」

 

カクというウソップに似た長い鼻をしている男は一流の船大工として名を馳せているらしくこの島では知らない者は居ないほど、そんな彼はナミ達からの依頼を受けて船の修理の為の査定にやってきたらしい。

 

「奇遇だな。俺もこの兄ちゃん達に頼まれてこの船を見に来たとこだ」

「ほう……それじゃいっちょどっちが正確に査定出来るか勝負と行こうかの?」

「望むところだ!このスーパーな俺様に勝てると思うなよ!」

 

勢いよく甲板へと飛び上がり船の様子を見始めていくフランキーと負けんぞと言葉と笑みを漏らしながら同じく船の調子を見始めていくカク。二人の船大工が船を見てくれるということでこれなら絶対に良くなるとウソップは期待を胸にメリー号を軽く撫でる。

 

「メリー絶対良くなるぞ!そしてこれからもずっと冒険するんだ!!」

「そうだ!メリーは俺達の家で家族で仲間だからな!!」

「そうだぜルフィ!」

 

共に肩を組んで踊りだす二人に呆れつつも大切な仲間というのは概ね同意だった留守番をしていたゾロは再び昼寝へと戻った。きっと目が覚める時にはメリーの査定が終わっているだろうと思いつつ……甲板の板を軽く撫でたり鉄板が打ち付けられたマスト、レウスの鱗や甲殻などで丸ほど代用するかのような修繕がされている部分を見て驚いたりしつつも査定は進んでいき約20分ほど経った時、査定が終了した。

 

「査定は終わったぞ、フランキーは如何じゃ?」

「俺も終わりだ。にしてもこの船は愛されてんな、修繕の仕方はなってねぇが愛情が詰ってやがる」

「同感じゃ。此処まで大切にされている船は久しく見た」

 

二人の言葉のスタートはまずそれに尽きた。メリーを見てまず思った事は心の奥底から大切に思われている事だった、傷こそ多いがそれ以上に丁寧に修繕され消耗が多い部分などは細かく手入れが入れられており大切にされているという印象を強く感じる。ただの乗り物、移動手段ではなく仲間の一人として此処までの旅路をやってきたのだという事がただの言葉ではなく経験として蓄積されている。

 

「だろだろ!?メリーは東の海からこの偉大なる航路をずっと旅をしてきたんだ!途中色々あったけどさ、これからも一緒に旅をして行きてぇんだ!」

「そっか……こいつも幸せもんだな」

 

振り返るとそこには愛らしさとは裏腹に傷を負いながらも此処まで仲間を運んできた歴戦を感じさせる船体が目に入る。

 

「ああっ!メリーには今まで本当に世話になったからさ完璧に元気にしてやりてぇんだよ!金ならきっと黄金があるからそれを換金して一杯になるからさ!」

「ああ金の事なら大丈夫だ!それでどの位修繕には掛かるんだ?」

 

純粋でキラキラとした瞳を向けて来る二人に思わずフランキーとカクは如何しようかと思わず顔を見合わせてしまった、普通なら直ぐに結果を知らせるのだが此処まで船の事を純粋に愛しており仲間として認識し、まるで一人の人間のように扱っている目の前に二人にはそんな事を直ぐに言い出しにくい。故に少しずつ話していく事にする。

 

「そうじゃの……まず全体的な評価じゃが床は張替え、マストも差し替えが必要じゃろう。ある意味分解する勢いで修理して行った方が楽じゃの、船底もかなりのダメージを負っておる」

「ああその辺りは俺も同意見だ。寧ろ驚きに満ちてるぜ、キャラベルっつうのは古いタイプの遊覧客船で偉大なる航路みたいな激しい海なんか航海出来る代物じゃねえ。よっぽど良い航海士が居るんだろうな」

「おう!うちの航海士は世界一だ!お金とみかんが好きだけどよ、きっとメリーも同じぐらいに好きだぞ!」

 

仲間の事を褒められて嬉しそうにするルフィをフランキーは何処か関心するように笑う。仲間の事を褒められることがまるで自分の事に嬉しい、クルーの事も大切に思えるほどの優しい心を持っているから船にもこんなにも愛情を注げるのだろうと。

 

「そして船底なんかも酷いがそれらを支えておったのがあの鱗みたいな奴じゃな。あれは一体なんなんじゃ?ボロボロじゃった船体を持ち直させるほどの物なんぞワシらガレーラカンパニーでも持ち合わせておらんぞ」

「うちのクルーにレウスって居るんだけどよ、そいつがドラゴンに変身出来るんだ!その鱗を使わせて貰ったんだ」

「「ド、ドラゴン!?」」

 

カクとフランキーは思わず口を揃えて信じられないと言いたげな言葉を漏らしてしまった。もうすっかり慣れてしまっていたが一般的にドラゴンは空想上の生き物、この世には絶対にいない生き物の筆頭といっても過言でもない存在だった。

 

「そいつがさ、確か幻獣種っていう悪魔の実の能力者でさ。ドラゴンになれるんだよ」

「成程そういう事か……それにしても悪魔の実とは恐ろしいのう、まさかドラゴンになる物まであるとは……」

「全くだぜ……流石はこの海で最も非常識な存在だな」

 

一旦呼吸をおいてから二人は改めて話をし始めた。

 

「ハッキリ言ってしまうとその鱗とかのお陰でこの船は成り立っておる、なかったら今頃如何なっておったか……少なくとも浸水しまくりで大変だったじゃろうな」

「ああ。竜骨にかなりのダメージが行ってるのに十二分な航海が出来たのもそのお陰だろうな」

「竜骨って……確か船の背骨じゃねえか!?」

 

ある程度の知識が合ったウソップが思わず大声を上げてしまった。竜骨とは船を作る際にそれを中心にして製作にする大きな木による骨、人間の背骨のような物。そこが傷つくと船全体に影響が出るほど重要な箇所でそこが損傷するということは船にとっては致命的。

 

「ああだから俺も驚いてるよ。竜骨があんな状態なのに航海出来たのはあの鱗だけじゃねえ、オメェラを如何しても次の島に渡してやりてぇって船が思ったからだ。こんだけ大事にされてる船だ、船も兄ちゃん達のことがすげぇ大切なんだよ」

「メ、メリー……そんな状態なのに頑張ってくれてたのか……!?」

 

膝から崩れ落ちながら大粒の涙を流すウソップと愕然としてしまうルフィ。頭が良くないルフィでも話の終着点が理解出来た、もうメリーは……走れないという事だ。

 

「修繕したとして次の島にはなんとか辿り着けるかもしれんがそれ以上は無理じゃな、この先の海は更に激しさを増して行く。お前さんらみたいに大切に船をしてる者達に余り言いたくはないんじゃが……この船はもう航行不能じゃ」

 

その言葉は何処までも重く、鋭く、メリーと共にこの偉大なる航路へと航海をしてきた三人の心へと突き刺さっていった……。

 

 

―――では明日、またお会いしましょう。

 

―――その時に、お返事をお聞かせくださいね。


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