「…俺も、年貢の納め時、か」
一人の青年が、小脇に抱えた『商品』と、周囲を交互に見返しながらごちる。
一方、その青年の周囲を囲む喧騒は、一層激しくなるばかりであった…
…さて。
話は、少しだけ巻き戻してから語らねば内容がさっぱりわからないだろう。
何故、青年が追い詰められているのか、彼はそもそも何なのか。
その辺りを解説する為にも、話は三日半程遡るように、巻き戻してから語ろう。
~三日前、昼、サバイバーズ・ギルド~
「…報告書、出しとくぜ。ねーちゃん」
そう言ってぶっきらぼうかつ無造作に、カウンターの前に座る受付嬢に書類の束をドンと差し出す一人の青年が居る。
彼こそが、三日後には死にそうな目に合うことになる、件の男だ。
彼は『スカベンジャー』とギルドでは呼ばれている、以下はそれに倣うとしよう。
スカベンジャー、直接的な意味には『死肉喰らいの下等動物』だが、意訳的な意味で『溝生まれの溝浚い』と揶揄されているこの男。
その通り…飢饉に貧した生まれの村で、10になる前に口減らしに井戸に無理矢理突き落とされて放逐され、実質戸籍と名を抹消された、ストリートチルドレンだった。
井戸水が貯まっていた僥幸もあり、偶然にもその時に転落死を免れたスカベンジャーは、そのまま地下水路を辿って生まれの故郷を脱出する。
そして、本名を棄ててスカベンジャー…溝に生まれた溝浚い、そう自称して、今日までそれを通して15年は生きている。
良くあることだ、三百年も昔には異世界からきた勇者なる男が悪の魔物が率いる大帝国を滅ぼし平定したとされるこの国も、今は疲弊と人材の流出をするばかり。
首都圏ですら閑古鳥が鳴きこじきが溢れるこの国の、ましてや辺境ならば、この様な目に合い野垂れ死ぬ子供の悲劇などごまんと有る。
或いは、野垂れ死ななかった者達の主な生き方も、大体想像がつく。
暴力に生きる野伏せりになるか、誰かに恵んで貰って生きるだけの屍の様な物乞いになるか、力有る者の盾にもならない鉄砲玉か、或いは性欲の捌け口としての誰かの慰み者か。
しかし…スカベンジャーは、その何れにもならなかったのである。
そう、サバイバーズ・ギルドのCクラスのランカーになっていたのである。
さてここで、サバイバーズ・ギルドとは何ぞやと言うことも、少し触れておかねばならないだろう。
サバイバーズ・ギルド、要するに、社会的にははみ出しものながらも反社会的な行動はしない、一種の半端者の集まりが集う何でも屋だ。
かつては『勇者』も所属していたことにあやかりブレイバーズ・ギルドとも呼ばれるこのギルド。
しかし、基本的には、良くも悪くも特記できる技能が無い連中の吹きだまりであり、極端な話をすると登記さえしたら誰でもこのギルドに所属することもできる。
スカベンジャーも、最低限の読み書きはできたのと、名を捨てる前は元は商人の子だったこともあり四則演算だけは知っていたと言う幸運と知識も合わさり、たまたま最底辺ギルドながらもソコにしがみつくことが出来たと言うだけだ。
まあそれすら出来なかったら…前述の通り、良くて変態相手の男娼が関の山で、とっくに彼はくたばっていたことだろう。
更に言うとそこのCクラスランカーなど、別に帝国にはどこでも珍しくはない。
駆け出しの駆け出しか、或いは他に本業を持ちながらもサバイバーズ・ギルドに立ち入ることが珍しくない酒屋や大工などの職人が通行手形代わりに所持してるDクラスのライセンスより、一回り偉いと言うだけ。
まあ、読み書きできるだけの孤児かつ後ろ楯の無く特には手柄も興味ない男など、まあこんな具合だ。
実際、この時に提出した書類の内容も『馬鈴薯と人参の荷下ろしと仕分け作業』と言う、サバイバーズとは名ばかりの短期のバイトの任期満了の報告と、報酬からの税金の処理の代行を受け付けに頼んでいたと言うことを見ればわかるように、彼の普段のギルドの仕事内容はこんな感じである。
夜間の警備員か単純労働の代行、それの繰り返しの日々を過ごしタコ部屋で寝る、Cクラス以下のランカーには良くある日常を営む一人の男がそこにあったに過ぎなかった。
さて、脱線しかけた話はまた元へと戻そう。
そんな感じで、報酬の事後処理を頼んでいたスカベンジャーは、ふと掲示板に張られたチラシに目を向ける。
それの内容はと言うと…
「…港に有る倉庫街の警備、か。報酬は可もなく不可もなくだが、生まれや学が絡まない仕事なのは有り難い。依頼人は、役所のほうだから特に経験的に支払いで金銭トラブルになることは無い…か」
…と、スカベンジャー自身がごちたように、夜間警備のバイトの様な依頼だ。
こう言うことも良くあることだ、何かを輸入する時に、物盗りや海賊から目を光らせようと臨時の警備を増やすことなど古今東西有る仕事であろう。
彼は、この手の依頼は率先して受けようとする。依頼人の素性がハッキリしていて内容に嘘がほとんど無いために、仕事の後のトラブルがまず起こり得ないからだ。
倍率が高い関係上、実際にこう言う仕事をやったこと自体は数は少ないものの、それだけスカベンジャーからしたら魅力的に映る。
先程の荷下ろしの時ですら…契約満了寸前で、商人からいちゃもんをつけられ成功報酬を減額させられかけたぐらいなセコい話が日常茶飯事なのだから、尚のことだった。
そんな港の夜間警備のバイトを、早い者勝ちと言うことで、今回やや強引に枠を勝ち取ったスカベンジャーだったので有るが。
まさか『こう言うこと』になるなんて、その時は彼自身全く身に覚えはなかったのであろう…