ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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00-ウチのキャラクターの誕生

「ううん…」

 

 どうも悩みが多そうな唸り声が、一人しかいない空間に響く。

 …いやしかし、正確には二人と言うべきか。それでも二人と呼ぶには矛盾している。

 

 マネキンの様な姿の人が、まるで評価するように人間の男性を眺めている。

 整えられた黒髪の男は、棒立ちの格好を保ちながら虚空を見つめている。ついでに言及すると、その男はイケメンであり、程々の身長であり、細身かと思えば筋肉が多い。

 それだと言うのに、彼は棒立ちを保ったままでそこに居る。

 

 一見、服屋に来たイケメンと、その場に固定されたように立つマネキンの立場が入れ替わったような様子なのだが…。

 

 

 それ以前に、ここは何処なのか?

 

 

 

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 ここはとあるVRMMOの、キャラクタークリエイトルームと呼ばれる…、日本語に直すならば、キャラ作成部屋といった場所だ。

 この場所は、ゲーム上で操作するキャラクターの容姿、名前とかを設定する空間であり、全てのプレイヤーはゲームを始める前にこの空間に訪れることとなる。

 

 まだ身につける姿を決めていないプレイヤーはマネキン姿となり、様々な要素を変更したり付け加えたりして、キャラクターの容姿を決めていく。

 それは髪の色、髪の長さ、髪型だったり。または身長、筋肉、脂肪だったりと…。

 

 そうして、プレイヤーは長い時間のキャラクタークリエイトを経て、その姿を身に付けて『ヴァーチャル・ファンタジー』の世界に降り立つのだ。

 

 

 

 …で、一足間違えれば、男性に熱い目線を向けていると思われるであろうこの光景だが…。別に俺はそんな趣味などない。ただ、キャラクターを作っているだけだ。

 

 実はこのキャラクターは既に完成したものだが、特に何も考えずに作ったのである。適当に作っていっても順調に姿が作り上がってゆく為、調子に乗ってしまった。

 

 

 それじゃあ、何故俺はそんな姿のキャラクターを前に唸っているのか?

 理由は簡単、このイケメンを使うには気が引ける、といった感じだ。

 

 そう、あまりにもイケメンすぎる。いや一般水準においてイケメンすぎるというわけじゃなく、俺には合わない様な気がしているのだ。

 或いはほかにも原因はあるかもしれないが……。

 

「ううん…」

 

 とにかく、それが悩める唸り声の原因だった。

 

「……」

 

 

 決めた。また新しくキャラクターを作り直すことにしよう。

 

 このキャラクターの容姿はデータに保存できるようなので、このイケメンを保存し、また別のキャラクターを作ってみることにした。

 

 

 して、再び完成。

 

 金髪に蒼眼、比較的大柄なこの人間は、見ようによっては西洋かそこら辺の人間とも捉えられる。というより、そういった人間がテーマである。

 例としては、よくある学園アニメの留学生キャラに近いだろうか。

 少し悩んだが、これは一応の候補として保存し、また別のを作ることにした。

 

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 白髪に高身長、程よい筋肉を身に着けた老人は、如何にも”戦える執事”というイメージを受ける。

 これにタキシードだとか、レイピアだとかを装備させれば、戦える執事というイメージを万人に与えること間違い無しだろう。

 

 ……が、これはVRゲーム。自分の動作がそのままキャラクターに反映される。

 俺は礼儀に関してはからっきしだから、内面と外面が一致しないという点では致命的である。

 これも一応候補として保存、また別のキャラクターを考える。

 

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 先程の老人とは逆に、ショタと呼ばれるような容姿のキャラクターを作成した。

 が、作っておいてなんだが、このキャラでゲームを遊ぶと考えると…。…控えめに言ってムリだ。

 俺は保存さえもせず、また振り出しに戻った。

 

 

 さて、着せ替え人形の如く、いや、それ以上に容姿の変化が激しいこの人物を目前にして、マネキンこと俺は、また唸り声を上げて悩んでいる。

 

 今度はどうしよう、理知タイプのメガネでも作ろうか。赤い髪がトレードマークの熱血系はどうだろうか。

 と、そんなこんな考案していると、突如としてピロピロンといった音が、耳元で発される。

 メールの着信音だ。

 

 システムメニューを呼び出すと、メールのアイコンの上に「1」という数字が浮かび上がっている。

 届いたメールのタイトルを確認するが、無題。代わりに送り主の方を確認すると……母だった。

 

 携帯電話からこのVR空間にもメールを送ることが可能だから、きっとそうしたのだろう。

 そう思いながら、メールを開封。文章を確認する。

 

『まだゲームで遊んでるの? ご飯が出来たから来なさい』

 

 もうそんな時間だったのか。

 現実での時刻を示す時計を呼び出すと、確かに夕飯時を示していた。

 俺はこのゲームを終了させると、現実へと意識を移した――。

 

 

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「あら…ぶいあーる? っていう所でもメールが届くのね」

 

 食卓に足を運んでみれば、突然そんなことを言われた。

 届くと分かっていて送信したのでは?と思ったのだが。

 

「送信した後に気付いたの。でも届いてたようで安心したわ。ほら、今日はハンバーガーよ」

 

 ハンバーガー?

 例のバーガーレストランからお持ち帰りしたのか?

 しかし食卓に乗るそれは、パンズもレタスも無く、デミグラスソースを被ったパティ…もとい、ハンバーグであった。

 

 母よ。それはハンバーガーではないぞ。というか、以前にもこういった事があった気がする。

 

「ほら、冷めちゃう前に食べなさい。創也(そうや)

 

 しかし、今更指摘するにも遅い。以前にもこういうことがあったのだから。

 俺は言われた通りに席に座り、用意された食事を黙々と食していった。

 

 

 

「そういえば」

 

 食事中に話しかけられたが、食を進める手を止めずに、しかし耳を傾けている。

 

「この前お部屋の掃除をした時、こんなものが」

 

 目を見開き、フォークをハンバーグに突き刺したまま、俺は固まる。

 母が手に持つそれは、俺がヒッソリと所有しているノート…。所謂、黒歴史ノートである。

 当時の俺のお茶目な思いを滅茶苦茶に書いて描いて、そして出来上がった一冊である。

 

「いやあ、創也って以外と絵が上手なのねえ」

 

 母よ、今直ぐそのノートのページを一枚一枚破り取って、全てをシュレッダーにかけた後燃やすのだ。

 今直ぐ、ハリー、ナウ。

 

 しかし今の俺は動揺しきっていて、固まった思考の中、あの一冊をじっと見つめることしかできなかった。

 

「…あら? この子、可愛いわね。もしかして初恋相手の絵なのかしら?」

 

 そう言って示すページは、俺のキャラクター案の所だった。

 7割以上が女性なのだが。と言うかその本を今すぐ手放して欲しい。

 一部、奇妙だったり際どかったりする服装のキャラクターが居るのだから、勘弁して欲しい。

 

「……キャラクター?」

 

 母がその言葉を発した直後、俺はピタリと固まった。 

 

 その様子に反し、心のなかに一瞬の光が宿った……ような気がする。

 その光はアイデアの豆電球によるものか、救いの光なのか、どちらなのかは知らない。誰もわからない。

 

 けれど、その光が俺の動揺を掻き消したのは確かだ。

 

 

 俺は右手を出すと、黒歴史ノートを掴み取る。母はそれをあっさりと手放す。

 思い出すようにキャラクター案のページをピラピラと捲り……、そしてあるページにたどり着いた時、俺はこの本を作った過去の俺を褒めたくなった。

 

 俺の様子を見ている母の目線が、まるで「一体どうしたの」とでも言うように訴えかけてくる。

 しかし俺はその目線にさえ気づかず、俺は何かを求めるようにページをめくり続ける。

 

ページ毎に書かれている”キャラクター”を説明する文章。その全ては立ち絵などを伴わないものだったが、ある一ページだけは例外であった。

 それを開いて最初に目にしたのは、そのキャラクターの姿。

 

 頭に六法全書でも打たれたかのような錯覚をなんとか押さえつけ、文章を食い入るように読み始めた。

 

 ケイ (16)

 

 ・若くして老熟された精神を持つ。

 ・お茶目な性格。

 ・騎士としての経験による戦闘技術は勿論、魔法から素手での格闘まで、あらゆる戦いの技術を習得しており、その全てを活かした戦いが得意。

 

 ・未来の20年後に、恋人を亡くしてしまう。その運命を覆すため、長年の研究を経て生み出された魔法を使い、またゼロ(誕生)へと時間を巻き戻した。その二度目の人生で、守るための力を高める事を決意した。

 が、誕生からやり直した所為か、性別が反転。元は男性なのが、今度は女性として生を授かってしまう。

 元男性とは言え、女性としての人生を16年間歩んできたので、心身ともに女性のそれとなっている。

 

「……」

 

 容姿を示す絵と共に書かれた、多いとも少ないとも言えない設定を前に、俺はほんの数秒の時を、思考に費やした。

 

 ……そう言えば、あのゲームは男でも女性キャラが選べるんだっけ?

 それと、あのゲームには演技(ロールプレイ)する人もある程度居ると聞いたことが……。

 

 思考の末に、口が右の頬へと引き釣られた。

 残りの食事を早々と口へ運ぶと、俺は再びVR世界へと飛び込んでいった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 はて、さっきまでこの空間には、唸り声を上げるマネキンがいたはずだが。

 しかし今では、迷いもせずキャラクターの容姿を次々と変えていっているマネキンが代わりに居る。

 

 しかも今度はさっきとは違って、作っているのは女性のキャラクターである。

 一体どんな変化があったのか、クリエイトの進行には迷いがなく、完成した所で『モデルデータ保存』と書かれたパネルに触れ、作業を止めた。

 

「……」

 

 その女性は銀髪を持ち、ポニーテールの形で纏められている。

 裾がやや短めの灰色のマントで肩を包んでいて、その下に白いシャツを着ている。

 スカートを履いているが、腰の辺りにポーチが備え付けられたベルトが巻き付いている。

 

 どこか見覚えがあるその姿……、いや、見覚えのあって当然の姿がそこに在った。

 

 年は10代の真ん中辺りか、それぐらいの若さの姿のそれを作成したマネキンは、ただその姿を見つめていた。

 その視線に性的な意図は全く感じられない。ならば無感情な視線を向けているのか。しかし、それもまた違う。

 

 

 ならば、その視線をどう例えるべきか?

 

 自らが書いた絵を評価するように見る絵師の視線か、

 決闘の場でお互いを見つめ合う剣士の視線か、

 作り上げた砂の城を見上げる子供の視線か、

 

 

 あるいは………。




今回登場した『ケイ』は(私の黒歴史ノートの中に)実在する人物です。
が、設定は実在のものとは異なります。名前と容姿だけを参考にしました。

VRで、体型がかなり違う肉体を操作するのって色々とマズそうですが…。この世界では、そう言った問題はありません。無いったら無いんです。

連載中、後付け設定に合わせるために内容を一部変更することが多々あります。
基本的に変更に関しての告知はしません。
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