ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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サブタイが適当になってる感が否めない。
ついでに本文も適当なってる感が否めない。
ダメなパターンじゃないですかヤダー。

あ、途中で長々とした説明シーンがありますが、大したことないです。


15-ウチのキャラクターと俺の口喧嘩

 ピヨピヨと、窓の向こうから鳥のさえずりが聞こえてくる。なんて清々しい朝だ、これが寝起きだったら最高だろうに。

 しかしそれほど残念がる事では無いと、ガバリとベッドから起き上がる。

 

 さて、今日は朝食当番の日だ。それに続いて依頼の予定があるから、それに間に合わせるために、早めにログインしてきた。

 言わば、アレだ。朝食当番の朝は早いってヤツ。

 

 早起きは三文の徳、或いは得という言葉があったか。どちらの漢字が合っているのかは知らない、覚えていない。後で調べよう。

 そんな事をぼんやりと頭に浮かべながら、下の階に降りてキッチンへと直行した。

 

 調理器具の位置や使い方は、昨日の買い物を終えた後に済ませている。これらには魔導具がふんだんに使われているお陰か、現実に有るような道具が勢揃いだった。これならば現実と同じ感覚で出来るだろう。

 

 まず、手を洗う。ゲーム内で意味があるかは知らない。

 次に冷蔵庫から肉や野菜を取り出す。

 そしてパンを用意する。焼きそばパンで使われるような感じのヤツだ。確かコッペパンとでも言ったか。

 

 うむ、食材自体は朝食の簡単な食事としてはベタだ。初めての当番だからこれだけで良いんだけれども、食材だけポンっと置いて、それを料理と主張する程俺は大胆ではない。

 

 先ずは肉を薄く切

 

「あ、あの」

 

 ろうとした所で、俺は慌てて手を止める。突然の声に反応してピクリと動いた指が、包丁の刃の下に入ったからだ。

 

 一体誰の声かと、後ろを向いてその人物の姿を見る。

 呼びかけこそ控えめだったものの、この部屋には誰もいないと思っていた故、必要以上に驚いてしまった。

 見れば、その驚かせた人物とはレイナだった。

 

「レイナ?」

 

「あ、あの……初めての朝食当番でしょうから、お手伝いしに……えっと、来ました」

 

 ……あー、そうか。

 いや、親切にしてくれるのは別に良いのだが、せめて包丁を握ってない時に声をかけてほしかった。

 

 とりあえず、自分の言葉を伝える為にポーチからメモ帳とペンを取り出して、言葉を書き出した。

 

『おねがい』

 

「あ……はい!」

 

 人手も多いに越したことはない。普段と違って宿屋の住民全員の食事を作るのだから、それだけ大変なのだ。

 そんなワケで、あらかじめ大分早めにやって来たのだが……この様子じゃ、時間までに余裕ができるかな。

 

 

「あの、ソウヤさん」

 

 人数分の肉を焼き終えるかどうかのタイミング、フライパンをじっと見つめている俺の横からポツリと声をかけられる。

 

「ケっちゃ……ケイから聞いたんですけど、今日は依頼で出かけるらしいですね」

 

 じっくりと肉の色が変わるのを待ちつつ、頷いた。

 それがどうしたんのだろう。

 

「それで、その、行き先の村は今は危険な状態らしいと……」

 

 また頷く。

 ココまで言われると、ある程度彼女のことを知っている俺には、彼女がこれから言おうとする事が予想つく。

 きっと、心配だから付いていくとでも言うのだろう。

 

 やはりレイナは優しいな。プリーストっぽい服装をすれば、その慈悲の込められた目がより際立つだろう。

 

 というか、さっきから気になっていたが、なんか喋り方がたどたどしい。

 俺が知っていた"レイちゃん"は意外とフレンドリーだった。現に今もケイとの仲を深め続けているが、俺みたいな男相手には人見知りするんだろうか。

 頃合いを見て肉をフライパンから取り上げると、火を止めてからメモ帳を手に取った。

 

『ケイはどうしてる?』

 

「あ、それならあそこに……あ」

 

 あそこ、と言われてその方を見るが、キッチンの入り口が半開きになっているだけで何もない。

 はてと思いつつ視線レイナの方に戻す。

 

「あ、あそこの机のあたりに座っていると思います!」

 

 急に言葉が勢い付いた。この緩急をグラフで表したら、その棒線は正に断崖絶壁の輪郭を描いていたであろう。

 しかし俺は特に疑問に思うことは無かった。寝起きだからテンションが不安定なのかもしれない。

 

 俺は心配そうな目でレイナを見ると、料理を仕上げる作業に戻った。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 朝食を作り終え、ケイやレイナ、その他親切な宿泊客の手でそれぞれの机に朝食が運ばれる。モチロンそこには俺も含まれている。

 

 配っていくついでに宿泊客の様子を見てみたが、皆は見るからに不審な見た目をした俺と、その俺が作る飯を警戒していた。

 仕方ないと思いつつ配ったが、その人らが料理を一口すれば、その警戒は綺麗に拭われた。

 人というのは胃袋を掴めばチョロいものかもしれない。

 

 最終的に、何時もと同じように穏やかな朝食となった。そんな中で一足先に食事を食べ終えた俺は、机に立てかけていた装備を持って宿屋を出る。

 

 行き先は、依頼主と馬車の待ち合わせ場所だ。

 モンスターの蔓延る野外と街を隔てる壁の近くに馬小屋があるとの事。

 メモ帳に記された情報を頼りに歩くが、十数分でそれらしい所を見つける。俺はほっと息をついた、いい年こいて迷子は勘弁だ。

 

 

「……馬か」

 

 近くの馬小屋を眺めて、呟いてみる。

 

 このゲームの世界の主な移動手段は馬だ。自動車やらが走り回っているワケがない。

 個人で移動する時は馬車ではなく馬単体で移動するが、今日は複数人で移動するから馬車を利用することになるだろう。

 

 因みに、プレイヤーの大半が馬に関しては素人であるだろう。乗馬する事さえ難しいかもしれない。だが専用の"技術"を習得する事で、乗馬しての移動ができる程度まで、システムが動作を補助してくれる。

 

 そういえば、このゲームが始まって間もない頃、馬や刀剣、弓道やらアーチェリーやらに興味を持つ若者が多くなったとかどうとか。

 現実時間で約1週間前にこのゲームの存在を知った俺には、その詳細を知らないのだが。

 

 

 さて、他の人が集まるまで暇だし、適当にステータスやらを確認してみようと、俺は念じる事でウィンドウを召喚する。

 それと棒立ちなのもあれだから、適当な柵にでも寄りかかる。

 

 まずレベルや能力値( ステータス)の項目を開く。これはまあ、いつもどおり全てゼロだった。

 

 次に技術レベル。人形になってから習得したと思われる物が3つあった。今朝にやった"料理"と、"防御""回避"だった。

 前者はともかく、後者は何時習得したんだろうか。

 

 まあ、習得だけしても大したメリットは出来ないからなと、そっと息を吐く。

 こういった技術レベルは育てないと大した効果は出てこない。けれど、その技術に対応した職業でないと、成長に大きなペナルティが掛かってしまう。

 

 脳筋戦士に魔法を与えても、決して知力は上がらないのだ。

 

 そんでもって、職業:無にである俺は、なんの適正技術も無い。何をやっても育たないのだ、正に無職(ニート)

 だいたい予想付いていたけどさあ。

 

 

 落ち込んだ気分をずるずると引きずるように、ウィンドウをポチポチと弄っていく……すると、目新しい項目を見つける、”実績”だ。

 興味が湧いて、すぐにそれをポチっと選択してみる。これは一つ実績が解除されているらしい。

 

 これは”ゼロ”では無かったかのだなと安心して、それを確認するが……。

 

『ハロー デバッガー』

『概要:デバッグに参加したプレイヤーに与えられます。「システム」項目から、デバッグモードを確認してください。』

 

 ……。

 

「……」

 

 俺はそっと手を振るい、ウィンドウを退けた。そして頭を抱えた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……なにやってんの?」

 

「あ……ケイか」

 

 柵に寄りかかって虚空を見つめる俺に声をかけたのは、レイナを引き連れたケイだった。

 今俺は熟考中である。あまり邪魔しないでほしい。

 

「あの、ソウヤさんは一体どうしたんですか?」

 

「なんか知らないけど、何故か黄昏れてるみたい」

 

「はあ……」

 

 現在俺の頭の中で蔓延っている思考とは、デバッグモードに関することである。

 あの実績を確認して柵からずっこけた後、システムメニューの中からそれらしき項目を見つけてしまった。

 アレはジョークや冗談とかでは無いらしい。これは喜ぶべきなのだろうか。

 

「……フラれた?」

 

「全く違うがな」

 

 ケイの渾身のボケには流石に反応する俺。しかしその言葉はケイにしか届かず、レイナの俺を見る目がちょっと可哀想な物を見るソレになりかける。

 追加のツッコミを入れる気になれない。

 

「……止めておくか」

 

 二人の顔をぼんやりと眺めつつ、俺はそう呟く。

 デバッグという名のチートなんかを使い、そしてゲームから追放、所謂BANという処置を喰らいたくない。

 触らぬ神に祟りなし、とはよく言ったものだ。

 

 

 さて、チートという万能の力への誘惑に打ち勝った所だが、肝心の依頼主であるドラムスメはまだココへ来ていない。

 まだまだ待つ必要があるだろうと、俺は寄り掛かる体勢を崩さないままにした。

 

「そういえばソウヤさん、武器が多いですね……」

 

 何を言うのかと思えば、そこを言及するか。

 確かに弓と剣を同時に装備しているが、特別ヘンなワケでは……あるのかもな。昨日ケイが言っていた様に。

 

「ソウヤは荷物持ちだからね。武器も護身用にしか過ぎないよ」

 

「……ぬう」

 

 ある意味でお荷物なのは認めるが、こうも当然のように言われると唸りたくなる。

 

「に、荷物持ちですか。大変ですね……」

 

 レイナの言葉に、俺は思わずそっぽを向いてしまう。

 特に明確な意図はない、なんとなくでの行動だったが、偶然にもその目が向いた先に馬車があった。

 

 馬車は先頭でパカラパカラと歩く2頭の馬に引かれ、進んでいる。

 そして、その2頭と繋がる手綱を握っているのは()()ではなく、ドラゴーナだった。

 

「よお、あんたらが今日出発するっていう護衛だな!」

 

 挨拶するように片手を上げながら話しかけてきた。

 よく見ると、そのドラゴーナの後ろには、昨日会ったばかりの人物が居た。

 

「お早うございまーす。待たせてしまいましたかー?」

 

「私()()はさっき来たばかりだから大丈夫だよ」

 

 その複数形に俺は入っていないだろう、嫌味か。

 

「おう、あんたらが乗る馬車の御者だ。名前はヨモギ。まあ適当に呼んでくれ」

 

「わかった。よろしくね、御者さん」

 

「そう来るか、ハハ!で、そっちのちっこいのは友達かい?」

 

「うん。レイナちゃんだよ」

 

「はじめまして。飛び入り参加になっちゃいましたけど、ご一緒してもいいですか?」

 

「歓迎するわー。人が多いと退屈しないものー」

 

「ありがとうございます!」

 

「俺も可愛らしい魔女っ子さんなら大歓迎だぜえ!」

 

 ガッハッハと笑い飛ばす、どこかの筋肉と性格が似た御者を無視しつつ、馬車の後ろから中へ乗り込んだ。

 中に入るとドラムスメがこっちに手を振ってきたから、少し振り返してから適当な席に座った。

 馬車の中は両脇に座席が伸びているようになっていて、片方の長さは俺の身長1.5倍分ぐらいだった。

 

 続けて女子2人組が入ってきて、これで全員が乗り込んだことになる。

 

「よし、乗ったな。じゃあ出発だ!」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 俺たちを乗せた馬車はゴロゴロと車輪が音を立てて進んでいる。そのアクセントに馬の足音がパカラパカラと2頭分聞こえてくる。

 スピードは普通の人が歩くより速いくらいだが、現実での自動車や電車とは比べ物にならないぐらい遅い。当然だが。

 

 人間:ドラゴーナ:人形の比率が2:2:1であるそんな一行だが、偶然なのか、その種族別に分かれてこの暇な時間を過ごしている。

 

 ドラゴーナ組のドラムスメとヨモギは楽しそうに話している。その話を聞き取ってみると、その2人は同郷だとかなんとか。

 そして人間組のケイとレイナはというと、魔法書を取り出したレイナがそれをケイに見せたりしている。ケイはその本を興味深そうに読み、レイナはどこか嬉しそうにその様子を見ている。

 

 

 到着までの時間はとんでもなく暇だ。

 しかしその時間は、この一行に和やかな空間をもたらしているように見えた。

 

 ふと、俺は襟元に気をかけるような仕草をした。服の下は人形の体である故、身だしなみを気にするのは当然のことであるだろうが、別にそんな意図はない。

 じゃあ何故かと言うと……アレだ、花柄胸当て。俺はソレを気にしていた。

 

 実際の所、めっちゃくっちゃ装備したくなかったのだが、嫌々ながら仕方なく装備している。このローブは防具としての性能は殆ど無いからだ。

 

「……クスッ」

 

 抑えられた笑い声に、俺はバっとその声の元であろう人物を見つめる。

 

「……」

 

 ……犯人はケイ、お前だろ、つーか笑うなら花柄胸当てを持ってくるんじゃないよ。なんだ嫌がらせか、嫌がらせだな?

 分かった、喧嘩なら買おうじゃないか。心配するな、俺もそう言うのは好きだ。正々堂々フェアに行こうか。

 

 

 さあ、報復の火を抱えた俺の手にはメモ帳があるが。その中に、「彼女は気配察知が得意なのでは無いか」という一文がある。ケイの情報メモと題されたページだ。

 昨日の朝に、気配がなんやらという事を彼女自身が言い放った。だから、これはきっと本当だろうと思っている。

 

 とは言え、俺は気配がどういうものかは知らない。しかし、気配に敏感であるのなら、きっと視線にも敏感なのだろう。

 

 というワケで、俺はずっとケイへ視線を送り続けることにした。タイムリミットは村への到着、又はモンスターの襲撃だ。

 

 

 この瞬間、和やかになるかと思われた空間に、2人の思惑(嫌がらせ)がぶつかりあった。

 

 

 1ラウンド。先攻はソウヤ選手

 

 視線に敏感であると言う、長点にも弱点にもなる才能持つケイ選手だが、そこへソウヤ選手が遠慮なく視線を注いでゆく。

 その視線を受けたケイ選手は、今まさに動揺している様子だ。たった今口元がピクつく様子からも見て取れる。

 

 これに彼女はどう対処するか。不幸にも彼女は二人分の視線を受けている状態だ。

 明らかに悪意のあるソウヤ選手の視線。そして純粋無垢の言葉がそのまま当てはまるレイナ(サポーター)の視線。

 まるでドロドロとした視線と、まるでキラキラとした視線。その正反対の属性が込められた視線に挟まれ、彼女は明らかに動揺している様だ。

 

 レイナはケイ選手の動揺に気づかずとも、ソウヤ選手はそれを見逃さない。

 耐えられずに一瞬だけソウヤ選手に向けられた瞳。それを見たソウヤ選手は、

 

「……くふっ」

 

 嫌味そうに笑った。

 この挑発に、相手はゆっくりと本から目を離した。どうやら反撃に出るらしい。その目線に込められた感情は”報復”か。

 

 1ラウンド。後攻はケイ選手

 

「そういえばソウヤは、そのローブの下はどうなってるのかなー?」

 

 なんと、ケイ選手はストレート球を顔面に投げつけてきた。

 いきなりな猛攻に、ソウヤ選手は一瞬だけ言葉を失った。しかしすぐに復帰すると、メモ帳にカリカリと文章を書きだした。

 

『痴女』

 

「はい?」

 

『俺は知っている。ケイは街中で青少年にセクハラ行為という犯罪に及んだことを』

 

「はい?!」

 

 ソウヤ選手、このストレートにはなんとカウンターを返した。

 かつてケイとして自分が行った事を、現在のケイに押し付けようという魂胆か。

 

「嘘つき! そんな記憶ないってば!」

 

「あ、もしかしてあの日のことですか?」

 

 ここで驚くことに、観客席から追撃の言葉がケイに襲いかかった。

 

「確か、前にそんな事を話してましたよね。私と一緒の部屋に泊まった日でしたっけ」

 

「」

 

「ニヤリ」

 

 絶句するケイ選手に対して、ソウヤ選手は何処か縁髪のエルフを彷彿とさせる笑みを浮かべる。一体何を企んでいるのか、またメモ帳に言葉を書き連ねだした。

 

『お前両刀使いだったのか』

 

「ちがっ、っていうかそれってどう考えても()()()()でしょ!」

 

『はて、()は知らないな』

 

「ほら今『()』だって! 絶対君のことじゃんか!」

 

 ソウヤ選手にとって都合の悪い真実を追求するケイ選手。しかし、彼は澄ました顔のままだ。

 何を考えているのか、メモ帳を数ページ戻すと、先程書いた物をまた見せた。

 

『痴女』

 

「痴女じゃない! ていうか話逸らすなー!」

 

『何の話だったっけ?』

 

「そのローブの下の事だって言ってるじゃんかっ」

 

『やっぱり痴女じゃないか』

 

「うぐ……」

 

 終始このラウンドの主導権を握り続けた彼は、勝利を確信した。

 フフフと笑ってやると、ケイ選手はプルプルと震え始めた。

 

「……」

 

「……どうした、ケイ?」

 

 トドメに挑発を追加で注ぐソウヤ。

 しかしケイは震え続ける。何か様子が変だと彼は思うが……、

 

「……………んにゃああああ! 『ウィンドアロー』!」

 

「んがっ」

 

 追い詰められたケイによる予想外の、本当に予想外の反撃にソウヤは反応できず、風の矢をモロに受けた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「そろそろ街が近いぞー、気を引き締めていけ」

 

「……」

 

「はーい」

 

「分かりました」

 

「約一人は気を引き締めるどころか、気を失っちゃってるわねー」

 

 いや、起きてる。

 それを示すため、片腕をひらひらと挙げる。

 

「あら、起きてたのー」

 

「生きてたんだ」

 

「殺すな」

 

 ったく、口撃オンリーの戦いだった筈なのに、実力行使されるとは思わなかった。

 力量に関しては本当にネズミとクマ程の差があるからな。本当に。

 

 一応、攻撃によるダメージは、さっきまでずっと寝てたお陰で大分回復した。

 

 だが、これから危険だという話だ。寝起きであんまり気が乗らないが、弓矢の準備をしておこう。と言っても俺の矢が当たるとは思えないけれど。

 精々威嚇射撃程度だな。

 

「あの、回復魔法を掛けておきましょうか?」

 

 お気遣い感謝だが、首を横に振っておく。レイナが何故か残念そうにしているが、気にせずに弓矢を構えた。

 

 弓矢を構えた、とは言っても実際に矢を飛ばす気はない。

 弦を引いて、この弦の重さに慣れておこうと思ったのだ。ぶっつけ本番で失敗しても困るし。

 

「そういえば、ソウヤはどんな職業なのかしらー? 見た感じ曖昧だから一目でわからないのよねー」

 

 そう言われ、ふと構えるのを止める。

 職業欄には何も書かれていないから、実際に得意な武器や技術などは無い。

 

『呪いの影響で、それは無い』

 

「そうなの? 大変なのねー」

 

 確かに色々と苦労しているが、普通に活動する分には不便ではない。この人形の姿以外は。

 ステータスによる身体能力の補正は、現実の身体能力にプラスする形で掛かっている。現実で筋肉モリモリの人は、ステータスの一つである『筋力』が例えゼロでも問題ない。生の状態でも馬鹿力を発揮できるのだ。

 

 要するに、今の俺の身体能力は日本に生きる一般の成人男性と同等なのだ。

 因みに現実での俺は、特別運動神経が良かったりする訳じゃない。朝の散歩とかをやる程度だ。

 

「私は前の方で見張っておいた方が良いかな?」

 

「頼む。俺は荒事にはからっきしだからな。襲われても馬を落ち着かせる事ぐらいしかできん」

 

「いいよ、馬の事は御者さんに任せた。レイナは後ろをお願い」

 

「分かりました」

 

 ケイが指示を送って、警戒態勢を整える。

 マジメな所の時はマジメになるらしい。いや、当たり前か。彼女の精神年齢も良い年してるんだし。

 

「そうそう、この人の弓はあまり信用しないほうが良いよ」

 

「ソウヤさんの事ですか?」

 

「うん。代わりにポーションとか持ってるから、魔力が無くなったら遠慮なく使ってね」

 

「あ、はい。わかりました」

 

 魔力、という単語を耳にして、ふと現実の方で読んでいた黒歴史ノートの事を思い出す。

 このゲームでは、空気中に魔力が存在する。酸素や窒素とかみたいに。

 だがケイの世界では、魔力は生き物や物体にのみ宿る物だ。

 

 彼女が居た世界と、この世界は違う。

 けれど、彼女はこの世界の住民として生きなければいけないのだ。

 

 ……っと、それはそうと、一つだけケイに伝えなければいけない事があった。

 

「……ケイ、()()()()。出来れば、それに合わせて動いて欲しい」

 

 少しだけ顔をこっちに向けたと思ったら、肩をすくめるジェスチャーを見せた。

 まあ、対策は少しだけ考えてある。問題ないとまでは行かないが、最悪の事態にはならないだろう。

 

 俺は手元の弓矢に目線を戻すと、弦を引いたり構えたりして、襲撃に備えることにした。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ガタりと馬車が止まった。馬車の前を見ると、馬を落ち着かせる御者のヨモギが見えた。

 

「来た、リザード5体!」

 

「はい!」

 

「ようやく来てくれたわねー」

 

 各々が馬車から降りて、襲撃に備える。

 自分も馬車から降りて移動すると、たしかに遠くに敵影が見えた。

 

 相手も知的生命体、言わば人間と同じように作戦を立てるはずだ。

 そう自分に戒めると、既に確認した5体の他に何か居ないかと警戒する。

 

「攻撃します。……『マジックグレネード』!」

 

 すると、敵は被害を分散させるためか、バラバラと散っていった。

 それを見たドラムスメは、背中の翼で力強く空を押し、急速に突撃していった。

 

 ドラゴーナがパワータイプなのは周知の事実であるが、その戦闘シーンを見るのは初めてである。

 爪をまるでナイフの様に伸ばし、敵を切り刻む様は流石ドラゴンと言わざるをえない。

 しかしリザードも負けじと、二人組になって対応し始めた。

 

「ケイ、レイナの詠唱時間をかくh」

「遅い」

 

 あっ。

 

「はぇっ?」

 

「……俺、たしかに注意したはずなんだがなあ」

 

 遠慮なくスピード全開で敵に接近、そして敵一体に付き一回づつ剣を振るった彼女は、レイナと御者、そして俺の視線を集めた。

 3体の敵は一瞬の斬撃の後に光となって、ぶわっと蒸散してしまった。

 因みにドラムスメは近接戦闘中で注目するどころではない。

 

「あー、レベル50、いや60辺りかね」

 

 現実逃避のついでに、彼女の戦闘力をレベルに換算してみる。

 因みにこの予測値は剣士としての力量だけを見た場合で、魔法関係を考慮する場合は恐らく2倍に跳ね上がる。

 レベル100となれば……立派なプロプレイヤーって言うか、古参勢の領域かな。

 

「お、撤退し始めた。大したことないなー」

 

「そりゃあな」

 

 一瞬で仲間3人が同時にやられたら、すぐ撤退して行くに決まってる。誰だってそうする、俺も多分そうする。俺は残った敵2体の背中に同情の目を向けた。

 

「追撃しまーす。えいっ♪」

 

 可愛らしい掛け声で敵さんの背中を切り刻むドラムスメさんも……まあ、相当アレだと思う。

 一応、俺は他に敵が居ないかしばらく警戒していたのだが、手元の矢が放たれることはなかった。

 

 

「……あの、ケっちゃん? なんか強くなってませんか?」

 

「え? あ」

 

「あ、じゃないよ。俺の話を忘れてたのか」

 

「あー、あはは」

 

 乾いた笑いで誤魔化そうとするケイ。予想はしていたけど、ここぞとばかりと全力出しちゃうのはどうかと思う。

 いや、もしかしたらアレでも手加減していたのかもしれない。ともすればケイの強さはとんでもないという事になる。

 とりあえず、自前に考えていた対策方法を伝える。

 

「ケイ、その”魔剣の効果”ということにしておけ」

 

「そ、そう! この魔剣が凄いんだよ、ヤバいの!」

 

 俺の言葉を聞いたケイは、冷や汗を垂らしながらレイナへの説明を始めた……。

 あわあわとケイが言葉を捻り出すのを横目に、馬車近くで待っている御者の方に近づく。

 

『すぐに移動しよう』

 

「おう、賛成だ。おい3人とも、移動再開するぞー!」

 

 御者のヨモギが声をかけると、全員が馬車に乗り込み始めた。内2人は騒がしいのだが。

 

「へえ! ステータス向上の効果があるんですか?」

 

「す、すて……えっと、そうだよ!」

 

「凄いです! ケっちゃんって運がいいんですね!」

 

「う、うん。あはは」

 

 レイナのケっちゃんラブっぷりはとんでもないなと、助けを求めるケイの目を無視しながら思った。

 




鶏肉以上にサッパリとした戦闘シーン……いやサッパリしすぎです。
次回こそは……次回こそは……
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