「来た、右前方向」
「またか……」
「退屈じゃないのは良いんだけどー、ちょっと多くないかしら?」
かれこれ13回目の会敵だと、俺は息を吐いて立ち上がる。
お陰で馬車は止まることを強いられ、唯でさえ長い移動時間が少しずつ伸びていく。6時間の移動に対して、5分や10分のロスは誤差のようなもんだが。
「数は?」
「……2体?」
「少ないですね、どこかのグループからはぐれたんでしょうか?」
「そんな風には見えないけど……向こうはコッチの様子を見てるね」
観察しているのか?
今までのパターンとは違うとわかると、自分も敵を確認しようと前に乗り出す。
少し遠いが、よく見ると立ち止まって自分たちを見ているのが分かる。
一応武器を構えている様だが、まるでカカシの様に不動のままである
相手の動きを不思議に思いながら弓を構えて狙ってみる。
かなり遠いが、立ち止まっているのならいい練習相手だ。
「お、本気かな?」
「……」
無言でケイを睨みたいのを抑えつつ矢を放った。力と角度が足らなかったのか、手前の方に落ちた。
10本しか持ってないし、奴らを倒したら回収しないとな。と内心思いながらまた2本目を放つ。
やはりハズレだ、至近弾というわけでもない。まあ、元から命中は期待していない。そもそも射程外だ。
そう、そもそも射程外なのだ。だから肘で小突くのを止めろ、その厭味ったらしい表情も止めろ。
「『アイススピア』」
数秒ほどケイと睨み合ってると、レイナの詠唱の後、向こうの敵が合わせて炎のブレスを繰り出した。
相当な熱を持った炎なのだろう、それだけでレイナの氷の槍は溶けていった。
すると、今度は弓矢を以て攻撃し返してきた。
「『エアハンマー』」
その攻撃に、レイナは見覚えのある魔法で迎撃。飛んでくる2本の矢を押し返してしまった。そんな芸当もできるのか。
「ナイスだ魔女っ子。こいつらは火に慣れてないから助かる」
「有難うございます」
さて、お互いの攻撃をお互い迎撃したワケだが、別に戦力が拮抗しているワケではない。ケイは敵を見つけた以外なにもやってないし。
さっさとケイが攻撃して敵を倒しても良いだろうけど……。
「2体程度だし、私はここに座ってて良いよね」
予想してたのより弱い、とでも思ったのだろう。失望した彼女は、それなりに不利な状況でないと動かないようになった。
彼女にとってはそのつもりじゃないのだろうが、レベルの低い俺への経験値を配慮しての行動だと思われているらしく、皆は無言で賛同している。
そして面倒な事に、俺への経験値を全員が配慮した結果なのか、メイドとレイナでさえ攻撃を遠慮し始めたのだ。
現に、レイナが何かを待っているような表情でコッチを見てくる。
「……わかったよ」
当たる気はしないが、一応は武器系統の技術レベルの一つである『弓』の習得自体はしているし、無駄ではないだろう。
矢をつがえ、グググと弦を引いて、放つ。
10mぐらいならそれなりに命中する自信はあるんだけどな、と地面に突き刺さる矢を見ながら思う。
もう村に到着するまで寝ようかな。
「ソウヤさん、ファイトです!」
「う……」
ここで諦めたら、なんか裏切ってしまう気がする……。
仕方ない、手持ちを全部飛ばしたら納得してくれるだろう。
残りは7本だ。
はい、1本。
2本。
3本。
4本。ここまで全部ハズレ。
ていうかこれアレだな、皿を割る幽霊の話のやつ。1枚、2枚、3枚とな。
そう自分をあざ笑うように思考すると、ふとその思考が真面目になる。
俺がこうして攻撃しても立ち止まったままだ、迎撃する動きさえもしないのは腹立つが、奴らがこうしているのはどういう意図があるのだろうか。
リザードは知能があるという前情報からすれば、あの行為は何かしらの作戦なのだろうか。
……やっぱり、囮か?
引いた弦をゆっくりと戻すと、馬車の後ろの方にささっと移動した。
「どうしたの?」
「コッチ来て」
俺の一言にハテナを浮かべながら、ケイは俺に続いて馬車の後ろに移動する。
「囮かも、って思ったんだが……」
……何もないな。
「ああ、それなら私も思ってたよ。なんの気配もないから何も言わなかったけど」
「ああ」
じゃあ、ただの思い過ごしか。
「ソウヤさん、どうしたんですか?」
レイナが馬車の後ろから顔を出して、外に出てきた俺らに声をかけてきた。
「ソウヤはトイレだよ」
「なわけあるかバカ」
後頭部を軽く叩く。
ったく、この悪戯好きの性格はどっから来たんだ? あ、俺か。
……なら仕方ないな。
「狭い所だと弓が使いづらいと思っただけだ」
ケイ以外には聞こえないが、口で反論してさっさと狙いやすい位置につく。
相変わらずじっとしているが、なにやら俺の方に注目している様子だ。
はて、と思いながら、残りの矢を全部飛ばしていく。
「あれ?」
するとどうだろう。何故かリザードが撤退し始めた。
「……なんで逃げてくの、アレ?」
「さあ」
相手の考えていることはよく分からない。しかし作戦が無いようには思えない。
真面目に考えてみるも、やはり分からない。
「『アースキャノン』」
そうして思考を続けていると、俺らに続いて出てきたレイナが、そこから土属性魔法を飛ばし始めた。俺の矢がなくなった所に合わせたんだろう。
弓を下ろし、代わりに剣を握っていながら観察する。
リザードは魔法を回避するが、レイナが追加の魔法を飛ばしていく。
「素早いねー」
それを当然かのように一刀両断するケイも十分素早いが。というか、アレって矢を全部回収できるのか?
まあ、矢が減っても役に立たない仕事が減るだけだし、別にいいか。
「ケイも少しぐらい加勢すれば?」
詠唱時間次第で弾速の速くできる土属性だが、ほとんど当たらない。
どんどん距離が離れていくし、これでは命中率が減る一方だろう。
「そうだねー。逃がすのも怖いし……よし、少しだけ頑張ろ。弓貸して」
「え?」
言われたまま弓を渡すが、矢はない。これを一体どうするつもりなのだろう。
「矢はないが」
「だったら作ればいいでしょ。『ストーンアロー』」
土や石が集まって矢を形成する様子の後、ケイはそれを掴んで番えた。
なるほど、そういう使い方もあるのか。いや、想定された使い方なのかこれ?
しかし彼女は当然と言う様に弦を引き始めた。……仮に石の矢が使えるとして、当たるか? 俺が撃った時より距離が離れているのだが。
「ふふふ、今のは『ストーンアロー』ではない……、『ボムアロー』だ」
なんだと……?
ケイの言葉に疑っていると、向こうで確かに爆発が起きた。大人3人分の高さまで土煙が上がっている所を見ると、随分な威力なのが分かる。お陰でリザードの姿が見えない。
「そんな魔法ありましたっけ?」
「いや無いだろ」
と、声がケイにしか届かない俺の言葉であるが。
しかし、確かに爆発は大きかったものの、その範囲にリザードは入っていないように見える。
ケイに一声かけようと横を向くが、誰もいない。
「……何処に」
と思ったら、その空間に一瞬の闇が発生して、そして光とともに一人の姿が出てくる。
「……っと、見られちった。てへ」
その瞬間を目撃していた俺に小声で言うケイ。第三者として見るのは初めてだが、これが転移の瞬間というものか。
というか、そんなことより……
「爆発が外れたから直接手を下したって事か……」
そう質問してみると、ウィンクで返される。
余裕があるからそうしたのだろうが、はたしてそういった演出は必要だったのだろうか。
「実力を隠すんでしょ?」
そうは言ったが……別に、もう良いか。
別に悪い結果を招くような行動はしていないんだし。
リザードが見えなくなった緑豊かな風景の中、俺は黙々と矢を探しては地面から引き抜いていった。
・
・
・
席に横たわりながら矢筒の中を見た俺は、その中の矢が土で汚れているのを見つける。俺は弓の練習をするべきだと感じた。
俺は決意で満たされた。
……別にセーブはされない。
こうして寝転がったまま言うことでは無いが、あえて言おう。俺は非力すぎる。お陰でケイの足を引っ張るような存在になってしまっている。
一応は小道具担当を担ったり、後衛として行動してみたりと、それなりの努力はしてみた。
だが、まだまだ弱い。特に基本的な戦力として弱い。
今のステータスや技術レベルからすれば、それは当然である。
だとしても、まだ希望はある。
……希望、と言っては大げさだが。
前にも言ったように、現実で筋肉モリモリの人間がステータスゼロでこのゲームに訪れてもムキムキであるのだ。それと同様に、現実で武道を学んでいる人間も同じように技量を発揮できるのだ。
だからと言って地道に練習するにしても相当な時間を要するだろうが、成長しない技術レベルにだけ頼るよりは良い。
……そうだな、夜な夜な木を的にして矢を飛ばし続ければ、少しぐらいは狙った位置に当てられるようになるだろう。
後は弓道やアーチェリーに関する情報でも探してみるか。
「お、見えてきたよ!」
ふと、興奮したようなケイの声が聞こえてくる。
見れば、既に馬車は森の中を進んでいるようだった。木々が切り開かれた一筋に伸びる道の上を、車輪と馬が踏み鳴らす。
「やっと到着だ。そう言えばお前らに村の名前言ってたか?」
「名前ですか? 一度も聞いてないです」
確かに、依頼主の故郷の村だとしか知っていない。
俺が起き上がると、コッチに振り返って見ている御者と目が合う。
「なら、この村の名前を5年は覚えておいてくれよ?」
と言って、わざわざ咳払いを挟んで前置きして、これから訪れる事になる村の名を口にする。
「”カル村”へようこそ、お前ら! この状況だが、俺らは歓迎するぞ!」
馬車の下から聞こえていたゴロゴロという音が止み、同時に馬車の揺れが収まる。
寝たままあたりを見渡してみれば、ケイが馬車から降りようとしている所が見えた。
「着いた~!」
ケイの声を聞き流しながら上半身を起こし、背伸びしする。寝ている最中に顔がチラ見えすることは無かったが、一応フードを深く被り直す。
そして横に立てかけていた弓矢や剣を身につけると、ケイとレイナの後に続いて馬車から降りた。
村の風景を見渡してみるが、村の住民がドラゴーナという割には、建造物等は普通の村と大して変わらないようにみえる。
さて、現在時刻は正午過ぎ、昼飯の時間だ。村の方で適当に食事する事になるだろうが、どこかに丁度いい店はないだろうか。
こんな環境にカフェやレストランがあるとは思えないが。
「お腹は空いてませんかー? もし良かったらご馳走しますわー」
「勿論!」
「あ、私も良いですか?」
タイミングが良い。自分も同行する意思を見せ、付いていく。ドラムスメが俺を見て微笑むのを確認すると、俺は軽く頭を下げる。
「俺は母さんの方に顔を見せてくる」
「わかったわー。それじゃあ、帰りはケイちゃんとレイナちゃんをよろしくねー」
・
・
・
ドラムスメを先頭にして村の中を歩いていると、村人であろうドラゴーナ達がどこからか現れてくる。
合計5人の団体が珍しいのだろう、複数の子供のドラゴーナが駆け寄ってきた。
「久しぶり、お姉ちゃん!」
「あら、元気にしてたー?」
村というやや小さなコミュニティの中では、村人全員がお互いの顔を知っているのだろう。
ドラムスメと村人が歩きながら会話している。遠くの街はどんな感じだったかとか、なにか面白い冒険の話は無いかとか。
その会話が遠くにまで届いていたのだろうか、今度は老いたドラゴーナがやってくる。雰囲気からして村長っぽいが。
「おお、ドラちゃ。騒がしいかと思えば、なるほどなあ。道中は大丈夫だったかい?」
「この人たちが一緒に戦ってくれたわー」
そして老人の後ろから、青年っぽい雰囲気のドラゴーナが付いてくるようにやってくる。老人の付き添いだろうか。
「久しぶり、ドラムスメさん。あと、お帰り」
「ただいまー」
「そっちの3人は、やっぱり」
「リザードが居るっていう噂があったから、付いてきてもらったのよー」
「はじめまして。それと、カル村へようこそ。俺は次期村長をやってる
「ふぉっふぉ」
それで良いのか、爺さん。
「あ、私はレイナって言います」
「ケイだよー」
じわじわと人口密度が高まりつつある集団から一歩離れてみていると、ふとこちらに向かう視線が増えてくる。
これは俺も自己紹介する流れだろうか。
それならと、俺はメモ帳にささっと言葉を書き、相手に見えるようにして見せた。
『ソウヤ 声と身体を持たない』
「ソウヤ 声と身体を持たない……?」
字は小さかったが、青年がその内容を読み上げてくれたお陰で、その言葉は全体に伝わる。
彼らは気まずいとでも思っているのか、そんな感じの目線が混じり始めたのを感じながら、俺はメモ帳を懐に戻した。
しかし約1人、なにやら目を輝かせている子供がいるのだが。と言うかまだ子ども達居たのか。
「声も身体も……か、かっこいい」
一体何に感激しているのか。
「ま、この不審者には気遣わなくてもいいよ」
「不審者……」
反論したいが、実際に見た目が不審者なのは否めない。だがローブを脱ぐわけには行かない。花柄の防具もあることだし。
今思えば、全身フルアーマーでも姿は隠せる上に不審者扱いもされないかもしれない。装備すれば、あまりの重さに鎧の置物の如く身動きがとれないだろうが。
「ところで、リザードの件は大丈夫なのかしらー。私、それが心配で来ちゃったのよー」
「ほっほ。リザード如きにドラゴーナが敗れることは無いに決まってるじゃろ」
「爺さん、昨日の襲撃で腰が抜けたんじゃなかったか?」
「……」
「あらあら。もし良かったらマッサージ致しましょうかー」
直後、老人のドラゴーナの鼻からムフーっと蒸気の様な物が噴出された。俺は見て見ぬ振りをする。
老人の付き添いの青年……もしかしたら介護士であろう彼はため息をついている。頑張れ。
「昨日リザードが来てたの?」
「来ました、約10日前から2日置きに、ずっと」
「定期的に」
「はい、定期的に」
定期的な襲撃とは、これまた変なことをするもんだ。
しかも少人数。リザードの軍隊だと呼んでいたが、これじゃあ群れと言い換えた方が良いかもしれない。
「そうだ、ドラちゃ。昼飯が少し余ってるから、そっちの飯の足しにしたらどうじゃ。まだ食ってないじゃろ」
「いや、爺さん。別に余ってないぞ」
「……」
もしかしたら、というかもしかしなくても、この老人ドラゴーナはスケベなのだろうか。
チラとドラムスメの表情を伺うが、まるでそれがデフォルトであるように笑顔を維持している。
「そっちの家にお邪魔しても良いかしらー? 私の家、食材が一個もないって今気づいたのよー」
えっ。
「えっ」
「た、旅でずっとお留守にしてたら仕方ありませんですよね!」
「そうなのよ〜」
ああ、そうか。
腐らせちゃうもんな。長期旅行の基本だものな。
「そうか。でも今すぐ用意するとなると、保存食の類になるけど、いいか?」
「十分よー。いきなり来たんだもの。皆も良いかしらー?」
このドラゴーナだらけの集団の中、人間である2人は頷くと、青年が向こうへと案内を始めた。
・
・
・
大概の日本人は、非常時でない限り非常食を食べる機会が少ない。
地震やら台風やらと、災害の類が多いから、お世話になることもあるかもしれない。
けれど、やっぱり日常的に食べるものではない。
さて、ここで問題だが、非常食と保存食。この間にどんな違いがあるのだろうか。
「え?」
「だから、非常食と保存食ってどう違うんだ?」
俺の問いに対し、ケイは肩を竦めて、”分からない”というジェスチャー。
それを見ると、俺は諦めて固い保存食をむしゃむしゃと食べ始める。
幾らなんでも、こういう面でのリアリティは求めなくても良いと思うんだ。このゲームは。
そう、このゲームの食材は腐る。何の防腐加工もナシに肉を1日中ポーチの中に入れていたら、普通にポーチから異臭が漂ってくる。
ソースは初心者指導書。
ドラムスメさん曰く、これでも食べやすいように調理したとのこと。
ああ、現代社会の食べ物が恋しい。このゲームの中でも道具さえ揃えば作れるけど。
保存食を食べ慣れているのか、それとも顎や歯が強いのか。一足先に保存食料理を完食したドラムスメが、村長へ話しかける。
「リザードの話なんだけれどー、何処から襲ってくるのかしらー?」
「もっぱら北西ですじゃ」
北西、俺達が来た方とは村を挟んで逆の方角だ。
「北西って言うことは、えーっと……」
「私達が来た方とは逆だね。レイちゃん」
「あ、そうなんですか? でも、馬車を襲ってきた時は違う方からでしたよね」
「確かにそうだったね、敵が来る方角は当てにならないかな。拠点の位置が予想されないようにしてるだろうし」
なんかケイが頭の良さそうなことを言っている。流石は精神年齢70、チェスとか将棋とかじゃ強そうだ。
「複数の拠点があるっていうのは違うのか?」
「それは無いと思うけどなあ」
悩んでいる様子のケイに、俺は思いつきで言葉を放つ。
「お得意の気配感知で探すのはダメか?」
「……うーん?」
聞こえているはずだが、ケイは唸り声を出すだけである。
まあ、俺の言葉が聞こえている仕草を見せたら、怪しまれるだろうからな。
「逃して、ついて行ってみる?」
「それは無理。奴ら、倒しても見逃しても襲いかかってくる」
「拷問は?」
「ダメだった。捕まえる前に自害される」
2次大戦中の日本軍かよ、と思うのは俺だけか。
確か依頼処で聞いたリザードの情報じゃ、リザードはドラゴンの下僕という話だ。もしや使い捨ての戦力扱いでもされているんだろうか。
「と言うか、人間のあなた達が頭を突っ込むことじゃないんだが。ヨモギが帰りに送ってくれるんだろ?」
「あ、それなんだけどね。私もトカゲ退治に参加するから」
「ケっちゃん?!」
「ああ……」
レイナは驚きの声を上げ、俺は納得の声を上げ、その他ドラゴーナはあ然とする。
それも数秒のみ、老人がこの沈黙を破る。
「駄目じゃ、君たちは若いじゃろうに」
「む」
ケイが僅かに眉をしかめる。
頭脳は老人で身体は少女、そんな彼女にはなにか思うところでもあったのか。
「……ちぇー、分かりました」
「それがよい」
安堵した様子の老人は、ふんわりと微笑みを見せた。
まあ、ケイはそれに負けないぐらいの笑みを抑えているのだが。
「やっぱ決行するのか」
するとウィンクで返された。なんか面倒なことになりそうだと、俺は嘆いて保存食を齧った。
・
・
・
「……」
馬は駆け、竜は羽ばたき、猫は――
「……キャット、そろそろ頭の上からどいてくれ」
――仮面男の頭の上で風を浴びる。
竜が羽ばたく時の風圧で、地面の草がライブで盛り上がる熱狂的なファンの様に激しく揺れている。
それなのに関わらず、猫はその風圧がなんとも無いように、イツミの頭の上で座っている。
本来ならばこの風圧でイツミの乗る馬も飛ばされてしまうだろうが、しかし問題なくパカラパカラと走っている。
「みゃあ」
「……はあ」
諦めたイツミは、片手で仮面の位置を直す。
この風圧の中、馬が問題なく足を踏みしめていれるのは、キャットによる風魔法の恩恵である。
無暗に邪魔してはその魔法が途切れてしまうため、あまり変なことが出来ないのだ。
「ドラもん、何か見えるか」
「グア」
「そうか」
常人にはこの鳴き声に込められた意思は分からないだろうが、イツミは当然のように返事する。
「ヒヒン」
「分かった、好きな時に休め。特に急いでもないからな」
イツミがその言葉を発してしばらく、馬は少しずつ減速し、止まった。
そしてまた少しすると、ドラもんが地面に足をつけるようと高度を下げる。それにともなって風圧が強まるが、イツミは微動だにしない。
ドラもんが羽ばたくのを止めた後、キャットとイツミは馬から降り、適当な所に座り込んだ。
「10分経ったらまた行くぞ」
3匹と1人が目的地とする村の名は、"カル村"。
そこまでの距離は普通の馬車で6時間だが、イツミが自慢する馬であるホースの脚にかかれば、その半分を満たない時間にまで短縮できる。
それに、時間制限だったりがあるわけでも無い。急ぐ必要は全く無かった。
「それと、索敵だけは怠らないでくれ。ここ近辺は物騒らしい」
イツミの言葉が届いているのかそうでないのか。馬のホースは一つ嘶いてから草を齧り、竜のドラもんはゆっくりとイツミに身体を寄り添わせる。
キャットはマイペースに草の上で寛いでいる。
「……まあ、いいか」
警戒を進言するも、この和やかな休息を乱すには、少々力不足だったらしい。
3匹を見てため息をつくイツミは、ある一点を見つめる。
地面に突き立てられた、一本の折れた矢。その近くには、何かが爆発した跡の様な焦げ跡。
「……少なくとも、”何もない”という事は無いようだな」
彼は立ち上がり、何かの跡に歩み寄ると、その一本を引き抜いた。
そろそろ飽きが来たかも
下手したら2ヶ月に1話ペースになるやもしれんです