ゲームサイドは、前回の中途半端な終わりにケジメを付ける様な形になります。
意識が元に戻り、瞼を開くと真っ黒な視界が現れる。
頭を覆う固いそれを持ち上げると、視界には光が飛び込んでくる。
……うん、流石にあの大騒ぎの状況には耐えられなかった。無視して眠るというマネが出来ないほどに
よく分からないポーションを飲まされたタイミングで起き上がって、適当な事を言って宿の自室に戻った。
その後に、ログアウトだ。
病み上がり(仮病)という事で、しばらく眠ると言い残しておいた。ケイ辺りがトチ狂って扉をぶち破らない限り、大丈夫だろう。
「……」
机の方を見ると、前回ログアウトした時に書いたメモ帳と何時もの黒歴史ノートがあった。
無意識のうちにそれを手に取り、中身を開く。
最早見慣れたケイの姿と、その設定が現れる。
……俺は、ケイの姿を描けるだろうか。
ふと思いついたそれを実行しようと、適当なシャーペンを手に取る。
適当に、頭から描いていく。
しかし―――不格好だ。
目や鼻といった顔のパーツの配置は、歪んだ鏡に映った顔と同様だった。
首から下はまったく描けていないけれど、この時点でダメだ。
「―――」
右手で紙を握りつぶして、シャーペンを放る。この時ばかりは珍しく怒りを覚えてしまった。
俺に絵なんて描ける筈がなかった。
仕方ない、お遊びはこれぐらいにして、記憶の調査と行こう。
幸い、俺が眠りに落ちたのは昼過ぎの辺りだ。それを踏まえ、現実とゲーム内での時間速度の差を考えると……現実で45分間過ごせば、向こうで朝を迎えるはずだ。
ならば、その間俺は調査に集中できる。
とは、言ってもな……。
黒歴史ノートの方に、これ以上記憶の足掛かりになるような物は無い。そう感じつつある。
資料……と言うと大それたものに聞こえるが、とにかく情報が足りないのだ。
一応はそのノートを開いては読んでみるが、特にピンと来る様な物は見当たらない。
母から何かヒントは得られないだろうか。
確かに、母が知っている
通っていた学校から、その行事や部活動まで……、けれどそれまでだ。
母は、俺の人間関係までは知らなかった。別に母が俺に無関心だったという訳ではない。
きっと、俺の友人は少ないか、或いは居なかったんだろうな。
「……」
やはり、母に訊くのは止めだ。今以上の進展は期待できない。
そうすると……。
新しい資料が必要か?
確かに、この黒歴史ノートの様に、他に何か過去の俺が残したような物があったら、それは俺の求める記憶に近づける可能性を秘めている。
ならば、先ずは学生時代に取っていたノートを発掘しないと。
部屋中を見渡して、目に付いたそれっぽい棚を引いて見る。あまり使う事のない収納スペースだが、その中身はカラではなかった。
そこにある本は、事故に遭うまでの大学生時代に使っていたであろう物だった。
……求めているものがある可能性だって、少しはあるだろう。
棚の中身を一気に取り上げると、机に置いてから一つ一つ確認し始めた。
その大半は、過去の俺の性格を表した、あるいはそうではないかもしれないが、生マジメに「学」が記されたノートであった。
頑張ればこの内容を理解できそうだが、今の俺にはその時間がない。記憶の手がかりに成り得そうにないものは、俺の手によって、開かれっぱなしの棚に放り入れられる。
本の表紙を一瞬だけ見て、ペラペラとページをめくり、そして棚に放る。という動作が、まるで手練れの工場作業員のそれになり始める頃。
なにか、それっぽい物は無いだろうかと。本を仕分ける手に、無意識に力を込めてしまう。
大量にあった筈の書物は、あっという間に机の上から無くなり……そして、最後に一冊だけ残った。
”もしかしたら”、あるいは、”最後はきっと”、といった想いが、残りの一冊を手元に寄せた。
それは、今までのノートの表紙の様な綺麗な字体ではなく、中学生がただ普通に書いたような字だった。
そして、その表紙にはこう記されていた。
『ケイの旅路 ――別れの時から再会の時まで――』、と。
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ここは、かつてシウム村と呼ばれていた。
ドラゴーナという種族が、何かから隠れるように森の中に村を建て、住んでいた。
……らしい。
ここにたどり着いたプレイヤーは殆ど居らず、NPC達から情報を得ることも難しい。
近所であるカル村との友好関係、あまりなかったとも聞いた。
カル村の村長に聞いてみたのだが、シウム村の住民は他所と関わるのを嫌っていたらしい。
その理由に至るところまでの情報は無かった。恐らく、元からそういう気性なんだろうと思うが。
「ドラもん。もう敵は居ないのか?」
「グァッ」
リザードの蔓延る村を襲う時の鳴き声とは違う、まるで人に媚びを売るような可愛らしい鳴き声で返事をされる。
「死体だけデス」
「そうか……って、そのセリフをどこで覚えて来たんだ」
「?」
別にあのセリフを意識していなかったらしい。なら自分の考えすぎかと思いなおすと、首を横に振る。
とにかく、村に住み込んでいたリザードは殲滅した。
建物に立て籠るリザードは、建物を燃やした上で押し潰し、中身ごと潰した。
弓矢を持って抵抗する敵は、上空のドラもんに気を取られている内に我々が背後から攻撃した。
なんてことの無い、ドラゴンという過激戦力による制圧だった。
「まあ良い、とにかく良くやった。これで依頼も達成だ」
村長から請け持った仕事だが、私が育てたドラもんのお陰で、特にこれといった危機も無く終わった。
それにドラもんは上空から奴らの拠点を見つけてくれたから、特に探す時間も必要もなかった。
何かを求めるように懐に鼻先を押し付けるドラもんに、その期待通りに撫でてやる。
今回はドラゴンが一番の功労者だ。
「親バカなのです」
「本当に何処でその単語を覚えているんだ?」
アレか、単独で情報収集させたから、余計な言葉まで覚えてしまったのか。
「とにかく、調べるぞ」
「はーい、なのデス」
キャットは猫に戻ると、何時もの様に私の頭に乗っかる。
もう抵抗する気も起きない。ドラもんとホースに体を休ませるように言うと、崩れていない建物に入っていく。
リザード退治の依頼は、例の調査のついででしかない。
とは言っても、この村が”NPCがモンスター化”した所だという確証はもっていない。
だから、小銭稼ぎとしての目的とが半々だろうか。
「……なーんの変哲も無い民家なのデス」
「だろうな。別のところを調べよう」
続けて2軒目、3軒目と調べるが、何もない。
こういう情報収集は隙間なく行うのが常だから、調査は続ける……が、やはりこの村は我々が求めている物とは無関係だろうか。
「ここは……?」
「以前の住んでいた狩人や戦士の家だったのかもしれないのデス」
いや、そう考えるには……少し、違う。直感が訴えかけてくる。
普通のドラゴーナは武器を持たないし、リザード達のものだったとしても、彼らが持っていた武器とは違う。
「こういう所に限って面白いものが隠れているのデス」
「そうだな、ここは念入りに調べよう。こっちはワタクシが調べる」
「じゃあ私はこっちデス」
手分けしてこの部屋の調査を始める。
引き出しや棚を隈なく調べるのは勿論、スキルや魔法を酷使して隠されたものも見逃さない。
ここは無人であるが故、何時もよりも調査は進んだ。
「む」
棚の奥を探る手に、何か重く、硬い物が当たった。
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「おお、リザードを退治してくれたのか」
「拠点を離れていたリザードは残っているでしょうが、大体は掃除しましたよ、村長殿」
畏まった言い方だが、目上の立場である村長が相手では当然である。
「いやはや、奇怪な仮面の”女”がドラゴンを連れて何事かと思ったが、これは感謝せねばなぁ」
「な、村長殿。ワタクシは女性ではなく――」
「そう言うまでもなく、ワシの目は誤魔化せんぞい」
この爺さんは何を言っているんだろうか。
仮面の下で顔をヒクつかせながら、背中の後ろで握りこぶしを作る。
「おい、爺さん。恩人にそんな態度はダメだろう……。すまない、この馬鹿ジジイが迷惑をかけた」
ようやく戻ってきた青年が、子供の失態を自らが代わりに謝罪する母親のような言動をする。
マトモな者が居ればだいぶ違うと、一息ついた。
「おお、将来有望な次期村長よ。連絡版にリザードの件は書いておいたかい?」
「その為にここを離れたんだから、それを忘れるわけがないだろう……。そんなことよりも、爺さんのその態度を先に気にした方が良いんじゃないか?」
「ほっほっほ」
長い付き合いであろう青年も、これには頭を抱えた。その様子に同情さえする。
「それで、報酬の方だが」
「それなら、ほれ、ワシらからの感謝の気持じゃ」
「感謝する」
「対価を与えるのは当然じゃよ。そうじゃ、追加報酬を乗せるから、仮面を取ってくれなガボォッ!」
横に静かに会話を見つめていたキャットが、魔法で村長の顔面に重い風を押し付けた。
「駄目なのデス」
「……」
クライアントに迷惑をかけたことに叱るべきか、クライアントの態度に渇を入れたことに褒めるべきか。
微妙な気持ちで、昏倒一歩手前の村長を眺める。
「すまない、本当にこの村長は……」
「い、いえ、どうか気になさらず」
これ以上ここに居たら面倒を重ねるだけかと、そろそろ帰ろうかとキャットへ目配りする。
「それでは、御機嫌よう」
「また機会があればよろしくお願いします」
帽子を取り優雅に挨拶をすると、ドラもんとホースが待っている所の方向へ振り返り、歩き出した。
「ご主人。そんなボロ本一冊と、その……よく分からない筒の様な物に、それほどの価値があるのデスか?」
「あるさ、それも大きな……もしかしたら、
「確かに、ここら辺では見ないような本の作り方デス。ですか、
「……落ち着いたら話そう。それまでお預けだ」
「えー。そのお預けはおやつの減給よりキツい物があるのデス」
幕末だけれど、この話が無いとストーリーに穴が開いてしまう。
無価値なオマケに価値を持たせてはいけない。
まあ、チラ裏だし。という言い訳をする。
こうして投稿しているのも、コレの完結を促す為だけの様なもんだし……。
(なお完結する自信が無い)
あ、ちなみに完結までのストーリーは固まり始めてます。8時間ぐらい茶碗に張り付いた米粒みたいに。
あとは、辻褄の合う物語の運び方と、楽しく読める書き方が必要かな。