ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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第4章 日常
19-ウチのキャラクターと俺の引き籠り宣言


 ログインして、ベッドから身を起こす。その拍子にフードが脱げてしまったから、もう一度被り直す。

 

「……結局読みきれなかったな」

 

 読みきれなかった……と言うのは、つい先程まで読み耽っていた『ケイの旅路』のことだ。

 正直に言う、作品としては低品質だ。食べ物としての評価に当てはめるなら、あの保存食料理と同等だった。

 けど、興味深かった内容なのは事実だ。

 

 だが気になるのは、『何故ケイだけが』っていうものだ。彼女以外にもキャラクターは沢山居た。なのに、なぜ彼女だけが主人公として取り上げられた?

 

「……」

 

「ソウヤ!」

 

「な」

 

 突然扉が開き、その拍子に出る大きな音の方を振り返る。

 買ったばかりの鎧は身につけておらず、初めてケイを知った時の格好で居た。

 

「体調は?!」

 

「じょ、上々……? って、何するん」

「黙って!」

 

 俺の発言権を怒鳴る声で押しつぶし、しかし優しく俺の額に手を当てた。無機質な肌に、ちゃんと肌色をした手から温かみが伝わる。

 突然の行動に俺は慌てることもなく、ただじっとする。別に恥ずかしくて固まっているわけではない。

 

 手を伸ばせば届きそうな距離にある、ケイの顔を見る。

 表情がある、感情がある、姿がある、声がある。

 

 自ら作った人形が、突然生を授かったような……そんな錯覚を受けてしまった。

 しかし、実際に彼女が意思を持ったのは、この世界で数日前のことだ。

 

 何故今更そんな錯覚を受けたんだ?

 疑問は解けぬまま、俺は言葉を放つ。

 

「眠っていたら大分楽になった。安心して」

 

「……確かに熱は無いし、軽くなったかも知んないけど」

 

 そもそも熱を出すような事にはなっていないはずだが。

 俺はただ棺桶(Made In ケイ)の中で一眠りしただけだし、体の調子からして身体や健康に影響が出る程には酸素を消耗していなかったらしい。

 それだけで熱が出るとは思えないが。その上、ここゲームだし。

 

 現在時刻を確認するためにシステムメニューを呼び出すが、朝と言うには少し遅い時間帯であるのが見えた。

 

 漸くケイが距離を少しだけ離すが、その代わりにベッドに腰を下ろした。

触れる程に近かった距離が少しだけ離れるが、それでも近いままだ。

 

「決めた。当分はこの街で静かに過ごす」

 

「はい?」

 

 突然の決意表目に、俺は呆れるような声を漏らす

 

「私が旅に出たりしたら、普通な顔して付いてくるでしょ」

 

「まあ……」

 

 人形な俺に顔なんか無いけども。

 

「でも良いのか? ケイには探し人が居るだろ」

 

「それは……」

 

 ……少し、イジワルな言葉だったかな。

 

「いや、気にしないで」

 

 ケイが決めたことに異存は無いし、むしろ従うつもりだ。

 ただ、あの本を読んだせいか、恋人を探し求めるケイに少しばかり感情移入してしまっているようだ。

 

 

「さて、と。行くか」

 

「え、何処に?」

 

「朝食を作りに行くんでしょうに。今日はケイの当番だが……もしや、昨日約束したの忘れてたか?」

 

「あ、あー!いや、全然忘れてないよ!」

 

 大方、俺を中心とした騒ぎのせいで忘れたんだろうが……。まあいいか。

 

 今日の朝食は何を作ろうかと、頭の中で思案しながら階段を降りていった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 本日の朝食は、ミートソーススパゲッティ。

 皆揃って口を拭う紙を手元に用意して、食事が始まった。

 

「ついさっき新しいポーションが作れるようになったんですよ!」

 

「新しいポーション?」

 

「はい、出血の異常状態回復のポーションです! 昨日のこともあって、こういうのも作っておこうかと」

 

「出血……、塗り薬じゃ駄目なの?」

 

「いえ、塗っても効果は無いですよ。ポーションだから飲んで使わないと!」

 

「えっ」

 

 無言で朝食を食べつつ、愉快な事を話し合う2人の様子を見る。

 ……なんか、俺が2人をストーカーしている様な気分だ。モチロン、そんな劣情やらは抱いていないが。

 ちらちらとコチラに向けてくるケイの目線を無視しつつ、口元をフードで隠すように深く被りながら食事を淡々と進める。

 

 ところで今、財布の中身には重みが多少ある。昨日の護衛依頼の報酬である。

 あの報酬はケイと俺で半々に分けられたので、この財布は12,500Yを抱えているという事になる。

 普通なら貯金して今後に備えるところだが……。

 

 気づけば、皿の上には少しばかりのミートソースのみが残っていた。

 今日は何処か行く要事も無いし、弓矢の練習でもじっくりやろうか。

 

 食器を片付けるとメニューを呼び出して、技術スキルのウィンドウを表示させる。

 『回避』『防御』『料理』のレベルは上がっていないが、『弓』『瞑想』が新しく一覧に表示されている。これらも技術レベルは0だ。

 弓の技術を習得しているのはともかく、瞑想とは一体どういうことなんだろう。MP回復の手段だとしても、消費する手段が無いから無意味なのだが。

 

 まあいいか。とりあえず出かけよう。

 

「ケイ、ちょっと街中を歩いてくる」

 

 レイナと一緒に会話している彼女に一言伝え、そこから扉を出た。

 

 

 

 さて。ココで一度、いつもの『初心者指導書』から得た情報を思い出してみる。

 

 

 街中での武器使用は特に禁じられていないが、法に触れるような事があれば即座にデメリットが発生する。

 人を殺せば、その国と、そこに関わる国で指名手配が発生する。

 すると、犯罪者はマトモな買い物は出来ず、兵士に事ある毎に狙われ、彼らは裏世界で生きることを強いられる……。

 

 ……というシステムは存在しない。

 

 別に買い物が出来なくなるわけじゃないし、裏世界で生きるなんて、それこそロールプレイしている人ぐらいだ。紳士仮面(イツミ・カド)さんとか。

 

 ただ、捕まった暁には一時的な大幅ステータスダウンと、一定期間の間、あらゆる買い物に特別な税率が適応されたりという処置が下される。

 しかも殺された側も、一定の条件に該当する場合は何事もなかったかのように復活する。重要NPCだった場合、消失すると大変だからだ。

 

 だから、命を奪う事のできる相手は、ゲームが用意した『敵』としての人間のみである。それ以外の人間を殺しても、何のメリットもない。

 PVPも無くは無いが、アレは勝敗がどうであろうと死亡することはない。賭け事があればアイテムやお金を失うだろうが。

 

 

 まあ、何が言いたいのかというと、街の中でもある程度武器の使用は可能、ということだ。

 モチロン、人に危害が加わらないよう、周囲の状況に気を使わねばならない。そうなると、弓道場や、射的場のような所でやる必要がある。

 

 だが、俺はそんな場所を知らない。

 愛の工房やスーパースーパーを行き来する時、道中の施設も見ながら歩いていた。しかし、その記憶を掘り返しても、目的の施設に関する情報は出てこなかった。

 

 そうすると……、迷子にならないように歩き回って、探すしか無い。

 

 まだまだ東側に傾いている太陽を一度だけ見て、適当に歩き始めた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ……何故だ。

 

 なんとなく歩いていたら、城の近くに辿り着いてしまった。

 そう、城。キャッスルだ。

 

 ……いや本当に、何故だ。

 

 別に、城という物の存在に驚いているわけじゃあない。

 この街は、主要都市みたいな扱いされてもおかしくないぐらいに人々が行き交っている。ともすれば国を治める国王とかプリンセスとか居ても不自然ではないのだ。

 

 それに、城の近くに来ているとは言ったが、別に城門近くまでは行っていない。

 普通に見渡せば、貴族の家らしき建物と、少しばかり豪華に見えるお店の並ぶ道が見えるのみだ。

 けれど、斜め55度ぐらいに目線を上げると、城の頂上が見える。そんな距離感だ。

 

 ゲームとは言え、お偉いさんの住処の近くをウロウロするのは、あんまり心臓によろしくない。ただただ無垢な冒険者である筈の俺が、何か悪いことをしていたんじゃ無いかと目を泳がせてしまう。

 ……目、無いけど。

 

 

 というか、こんな所を歩いても目的の施設は見つからないだろうな。

 

「……?」

 

 ふと、その場を180度反転して後ろを見る。背中の辺りがぞわっとしたのだが、気のせいだったんだろうか。

 そこには俺の影が伸びてあるだけだった。

 

「そこの不審者、よろしいか?」

 

「不審者?」

 

 今度は誰かの声が上がり、周囲からどよめきが上がる。

 

 何か面倒事でも起きているのだろうか。

 周囲を見渡すが、俺のフードの中身を覗こうと注視する民衆のみが見える。

 そして、その大勢の中に一人だけ重装備な人が居た。不審者と呼べる人物など、この全身アーマーの人間くらいなものだが……。

 

「そう、そこの君だ。少しばかり時間をくれないだろうか」

 

 なんて事だろう。その全身アーマーさんはコチラに歩み寄り、さらには俺に声をかけてきたではないか。

 

「え、不審者って俺?」

 

 思い返せば、今の自分はどんな格好をしているのだろうか。

 頭の天辺から足元までをスッポリと隠すローブを着用した、見るからにアヤシイお人形さんである。

 

「ああ……」

 

 ピーマンとゴーヤの盛り合わせをグイグイと口元に押し付けられたような表情を、思わずこの顔で表現しようとする。残念ながら、口も目も眉も無い俺には、それを表現することは叶わなかった。

 

 諦めて、フードは顔を包んだままにして全身アーマーと対面する。相手の表情はバイザーで包まれていた。

 

「ご協力感謝する。失礼ながら、貴殿は何をしているんだろうか?」

 

 いや、貴殿って……。別に現代でも珍しくはないが、なんか古臭いな。

 ポッケから何時もの道具を取り出すと、単純明快な言い分を書いて見せる。

 

『目当ての店をさがし回っていた』

 

 このコミュニケーションの手段に、相手は少しばかりポカンとしてしまう。が、それも一秒未満にして、2つめの質問をする。

 

「失礼でなければ、顔を見せていただいても?」

 

『あまり多人数に見せたくない』

 

 そう伝え、大衆を背にするように方向転換し、ほんの少しだけフードを端を摘み上げた。

 必然的に全身アーマーからそっぽを向くような仕草になってしまうが、俺の行動を理解したのか、彼は正面に対するように移動した。

 

 浅い角度から入る光が、少しだけ中身を晒したフードの中に差し込む。

 俺の顔は光によって白く反射され、同時に太陽を目前にした俺の瞳は、瞼を半分閉じることで防御態勢を取った。

 

「……それは覆面か? 失礼する」

 

 顔面に迫る太陽光に影が生まれ、少し目が楽になったかと思った直後、

 

「はい?」

 

 ゴツゴツとした手が、顔面から5センチメートルの所にまで迫ってきていた。

 その手は無遠慮に首元に触れてくる。

 

「いや、いやいやいや!」

 

 首元に触れた瞬間、硬い感触に思わず3歩4歩と後ずさる。

 変態か、いや変態か、てか変態か?!

 

「む、固い。陶器の様な……、と言うことは人形か?」

 

 よく手袋越しの感触で判断できるな貴殿は!

 

「この変態は……」

 

 この変態は、プレイヤーじゃないのか?

 思考はすっと冷静に返り、彼を観察し始める。

 

 プレイヤーだったのであれば、迷惑行為防止システムとかを警戒するはずだが、この人はその素振りさえ見せない。

 大方、この辺りの貴族の家を見張っている兵士のNPCさんだろうか。

 

「驚かせてしまったか、すまないな。君の様な容姿の者は、私が直接確認しなければならないのだ」

 

 まあ、そりゃあそうか。

 ちょっとお金持ちの多そうな区域に漂う、一j人の不審者(俺)。

 これは職務質問をかけられてもおかしくは無い。でもおさわりはダメです。

 

「自己紹介が遅れた。私は、ホーム警備団ギルドに所属する、”アイアン”と言う」

 

「……えっ」

 

 今なんて言った、ホーム警備員ギルド?

 まさか、プレイヤーか? NPCかと予想した矢先に真実が裏切ってきたぞ……。

 

「迷惑をかけたな。ロールプレイの一環だ」

 

「は、はあ……」

 

 ギルド……ロールプレイ……。

 プレイヤーであることには間違いなさそうだが……いや、迷惑行為防止システム仕事しろって。

 

『警告:迷惑行為(接触)』

 

 だから遅いってば。

 あの夜の働きっぷりは何処に行った。

 

「……えっ、プレイヤーだったんですか?」

 

 しかもプレイヤーだってバレちゃったよ。いや別に隠してないけどさ。

 

 警告と、俺がプレイヤーだと知った事による戸惑いからか、全身アーマーのアイアンの口調が、間の抜けた敬語に変わった。

 

『自分はプレイヤーのソウヤ。呪いを受けてこうなっている。よろしく。』

 

「あ、はい。よろしくお願いします……。っていうか、申し訳ございません。いや本当にすいません。代わりと言ってはなんですが、目的地を教えてくれませんか? 良ければ案内します」

 

『ありがとう。弓の練習ができるような、射的場みたいな所をさがしていた』

 

 兵士らしい態度から一変した、まるで社会人の様な態度に堅苦しさを覚えながら、自らの言葉を見せる。

 

「射的場ですか……。心当たりがあるので、付いて来ては頂けませんか?」

 

『案内してください。あと、RPしても構いませんよ』

 

「あ、ありがとうございます。……ゴホン、それでは、付いて来て貰おう」

 

 うん、こんなゴツい人間に敬語は似合わないな。

 と、違和感の無い態度に心で頷きながら、大きな鎧の後ろを付いていく。

 

 しかし、いくらロールプレイでも首筋触るのは……。俺が女だったらどうするんだ?

 

「……ケイだったら笑顔で魔法をぶっ放しそうだ」

 

 その点では、彼はむしろ幸運を握ったのではないだろうか。

 俺の中でカウントされている、彼への変態ポイントは上がったままなのだが。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 して、たどり着いたのはお城の直ぐそばである。キャッスル目前である。

 見るほどに城の姿が大きくなるのに、俺は困惑を積み重ねさずにはいられない。

 

「ええっと……?」

 

「到着だ。我がギルドはこの国の信用を得ていてな。承諾を得られれば、ある程度の助けを借りられる」

 

 なんだそれ。そんなシステム知らんぞ。

 どうせギルドに加入するのは後になると思って、調べてなかったが……彼が言うに、そうらしい。

 

 気を取り直して、念のための確認をする。

 

『自分が入っても大丈夫?』

 

「大丈夫だ。ギルドや軍の部外者でも、私が付き添っている限りは追い出されはしないだろう。……ああ、どうも。お邪魔している」

 

 なるほど。

 通りすがりに会釈する兵士を見て、深く納得した。

 

「弓の訓練だったな? こっちだ」

 

 そう言われ、アイアンの後ろをアヒルの子の如く付いて行く。

 途中で俺の格好を不審に思う兵士が居たが、アイアンの方を見た途端に警戒心は無に返る。

 

 一体、ホーム警備団というギルドは、どれだけの信頼を得ているのだろう。

 

 

 訓練している兵士の声だろうか、時々怒鳴り声が聞こえる広場にやってきた。

 

「おお、アイアンか」

 

「お久しぶりです。副団長殿」

 

 見るに、ここで訓練している兵士たちを纏め上げている人物か。

 士官とか、訓練官などという階級の呼び名があるだろうが、俺はそこまで詳しくない。

 いや、そういう階級分けがあるのは、現代の軍のみだったか?

 

「そこの、見れば見るほど怪しい人物はどうした?」

 

「彼はソウヤと言うのだが、弓の練習をしたいという事で案内した。諸事情があるようで、言葉は喋れないが……」

 

 アイアンがチラと俺に目線を向ける。バイザーを通してだが、その意図は十分に理解した。

 確かにこの件は俺から話すべきだ。俺はフードの中身を見せるようにめくり、そしてメモ帳にその事情を書き明かした。

 

『呪いの影響』

 

「ほう……」

 

「無理乞いはしないが、コイツを鍛えてやってくれないか。彼の事については私が責任を持って保証する」

 

「えっ」

 

 戸惑いの声を上げるも、その声は誰にも届かずに消える。

 いや、練習用の的と安全な空間さえあれば勝手に練習するし、元からそのつもりだった。

 しかし、いつの間にか”先生”が用意される事になってしまった。

 

 別に弓の扱いを教えてくれる者が教えてくれるのならば、構わない。むしろ効率が上がるだろう。

 しかし……やっぱり、兵士の訓練と言ったら、「弛んでるぞ、どっかを50周走ってこい!」とか言われる様子が真っ先に浮かぶイメージだ。無論偏見である。

 

 副団長と呼ばれた人物は、訓練を続けている様子の兵士達を見る。

 

「……新入りも大分やる様になってきた。少しぐらい放っておいても大丈夫か」

 

「受けてくれますか」

 

「ああ。だがお前はどうする、アイアン」

 

「邪魔でなければ、ここで見守っていても?」

 

 同じプレイヤーとしてだが、一定の信頼を置いている彼がここに居てくれるのは助かる。                     

 

「構わない。というか、ついさっきまで見回りをしていただろう? 少しは休め」

 

「……感謝する」

 

 

 そんなこんなで、俺は国の軍が使う訓練場で弓の練習をすることになった。

 肩にかけていた弓を手に持つと、”先生”の瞳は俺の力量を測らんと細められた。




他作品を読んで、我思う。

うわっ、我の作品ってば文字数多くね……?
減量するにしても、難しい。

という事で、7000~9000の間を意識していたのを、6000前後に変更。

そうそう、伏線さえ用意していない、突拍子の無い展開に入りそうなんです
ゲームで言う、サブクエストな章なんです

追記・慣れないことをしたせいで、執筆途中の奴が投稿されてしまった。修正済

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