ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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街に引き籠る、と言う行動制限の中、特大ビッグなイベントも特になし。
『物語』、と言うよりは『日記』かもしれない。


22-ウチのキャラクターと俺の商売話

「あのな、ケイ」

 

「知ってるよ。おせきはんって言うのは、祝い事に出すご飯の事でしょ?」

 

「そうじゃなくて。いや、その認識はあってるけども」

 

 管理人の部屋を出入りしただけで、ケイは俺をニヤニヤとイジってくる。その笑顔はとても生き生きとしている。

 夜間の出入りならば誤解の余地はあったかもしれないが、今日のコレは真っ昼間だ。誤解の余地など無いに決まっている。

 

「そんな事よりも、ケイ」

 

「何?残念だけど、式を挙げるお金は用意出来ないから諦めてよ」

 

 話を切り替えようとしても、コレだ。

 仕方ない、ケイがその手を使うのならば、俺も同じ手を使わせてもらおう。

 

「……なんなら、お前と俺が結ばれるか?」

 

「え」

 

「……」

 

 ケイはフリーズした。目だけパチパチとさせて俺を見るが、その顔がほんのり赤くなった所でその視線は横へと逸れる。

 え、何その反応は。ジョークなんだが?

 まあ、変にからかってこない様になったのは助かるが……、面倒な反応なのは変わりないな。

 

 まあいいか、と手短な椅子に腰掛ける。

 ケイにも座ってもらった方が話しやすい。視線で催促すると、それに気づいたケイはぎこちない動きでそこに座った。

 

「……ジョークに決まってる」

 

「え?」

 

「え、じゃないよ。って言うか、お前仮にも既婚者だろ」

 

「あ、いや、でも……それは、その」

 

 ……ああ、しまった。

 ケイは、恋人と結婚する前に死に別れたんだったか。考えが浅かったな。

 

 冗談を言い合う空気は途端に無くなり、変わりにしばらくの沈黙が漂う。

 

「……ごめん。俺が軽率だった」

 

「あ、いや……。別にいいよ」

 

 ケイの顔を見ると、確かに「気にしてないよ」と言う表情をしていた。

 小さく息を吐くと、早速本題へと取り掛からせてもらうことにした。流石に彼女も精神年齢が結構行っているだけある。

 

 

「で、話だが、街に篭って生活するっていう方針になったワケだけど」

 

「うん」

 

「そうするとやっぱり、モンスターに関わる物以外の何かの仕事をしなきゃ行けないよな」

 

「まあね」

 

 ゲームの中で仕事をするとか、俺は何を言っているんだ。と思ってしまうが、こういったMMOではそう珍しくないのかもしれないな、とも思う。

 このゲーム内に通貨と経済がある限り、やはり”お仕事”は必要不可欠なんだろう。

 

「と言う事で、俺は飯を作って売る仕事をしようと思う。ここの調理室を使わせてもらってね」

 

「へえ。さっきのはその相談だったのかな?」

 

「正解」

 

 分かっているなら変にからかわないで欲しかったが、まあそれはさっきまでの話だ。今は今の話をしよう。

 

「別に危険な仕事な訳じゃ無いけど、俺の身を案じているケイには一応許可をと」

 

「包丁で指を切ると危ないからダメ」

 

「……ほう、なんなら人形の指の料理を振る舞おうか?歯ごたえがあるに違いないぞ」

 

「ふふ。ま、そういうことなら私も少しは手伝うよ、訓練で多少忙しくなるんでしょ?」

 

 確かに、手伝ってもらえるのはありがたい。

 忙しくなるとは思えないが、人手がある分には困らない。

 

「ありがとう。まあ今日の所は売り方とか考えたり、物の用意をするだけで、始めるのはまだだけど」

 

「そっか。記念すべき開店日には私も呼んでよね」

 

「良いよ」

 

 初出店だからといって盛大に祝うつもりも無いが、まあ言われたとおりに呼ぶこととしよう。

 その時は……そうだな、何か良い食事処でも探してみるか。

 

 

「……そうだ、少しだけ話し合いたいことがある」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「警戒されない服装?」

 

「そう。怪しまれなくて、かつ全身を隠せる服装だ」

 

 俺の様にローブで身を包んだ人間が露店で座っていたら、もしかしたらアヤシイ商売をしているのかと誤解されてしまう。

 

「そんなのあったら、全世界の怪しい人はその服装してると思うよ」

 

「……そうか?」

 

「そう」

 

 言われてみれば、確かにそうだ。

 遠距離武器という種類で、弓と銃のどれが良いかと言ったら無論、銃が選ばれる。きっとそれと似たようなものだ。

 

「……その状況に当てはまった服装、でもか?」

 

「状況に当てはまったって、何が?」

 

「料理人のエプロンとか、兵士の鎧みたいな奴だ。職業や状況次第で自然な服装って事。逆に街中だったら、そんなの居ると目立つよな」

 

「なるほどね。でもこの場合、君は弁当売る人っていう条件でしょ?その程度じゃどうあがいても難しいよ」

 

「……そうか?」

 

「そう」

 

 そう言われたら、仕方ないな。

 ため息をつくほどじゃあないが、少し残念だ。このローブで販売することにしよう。

 

「あ、でも砂漠の国なら可能性も無いことも無い……かも?」

 

「ああ、なんか顔に巻いてるよな」

 

「うん、なんて呼ばれてるか分からない顔の布」

 

 よく分からないアレね。

 

「まあ、ここが砂漠じゃない以上は無理だから、このままやってく事にするよ」

 

「私が店番しても良いんだよ」

 

「なら、その時は」

 

 俺が店番することは難しいが、ケイが手伝ってくれるならば、心強い。

 なんなら、料理係と販売係で別れても良いかもしれないな。

 

 

「それで、話はもう終わり?」

 

「……あったとして、付き合ってくれるか?」

 

「うん。暇だし」

 

「だろうな」

 

 それから数十分間、俺たち二人は弁当販売についての話をすることになった。

 お互いの気が合うのか、それとも余分な話が多いのか。話は絶え間なく続いていく……。

 

 

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 ・

 ・

 

 

「そういえば、参考程度にだが、好きな食べ物は?」

 

「ポテトシチュー!」

 

「へえ。俺はハンバーグだが」

 

「ほほー」

 

「……」

 

 ふと気が付く。なんか余分な話をしている気がする。と言うか明らかに余分な話だ。

 どうやら、話が長引いたのはそのせいであるらしい。かと言って、暇な俺達には別に余談を控えるつもりもないのだが。

 

 とは言え、弁当販売についての懸念事項も話し終えている。

 話題も尽き、しばらく無言になる。

 

 と思ったら、ケイが四次元ポケットからドーナツを出してきた。

 当然かのように半分に分けられたので、有難く受け取っておく。

 

 

「……ほーいえま」

 

「飲み込め」

 

「ん……」

 

 なんだ。俺の周りの女性は、食べ物を頬張ったまま喋るのしか居ないのか。

 

「あ、ケっちゃん!」

 

「おごっ」

 

 ああ、例外が居たな。と、ケイが喉を詰まらせると同時に気付く。

 レイナは結構礼儀正しい方だった気がする。覚えていないが。

 

「ソウヤさんも。こんばんはです!」

 

 ともかく、この場にレイナがやってきた。彼女のあいさつに、俺は手を振ることで返事する。

 見ると、どうやら俺の方に話があるらしい。やけに俺の方へ視線に向けてくる。

 

 俺は首を傾げさせてみると、レイナは懐から一本のポーションを取り出してきた。

 

「丁度いいタイミングですね、ソウヤさんっ。私から贈り物があるんですよ」

 

「え?」

 

「んんっ。良いねー、ヒューヒュー」

 

 復帰したケイがバカげた事を言っているのを横目に、言葉をメモ帳に書いて見せる。

 

『それは?』

 

「呪いステータス回復のポーションです!」

 

「ああ……」

 

 なるほど、俺は納得混じりのため息を吐く。

 

「嘘だったんだがな……」

 

「にやにや……へぽっ」

 

 ニヤ顔で近づいてくるケイの顔を押しのける。

 

 俺の姿(人形)が呪いによるものと言うのは虚偽であり、これはゲームシステムによる異常……ポーション程度では取り除く事の出来ない物だ。

 

 どんな薬でも、腕は生えてこない。

 同じ様に記憶も取り戻せない。 

 

 そういうものだ。

 

「良いじゃん。試してみようよ」

 

「はい!ソウヤさんの為に、フェニックスの血を調達してきたんですよ!」

 

「フェニ、っえ?」

 

 一度賛成したケイも、思わず戸惑いの声を零す。

 

「え、それって伝説の」

 

 ぼそぼそと何かを言うケイの方をチラと見るが、微妙な動揺をしているのが見えた。こればかりは、今のケイと同じ気持ちだ。

 一体なんなのだ、その名前からしてレア度の高そうなアイテムは。

 

「い、幾らぐらいしたの。ていうかどうやって手に入れたの……かな?」

 

「市に売ってありましたよ。結構高かったですけどね」

 

「えっ」

 

 ……すごいな。市という物は。

 

「え、なんで伝説の不死鳥の血が……」

 

 きっと、レアな素材は素材屋に売られずに市場に売られる事があるのだろう。

 理由は知らないが、俺は無理やり納得することにした。

 

「それで、飲んでくれますか?というか飲んでください!どんなに根の張った異常状態でも取り除けますからっ」

 

 ……そうか。レイナは健気だな。

 俺は遠い目でポーションを見る。なんか液体がキラキラしている。あとレイナの目も。

 

 まあ、レア物の事は別に良いか。

 俺はポーションからレイナの方へと視線を戻した後、首を横に振る。

 あんな貴重品を、至って健康体の俺が使用するにはあまりにも勿体無いのだ。

 

『既に試せるものは試した。そのポーションも含めて。』

 

「へ?」

 

 ……そうして、沈黙が始まる。

 善意がこんなにも大きな空振りに終わってしまったのだ。きっと、本当に気まずい気持ちを抱いているだろう。

 

「えっと、そうだったんですか……」

 

 ……というか、そこまで俺に気にかけるとは思わなかった。

 だってほら、レイナってばケイ大好きっ娘だし。

 

「……」

 

 しょんぼり、と目線を落とすレイナを見かねて、ケイにアイコンタクトを送る。

 ケイは肩を竦めるが、仕方ないといった風にレイナに声をかけようとする。

 

「そういえばだけど、レイナって異常状態って言うのに詳しい?」

 

 なるほど。要求しておいてなんだが、ファインプレーだ。

 レイナは自分から様々な行動を進んでするが、空振る事もないことはない。

 だが、空振りストライクも、三振までにヒットを出せば帳消しだ。

 

「あ、はい。少しだけ……」

 

「なら、知ってる範囲で教えてくれるかなー」

 

 その言葉がレイナに届いたところで、帰ってきたのは笑顔だった。この笑顔を見る毎に、彼女の小動物的可愛らしさが、掛け算式で増えていくのを感じる。

 人懐っこい彼女にとっては、誰かの助けになることをするという行動に、きっと喜びを感じるのだろう。聖人か。いや天使か。

 

「あ……はい、もちろん!」

 

 天使の輪とか、翼とか、そういうマジックアイテムが手に入ったら、真っ先にレイナに贈ってみたいものである。

 

「その、呪いって言うのは、異常状態の……えっと、一部というか、分類的な物なんですよ」

 

「うん」

 

「ふつうは、呪いは魔法とかで引き起こされる物で……そのですね」

 

 説明は苦手な方みたいだ。

 急ぐように言葉を繫げようとするが、時折言葉を整理するために間を挟む。

 

 別にそうやって急ぐ必要は無いのだ。

 一日一時間の世界に住む俺たちにとって、ひと眠りしても精々20分しかリアルの時間が経たないのだ。

 

 だから、

 

『レイナ 落ち着いて』

 

 ゆっくり喋ると良い。

 俺たちプレイヤーにとって、この一秒一秒の価値は薄いのだから。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 そうして数分後、結論から言えば、俺の進言に反して異常状態の講義はヒートアップしていた。

 

 そもそも講義の内容が異常状態の枠を出ている。そこまで話が広がることが、一体誰が予想できようか。

 中止をしようにも、最初に解説を求めたケイにはそれ言いづらいだろう。俺がどうにかした方が良いのだろうか。

 

「異常状態付与に特化した職業もあるんですよ。バッファーって言ってですね……」

 

 万年無職(ニート)人形(ドール)の俺には関係ない話である。

 

「特有のASが、異常状態の強度を上げたり、逆に味方の異常状態を軽減したり。あ、たしか高レベルバッファーは、自分にかかった異常状態を相手に返すことが出来るらしいですよ!」

 

 AS。始めて耳にする単語だが、目で見たことはある。

 たしか「アクティブスキル」という言葉の省略形であるのだが、俺は成長しないスキルと言った感じに覚えている。

 普通、『弓』や『料理』といった技術スキルは関連する行動によって成長するのだが、ASはこれが無い。代わりに、筋力や魔力といったステータスによって、威力や効力が変わってくるとのこと。

 

 いつもお馴染みの、初心者指導書からの情報だ。

 そう言えば、技術スキルの事もTS(テクニックスキル)と呼ばれることがあるらしい。

 T()S()。なんとも、ケイとは馴染み深い単語である。

 

「ね、バッファーな友人って居る?」

 

「居ませんね。転職に必要な条件が難しいんじゃないでしょうか」

 

「転職に条件……?えっと、そか」

 

「はい。あ、でもバフ特化の職業は一つだけじゃないんですよ。例えば精霊使いとか……」

 

 理解しているようで理解していないケイだが、それを気にせず少しだけ考えてみる。

 ステータスが全てゼロである俺でも、物によっては転職できる職業があるんじゃないだろうか。

 

 キャラクター作成の時に見た、職業のカタログの内容を思い出そうとするが……。オーソドックスな物以外は出てこなかった。

 しかも、中心に見たのは戦闘職のみ。生産職とかは全く見ていない。

 

「……」

 

 いっその事、職業:弁当屋でも良いかもしれないな。ハハハ。

 

 ……っと、そうだ。一応、レイナにも協力を募ろう。

 

 

『レイナ、少し話が』

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 ―――そして、時は来た。

 

 ここまで来るのに、俺は苦労したよ。

 品揃えの良い日中の市場で、大衆の流れに逆らいつつ掴み(買い)取った商売道具。

 ファンタジー世界故の、あらゆる意味で特殊な食材。

 

 本当に……苦労したよ。

 

 だが、その努力はきっと報われるだろう。

 その一心で、『弁当屋』としての役割を完遂した。

 

 あとは……

 

「突撃なのです!」

 

「目標は冒険者。行けー!」

 

「……行ってこい」

 

 後は君たちの出番だ。俺は右手をすっと上げ、敬礼をする。

 数本の(たけ)を抱えたレイナとケイは、己が先だと言わんばかりに扉を飛び出ていった。

 

 

 

「……え、竹?何故?」

 

 

 

 そう、あれは只の竹ではない。

 ……”竹飯”だ。

 

 かつ丼の入った竹。アレは俺が手掛けた武器(弁当)だ。ならば、彼女らの成功は決定付けられた様なもの。そうだろう?

 

「いや、なんで?」

 

 竹飯。普通一般の人間は、このような物を食す機会はない。人々は物珍しさに引っ張られ、何人かの冒険者は竹飯を冒険先に持っていく事になるだろう。

 そうして、我ら弁当屋は売り上げを伸ばしていく。

 

 本来、竹飯とは竹でご飯を炊くことなのだが……まあ良いだろ。チョコとバレンタインの関係は企業がでっち上げたと聞くし。

 

 まー、俺のアイデアがお客さんのツボにハマらなければ、俺が竹飯を消化することになるんだけどな。

 一応普通の弁当も用意してるし、大丈夫だろう。きっと。

 

「……ちょっと?」

 

 ところで、さっきから何の様だろうか。

 先ほどから俺の横でボソボソと呟いている管理人を見る。

 

「アンタ耳付いてるの……?」

 

 残念ながら耳は付いていない。恐らく耳にお経を書き忘れたのだろう。

 そんな耳無し人形の俺に、何か用があるのだろうか。

 

『どうしました?』

 

「いやだから……あの二人よ」

 

 いつも以上にげんなりとした様子で問いかけた。

 まあ、玄関というか、食堂で騒いだからそうなるのも仕方ないな。申し訳ない。

 

『弁当を売りに行った』

 

「ああ、アレ……」

 

 そう、アレ。

 数日前に調理室の使用許可を貰った理由のアレだ。

 

「まあ、別に良いんだけど……、所でご飯は?」

 

『竹取カツ丼飯と、あとはタコウィンナー弁当(オプションで振りかけ付き)と、おにぎり(梅、鮭、昆布)とか……』

 

「いや、そうじゃなくて、私のご飯のことを言ってるの」

 

 

「……あ」

 

「……」

 

 弁当に食材を使い切ってしまった……。

 

 

『食材、買ってきます』

 

「やっぱり……」




これと言った大きな動きの無い話……、けどこの言葉があります。

『嵐の前の静けさ』


……この章はずーっと『静けさ』のターンですが。
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