24-ウチのキャラクターと俺の宣言撤回
現在、午前11時。太陽もいよいよ上り詰めてきているといった時間帯だ。
先日から続けていた弁当販売は、まあぼちぼちといった感じで進んでいる。
ケイマジックが仕込まれたカバンに、出来る限りの弁当を作っては入れて、そして売りに出かけてもらう。そんなルーチンが、この弁当販売の基本的なスタンスだった。
売り子はケイ一人で行くのがデフォルトだが、自由参加でレイナも付き合うことがある。モチロン、その時は利益を分け与えている。
初日のパンチとして仕入れていた竹取カツ丼飯に関しては、仕入れ数が減っている。代わりに、普通の容器にカツ丼を入れた物を売りに出している。
実際に弁当として使うと考えると、やはり竹は変化球過ぎた。
そんな経緯もありながら、弁当のレパートリーも順調に増やしている。固定で用意している枠を3種類、それと日替わり枠を一種類用意している。
「ただいま」
「おかえり」
朝から売りに出かけていたケイが帰ってきた、今日はレイナは不参加だ。どこかへ素材採集でもしているんだろう。
朝食という機会でしか人の集まらない食堂で、ケイが持っていたカバンを机の上に放った。
ぺたん、という気の抜けた音と共にカバンが潰れる。
「どれぐらいだった?」
「こんなもん」
そう言って、潰れたカバンから弁当を取り出す。
このカバンには何も入っていないように見えたが、その実ケイマジックで収納されているため、何十個も弁当を入れてもヒョロヒョロと言う擬音が似合いそうな挙動を示したりする。
出てきた弁当は、数個の「アルファ弁当」のみであった。
弁当の命名には、アルファ、ベータ、チャーリーとして、日替わり枠は日替わり弁当と呼んでいる。
「ねえ聞いてよ。今日もあの男が口説いてきたんだよ」
「例の西部劇風の男か。ご愁傷様」
いい加減にしてほしい、と言うような感情がだらだらと伝わってくる。本気で嫌がっているらしい。
まあ、ちょっかいを出しているその男の様に、常連……リピーターとも言うが、その客も着実に増えている。おかげでずいぶんと売れ残りが少なくなった。
しかし、売上自体増えているわけじゃない。販売量は大して増やしてないからだ。
材料の仕入れはケイに任せてはいるものの、肝心の料理人は俺だけであるから、生産の限界が案外近いのである。
早速と言った感じで売上の計算を始めると、ふと視線に気づく。
「どした」
「いやね、なんか艶々してない?」
「つやつや?」
「うん」
恐らく、朝に訓練に赴いた後、帰りに身を洗った影響だろう。
今日ばかりは帰りが遅かった故、身体の表面が乾いていないのだろう。
「いやな、ついさっき浴びたばかりで。なんでもこの
「うわ」
「引いてくれるな、俺も最初は驚いた」
「でも汗って。君本当に人形?」
「さあな。飯食うし、腹減るし、ちゃんと寝るし。案外人間かもしれない」
まあ、実際のところは無機物やモンスターとしての人形として存在しているのではなく、
キャラクターを作成する前のアバターがこの姿だったと記憶しているし、この説が一番有力だと思っている。
「もしかしてトイレもする?」
「それは無いな」
内心苦笑する。いくら仮想現実とはいえ、ゲームでまでトイレに行く必要はない。
一応、トイレを利用すると一部の異常状態が解消するらしいのだが。毒だったり腐ってたりした食物を食べたときに発生する『食中毒』とか。
それさえ気をつければ、アイドルはトイレしないという都市伝説を実現してしまえるのだ。無論、この世界限定だが。
「弓の練習、続けてるんだね」
ケイが机の横にに立てかけてある弓を見て言う
「まあ」
ケイが朝に弁当販売に出かけた後、俺もいつものように弓の練習をやっていた。
そのお陰か、弓を教えてくれる先生の他に、練習の場を紹介したアイアンとも仲良くなったりしている。
「弓の腕も使い物にはなった筈だ。相当素早い獲物じゃない限りだが」
最近は、空を飛ぶ敵に対する射撃訓練もしている。人一人分のサイズでも安定して当てることは出来ないが、鳥を狙うとなると、最早運に頼るしか無いだろう。
ステータス面では、念願のオールゼロ脱却が達成された。『弓』スキルが上がると同時に『器用』も上昇したのだ。「1」だけ。
「ふうん……。どうせだし、適当にモンスターとでも戦ってみようか」
「モンスターと、って……外に行くのか?」
「そ、私も腕が鈍ったらいけないからね」
「……でも、大丈夫か?」
危険だから街に籠もるといったのはケイだ。なにか問題があるのではないかと、俺は心配する。
「んー、もしかして自信無いのかなぁ?」
「いや……別に問題ない」
能力持ち越し転生系チート主人公の彼女が居れば、特に問題など無いだろう。何か重大な事がおきない限りは、だが。
ここで売れた弁当の売上の計算を大雑把に終えて、利益分の半分を財布に入れてしまう。そしてもう半分はケイの分け前として渡す。
今後の弁当の材料費に使う分は、別の袋に入れてケイ特製の四次元ポケットに入れている。
「収入もあるし、出発前に防具も探してみよう」
「そうだね、矢も沢山用意したほうが良いだろうし」
「重くならないか?」
「そこはほら、私の魔法でちょちょいと矢筒に細工してさ」
……本当に万能だな。ケイマジックは。大方、矢筒の中を四次元ポケット化してしまうということだろう。
あっさりと解かれた引き篭もり令に呆気なさを覚えながら、適当に外出の支度を済ませて出ていった。
・
・
・
「おっも……」
「貧弱すぎ」
「否定できん」
幾つかお店をまわり、新しい防具と、大量の追加の矢を買った。その結果、総重量がそれなりに多くなり、俺自身が潰れてしまいそうになってしまう。間違いなく、金属部分が多い鎧と、この訳わからん量の矢のせいだ。
流石に数歩も動けないと言う程でもないし、街の外を歩く分には……まあ不可能じゃない。だが重い。とっても重い。
「せっかく上がった『器用』も、重さに耐えるには役立たずか……」
「んー、持とうか?」
「頼む。金属の鎧が存外重くて」
この重さを誤魔化すために、鎧を着直す。ローブの上に鎧を着ているから、その表面で光が歪んだ。
以前使っていた花柄の防具よりは、こっちの方が精神的に良い。
「……いや、微塵もプライドが無いね。自分から言ってなんだけど」
渋々言いながらも受け取ってくれる。プライドなら花柄防具の時点で砕け散った。
流石に人目のある所では矢筒に細工を仕込むことは難しいから、仕方なく宿屋へ移動中である。空間に四次元ポケットを開くのは楽だが、道具か何かに付属する形で四次元ポケットを付けるのは面倒らしい。
「女の子と付き合えそうになさそうだね、ソウヤは」
「それは挑発か」
にししと笑う彼女に、俺はジト目を送ってやろうとした。しかし俺には目がなかった。
「……けど言われてみれば、確かに君との関係は友人の色が濃いな」
”男女の間に友情が生まれることは有るのか”、と問われれば、”見れば分かる”と答えればいいぐらいに恋色が思い当たらない。
試しにケイの姿をじっと見つめてみるが、ときめくような感覚は一切しない。むしろ記憶へ繋がる希望としての感情で満たされそうな気になる。
俺が学生だったのであれば、多少はそれっぽい色もあったかもしれないが……。
「まあ、君の
「否定はできないなあ」
男性として生きていた前世の記憶……恋人も居たとなれば、女性として始まった今世はとてもやり辛かっただろう。
「男を理解している女性、と言うのも男を引き寄せそうな物だな」
「ああ、それはちっとも考えてなかった。というか考えたくなかった」
露骨に嫌そうな顔をする彼女を見て、この話題はウィークポイントなのだろうと察する。この話題にはあんまり触れないであげたほうが良いだろう。
また身をよじる様に鎧を着直すと、近くに見覚えのある姿を見つけた。数メートルもしない距離だが、看板の上に腰かけていたから、たった今まで気づかなかった。
「キャットだ」
「キャット? あ、本当だ。おーい!」
ケイが呼びかけると、キャットの耳がぐいっとコチラに向けられた。その耳につられるように顔をこちらに向けて、俺達に気づくと同時に手を振り返してくる。
まるで本当の猫の様に、その看板から飛び降りてからしなやかに着地した。
「おお。ナイス着地、10点」
俺たちと向き合ったキャットは、二本の尻尾をゆらゆらとさせながら、ケイの採点にはてと首を傾げた。
「私的には8.7点なのデス」
俺達はフィギュアスケートやダイビングとかの採点に来たわけじゃないんだが。
「弁当売りでほんのり話題なお姉さんは、私に何か用でもあるのデスか?それともご主人に?」
「話題になってたんだ。んやね、見かけただけなんだけど」
「そうなのデスか」
返事に満足、と言うよりはどうでも良いとでも言うように、筒状のお菓子を貪り始めた。あれは
「むぐむぐ。私はご主人が私を召喚するまで待機してるのデス」
「食べながら喋るな。粉が飛ぶ」
「召喚、っていうと……えっと、あの人の特技だっけ?」
「名前を忘れたのか。イツミ・カドだぞ」
「そう、イツミ君」
「……むぐ、お姉さんはご主人の名前を覚えてないのデスか。それと、お人形さんも相変わらず良い声なのデス。パントマイムを始めたらどうデス?」
それは猫又流のジョークだろうか。俺は肩を竦める。
ところで、宿屋へと足を進める俺たちに付いて来ているのは何故だろう。
「ところで、なんで付いて来るのかな?」
「んにゃ……偶然会ったから付いて行ってみてるだけなのデス」
「そっか」
休憩中とだけあって、結構ヒマしているらしい。
付いてくる小さなキャットを追い払うようなことはせず、なんともないように世間話を続ける。
「あ、召喚されるときは光るので、ご留意しておくのデス」
「へえ……。召喚の仕組みが気になるね」
確かに、召喚魔法はどの属性にも当てはまらなかったりするし、若干気になるかもしれない。
魔法が得意なふれんずのケイなら、案外再現できてしまうのだろうか。
「イツミ君は何をやってるの?」
「ご主人は東の港へ移動中なのデス」
そう聞いて、俺は疑問に思う。それならば、このキャットは何故ここでお留守番をしているのだろうか。
「最近になって増えたお手伝いでヘトヘトになったので、おやつ券一回分を犠牲に、ご主人が目的地に到着するまで休暇中なのデス」
「へえ」
なるほど、召喚獣は意外と重労働らしい。それともそういう時期なだけだろうか。
「そんな大変になるってことは、何かあったんだ」
「それは……おっと、ここから先の情報は入会しないと閲覧不可なのデス」
思わず吹き出す。入会が必要だったとは知らなかった、かの情報網の利用は会員制らしい。
「え、なにそれ」
「入会後の3ヶ月はお試し期間、そこからは月料370Yなのデス」
「え」
意外とそれっぽい内容であることを聞いて、さらに笑いを深めてしまう。
「ケイ、この世界ではよくあるヤツだ……っふふ」
「いや知らないって。え、情報屋ってこう言うものなの?」
ふふふ……ケイよ、そんなでは現代社会を生き残れないぞ。
俺は彼女の肩に手を置いて、意味あり気な風に深く頷いた。
訳が分からないと混乱するケイの様子を見て、くすくすと笑いをぎりぎり堪える。俺に唇があれば、それは弓の様にしなっていただろう。
・
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俺たちが宿屋に到着しても、結局キャットは召喚されずに付いてきたままだった。
「ここがお姉さんのハウスね、デス」
「なんだそれは」
どこか聞き覚えのあるセリフに、思わず突っ込みを入れる。無論、その声はキャットに届かないが。
「ハウスじゃなくて宿屋なんだけどね。っと、私は部屋で色々と用意してくるよ、キャットの相手よろしくね」
「え、俺が?」
一方的に言われ、ケイはそのまま二階へ行ってしまった。
別にキャットの話し相手になるのは苦ではないが……筆談が面倒なんだが。
ケイが部屋に行くのは、矢筒に細工を仕込むのをキャットに見せない為だろう。知り合いだとはいえ、信頼はしていないらしい。
「……」
キャットはケイの行く先が気になるようで、2階の方をしっかりと見つめていた。”耳”が。
二度言うが、”耳”が二階の方を見つめていた。比喩だが、この表現がピッタリ当てはまる状態である。
一方、顔だけは俺の方を見つめているように見えるが、全神経は耳に集中しているらしい。俺が手を振っても反応する素振りすらない。
「目は口ほどに物を言う、だったか」
このキャットの場合は、耳が当てはまるんだろう。
それはとにかく、ケイの魔法について模索されるのは、ケイにとっては望んでいない。と言っても、耳を向けただけでは何もわからないとは思うが。
「……にゃあ」
しばらく観察してみたら、キャットは落ち込んでしまった。アンテナの様にピンと張っていた耳も、元気をなくしたようにみえる。聴覚だけでは大した情報を得られなかったらしい。
しかし、キャットはこんなに感情豊かな耳をしていただろうか。俺は記憶を掘り返すが、あのような様子の耳を目撃した瞬間は二度も無かった。
「そういえば、弁当はどんな物を売っているのデス?」
何事もなかったかのように質問を吹っ掛けてきた。あの耳に気づいていないとでも思われているんだろうか。
……まあ別にいいかと、適当に返事の言葉をメモ帳に書く。
『アルファ弁当には、肉団子やウィンナー(タコ)が主。
ベータ弁当は卵そぼろ。
チャーリー弁当はコロッケ・生姜焼き・唐揚げ。これは大食い向け。もちろん全部に白米がついてくる』
「へ、えっと……なるほどデス?」
あまりピンと来ていないご様子。
なんなら実物を見せても良いのだが、弁当を入れているカバンは部屋にある。わざわざ部屋に戻る事でもない。
『機会があれば、半額で売っても良い』
「おー、それはありがたいのデス」
『その代わりに、食べ物の好みでも聞かせてほしい』
「ふん、喜んで答え……あ、ちょっと待つデス」
俺の言葉に鼻を鳴らして返す途中、なんとキャットが光りだした。比喩でも何でもなく、全身を余すところなく光らせていた。
何事かと一瞬警戒するが、先程のキャットの発言を思い出してハッとする。これがキャットの言う、召喚時の挙動なのだろうか。
「ご主人が召喚の詠唱を開始したっぽいデス」
『時間がかかる?」
「……さっきの質問の代わりに答えると、召喚される側の大きさに応じてかかるのです。私の場合は―――」
「眩しっ」
キャットの言葉が途切れる直前、一際強い光を放った。顔を背けてすぐに目を守るが……それも一瞬だけ。
すぐに光が収まったとわかると、再び前を見る。
「……居ない」
本当に召喚されたらしい。
誰もいない空間をぼんやりと眺めていたら、階段の方からパタパタと足音が聞こえてきた。
「何かあった?」
「キャットが召喚された。あの光を直視したら数秒は目が使えなくなるな」
あれを真っ昼間の大通りでやらかしたら、軽い災害である。この宿屋の中で召喚されたおかげで何も騒ぎになってないが……。
「やっぱり召喚だったんだね。一階から結構な魔力がするなって思ったわけだ」
「やっぱり分かるんだな」
「ふん、これでも大魔法使いだから」
俺の言葉に鼻を鳴らして答える。
……こんなセリフを聞いたのも久しぶりな気がするが。
「そうそう、さっきキャットが耳を立てて模索してたぞ。なんも分かんなかったみたいだが」
「ああ、そういえばキャットちゃんも魔力とかには敏感なんだっけ」
俺は迷った末に情報収集を阻止する行動すらしなかったが、結局大した情報も知られなかった。
キャットの件は別に放っておいてもいいだろう。
ケイも同じような事を考えているらしく、キャットの話をまるで天気の話題の様に軽く受け流した。因みに本日の王都は晴れのち曇りである。
「はい、細工はちゃんとやっといた。中身の五分の四ぐらいのスペースがアレだから、それより小さい物が入ると取りづらいよ。注意ね」
「ありがとう。……そういえば、その魔法ってアレだよな。弁当は腐らないのか?」
四次元ポケットは、入り口が開いている間は時間が流れるとのこと。しかし、これでは防腐を目的にここで収納している筈の弁当が腐ってしまうのではないだろうか。
「大丈夫、時間的に隔離されてるから。」
「ああ、アレしてないって事か」
「ほら、世界って無限にある感じじゃん。この空間もそんなアレな感じ」
どことなくかなりアバウトな説明だが、なるほど。俺は深く納得した。
ケイマジックについてまた知識を深めた所で、俺は実際にこの矢筒を持ち上げてみる。これには既に大量の矢が収納されている。
こんな大量の矢が入っていれば、本来はそれ相応に重いはずだが……。
「……凄いな。かなり軽い」
「重さが本来の五分の一だからね」
そりゃスゴイ、軽量化っていうレベルじゃない。本来の五分の一の重さの車なんて、今後千年経っても出てこないだろう。
出来ればこの鎧もどうにか軽くして欲しいが、魔法の仕組み的に無理があるだろう。いや、ケイの魔法の事はケイにしか分からないだろうが、なんとなく察せる。
「じゃ、他にも持ち物を確認したら行こっか」
「了解。といっても、そんなに無いんだがな」
実は大まかなプロットは頭のなかでぼんやりと組み合わせてるだけだったりする。
この章では、やや細かめにプロットを書いてから、それに沿うように本編を書くようにしてみます。
プロットなんか書いてるより本編書いてる方が楽しいんだけどね。特にソウヤとケイの掛け合いとか。
追記・オーノー。設定が定まるにつれ、過去の本編を書き換えなければ行けない事態になってしまう。
最初の話で宣言した通り、改訂やら修正やらの内容は通知しません。そんなことしたら後書きの文字数がとんでもないことになる。