ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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25-ウチのキャラクターと俺の実戦訓練

 弓。それは一般には遠距離武器に分類されるものである。

 そしてそういった武器は、今も昔もある程度狙うという行為をせねばならない。

 

「姿勢を安定」

 

 自分に言い聞かせつつ、慣れた姿勢で弓を構える。矢先に捉えるのは、ぼんやりと動き回っているスライム達。

 青くプルプルとしたその体を見れば分かるように、彼らはゲーム界共通の雑魚キャラだ。

 

 初期から戦闘能力を持たない生産職が戦闘するとなれば、まず最初に相手にするであろう敵キャラである。

 

「狙い」

 

 番えられた矢と一緒に弦を引き絞り、一息吐いて……矢を放つ。

 矢が放たれた反動を手に受けつつ、矢の行方を見る。

 

「ぴぁっ」

 

 瞬きを一度するだけで過ぎてしまう様な刹那の後、矢はスライムのど真ん中を貫く。

 可愛らしい声と表現し得るそれを断末魔に、ダメージを受けたスライムは光となって散った。

 

「おー」

 

「お見事」

 

 俺の後ろで様子を見ていた二人が、俺の射撃を見てそれぞれ評価や感嘆を口にする。

 片方は、もはや親の顔のように見慣れたケイの姿だが、もう片方はどうにも見慣れない格好をしている。全身を鉄で包んだような巨体を、どうして見慣れた格好と言えようか。

 

「あとは戦闘中の立ち回りか。確かここより南西の方にそれなりのモンスターが出るという話があった筈だ。少しばかり遠くなるが先導しよう」

 

「はーい」

 

 ああ言って向こうへ歩き出す大きな鎧姿の名は、『アイアン』と言う。正に“名は体を表す”のお手本だ。

 彼は、弓の訓練に付き添ってくれる人を紹介したプレイヤーであるが、何故俺たちの実践練習に同行しているのだろう。

 そう自問するも、そのきっかけはつい先程の出来事。答えに直結する記憶を引き出すまでもなかった。

 

 彼が素材屋の辺りでうろうろしていた所を、俺の方から声をかけたのだ。声が聞こえずとも、俺の姿が視界の隅にでも入りさえすれば気づいてくれた。

 どうやら彼は、噂となった弁当売りの少女を探していたらしかった。

 

「いやー、土地勘がある人がいると違うね」

 

「長い間ここに住んでいるからな。最早この辺りは見慣れたものだ」

 

 ケイとアイアンが話をする横で、アイアンが抱える荷物を見てみる。

 ちょっとしたやり取りを経て売り渡したカツ丼と、幾つかのお握りが入っている。

 弁当売りの少女の噂の正体は俺たちだと聞いたアイアンは、なんと奇遇なことかと驚いていた。

 

「遠いが、あの方向にはゴブリンの集落が点在する。こっちには、複数の狼の群れが縄張りを形成しているな」

 

 アイアンが人差し指で一定の方位を指しつつ説明する。

 ゴブリンとはまた、スライムと並んでファンタジー界の雑魚キャラ代表のようなものである。強さとしては、もちろんスライムより上だが。

 基本的に主要な街などから遠い程モンスターが強くなるから、街の近所にはこういったモンスターが多いのだろう。

 

「ここからは街を挟んで逆方向になるが、『常闇の森』には魔種が蔓延っているな」

 

 常闇の森と聞き、レイナと共に言った素材採集の事を思い出す。初ログイン間もない頃のことだ。

 そう言えば、あの頃は”俺自身”も気配に敏感だったりした。

 

「……ん?」

 

「いや、何でもない」

 

 ケイの顔をぼんやりと見つめていたら、視線に気づかれてしまった。

 

 ……そういえば、第六感が覚醒した時期もあったが、人形になってからはめっきり無い。どう考えようと、あの第六感はケイの自立に関係しているとしか思えない。

 もしかしたら、あの頃からケイが自立する兆しが現れていたのかもしれない。

 

 ケイの謎は、今もなお深まるばかりである。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「到着だ。最近この近辺に、動物を狩りに来るゴブリンが居るらしい。ソウヤ殿の腕試しには良いだろう」

 

「へー」

 

 レイナと一緒に行った時の森ほどではないが、それなりに控えめな程度にに木が生えている。

 あんまり障害物が多いと戦いづらいが、まあ実戦訓練の一環とでも思おうか。

 

「ただ、私が戦いに介入するとなると、戦力が敵に対して過剰になるだろう。私は待機しているから、二人で戦ってみてはどうだ?」

 

 それを言うと、ケイ単体で既に過剰戦力なのだが。

 そっちの方をちらと見ると、やはりというか、苦笑いを零していた。

 

「私も結構やれる方なんだけどね。こう見えて」

 

「む、そうだったのか」

 

 生産職の類だと思っていたのだが、と独りごちるアイアンを見て、まあそう思っても仕方ないなと同感する。なんたって、彼女は弁当売りの少女という肩書を得ているのだ。

 それに、今の彼女は動きづらいという理由で簡単な防具しか着ていない。いざという時の為に鎧を亜空間に収納しているらしいが……。

 

「薬草でも摘みながら探そうか。雑草と見分ける知識は持ち合わせているか?」

 

「あー、いや?」

 

 ケイと同じように俺も首を横に振る。

 

「そうか。では良ければ、見分け方を伝授しよう。まず、主な薬草の特徴だが……」

 

 アイアンから、薬草の採集に関してアドバイスを受けながら歩き回る。

 あの鎧姿が草を摘み上げるという、無機物と有機物の共演は、一見不審なものだと評するしか無い。

 だが勉強にはなる。街の外でポーションが不足した時、薬草を貪るだけでも少なからず助けになるだろう。

 

「……あ、これは」

 

 アイアンについていって、薬草を幾つか摘んでいった所で、俺は見覚えのある花を見つける。

 特徴的な形の青い花。それを以前に見たのは数日前になるが、その特徴を目にすればすぐに思い出せそうだ。

 たしか、名前は……

 

「マ、マ……」

 

「ほう、これはマヒメか。珍しい」

 

 そうそれ、マヒメだ。

 ゲームを初めて間もない頃、レイナと一緒に森へ赴いた時の採集対象だった。

 リアルタイムで見れば同日での出来事なのだが、とは言え懐かしいものだ。魔力を多く消費する機会の無い俺らは、今も尚リボン付き魔力ポーションを保有している。

 

「魔力が多い環境に主に根を下ろすのだが……大魔法の残り物でも漂っているのか? しかしこんな場所でそんなものを使うとは……」

 

 大魔法という単語を交えて独り言を夢中に零すアイアンを横目に、ケイの方を見る。

 俺の視線だけで伝えられた問いに、彼女は首を横に振ることで返す。彼女がここで魔法を使ったと言うわけではないらしい。

 まあ、つい今朝に街中引き籠り令が解除されたばかりだし。

 

「……む、失礼した。マヒメがこういった場に生えるのは特に珍しいのだ。放置するにしても、本来あるべきではない環境だ。すぐに枯れるだろうな」

 

「だったら、私が貰っても良い?」

 

「構わない。騎士の私が持つにしても無駄だろうしな」

 

「そりゃそっか」

 

 ケイはマヒメの元に屈み込み、幾つか採集する。

 その間にじっと辺りを見渡してみれば、この特徴的な花は他にも幾つかあった。

 

 ……なにかの事情で一時的に空気中の魔力が多くなったとしても、こう多く生えるものなのだろうか?

 

「なんだと、他にもあるのか……?」

 

 俺が見つけた他のマヒメの事をアイアンに伝えると、驚きの声を上げる。見れば分かるのだが、その兜で周囲が見えないのではないだろうか。

 

 ようやく彼は兜のバイザーを上げ、辺りを見渡す。

 

「なんと……ここまで多いと、エリアボスの可能性も否めぬな」

 

 エリアボスとは、大きく出たものである。思わず心臓が縮こまったような気にさえなる。

 ボスと言えば強敵、強敵と言えばボス。そんな相手と俺が出会ってしまえば、逃げる・負ける・玉砕、そのどれかを選択する事を強いられるだろう。おまけに複数選択可だ。

 

 

「ねえ、私一人じゃ全部取りきれないんだけど」

 

 いつの間にか離れていた距離、その間十数歩といった所を、声を張り上げて俺たちに言葉を伝える。

 

 時間が立てば枯れると聞き、遠慮なく採集を続けていたケイは、いつの間にか向こうまで行ってしまったらしい。作業に夢中になるタイプの様だ、はじめて知った。

 

「すまない、この周辺は危険かもしれない。一度ここを離れる事を勧める」

 

「確かにそうかもしれないけど」

 

 気配のスペシャリストであるケイにも、それは既に分かっていた事であるようだ。

 

「マヒメの量が尋常ではない」

 

「知ってるけど、ちょっとこっち来て」

 

 そう言って、ケイは手招きをする。

 ここは危険だという予感があるというのに、あののんびりとした態度を見れば、意外にそうでもないかもしれないと思い直す。

 いや、本当は危険なのかもしれないが……。

 

「一体どうした?」

 

「隠れて私達を見てる人が居る。なんとも無いように振る舞って」

 

「……え?」

 

 ケイの発言に、俺は衝撃を受けて思考を一時停止させてしまう。

 

「どういう事だ」

 

「不審者の追っ手がいるよって事。信じてくれる?」

 

「……確かに警戒するに越したことはないが」

 

 アイアンは、言いつつもバイザーを下げた。

 いつの間に俺たちは映画か何かの登場人物になったのだろう。尾行に気づきつつも普通に振る舞えとは、まんまそういうシチュエーションではないか。

 

「マジかよ……」

 

 思考停止から復帰して出た俺の一言は、そんな言葉であった。

 

「その、どう対処するんだ?」

 

「普通ならどうにか撒くところだが」

 

「なに、先制攻撃すれば良いんだよ」

 

「えっ」

「ほう……?」

 

 なんてこった、ケイは脳筋な魔法使いだった。彼女の発言に困惑する。

 

「先手の有利は言わずもがな、下手に逃げて後手に回るよりは良し。でしょ?」

 

 たしかに、そうかもしれないが……。

 アイアンの方を見ると、賛成とでも言うように頷いていた。交戦については避けられないらしい。

 

「敵の方向は私の4時の方向に二人……あ、4時の方向って分かる?」

 

「問題ない」

 

「よし。で、もう一つの二人組が6時に。狂いがなければ合計四人だね」

 

 ケイから見て右と後ろと言うことだろう。

 しかし尾行を真っ先に攻撃するなんて……、確かに先手を取れば有利なのは分かるが、気が引ける。

 もしかしなくとも、俺の精神が貧弱なだけかもしれない。

 

「それと多分だけど、全員魔法使いっぽい」

 

「そうか……」

 

「情報はコレで全部。で、ソウヤは大丈夫かな?」

 

 こんな事態に大丈夫で居られるはずがないが……いや、きっと大丈夫だ。

 俺に関しては死んでも復活できる。問題はケイだ。最悪、復活できずに死んだっきりの可能性があるのだ。

 

「そっちは大丈夫なのか?」

 

「へえ、他人の心配が出来るぐらいには余裕なのかな」

 

 いや、その解釈は完全に誤解だと思うのだが。ただケイがリスポーンできない可能性を懸念してるだけだ。

 

「開戦の合図に右の方へ私が魔法を打ち込む。ソウヤは後ろの方を弓で」

 

 待て、俺は目視できない敵を射撃する訓練などしていないぞ。

 

「アイアンはソウヤを守ってあげて。私は個人でどうにかなる」

 

「了解」

 

「えっと」

 

「さ、ソウヤの初陣だ。どれ位できるかな?」

 

 ちくしょう。

 俺は心の中で悪態をつきつつ、こっちを笑顔で見つめるケイの瞳を睨み返すしか出来なかった。

 

 

「……行くよ。『ボルトスピアー』!」

 

 戦闘開始の合図に、向こうへ”雷”が投げ込まれる。一直線に進むそれが着弾すると、周囲を焼き尽くさんと雷撃が音を立てた。

 俺は後ろの方を振り返って、その直後に矢を番えた弓を構える。体勢を整えながら、僅かに見える姿に狙いをつけ、放つ。

 

 矢の行く先を見守るが、敵に命中したのかよく分からない。手応えは感じなかったが……。

 

「”クソッ、あの女を先にやれ!”」

 

 ケイが雷を放った方から、敵の怒号が聞こえる……が、その言葉を俺が理解することはできなかった。

 ……あれは英語か?

 

 再び矢を番えて、敵が姿を見せるのを待つ。

 

「”撃て(FIRE)!"」

 

 ケイが見ているはずの方から、その号令の様な声が聞こえる。何事かとその方を見ると、その瞬間に二つの方向から二つずつ、火の魔法が放たれた。

 

「『壁を』!」

 

 ケイが詠唱も何もない一言を放つと、それぞれの方向を遮る様に二箇所の土が盛り上がり、壁が作られる。その直後、壁の向こう側で火の玉が爆音と共に潰れていった。

 

「敵の魔法はあの木の裏から来ている!」

 

「『貫け』!」

 

 アイアンの言うそれを応じてケイが石矢の魔法を放つが、敵に当たったような様子は見られない。

 俺も壁の横から少し体を出して弓を構えるが、敵の姿が見えないのでは撃てない。恐らくどれかの木の陰に隠れているのだろうが……。

 

「私は突撃する。アイアンは引き続きソウヤを」

 

 んな無茶な……とは思えど、口に出ることは無かった。物陰から魔法を撃ち続ける相手に対して、下手に遠距離で撃ち合わずに接近する。と言うのは確かに有効な行動だろう。そのリスクを考慮しない場合であれば、だが。

 しかし彼女ならば、そのようなリスクを踏み潰してしまえると、俺は思う。生みの親の俺がそう思うのなら、きっと問題ない。

 

「……ケイ殿がそう言うのならば、了解だ」

 

 アイアンはあんまり納得していない顔だが、俺の様子を見ると、心配するべきでもないと判断したようだ。

 いやいやいや、俺も内心は心配で一杯なんだが。

 

「ソウヤ、私の方を援護できる?」

 

「いきなりの実戦でそんな……いや、任せろ」

 

 迷ったが結局頷いて返事した。ケイの真面目な顔を見て、考えを変えたのだ。

 

 援護するために位置を変える。先ほどまで俺がマークしていた敵を放っておくことになるが、アイアンはその敵が居るであろう地点を見張っている。

 俺は位置に付くと、再び弓を構えて、ケイの方の周辺を見張る。

 

 向こうへ駆けるケイは、その手に持つ剣に岩を平たく纏わせている。まるで盾のような見た目に変形したそれに目掛けて、物陰から魔法が飛んでくる。

 襲い掛かる魔法を岩の盾で受け止めつつ、突撃を続ける。すると、距離を詰めるケイから離れようと取ろうと、敵が走り出した。

 

「今……!」

 

 物陰に隠れるよりも、迫る敵から離れるのを優先した敵に、じっと狙いを定める。既に矢は番えられ、弦は引かれている。

 あとは、矢を敵に向けて放つのみ。目標は動くが、当てられる。

 

「――」

 

「”ぐああぁ、足がっ!”」

 

 物陰から飛び出た二人の内、一人が倒れこむ。当たった。

 その後すぐ、走り続けるもう片方の敵にケイが襲い掛かった。あの様子だと、敵は近接戦闘があまり得意ではない様だ。

 

「別方向から敵の攻撃!」

 

 直後、アイアンに警告される。急な攻撃だったが、アイアンが俺のすぐ横で両足を踏みしめると、火の球を盾で受け止めた。

 火の粉が散る中、ケイとは別の方向で人影が動くのを見た。

 

「散開している!」

 

 分かっている。姿も確認しているから、あとはアイアンの後ろから狙い撃てばいい。

 ケイの方は、心配するまでもない筈だが。

 走る人影に狙いを定めていると、嫌な予感がして直ぐにアイアンの後ろに隠れる。

 

「まだ来るぞ!」

 

 アイアンがそう言って、再び来る攻撃を防ぐ。

 その後に再び盾の陰から体を出し、敵を狙うが……。狙いを定める間もなく敵が魔法を放つ。

 

「撃てない……っ」

 

 また直ぐアイアンの後ろに隠れ、攻撃を凌ぐ。これでは落ち着いて狙えない。

 

「ソウヤ殿。片方が回り込むつもりだ」

 

 見ればわかる。二方向に分かれて、俺たちを挟み撃ちすることで盾の外から攻撃するつもりだ。

 だが、きっと問題は無い。ケイが突撃していった方向の敵は、既に二人とも倒したはずだ。

 

 ……ほら、既にケイが、挟み撃ちを行う二人の片方へ剣を振るっている。

 連続する攻撃は止んで、残る敵は一人だけだ。

 

 俺はアイアンの肩を叩いて、回り込んでくる方の敵の方へ盾の向きを変えるよう促した。言葉が伝わらなくとも、ある程度は融通が利く。

 

 盾の向きを変えた後に、向こうから魔法が放たれる。が、アイアンの横を掠めるだけで通り過ぎていった。

 お返しにと、俺は敵の居る方へ矢を放つ。僅かに角度がずれ、直ぐ右の方へ逸れていく。

 見ると、敵は無暗に魔法を放ちつつ逃げている。弓で狙いが付けずらいよう、ジグザグに逃げているようだが……。

 

「捕まえたっ!」

 

 敵の横からケイが飛び出してきて、相手に掴みかかった。

 

「”チクショウ離せ――ぐばっ!”」

 

 抵抗する敵は、振りほどこうとするも離れることは叶わず、むしろ押し負けて地面に転がされた。柔道のような動きで倒した様に見えたが、きっと気のせいなのではなく、きちんとした技術なのだろう。

 

「ソウヤ、ロープを」

 

 あっという間に敵を無力化したケイに思わず見とれそうになるが、俺への指示で気が付いて、すぐに目的の物を投げ渡す。

 ロープを受け取ったケイは、それで敵を乱雑に巻き付け……簀巻きにしてしまった。

 

 俺が弓をもっての実戦は、主にケイの活躍で幕を閉じた。




戦闘描写に頭を悩ませる。
大規模な戦闘なら思い切って大雑把に書けるけど、少数対少数だと、どうしても細かく描写したくなっちゃう。
やっぱりテンポ悪いかな、と思考中
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