「で、どうする?」
「山賊、にしてはかなり変だな。魔法使いのみで構成されているのも気になる」
「……」
すっかりロープで巻かれ、首から足首まで拘束された状態の魔法使いを眺める。
戦闘中は余裕がないからあんまり注目できなかったが、アヤシイ宗教っぽい雰囲気のローブに、特徴的なマークが縫い付けられていた。
何かの組織の一員であるのは間違いなさそうだ。
「”オイ、拷問にでもかけるつもりか?”」
「そうそう、この人の言葉も変だよね」
「確かにな。聞くからに英語の様だが……、すまない。外国語には疎いのだ。ソウヤ殿はどうだ」
二人から寄せられる期待の目線に、黙って首を振る。残念ながら俺も英語は苦手だ。
「そうか。残念だ」
「一度街に連れ帰る?」
「そうだな。英語を修得している者を協力を募れば、どうにかなるだろう」
このゲームを遊んでいるプレイヤーの人数と、あの街の人口を考えれば、探すのにそう時間はかからないだろう。
連れ帰るのには賛成だと、俺も頷いて賛同を示す。
「”ハッ。これでも俺の口は堅いんだ。そこの女の
魔法使いが何か言ったと思うと、音を切るように剣が振るわれる。
剣先が目の数ミリ先を裂き、魔法使いは驚いて後ろへ仰け反った。
「言葉は通じなくても、悪意は通じるの。分かる?」
「”―――わっ……わかった”」
急な行動に俺も驚く。さっきまで剣は鞘の中に収められていたはずだが、まさか抜刀術まで極めているのだろうか。あれ直剣だけど。
魔法使いが恐る恐る返事をして、それを了解だと解釈したケイは剣を収めた。
「で、だ。どうやって運ぶ?」
「馬車も荷車も無し、となれば私が持つしかないだろう」
「わかった。お願いね」
流石にあの重そうな鎧を着込んでいるだけある。
まるでちょっとした石を拾うように軽く魔法使いを持ち上げると、そのまま肩に担いだ。魔法使いが騒ぐ様子もない。さっきので大分落ち着いたようだ。
「ところで、さっきのソウヤ。結構上手かったんじゃない?」
「だな。ケイ殿の指示が上手く戦況を運んだのもあるが、判断もなかなか良い」
街へ帰る道中、いつの間にやら俺をべた褒めし始めていた。
そこまで言われるとこっ恥ずかしいし、実際に大活躍したのはケイだ。
『ケイも、敵一人倒すのに数秒もかからなかった』
「だって近接武器も格闘術も無い、貧弱魔法使いが相手だったし」
「確かにな。一人でも敵に前衛が居れば違っていただろう」
俺の発言に、当然の事実で返される。
確かにそうだが、下手するとその前衛もケイに数秒で切り捨てられそうだ。
なんたって、このケイだし。
「そう言えば、ケイ殿も素晴らしい能力を持っているな。あれは簡易詠唱の類いか?」
「簡易……?」
「……あ」
一瞬の思考停止の後、今更の事に気づいて声を上げる。
ケイの魔法は、基本的に”魔法名”を持たない。代わりに、魔法に意思を込めるべく掛け声を発している。
このゲームにおいて、アイアンが言うような簡易詠唱のスキル等を、俺は知らない。しかし、このゲームのお性質上、いかなるウィキやSNSを調べても、全ての情報を知ることは出来ない。
どうしても未知の存在という物がある。例えば、レアアイテムだとかだ。
「ケイ。君はそういうアイテムを持ってるんだったよな」
「あ、そう、そうなの!この剣って、魔法系の補助する機能を持ってるんだよ!」
「ほう、それは素晴らしいな。魔法を一切使わない私には、特に欲しいとは思わないが」
まるで騎士のようななりをした彼は、見た目通り剣と盾と鎧しか持たない、言わば鉄の塊だ。
そんな彼に、魔法補助の能力を保つアイテムなど無用だろう。
「……そうだな。もし興味があれば、ギルドに加入してはどうだ? 貴方方なら、我らの方針に簡単に馴染むだろう」
「ギルド?」
そういえば、アイアンはギルドに加入していると言っていた。一体どんな名前だったか。確か特徴的な名前だったはずだが……。
「『ホーム警備団』。まあ、自警団に近いな」
「へえ、自警団ね。君のその一員なんだ」
「そうなる。このギルドの中では、まあ古参と言ったところだ。特に偉い立場な訳でもないがな」
自宅警備員のような響きがする名前のギルドだが、そこに上司という概念でもあったら耳を疑う。例え耳が無くともだ。
そんなギルドだが、そこでは一体どのような活動をしているのだろうか。
「活動内容は、大雑把に言えば街や街の人々を守るというものだ」
「まんま国の軍じゃん」
「半分はそうと言えるだろう。しかし、戦闘に直接関わることのない者も所属しているのだ。経営者や、職人等な」
「あー」
ゲーム的に言えば、戦闘職しか活動できない軍隊とは違い、生産職なども参加しているのがホーム警備団らしい。
「それに兵士とは違って給料は出ないし、訓練の義務も無い。実際の所はメンバー各自である程度勝手にやっているようなものだ」
「だめじゃん」
「はは、そう言われても仕方ないな。だが、皆共通して住処を大事に思っていると断言できる。国に認められる程度の実績もあるぞ」
と、最後に強い声調で格好よく決めるアイアン。
ギルドの詳しい話は初めて聞いたが、なるほど納得。軍の施設を我が物顔で歩き回れる訳だ。
「さて、ギルドの概要はこのぐらいだが……、勧誘の返事は頂けるか?」
「うーん……考えるよ。今はちょっと」
俺もケイの答えに同じだ。
今のところ、俺は自身の記憶を追い求めるのに必死なのだ。
「そうか。まあ、他の街へ移住する可能性もあるなら、お勧めはできないしな。期待しないでおくさ」
「そういう事。期待しないでね」
・
・
・
拘束された魔法使いを伴い、街の門までやってくると、見張りらしき兵士がこちらを見てギョっとした。
その視線の先は、当然アイアンの肩に担がれた人の方へ向けられている。
「ちょ、そこの! そいつは一体何だ?」
「山賊を捕まえた。恐らく、新しいグループだろう」
「山賊を……?わかった、ここからはどうか俺たちに任せてほしい」
「無論だ。しかしこの者は英語しか話せないようだ、気に留めておいてくれ」
「わかった。協力に感謝する。……おい、付いてこい!」
そうして、魔法使いは無事連行されましたとさ。
めでたし、めでたし……。
「ソウヤの腕試しと思いきや、こうなるなんてねー」
「多少のアクシデントは珍しくないが。それでもこの辺りに山賊が出るというのは、私にも覚えがない」
「平和なんだ」
「少なくとも、彼らが見つかるまではな」
そういう事らしい。
今まで周辺はある程度平和だったと言うのに、山賊発生だ。近頃、なにか面倒事が起きることはぼんやりと予想できる。
考え過ぎ、あるいは妄想に過ぎないのであれば、俺も安心して弁当作りに励めるのだが。
「どうするんだ?」
俺が言葉を発し、質問する。モチロン問い先はケイだ。
「……山賊の対策で兵が動くなら、彼らに問題を放任したいところだけど」
「なるほど、そっか」
「その兵士に加え、多少の有志がウチから出てくるだろうが……、それで山賊がどうにかなれば最善の結末だな」
……こうして最善のパターンだけを見通していると、悪いパターンへと状況が変化する可能性が目立ってくるというのが、所謂フラグなのだが。
無い瞳からジト目を送る。アイアンがその視線に気づくと、自らが立てたフラグにようやく気づく。すると嘆くように顔に手を当て、俯いた。
いや、そこまで重く考えなくても良いのだが……。
「マズいな……」
「え、どうしたのさ?」
「いや……気付かせてくれた事に感謝する、ソウヤ殿。念の為、こちらのギルド掲示板にこの出来事を書き記しておく。貴方がたも、どうか気をつけて」
『間違っても、告白とか約束とかの予定を取り付けないでくださいな』
「え?」
俺が書き出した言葉に、意味を理解しかねたケイが呆気の声を上げる。
「心配は無用だ。精々、装備の手入れを欠かせないようにしておくさ」
記憶をなくしても、仮にも日本人の
「では、私はこれで失礼しよう」
・
・
・
「……で、あれって何の話?」
「戦の前にする約束は、かえって不吉。縁起が悪いって奴だ」
「ああ。そういう……。そういえば、そういうのもちょっと聞いたことあるかも」
きっと、ケイがそこらのプレイヤーからその筋の話を聞いたんだろうな。先日から毎日弁当売に出かけているから、多少はそういう話を拾い聞きしてもおかしくない
「でも、具体的にどういう奴なの?」
「無事に戦いから帰ってきたら告白する。あるいは子供に顔を見せに行く。とかな」
「うわ、何かあったら気が病むヤツね」
「なんなら、俺らもなんか約束でも取り付けようか。デートとか」
「元から約束する気無いでしょ、それ。頼まれても付き合わないし」
そりゃ残念だ、とニヤリ顔で肩をすくめる。
まあ、なんだ。ケイもこの世界に馴染んできてるじゃないか。
「さて、
「ペンダント?」
「なんでも、身につけておくと致命打を偶然弾くらしい」
「防具じゃダメなの、それ?」
「ああ、真っ当な意見だ。あの新しい防具は常備するか」
普通に考えれば、ペンダントなんかより普通の防具の方が防御力が高い。
不確定なお呪いなんかより、普通の対策も大事なのだ。
「……っていうか、戦うつもりなの?」
ふと気付いたケイが、疑問符をつけて言う。
どちらかと言うと、俺は戦いに行くのではなく、これからあるかもしれない戦闘に備えているつもりだ。
しかし改めて考えると、確かに急な行動に思えるかもしれない。
「まあ、備えだよ。なんか近い内に何かありそうだし」
「何か、ね。……それなら追加の矢を買おうよ。沢山」
「沢山?」
大人数を相手にするとしたら、たしかに必要になるかもしれないが。
「うん。これからちまちま買うのも面倒じゃないかなって。矢筒に入り切らない分も予備として『保管』するつもりだよ」
大人数相手を想定しているのではなく、長い目で見ていただけだった。
確かにその点で見れば正解だ。保管に関してもケイの魔法で収納されるのなら、邪魔にならないだろう。
「賛成。でも矢って品質が良いと高いんだよな」
「当たり前でしょ」
かと言って安物を買ってもまっすぐ飛ばないし……。
「……何本あれば足りると思う?」
「さあ。無くなったら、私が石の矢を作っても良いけど」
「リザード相手にやらかした時のアレか。だったら程々に買う程度で足りるかな。……何本作れるんだ?」
「たくさん?」
なるほど。数えられない程度には多そうだ。
「じゃ決まりだな。ぱぱっと買って、ぱぱっと帰ろう」
・
・
・
「いやあ大漁」
多量の矢を抱きかかえ、通行人から奇怪なものを見る目を受けながら、俺ら二人は宿屋に帰ってきた。
屋外では無闇に四次元ポケットが使えず、結局抱えることになってしまった。
弁当用のカバン(四次元加工済み)を持って来ればよかった、と後悔するも後の祭りだ。
ケイに扉をあけてもらい、屋内に入ると、見慣れたごつい存在が視界に入った。
「シェール殿、シェール殿は居るか?」
「……」
先程別れた筈の全身鎧の男、アイアンは何故かこの場に居た。
入る建物を間違えたかと、外に出て看板を見る。
『年樹九尾』
うむ、いつもの奇怪な名前である。
「え、何故アイアンが?」
「さあ? おーい、さっきぶり」
「む、お二人?君たちは何故ここに……いや、ここに住んでいるのか」
遠慮なく声をかけたケイに気づいたアイアンは、少し驚きつつも納得した。ここに泊まっている者だと思われたんだろう。事実そうだ。
「そう言う事。で、ここにどんな用事?」
「ここに住むシェール殿に会いにお邪魔したのだが……」
「シェール……?知らない名前だね」
俺も知らない。名前を知らない隣人は数人いるから、その内の誰かだとは思うが。
「ふむ、知らないか。この宿の所有者だから、知っていると思ったのだが」
とは言え、知らないものは知らないのだから仕方が……なんだって?
所有者だと?
「ああ、管理人さんの事!」
「そう、ここの管理人のシェールだ。名前を知らなかったのか?……いや、彼女ならやりそうな事だな」
確かに俺は、管理人の名前を全く知らなかった。彼女から名乗られた覚えも、聞いた覚えもなかった。
今まで管理人という呼称のみで通じていたが……。
「やりそうな事?」
「そうだ。シェール殿は少し……シャイでな」
確かにシャイな印象がある。時々突拍子もない行動に出るが、基本人目に出ず、自室に籠もっている。
毎日俺が作っている管理人の昼食も、初回の時以降は、俺がカウンターに料理を置いて行くだけで良いと言われている。後は管理人が勝手に取って、勝手に食べて、勝手に片付けるとの事。
まるで、毎日お供え物を用意している気分だ。
「恐らく自室に隠れているんだろうが……」
それ、隠れられている時点で管理人に避けられてないだろうか。むしろ嫌われてるのでは。
「えぇ……一体何したの」
「少し、私達との不和が生じてな……」
そこまで聞いて、以前管理人からアイアンの事を訊かれた事を思い出す。
あの時の言葉から察するに、管理人はアイアンに少なからず悪印象を抱いているご様子。
「っていうか、二人は一体どんな関係で?」
「同じギルド所属だ。同僚とも言うな」
「同僚と」
確かに、管理人の様な人は「
「ともかく、シェール殿が顔を見せてくれないのが残念だが……。そうだな、代わりに、君達が伝言を頼まれてはくれないだろうか」
「伝言?それくらいなら」
「感謝する。そう長くないから、無茶に覚える必要もないから安心してくれ」
なんなら、俺のメモ帳に伝言を書き記してもいいのだが。
……と言うのも野暮かと思い、素直に伝言を聞く。
「『近頃、この王都の周辺に何かしらのイベントが起きる可能性がある。その時、シェール殿が許すのであれば、私とパーティを組んで頂きたい』……では、頼んだぞ」
「いべ……。あ、うん、覚えたよ。安心して任せて」
「うむ。では、これにて」
挨拶の後、律義に腰を曲げて礼をすると、鎧をカシャカシャと鳴らして扉から去って行った。
大きな鎧姿の存在による威圧感も、彼が去ると同時に薄れていった。
「……で、伝言先の
そうやって問いの言葉を落とすケイだが、その目は確信を得たとでも言うように一方向へ向けられている。
ケイの目線を追ってその先を見ると、そこに管理人が居た。
「気付いていたのか」
「最初からね。でも態々隠れてたんだし、呼び出す事もないかなって」
確かに、管理人がアイアンを嫌っているのなら無理に合わせることはない。
しかし、今はアイアンは去っている。ケイはあっちに向かって手を振ると、管理人は警戒しながら姿を現してきた。
それにしても、何故管理人は上の階に居たのだろう。つい自室に隠れてると思っていたのだが。
なんだかんだ、管理人が2階に居る所を目撃するのもこれが初めてである。
「……居ない?」
「アイアンならもう居ないよ。玄関前で待ち構えてもない」
「なら、良いの。アイツ苦手だし……」
小さな声に恨みを込めて言い放った。アイアンはちょっとした不和だと言っていたが、そういう割には随分とヘイトが溜まっている。
流石盾職と言わざるを得ないが、なにも人間関係のヘイトを貯める必要は無いと思う。
「何があったの?」
「別に……ちょっと」
とだけ言って、口を閉ざした。あんまり言いたくなさそうなご様子である。
他人の事情に口を挟む気は無いし、それにアイアンからの伝言を伝える必要がある。……恐らく、その伝言の内容を管理人は既に聞いているだろうが。
「で、一体どうしたのよ」
「どうした……って、何が?」
「あの伝言よ。イベントとか言ってた」
やはり、伝言の話は既に聞いていたらしい。
しかし、イベントについては、俺は詳しく知らない。予兆らしき出来事があったのみで、それが大事に転ずるとは限らない。
魔法使いの集団に襲われた件を説明すると、管理人はとても面倒くさそうに溜息を付いた。
「この街もいよいよ騒がしくなるのね……」
アイアンと同様に、管理人もイベントの発生を確信しているようである。色々と備えて正解だったと、束ねられた大量の矢を一瞥する。
やはり、長い間この場に住んでいるプレイヤーは、なにか思うところでもあるのだろうか。それとも只のプレイヤーとしての勘か。
「そういえば、パーティの誘いは受けるの?」
「あんな無機物の誘い、受ける訳がないでしょ」
どちらかと言うと、無機物なのは俺の方だと思うのだが。
しかし、アイアンに続いて管理人までイベントの発生を確信しているが、そのイベントの詳細までは解らない。
少なからず、あの魔法使いの所属する何かが関係しているのだろうが……。
「ねえ」
「……?」
管理人が何かを思い出したように、俺の方に声をかけてきた。
一体どんな御用なのか、頷いて返事をする。
「数日保つ程度に作り置きしておいて。どうせ、アンタ達は忙しくなるんだから」
そう言うのであれば、承ろう。
とは言え、俺たちがイベントに参加するとは限らない。それに数日ともなると、結構な時間が掛かるが……。
『全部カレーで良いか?』
「それで良いわ」
そうとなれば、仕事開始だ。
リアルであるような市販のカレールーと似たものがこちらにもある。錬金術師の技術により生産されるらしいが、食品生産に使われる錬金術と言うのも中々夢が壊れる話だ。
「じゃ、早速作っていくか」
「もうやるんだ?私も料理の見学してもいいかな」
それは問題ない。
と言うより、少しだけでも料理出来るようになってもらえば、俺もケイの当番代理の任が外れるから助かる。
「カレーの作り方、教えようか?簡単だぞ」
「え、それはちょっと……ッ、『防―――」
――――衝撃。
――――轟音。
「うきゃっ!?」
「っつ!」
建物が突如として破裂したかのように思えた。
爆心地から光と音が放たれ、周辺に居た俺達は驚きと共に倒れ込む。
――何が起きた?
「―――!」
ケイが何かを喋っている。しかし、この爆発による音でその言葉はかき消され、むはや雑音の一部となってしまう。
そんな爆音だが、秒単位で時間が経つにつれ、少しずつ収まっていく。
「――が……」
爆発から放たれた光は既に止んでいる。音は少し響いている上、耳が多少麻痺しているような感じがあるものの、少しは聞こえる程度に収まった。
「何……これ……」
耳に手を当て、床に倒れ込んでいた管理人が言う。
たった今発生したのは、簡潔に言えばただの”爆発”である。
「ソウヤ、無事?」
そう言われ、簡易ステータスを呼び出す。
HPは……驚くことに、一つも減っていなかった。一体何故だろうと思ったが、俺の横には土が床を突き抜けて壁となっていた。
ケイの魔法で作られた防壁が、衝撃を受け止め、俺を守ったようだ。その壁の方を見るが、役目を果たしてボロボロと崩れてしまった。
「今の……よく反応できたな?」
「さっきの攻撃、魔法だったから」
「魔法?」
「魔力を感じ取ったの。それで反応できた」
ケイにしても人外的な反応だと思ったが、なるほど。魔力による攻撃だったから、それで事前に対応できたらしい。
「凄いな。守ってくれてありがとう」
「うん。……管理人さん、無事?」
「……」
管理人は、見た所怪我は無いように見える。これもケイの防壁が守ってくれたのだろう。
なんとも無いように起き上がったものの、爆発で崩れた部分をボンヤリ見つめている。放心状態、と言うに相応しい様子だ
「無傷だが、無事ではなさそうだ」
「無事なら良かった」
俺の話聞いてた?
「とにかく、一度外に出よう。崩れたら危ないよ」
「……まあ、了解。二階の人はどうする?」
「幸運なことに、この建物に居るのは3人だけみたい。ほらさっさと脱出!」
長居は無用だと、ケイは玄関の扉を開けて出ていった。
俺もここを出る前に、管理人の肩を叩いて放心状態から取り戻させようとする。
「管理人。外に出るぞ」
肩を叩いても反応が無く、つい声を掛ける。当然、俺の声に反応しなかった。
もう引っ張っていった方がいいかと、俺は失礼を承知で管理人の手を取ろうとする。
しかし、声が聞こえたような気がして、行動を中断する。
「……?」
気づけば轟音による耳鳴りは止み、小さな音を聞き分けられるようになっていた。
そうして耳に入ってきたのは、管理人の声……独り言だった。
放心状態から戻ったにしても、様子がおかしい。
後ろからケイが俺を呼ぶ声が聞こえるが、管理人を無視して置いていくことは出来ない。しかも、この様子だ。
「管理人、一体どうした」
もう一度肩を揺さぶり、気付かせようとする。
しかし相変わらず、まるで壊れた音楽プレイヤーの様に独り言を繰り返している。
「管理人?」
もしかして、この独り言は俺に向けられた言葉なのだろうか。
そう思い立ち、肩を揺さぶるのを止めて耳を傾け―――そして後悔した。
「許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない赦さない許さない―――」
「」
俺の白い人形面は、恐ろしさですっかり青ざめてしまう。
俺を呼びかけるケイの声にのみ意識と耳を傾けるようにしながら、そっと逃げるように建物を脱出した。
これから騒がしくなるのです。