ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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今回、本編中に主人公ペア(カップルではない)が出てこないので、「欠席」です。



30-ウチのキャラクターと俺の欠席

 そこは、確かに戦場であった。

 ゲームであるから死体は一切見られないが、代わりに魔法で焦げた地面だったりが所々に見られる。確実にここで大規模な戦闘が起きているとわかる。

 

「……ここが」

 

 だが、それにしては戦場らしくない。剣が音を立て、矢が飛び交い、魔法が炸裂する様子を想像していたのだが……。

 その違和感を抱いている間に、先程から時々聞こえていた()()()が聞こえる。僕の間違いでなければ、銃声だと思うのだが。

 

 しかし、このゲームに銃というものは存在しないはずだ。銃を作るぐらいなら、魔法を習得したほうが早いからだ。

 

 戦場を見ていると、銃声のした方の逆の方向から、魔法が幾らか飛んできた。それが着弾すると、パラパラと爆発していく。

 片方は銃を、もう片方は魔法を持って争っているようだ。おそらく、銃を使っている方が敵勢力なのだろう。

 

【ピロロン】

 

 戦闘音の合間を縫って、一つの通知音が耳に届いた。

 声でメニューを呼び出すと、何やらクエストの項目が増えていた。『D-EV「火薬と鉄の傭兵と、魔法と杖の魔法使い」』という名前だ。

 内容を軽く読んで、大体の状況を把握した。

 

「……まずは味方と合流するべきか」

 

 そのためには、敵勢力の領域を堂々と通るか、そこの地面を踏まずに遠回りして行くかのどちらかをせねばならない。無論、僕は敵前を堂々と横通りするつもりはない。

 

 戦場は道に沿って展開され、見たところ道を外れた所の森からは気配を感じない。

 

「ネイビー、あの森の方に魔力はあるか?」

 

「ううん、ない」

 

 なら、そっちに行こう。

 護身用の短剣を軽く触り、位置を確認する。大丈夫、ネイビーも僕と共に戦ってくれる。

 

 

 そんな勇気は、10分ほど歩いて無駄だと悟った。

 戦争という事態を察して逃げたのか、動物もモンスターも何もない。あるのは足の無い植物やちょっとの虫だけだ。

 よって、僕たちはここまで安全に来れてしまった。レベル上げや素材を目的としない限り、戦闘はしないに越したことはないが。

 

 ……そろそろ、敵陣を過ぎて味方の所まで行けただろうか。

 このゲームには、ミニマップなどというものが無い。高級な魔道具がその役割を果たすが、僕には手が届かない。

 代わりに、ネイビーがレーダーの役割を担ってくれている。感知するのは魔力だったり同族の所在だったりだが、十分役に立つ。

 

「どうだ?」

 

「もうだいじょうぶ」

 

 その言葉を信じて、道へ戻る方向へ進路を変える。望みどおりであれば、森を出た先は――

 

【ガサ……】

 

「!」

 

 葉が揺れる音に反応し、直ぐに戦闘態勢に入る。短剣を手にし、左脇にネイビーを待機させる。

 

「……?」

 

 気のせいだったのだろうか。いやその筈はない。

 音のした方の様子を見ようと、一歩近付こうとする……が、

 

「銃を捨てて、手を上げろ」

 

「うげっ!」

 

 後ろから声がした。音もなく忍び寄られたのか、と自分の失態に眉をしかめる。

 そして攻撃されては敵わないと直ぐに言葉に従った。銃ではないが、手に持っていた短剣を落とし、両手を上げる。

 

「まだだ、銃を捨てろ」

 

「いや、銃って。この”ゲーム”には実装されてないよな」

 

「……ほう?」

 

 緊張しながら返した反論に、僕の背後に居る人物は少し考えるように間を置いて――

 

「”ゲーム”なら、仕方ないな」

 

 急に声色を変え、穏やかな声で納得を伝えられる。

 

「もう良いさ。手を挙げるのも疲れるだろう」

 

 ……はい?

 僕の返答になにか思うところでもあったのか、今までの敵意がすっと消えてしまった。

 

「脅して悪かった。状況が状況だからな」

 

「えーと、はい?」

 

「ほら、君の武器だ」

 

 敵対する態度はまるで無く、僕の背後から前に出てくる。僕は呆気にとられつつも、差し出された武器をそっと受け取る。丁寧なことに、柄の方を向けて渡された。

 声の正体は、このゲームの世界観にはあまり似合わない姿をしていた。カウボーイハットに、リボルバーが収められたホルスター、そしてクルクルの付いたブーツ。

 

「……カウボーイ?」

 

「どちらかと言えばガンマンだ。休業中ではあるが、西部(ウェスタン)賞金稼ぎ(バンティハンター)をやってる。名前はアイザックだ」

 

 と彼は言うが、この世界に西部開拓時代という単語は何処に行っても無いだろう。ロールプレイする上での設定だろうか、と僕は珍しいものを見たというのが半分、そして変なものだなと思うのに半分、といった眼差しで頷く。

 しかし、ロールプレイと言うにはあまりにも本格的だ。ついさっきの脅しの手慣れた感じも含めてだ。

 

 もしかして、今の状況からして、あの勢力と関係しているのだろうか。『銃』という共通点しかない、想像の粋を出ない予想なのだが。

 

「君は?というより、こんな時にこんな所に来るなんて、正気か?」

 

「プレイヤーなんだから別にいいだろっ……。僕はトーヤ、元裁縫師の精霊使い」

 

「そうか。この周辺は戦争によって危険になっている。鉛玉の味見が目的じゃないなら、直ぐにこの場を離れることを勧める」

 

「いや、僕、王都の加勢に来たつもりなんだが」

 

「正気か?」

 

「正気のつもりなんだけど……。あの方向が味方勢力だよな?」

 

「……そうだ」

 

「そうか、ありがとう」

 

 早速と、僕はそっちに行こうと踵を返すと、アイザックという男が呼び止める。

 

「あっちに塹壕がある。森を出たら直ぐにそこに入れ。モタモタしてたら撃たれるぞ」

 

「塹壕……?いや、わかった」

 

 塹壕、とはあまり聞き慣れない。戦争関係の単語だろうか。

 とりあえず、それを考察するよりも先に行動するべきか、と足を動かす前に、ある事を思い立ってとどまる。

 

 あのウェスタンな男、アイザックは僕の来た方角へ行こうとしている。そこは敵へ進む方角だ。

 まさか、と思って声を掛ける。

 

「アイザック、お前は何処に行くつもりなんだよ?」

 

「……特に何も?」

 

「嘘だ。そっちは敵勢力の方向だ」

 

「……ただ掃除しに行くだけだ。銃には銃を、って言うだろ?」

 

 まさか。その銃一丁で戦いに行くつもりなのだろうか。

 

「大丈夫だ。この状況を何度切り抜けたと思ってる。まあ任せな」

 

「任せ……って」

 

 どうにかして彼を止めるべきなのだろうか。しかし初対面の人間にそこまで言うものじゃない。

 僕は迷ったが、結局呼び止めることをせず、味方へと合流しに移動し始めた。

 

 

 

 森を出れば、異質なものがまず最初に僕の注意を引いた。

 簡潔に言えば、穴。それを詳しく説明するなら、人ひとりが少し屈めばすっぽり隠れるような深さで、それは”横に広く伸びていた”。

 

 これが、塹壕というものなのか?

 不思議な光景を前に立ち止まっていると……、

 

 ――銃声と共に、歪んだ風切り音がすぐ横を掠めた。

 

「う……わ!」

 

 撃たれた。

 

 その事にパニックになり、思わず転けそうになり、地面に手をつく。

 

 落ち着かない頭のまま遠くを見ると、一人が僕の方に銃を向けている。

 ああ、銃だ。現実ではほとんど縁の無いものだからか、怖い。

 

 あの穴の中に入れば身を隠せるが、遠い……!

 慌てて走ろうとするも、足がうまく動かない。

 

 ――まずい、撃たれる。

 

 

 

「!」

 

 銃声が僕に向けられていると直感しつつ、僕は強く目を瞑る。

 来るはずのない痛覚――このVR世界ではダメージで痛覚が生じることはない筈だが――を待つが、何時まで立っても、それは来ない。

 

「私の後ろに隠れていなさい!」

 

 代わりに、籠もった声が僕の耳に届いた。

 

「え……あ」

 

 目を開けると、複数の銃声がこちらに向けられていることに気づく。

 そして、目の前にいる大男が、その盾でもって弾丸を受け止めていた。

 

「えっと、僕は……」

 

「このまま塹壕まで行く、私の背中に張り付いているんだ!」

 

 銃撃を受け止めるごとに、盾を貫くには不十分な弾丸が盾の上で弾ける。彼の後ろにいれば、確かに安全だろう。

 だが、怖い。少しでもあの後ろから出れば、僕は撃たれるかもしれない。

 

「ほら!」

 

 ……撃たれたくないのなら、この両足で立たなければ。

 足が震えているとしても、しっかりと――

 

「……行ける。行けます」

 

「よし」

 

 少しずつ、大男が塹壕に向かって足を進め、しかし盾は敵の方に向けたまま移動する。

 僕はその盾の後ろに隠れながら、足並みをそろえて動く。

 

 

 少しずつ、少しずつ。盾の横をすり抜ける弾丸に恐怖を覚えつつも、僕達は塹壕に向かっていく。

 あと数歩、飛べばすぐに入れると言った所を我慢しながら、男に守られながら塹壕の中へ入った。

 

 ……ようやく、安全な所に入れた。

 

「大丈夫ですか?HPは?」

 

「あ、ええと……大丈夫」

 

 ヒーラーだろうか。聖職者と言える様な服装の男が、僕に声を掛ける。

 

「良かった、アイアンさんは?」

 

「ふう……こっちも無傷で済んだ。盾以外は、だが」

 

 この2人……いや、この3人は仲間なのだろうか。ヒーラーとは別に、全身をローブで包んだ女性が居た。

 しかしその女性は無口だ。何もせず、言わず、僕をじっと見ている。

 

「えっと……」

 

 その視線に戸惑いを隠せないでいると、2人がこっちに向き直っているのに気づく。

 

「紹介しよう。私はアイアン。見ての通りタンクだ」

 

「僕は……名乗る程の者じゃありません。ふふ、ただのヒーラーですよ」

 

「え……ああ」

 

 戦場だと言うのに、ひどく気の抜けた挨拶……だが、ここがゲームである以上、ああいうのが緊張感のなさが当たり前なのだろうか。

 だとすれば、銃を向けられてひどく怯えていた僕はなんだったんだろう。見方によれば、臆病者と言われるかもしれない。

 

 ……ちょっと、情けない。

 

「で、こちらの黒いローブの方は――」

 

 アイアンが、その一歩後ろにいる姿を指して、紹介しようとする。

 しかしその紹介を待たずに、あの姿はこちらに歩み寄り、あろう事か僕の顔を覗き込もうとした。

 

「……あなた、私の宿に住んでる……トーヤ?」

 

「……え?」

 

 何故か僕の名前を言い当てられた。何故だ、と思って相手の声に聞き覚えがないか記憶を探る。

 ……あ。

 

「か、管理人さん?」

 

「長い間留守にする、って聞いてたのだけど……間が悪かったわね」

 

 やっぱり、管理人さんだ。

 しかしなぜローブを被っているのだろう。そこまで人前に出るのが苦手な人間だっただろうか。

 

「なんだ、彼女の宿に泊まってた者か。いつもシェールが世話になっている」

 

「……余計なお世話よ、無機物」

 

「むう」

 

 それに意外にも、ちょっと引きこもりな管理人さんにも知り合いが居たらしい。毛嫌いしているようだが。

 

「あはは、僕は他の負傷者に備えておきますね」

 

 この雰囲気になにか察したのか、ヒーラーは何処かに行ってしまった。

 

 

 ……あ。待て、管理人がここに?

 王都は直接攻撃を受けているが、まさか……。

 

「あの、管理人さん。他の住民は?もしかして宿は……!」

 

「私の他に2人居たけど、その2人は無事だったわ。他の人は外出中だったから、一緒に居た2人以外の安否は分からない」

 

「じゃ、じゃあ!」

 

「落ち着きなさい」

 

 ……冷静を欠いた所で、管理人の一言で我に返った。

 確かに慌てるべき場面じゃないかもしれない、でも……。

 

 ふと、フードの影に隠れた管理人の顔が見えた。

 

「……っ!」

 

 管理人の表情を見て、僕は言葉を失った。

 銃撃を受けている時の恐怖とは違う恐ろしさが、僕の心臓を鷲掴みにしていた。

 

 

「……ケイって言う女、それと最近やってきたソウヤって言う男だけよ」

 

「あ……そ、そうだったの、か」

 

 たった今垣間見えた管理人の表情とは考えられないような、恐ろしいほど冷静な声に、僕は口をつまらせながらも、それだけの言葉を返した。

 

「……たそがれている所を申し訳ないが、トーヤ殿が参戦するということで、戦況の説明をしたいのだが」

 

「た、たそがれてなんか……!あ、いや……」

 

 僕は声を荒げて反論しようとするが、先程の表情を思い出して固まる。

 アイアンはその様子をどう受け取ったのか、そのまま説明を続けた。

 

「現在、敵歩兵の侵攻を食い止めるために塹壕を構築、主に弓兵や魔法使いが迎撃している。しかし敵が攻めてくる事がなくなったから、実質膠着状態と言えるだろう」

 

「塹壕……」

 

「そうだ。しかし、迎撃だけしている状況ではいけないのだ」

 

 鉄の大男、アイアンが言葉を止めてから空を指差す。

 空には、王都へ向かって飛んでいく光の弾があった。

 

「我々は、あの光……一部では”魔力砲”と呼んでいるらしいが、それを止めなければならない」

 

「……」

 

「そのために、まず目の前の敵を打ち破らねばならない。だが……」

 

「私達が使う魔法や弓矢、どれも銃の射程、精度には劣るの」

 

 確かにそうだろう。戦争に詳しいわけじゃないけども、それを覆さなければ勝利は一歩遠くにあるというのは分かる。

 

「……作戦は誰が考えてるんだ?」

 

「指揮官か?それは――」

 

「――――!」

「―――!」

 

「……何事だ?」

 

 なんだか辺りが騒がしい。一体何があったのだろう、とそっちに目を向ける。

 それらは伝染するように、声を聞き取った者がその言葉を復唱し、そしてそれを聞き取った者が復唱し……を繰り返していた。

 

「――突撃!突撃だ!」

 

 見れば、彼らは塹壕を乗り越え、地上に出て走り出している。

 

「突撃……?なにか戦況が変わったのか?こういう時に連絡手段が少ないのが痛いな……」

 

「知らないわよ。……私達も行くべきじゃない?」

 

「そうだな。トーヤ殿は――」

 

「僕も行く!」

 

「……問うまでもなかったようだな」

 

 塹壕から飛び出し、盾を持ったアイアンが先陣を切り、その後ろを僕と管理人がついていく。

 

 距離をつめ、敵の人影が明確に見えてきたところで、敵の状況がようやくわかった。

 彼らは、何かと交戦している。その”何か”の正体はわからないが、少なくとも”新しく敵の敵が現れた”のだろう。確かに、突撃のきっかけになるわけだ。

 しかし、場合によってはそれがモンスターであるかもしれない。銃を持った集団をかき乱す程度の強さの、だ。

 

 それがもしこちらに歯向かえば、驚異となるのではないか……。という懸念を胸に抱く。

 ……しかし、その懸念は必要なかった。

 

「銃よ。敵を混乱させた人は、銃を持ってる」

 

「銃って、なぜ?」

 

「分からない?怪我をしている敵の様子を見れば分かることよ」

 

 管理人がくだらないと言うような口調で言い放つ。

 

 ”敵を混乱させた人は、銃を持っている。”

 まさか、と思って、森の中で鉢合わせた一人の人物を思い出す。一騎当千、という言葉は、侍や剣士にのみ当てはまる言葉ではなかったらしい。

 モンスターではないらしい、と安心するが、彼を甘く見ていたとも思った。

 

 

「……トーヤは、後衛職よね?」

 

「そう、水の精霊使いだ。成りたてだから大した攻撃手段はないけど……」

 

「なら、いいわ。無機物は……別に放っといてもいいわね」

 

「無機物……」

 

 何故かは知らないが、アイアンを相当に恨んでいるらしい。同行している様子だと言うのに。

 見た限りでは、安心して盾役を任せられる程度の技術、装備はある筈。さっきその盾に助けられたのもある。もしかして、性格に不満を抱いているのだろうか。

 

 それはともかく、走りながらネイビーを呼び出す。

 戦場の真っ只中と言うことで怯えているのか、さっきからバックパックに籠もりっきりだ。

 

「……ネイビー、君の力が必要だ」

 

 そう言って、臆病な精霊はようやく姿を現す。

 やはり怖がっているが、きっと大丈夫なはず。

 

「頑張ろう。きっとやれる」

 

「……がんばる……!」

 

 有効な攻撃ができる射程まで来たところで、精霊に魔力を与えた。

 

 そして僕の横で、管理人が詠唱を始める。詠唱スキルが高いのだろう、無言で居なければいけない所を、何かをつぶやいているようだった。

 自身を鼓舞するために、呪文でも唱えているのだろうか。精霊が魔法を練り上げるのを待ちつつ、管理人の言葉を何気なしに聞こうとした。

 

 

 

「――赦さない、許さない、赦さない、許さない、赦さない、許さない、赦さない、許さない、」

 

 

 

「私の魔法以外で死ぬなんて、許さないわ」

 

「え」

 

「『クラスターメテオ』」

 

 

 ……そうして、戦場の一角は焼き尽くされた。

 

 




次回
イベントが徐々に収束へ向かって行きます
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