ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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03-ウチのキャラクターの買い物

「~♪」

「……」

 

 呑気な鼻歌が右耳から届く。少し騒音も混ざって聞こえるのだが、出発前の喧騒に比べるまでもなく静かだった。

 日が沈んだおかげか、ログイン直後に比べてあまり人通りが少ない。

 

 今、俺らは狩りから帰還して、街を歩いている所だ。

 何を目的に歩いているかというと、露天販売の物色である。

 

 日が沈んでいるのにも関わらず、未だ開いている露天販売があったから、それらの品を通り際に見ていたりする。

 こういう個人が開いている露天の品物は、大抵が何かの生産物か中古の装備だったりする。たまに工芸品もあるが、お土産ぐらいにしかならなそうだ。

 

 代わりに、素材などといった、そのままでは使えない物が売られている店はあんまり見かけない。

 どうも、素材を持ち帰ったプレイヤーは、『素材屋』なる名前のお店に売ることが多いようだ。

 外から街に戻ってきて直ぐのところにも、そのお店が建っているのを見かけた。

 ちなみに、俺らが狩りで得た素材は、今のところは持っているままにすることにした。何かの生産か、オーダーメイドに使うかもしれないからだ。

 

 

 またしばらく歩いていると、俺は思いついたように横の方を向く。俺のすぐ横でふんふんと鼻歌を歌っている彼女に、声をかける。

 

「そういえばさ、レイちゃん」

 

「はい! なんですかー?」

 

 さっきから何故だか独特なテンションになっているレイちゃんだが、俺は構わず質問を投げかける。

 

「泊まる場所は決まってる?」

 

「宿屋なら既に一部屋借りてますよー。どうしたんですか?」

 

 ならば、と思って言葉を続ける。

 

「同じ宿屋に泊まろうかなって思って。そうすれば楽に合流できるでしょ?」

 

「なるほど!」

 

「うん、それで、その宿に空き部屋ってあった?」

 

「うーん、空き部屋ですかー……」

 

 俺の質問に、彼女は少しの時間だけ考えてから、また口を開いて答える。

 しかしその直前、その顔に笑顔があったのを見逃さなかった。

 

「ねえ、その笑顔って」

 

「はいっ!問題なく一泊出来ると思います!」

 

「……そ、そう」

 

 まあ、夜を過ごせれば別にいい。

 

 だがレイちゃんと同じ宿に泊まったら、なんか変な事になりそうな気がする。

 ……まあ、気がする、って言う程度でしか無い。心配のし過ぎか。

 

「それじゃあ。私はこれから装備の買い物するから。…あ、それと一度やっておきたいことがあるんだ」

 

「やっておきたいこと、ですか?」

 

「うん」

 

 返事をすると、並列して頭の中で『システム』という単語を唱える。

 そうすると視界にウィンドウが現れる。

 

 そのウィンドウを操作して、フレンド関連の項目を選択。新しく出たウィンドウを見る。

 

 『フレンド登録』、コレだ。

 それを選択すると、メッセージウィンドウがまた現れる。

 

 『友情の証がポーチ内に出現しました。登録するプレイヤーに渡してください』

 

 これを見て、俺はポーチの中をゴソゴソと探る。

 回復薬に混ざって、駅の改札で使うような定期券ぐらいの大きさの紙が入っていた。

 

 取り出すと、友情の証という文字が大きく記されていた。

 俺が女性キャラである所為か、どこか可愛らしい装飾までされている。

 

「ほら、これ」

 

「これは……友情の証ですね! 初めて見ました!」

 

「うん、私も」

 

 まあ、ゲームを初めて間もないから初見なのが普通なんだけどね。

 狩りからの帰りに、少しだけ初心者指導書を読んでいたが、お互いにこれを交換すればフレンド登録がされるらしい。

 

「これを受け取れば良いんですか?」

 

「うん」

 

「それじゃあ! ……わっ」

 

 レイちゃんが証を受け取ると、一瞬だけ驚くような仕草の後、何も無い所を読み上げるように見つめ始める。

 多分、彼女にしか見えないウィンドウを見ているんだろう。

 

 一体何のメッセージが現れたのかと、気になってレイちゃんを見つめてみる。

 そして、彼女は何も無い所を指で突くような動作をして、今度は荷物を探り始める。

 

 別にウィンドウを指で突かなくても選択できるんだけどね。

 だなんて事を思いながら、レイちゃんの様子を眺めていると、今度は私の方を見て。

 

「あった!はいっ、私からもこれを!」

 

「うん」

 

 ビミョーに面倒くさいシステムだなあ、なんて思いながら、その証を受取る。

 こっちの証のデザインは、私が渡したものとはまた違うものだった。

 

 その模様を見ていると、ふと目の前にメッセージウィンドウが現れる。

 

『「レイナ」とのフレンド登録を完了しました』

 

「そうすると……よし。コレなら遠くからでも連絡できるはず」

 

「メールですね!」

 

「うん」

 

 俺は買い物を続けて、レイちゃんは宿に戻る。

 これから時間をかけて品物を物色するつもりだったので、連絡できる様にしてから先に帰ってもらおうと思ったのだ。

 

「それじゃ、別行動ってことで。もう先に休んでても良いよ。買い物が終わったら向かうから」

 

「はい、待ってますからね!」

 

「うん。じゃあね」

 

 

 

 

 

「……ふう」

 

 レイナがいなくなった後、俺はそっとため息を付いた。

 

 うむ、途中から随分と馴染んできたとは言え、ケイの役になるのは結構疲れるものだ。

 あのノートに書かれていた幾つかの設定を、この身で演技するのはかなり難しい。

 老熟された精神。お茶目な性格。戦いがなんだかんだとか。それを全て、完璧に演技出来る人と言ったら、どっかのプロの女優さんぐらいだろう。

 

 過去の俺が生み出した人物を俺が勝手に演技しているとは言え、もう少しハードルを下げてほしかったものである。

 ……まあ、本当にイヤだったらさっさと止めてるけどね。

 

 

 さて、これからのお買い物だが、日が暮れた今じゃあ開いているお店が少ない。また朝かそこらで出直したほうが良さそうだが、それでは日中に出歩く人々で騒がしくなってしまう。

 慣れてしまえば良いのだろうけど、それでもあの中でお買い物をするのはちょっとゴメンである。

 

 なので、この時間帯で色々と探してみて、今のうちにいい装備を揃えてしまおうという作戦を実行する。

 

「お」

 

 早速目ぼしいものを見つけ、その露天の方に足を向けた。店番の人と目が合うと、すこし手を上げて挨拶をする。

 

「……あ、買うのか?」

 

「まあね。もしかして君って生産職?」

 

 如何にもメガネが似合いそうな店番の少年が、布敷に胡座をかいている。

 

「うん、布や革を中心とした防具を作ってるんだ」

 

 ローブ、マント、タンクトップが左側に、革製の胸当て、ブーツ、手袋が右側に並んでいた。

 全てが布や革のみというわけではなく、急所となる部分に金属を当てて、防御力を上げている防具もあった。

 

「へえ…、これっていくらする?」

 

「2300Yだけど……あ、でもこれは」

 

 値段を伝えた少年が、何か深刻そうな事に気づいた様な仕草をする。

 一体何があったのか。気になったので訊いてみる。

 

「どうしたの?」

 

「その、僕が作っているのは男性向けだから。その防具とかだと……窮屈かもしれない」

 

 ……なるほど。

 俺は自分の身体を見下ろして、静かに納得した。普通の服ならまだしも、防具は固いから胸を圧迫してしまうだろう。

 

 今はケイなのだが、その中身は俺だ。でも"俺"にしろ"私"にしろ、どっちも男性としての立場を理解している。

 ケイ自身も元男性だからだ。

 だから、俺はニヤりと口を歪ませると、腕を胸のあたりを抱えるように交差して、じっと少年を見つめて言い放った

 

「…変態」

 

 元男性である他に、私はお茶目でもあるのだ。

 

「い、いや! そういう意味じゃなくて!」

 

「ふふ、わかってるよ。服を作っている人はそういう事(胸とか)も気にしないとね」

 

 俺としても、私としても、イタズラが成功したワケでイイ笑顔をしていると思う。一心同体である。

 工房の時はこうしたおふざけで赤面したのだけど、今回は心配しなくて大丈夫。

 

「……値上げするぞ」

 

「わー、ごめんごめん」

 

 流石に値上げされたら堪らない。持ち帰った素材は売ってないから、資金はあの武器を買った分を引いて4000Yなのだ。

 謝りながらもニヤニヤと笑いを絶やさないでいるが、どうにかこの笑みを抑えようと、口を抑えてどうにかする。

 

「でも、良かったらサイズ調整ぐらいはするよ。追加で200Y貰うけど」

 

「へ、良いの?」

 

 なんとか笑いを抑えた所で、そんな話が出てきた。

 もしそうしてくれるなら有り難いのだが。

 

「タダ働きじゃなければね。ただ、サイズの情報を貰う必要がある」

 

 なるほど。

 もとから女性向けのサイズの防具を買っても良いかもしれないが、こうするのも悪くはない。

 

「胸のサイズだね?」

 

「……まあ、うん」

 

 一度目をそらしながらも、一応真面目な顔をして返事をしてくれる。

 うんうん、仕事だもんね、仕方ないもんね。

 

「ただ、今はメジャー持ってないからな…。そうだ、代わりのものなら…」

 

 そう言って、販売品であろうブーツから靴紐を引っ張り出し始めた。

 

「それでコレを結んで……」

 

「待って」

 

 一対の靴の靴紐をつなげる作業を行う前に、俺は手で制した。

 これで胸のサイズを測るということだろうが、そうするには少し問題がある。

 

「……ここで測るのかな?」

 

 日が暮れて人気が少なくなったとは言え、人目がつかない場所は無いんじゃないかって言うほどには人がいる。

 

 …いや、なるほどな。

 まさか公衆の面前でバストを測るよう誘導するとは、この少年は中々の策士、又は紳士のようである。

 

「なわけあるかっ」

 

 だろうな。

 この少年はそんな変態じゃないと、初対面ながらそう思ってる。

 

「というより、別に測らなくても良いよね?」

 

「はあっ? サイズがわからないと調整のしようが――」

 

「見るだけで十分でしょ」

 

 素っ気なくそんな事を言い放つ。

 正直、一々測ったりして数字を把握しなくても、見た感じの大きさで十分して良いんじゃないかと思っている。

 

 勿論、俺は服を作る事に関する知識はないし、これから習得する気も偉そうに語る気もない。

 だが、一々測る必要は無いんじゃないかとだけは意見させて欲しい。

 

「み、見るだだっ。この痴女!」

 

「へ?」

 

「もう良い、店じまいだ! これからは1割増しで売りつけるからな!」

 

 ……なんで?

 俺、なにか変だったりとか嫌な言葉でも口にしたかな。

 

 ただ胸のサイズを測るという話をしてただけなのに……。

 

「……あ」

 

 あー、そっか、胸のことだったからね。胸を”見て”だなんて、そりゃ痴女だもんね。

 まあ、仕方ないか。うん。

 

 驚くべきスピードで商品を回収して、ささっと走り去る少年を見送る。今謝ろうにも遅かった。

 

「……帰ろ」

 

 なんか、申し訳ないことをした気がする。

 

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 メール欄から、レイナから来た一通のメールを開く。

 

 送信者:レイナ 件名:待ってます!

『宿の名前は年樹九尾宿です! 待ってますからね!』

 

 年樹九尾。なかなか渋い名前の宿であるが、このネーミングセンスはあの”愛の工房”とはまた違った方向性である。

 ここの街の住民は、マトモなネーミングセンスと言うものを鳥の餌にでもしてしまったのか。

 

「でも、名前の割には普通かな」

 

 メール欄から目線をずらすと、すぐそこに”年樹九尾宿”という名前の看板があった。

 特異な名前以外は至って普通の木造建築の、どこか安らぎを感じさせる雰囲気もある宿屋だった。

 

 とにかく、宿の前で立っていても俺が邪魔になるだろうから、直ぐに建物の扉を開いて入った。

 

 

 うむ、普通だ。

 あの工房とは逆に、内装が大変なことになっている、ということでは無さそうだった。

 

「あ、ケっちゃん!」

 

「おお、レイちゃーん」

 

 しばらくぶりであるが、数カ月ぶりの再開なのかというようなテンションの上がりっぷりである。

 扉を入った先は食事をする空間なのか、テーブルと椅子がそれなりに並んでいた。そこの椅子の一つにレイちゃんは腰掛けていた。

 

 とりあえず、レイちゃんの近くの椅子に座って、話をすることにした。

 

「装備は買えたんですか? あまり見た目が変わってませんが」

 

「ううん、結局買えなかったよ。また朝にでも出直そうかなと思ってる」

 

 俺が少年を変態と罵ったり、逆に少年に痴女と言われたりとしたことは黙っていることにしよう。

 前者は俺の悪戯心だったものの、後者は意図せずのものだった。

 どっちにしろ、コレを話せば引かれること間違いなしだが。

 

「それじゃあ、朝にまたお買い物するんですよね。良かったら私も一緒に行っていいですか?」

 

 採集のことはどうした、と思ったが、防具を更新しないと危険ということだ。俺が買い物を済ますまで出かけないつもりなんだろう。

 

「別にいいけど……そういえば、食事は大丈夫なの? お金無くなったんだよね?」

 

 まさかパンの耳を食っているわけじゃないだろう。

 

「あ、それはここの管理人さんに色々と助けてもらっています」

 

「へえ、優しいんだね」

 

「はい。ちょっと無口ですけど、優しいですよ」

 

 ふと、レイちゃんがカウンターの向こうにある扉へ目線を持っていく。

 話題の管理人はそこにいるのだろう。

 

「……そうだ、ケっちゃん?」

 

「うん、どうしたの?」

 

 改まって、名前を呼ばれた俺はレイちゃんの方に視線を戻す。

 

「やっぱり、最初の頃から思っていたんですけど……」

 

「…最初?」

 

 努めてなんともないように聞き返すが、内心にはチクっとする程度の小さな不安が刺さっている。

 

 もしかして演技がバレてたとか? いや、思い過ごしだよな?

 きっとそうだ。そうであると信じさせて。

 

「はい、ケっちゃんって、やっぱり違和感があると思うんですよ」

 

 やっぱり薄々感づいてる?!

 えっ、何処で粗を出した? 最初の時は、この声に全然慣れてなかったから、多分それ関係なんだろうけど……!

 

「そ、そうだったんだ?」

 

「そうだったんです。なので、やっぱり直した方がいいかなって」

 

 直すって何? 俺の根性を叩き直すの? 体育会系だったの?

 物理的に叩き直されるんですか? あの筋肉工房のおっさんに叩かれるんですか?

 

 ごめんなさい許してください。ただ私は”ケイ”の――

 

「という事で、新しいあだ名はどうしますか?」

 

「……え、あだ名?」

 

「はい」

 

 ……あだ名ですか?

 私の本性じゃなくてですか?

 

「どうしましたか?」

 

「な、なんでもっ、無いっ、ですよっ、うんっ!」

 

「…??」

 

 少し気を取り乱しすぎました。ちょっと本性について突かれただけで、ここまで慌てるだなんて。

 これからも気をつけねば……。

 

「それでさ!えっと、あだ名の話だったよね?」

 

「あ、そうでした! ……でも、ケイって名前って凄く短いですよね。二文字って」

 

 確かにケイという名前は短い。フルネーム呼びのままでも愛称として事足りる程だ。

 

「ケイって名前は、何か由来があったりするんですか?」

 

「さあ? 私は知らないし、聞いたことも無いや」

 

「わ、分からないんですか……」

 

「……まあね」

 

 なんたって十数年前の産物だ。何をどう思ってあの本を書き上げたのか、勿論そんなものを覚えているわけがなかった。

 

「普通にケイって呼ぶのはダメ?」

 

「ダメです! あだ名じゃないとダメです! 不平等です!」

 

 ダメかー。

 いや、別に机に両手でバンってしてまで主張しなくていいんだよ。

 

「そうすると、ケっちゃん以外だとなー」

 

「でも、それ以外のが思いつきません……」

 

 俺にそう言われてもな。

 今まであだ名なんて使う機会が無かったもんだから、あだ名を新しく作るだなんて無理だ。

 

 今でこそレイナとお互いあだ名で呼び合っているが……。

 

「……そしたらさ、こうしない?」

 

「はい?」

 

「今考えてても思いつかないかもしれないけど、これから何時か、偶然パッと思いつくかもでしょ? それまではケっちゃんって呼んでよ」

 

「思いつくまで、ですか」

 

 うん、要するに後回しにするということだ。

 今悩んでも仕方ない。

 

「……わかりました、そうします」

 

「それじゃ、思いついたらそのときはヨロシク」

 

「ケっちゃんも考えてくださいよ……」

 

 まあ程々に頑張るよ。

 

 

「それでさ、部屋の予約ってどうすれば良いの? 店の人が居ないけど」

 

「あの呼び鈴で呼べますよ。端っこにあります」

 

 ああ、確かにドーム状の銀色の物がある。カウンターの端っこに、ヒッソリと。

 

「でも呼ばなくて大丈夫ですよ、もうケっちゃんの事を話しておいたので」

 

「え、もうやってくれたの? ありがと」

 

「どういたしまして! それじゃあ部屋に行きましょ!」

 

 さっきまでのあだ名の話題の時とは打って変わって、突然テンションを跳ね上げてきた。

 

「う、うん」

 

 空返事気味に言葉をひねり出すと、階段を駆け上がるレイちゃんの後をついていった。

 

 

 

 

 

「……なんか、妙に生活感ある空き部屋だね?」

 

「はい」

 

 当たり前じゃないかと言うように返事をもらった。

 今度は、机の上にある道具を指差して問う。

 

「あの道具は薬品を作るためのものかな?」

 

「はい」

 

 次は、部屋の隅の壁に立て掛けられている杖に指差して問う。

 

「あの置いてある杖は、買い換える前に使ってた武器かな?」

 

「はい」

 

 三度目は、レイちゃんの方を指差して。

 

「……ここ、レイちゃんの部屋だよね」

 

「はい」

 

 最後に、自分の方を指差し

 

「ここで私が泊まるの?」

 

 と問えば、フィニッシュに元気な答えが返ってきた。

 

「はいっ!」

 

 ………聞いてませんよこんなの。

 

「いや、追加の部屋借りるから良いよ」

 

「部屋の空きはありませんよ。一度、管理人さんに訊いてみますか?」

 

「え、別れる前に空きはあるって言ってなかった?」

 

「言ってませんよー。私はただ、大丈夫だって言っただけですー」

 

 たしかにそんなことを言われた気がする…!

 いや、それにしても相部屋はおかしい!

 

「やっぱり管理人さんに訊いてくる!」

 

「はーい」

 

 

 階段を駆け下りて、カウンターの上にあるはずの呼び鈴を探す。

 たしか隅っこにあったか、と思って目線をあちこちに運ぶが、何処にも見当たらない。

 

 かわりに、こんなメッセージが書かれた紙が置かれていた。

 

『今晩はお楽しみですね』

 

「何が?!」

 

 何言ってんの管理人さん?!

 カウンター上の紙を手に取ると、俺はまた別の文章を見つける。

 

『どうしても嫌だったら向かいの部屋を使って下さい』

 

 ありがとう管理人さん!

 思わず紙切れに向けて感謝してしまった。確かに裏をみればカギが張り付けられていた。

 しかし、それと一緒に一つの文章を見つけると、俺はピキリと硬直した。

 

『宿代はいちおくYです』

 

 俺は紙を破り捨てた。




通貨の単位はYですが。時折「エン」と呼ばれることもあります。
・マジかよ宿主って寄生虫とかの住処のことだったのか。と言うことで修正
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