ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

40 / 78
34-ウチのキャラクターと俺の家庭訪問

 アイザックの家で料理をつくるため、調理器具と食材を用意してその家までやってきた。

 その家は時前に聞いていたとおりのボロ家で、如何にも安物と言った風な建物だった。

 

 ケイは何処か居心地が悪そうに、対して俺は戦争の被害を免れたというのを実際に目にし、感心していた。

 アイザックは慣れたように玄関の鍵を開けると、そのまま扉を開けて入っていった。

 

「ただいま。メアリー」

 

「ザック、おかえ……っ!」

 

 奥の方から足音がバタバタと聞こえてきた。メアリーと呼ばれる少女は、結構なお父さん好きらしく、笑顔で迎えてきたが……、俺たちの姿を確認した途端に隠れてしまった。

 どうやら俺たちは、その無垢な笑顔を沈めてしまったらしい。

 

「ほら、ソウヤの身なりが怪しいから怯えちゃったじゃん」

 

 え、俺のせい?

 

「どうか気にしないでくれ。彼女は少し、人見知りなんだ。……ごめんな、メアリー。驚かせてしまったかい?」

 

「……」

 

 保護者であるアイザックが語りかけても、少女はご機嫌斜めだ。

 むう、どうしたものか。

 

「一番の不審者はソウヤなんだから、どっか隠れてれば?」

 

「辛辣だなケイ。だが、もう見られてるから意味が無いぞ」

 

 今更隠れたとしても、なにか後ろめたいことがあると見られて、やはり警戒されてしまうだろう。

 進むも地獄退くも地獄、と言うのは大げさだろうか。しかしそういった状況に近い。

 

「……どうしたことか」

 

 好き好んで小さい子を怖がらせる趣味は無いし、全うな声の言葉を持つアイザックとケイの2人には是非誤解を解いてもらいたい。

 そんな期待を寄せていると、アイザックがメアリーの方へ歩み寄り、目線を合わせるように屈んでからこちらに向き直った。

 

「紹介しよう。彼女たちは、いつも弁当を作ってくれている人だ」

 

「……タコを作ってる人?」

 

 メアリーが、控え目な声量でアイザックに問いかける。言うまでもなく、彼女はあのカウボーイに信頼を寄せていた。

 

「た、たこ?」

 

「あはは、確かにタコを作っているね。だけどアレは、タコさんウィンナーって言うんだ」

 

「タコさんウィンナー……」

 

 アイザックが笑いながらメアリーの頭を撫でる。

 何時俺がタコを作ったのだろうと焦ったが、なるほど。あんな風に切ったウィンナーを弁当に入れるのは、日本の主婦ぐらいだからな。名前を知らなくて当然だろう。

 

「女の子の方の名前は、ケイ。こっちの黒い方がソウヤだ」

 

「はじめまして。横のヘンな奴は、私みたいな女の子に力負けするような奴なんだよ。だから、怖がらなくて大丈夫」

 

「ケイは世間一般で言う女の子じゃないだろうが」

 

 ツッコミどころのあるケイの言葉に、俺は容赦なくツッコミをかけた。

 

「……弱いの?」

 

「うん。ヒョロヒョロで情けない男」

 

 他にも色々と反論したいのを抑えて、一部の事実だけを認める。なんたって、最近『器用』と『俊敏』のステータスが上がって、それでも殆どの値が「2」を上回らないのだから。

 ステータス上の数字で言えば、大体ケイの10分の1程の弱さである。数字で見えない能力も参照した場合、その差は幾らでも広がる。

 

 とにかく、俺の自己紹介である。

 俺は用意していた名刺モドキを渡そうと思ったが、思い立って新しく自己紹介の紙を書き始める。

 子供向けの自己紹介なら……これだ。

 

『なまえはソウヤ。からだは見せられないし、こえもでないけど、よろしくね』

 

 全てひらがな。どうだ、思いやりがあるだろう!と俺は自信満々にその紙を見せた。

 

「……ねえ、ザック。なんて書いてあるの?」

 

 俺の自信は崩れ落ちた。

 

「自己紹介が書いてあるんだ。名前はソウヤ。体を見せられないし、声も出ない。それと、『よろしくね』だってさ。……すまない。この子は文字が分からないんだ」

 

「そうだったの。いや、その若さならそう珍しくない事なんだから、謝る必要なんて無いよ」

 

 そ、そういう事だったのか……。

 文字が読めて当たり前という認識が日本人に限らずあるが、この世界ではその認識を改めなきゃいけないようだ。

 

 しかし、これでは直接話をすることが出来ない。他人を介した会話で我慢するしか無いだろう。

 これからコミュニケーションする上で難儀するだろうなと、遠い目で思う。そんな俺を何故か不思議そうに見ていたメアリーが、疑問を口にする。

 

「……声が、だせない?どうして?」

 

「それはね、呪いを掛けられたからだよ」

 

「のろ、い……?」

 

 俺の代わりにケイが答えると、メアリーは大きな目を丸くする。……なにか思うところがあるのだろうか。あるいはその単語を知らないのか。

 その単語を不思議そうに復唱しながら、少女は俺をじっと見つめていた。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 家に入ると、日常的に困らない範囲でボロボロの内装が目に入った。築何年と言ったところだろうか。そこを歩くと、すぐにキッチンを見つけたから、とりあえず支度を始めることにした。

 アイザックから粗方キッチン設備の事を聞き出していたが、改めてチェックして、これから料理を作る上で問題ないことを確認する。

 

「……なんか、生活感が薄いね。この家」

 

 俺の後ろに位置する食卓に座っているケイが、そこから見える全体を眺めて言った。遠慮もなしに。

 同意はする。キッチンは簡単な掃除だけされていて、全く使われていない。冷蔵庫の中身は飲み物だったりが保管されているが……。

 

「食事は殆ど外食、そして持ち帰った物だからね……。因みにゴミは旅先の焚き火の燃料にしたりしている」

 

 意外と節制した生活を送っているのか、あるいは不健康な生活だと思うのか。どちらか迷うような話である。

 

「旅先?」

 

「主に討伐依頼をこなして、生活費を稼いでいる。賞金首にも目を付けているけど……人数も少ないし、巡り合わせでも悪いのか、滅多に見つからないのさ。……あんまり遠出が出来ないのもあるけどね」

 

 後ろから聞こえてくる会話を、ぼんやりと聞き流しながら鞄から道具を取り出す。ケイマジックにより四次元空間が封じ込まれている鞄は、明らかに鞄の容量を超えた量の調理器具を排出する。

 

「……わあっ! ね、ね、ザック。あの鞄すごい」

 

「ああ、アレかい? きっと、ケイお姉ちゃんの方が詳しいよ」

 

「え? ……えっと、おねーちゃん?」

 

「うん、なーに?」

 

 キッチンは全て機能するようだ。何処かの軍隊風に言えば、”オールグリーン”である。

 今度は鞄から食材を取り出し、調理に取り掛かろうとする。と、その前に手を洗わなければ。

 

 ……しかし、「お姉さん」ねえ。

 俺も冗談で「お姉さん」呼ばわりしてみようかと振り返るが、会話中のメアリーの姿が目に留まる。

 

 メアリーと言う洋風な名前には似合わない、真っ黒で長い髪。しかし白に近い薄い肌色が眩しく、紅一点という言葉を想起させる赤い瞳がケイを見つめている。

 ケイをからかうのを止めて、キッチンに向き直る。あの小さな少女の姿はどこか幻想的で、確かにメアリーという名前が似合っているような気がした。

 

「……えっと、鞄」

 

「あの鞄が気になるの? あれはね、いくら物を入れても膨らまないし、重くならない、魔法の鞄なの」

 

「そ、そうなんだ。すごい」

 

「えへへ、でしょ?」

 

 ケイの口調が何処か誇らしげだ。あの鞄の細工はケイが施したのだし、それを褒めればケイの鼻が伸びるというのも当然の道理か。

 こっちもこっちで、切っても涙が出ない玉ねぎに感動しつつ、まな板の上で包丁を扱う。

 

「すごいなメアリー! 質問、ちゃんと出来たじゃないか!」

 

「う、うん。出来た……」

 

 小さな成功をアイザックが祝っている。そこまで騒ぐものだろうかと傍目に見ていて思うが、しかし人見知りにとっては大きなことなんだろう。

 もはや親バカではないかと思えるほど、アイザックは嬉しそうに騒いでいた。

 

「カウボーイってのは、クールで格好いいって印象なったんだがなあ」

 

 調理を続行しつつ、ぼやく。

 人である以上、全てのカウボーイがクールであるとは限らないのだろう。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「ようし……」

 

 特に大きな特徴もない、トロトロのシチューが完成する。

 単品でも中々美味しいが、パンに付けて食べると美味しい一品である。

 

 その上、メアリーの分には特別な食材を付け足してある。

 

「という事で、お待たせ」

 

「おお?」

 

 人数分の皿を配り、ついでに魔法のシンクから水をコップに汲んでそれも配る。

 魔法で作られた水は、そのまま飲んでも美味しくて安全なのである。

 

「ありがとう」

 

 感謝の言葉は食事を堪能してからにしてほしい。と謙虚するように首を横に振る。

 とりあえず食べなさい。と言わんばかりに腕を組んでみる。

 

「じゃ、食べよっか。ソウヤの分は?」

 

 食卓に乗っているのは、ケイとアイザックとメアリー。3人分の食事だけだ。

 俺の分は作っていない。お代わりの分は残っているが。

 

「俺は誰にも食事中の口元を見せないと決めたんだ」

 

 と言って威張ると、ケイはしょうもない物を見る眼差しを俺に向けた。

 そんな目で見られても、見せない事には変わりないぞ。

 

「……ソウヤおにーちゃん、食べないの?」

 

「お、おにーちゃん?」

 

 兄呼ばわりされたことなんて全く無い俺は、その威力に打ち砕かれて若干悶える。

 そんな俺の様子に気づいたケイが鼻で笑った。

 

「はっ。なーに動揺してるの、ソウヤ?」

 

「う、うるさいな。というか、そもそも4人目の食器を用意してないから無理だ」

 

「……?」

 

「……ゴッホン」

 

 気を取り直して、取り敢えず言葉をメモにして机に置く。それが読めないメアリーは申し訳なさそうに俺を見る。

 それを見かねたケイが文章を読み上げる。

 

「『呪いのせいで、食事はできない』だって。よく言うよ」

 

「ケイ」

 

「まあそんな訳だから、気にしないであげてね」

 

「……わかった」

 

「ソウヤは、苦労してるんだね。それじゃあ、シチューをありがたく頂こうか」

 

 ……いや、別に普通に食べられるんだけどね。食事シーンをあまり人に見せたくないだけで、同じ食卓で食べるとなると隠しきれないだけだし。

 そうなるよう誘導したとは言え、勘違いなことを言うアイザックの同情を受け流し、少しだけ思考する。

 

 この2人に姿を晒して、問題ないだろうか、信頼できるだろうか。

 品定めするように見てみるが、一見問題ないように見える。

 姿を晒して問題のある人物という線引はちゃんとある。この事を無関係な人間に漏らすことがないか、という点だ。良識ある人間なら文句なしにOKだが……。

 

「あ、タコさん!」

 

 特別にと仕込んでいた食材が見つかったようだ。メアリーが楽しそうにシチューの中身をつつく。

 少なくとも、メアリーは問題無さそうだ。間違いなく。

 

 

「……なにやってんの?」

 

 しばらく見ていると、パンを手にとったケイが俺に声を掛ける。

 

「本当の姿を見せても問題無いか考えてる」

 

「そっか」

 

 ……。

 

「……そっか」

 

 ケイがこっちを見て、その口元が歪んだ。なにを考えているのか、まるで手に取るようにわかった。

 ケイが立ち上がる。歪んだ口元は、「悪いことをを考えています」とでも言っているように見えた。

 一応、分かりきったことを質問する。

 

「おい、何をするつもりだ?」

 

「正体晒せい!」

 

 やはりか!

 

「待て!」

 

 明らかに攻撃態勢なのを見てから一歩引き、そして手で止めるよう合図する。

 珍しく、ケイは言われたとおりに待ってくれた。

 

 時間は貰った。あとは落ち着いて論する

 

「……別に口で言えばいいだろう?」

 

 姿を見せることに賛成なら、俺だってその意見を取り入れるさ。

 

「食事を終えたら、その話をしよう」

 

 食事よりもケイと俺のドタバタに気を取られている2人を横目に、それだけ言っておいた。

 ケイが諦めて食事を始めると、2人は頭上にハテナを浮かばせつつも、食事を再開した。

 

「人前で無理やりめくるのが楽しいのに」

 

 ケイは黙って食べなさい。

 

 

 

 

「ごちそうさま」

 

「?」

 

 お代わりに対応する補給班として何度か料理をよそっていると、ケイが料理を食べ終えて食後の言葉を言った。

 それに反応して、メアリーが不思議そうにケイを見る。彼女は後少しで食べきるところのようだ。

 

「ねえ、ケイおねーちゃん」

 

「なーに?」

 

「ごちそうさまって、何?」

 

「……何なんだろ?」

 

 知らないんかい。

 とは言え、深く知らなくともなんとなく使っている人も多いし、変ではないが。

 

「日本人が食後に言う、感謝の言葉だよ。料理を作ってくれた人とか、野菜を育ててくれた人とかに、感謝を伝えるらしい」

 

「そうなんだ……」

 

 まるで自分は日本人じゃないと言うような言い方だと感じたが……、それはそうと、「ごちそうさま」を教わったメアリーが、料理と俺を比べるように交互に見ている。

 そして、思いついたように最後の一口を食べて、こっちを向き……、

 

「ごちそうさま!」

 

 と言った。無邪気か。あるいは純粋か。

 

「ろりこん」

 

 こっちは完全に不純である。というかその単語どっから仕入れてきた。

 

 

 そういう事がありながらも皆が完食し、食器を片付ける。

 ちゃんと洗剤やスポンジも用意した俺は、食器洗いも済ませてしまう。そしてこの食器群はこの家に進呈する予定である。

 アイザックは弁当屋の常連なのだから、これぐらいの融通は大したことじゃない。

 

「そういえばさ、ソウヤの中身、興味ある?」

 

 おっと、その話題を今出すか。というか言い方に悪意が無いだろうか。

 しかしメアリーは、その話題に反応して俺に目を向ける。

 

「ああ……そういえば、彼の姿はどんな風になっているんだい? いや、言えない物だったら何も言わなくても良いんだ」

 

「人形。真っ白のね」

 

「人形?」

 

「うん。ソウヤ、今見せちゃいなよ」

 

 強引な話の運びだが、ここで断るのも変だろうな。

 俺は食器を洗う手を止め、その手でフードを捲りあげる。

 

 皆を見ると、当然の事に全員が俺を注視していた。

 口も鼻もない顔は、驚くほど真っ白だ。それほど面白い顔でもないが、それでも珍しいはずだ。

 

「確かに……人形だね」

 

「人形でしょ?」

 

「……おにんぎょうさんだ」

 

 そうだろう。どう見ても人形だろう。真っ白な。

 

「確かに隠す訳だ。……因みに、何時からその呪いを受けていたのか質問しても?」

 

「最近、っていうのかな。十日ぐらい前……だったっけ?」

 

「それくらいになるな」

 

 目線をこっちに向けて確認されたから、頷いて肯定する。

 正確に言えば、もう少し日数は少ないはずだ。数えてはないが。

 

「そうか……原因はわかっているのか?」

 

 その質問には首を横に振る。

 原因は透けて見えるように判明しているが、教えられるようなものではない。

 

「そうなのか……」

 

「場所は分かるけどね。確かダンジョンの中だったよね」

 

 そうだ。ついでに言えば、イツミ一行のダンジョン探索に同行した日だ。

 その事を思い出していると、数ヶ月前のことのように懐かしく感じる。

 

「それで、最初はソウヤだって事が分からなくて、勘違いして()()()()攻撃しちゃったんだよね」

 

「胸をひと突きして()()()()は無いだろ」

 

「む」

 

 ちょっとと言うには足りないぐらいの勢いだろう。今思えば、彼女のかつての経験が理由だろうが、それでも尋常ではなかった。

 

「そ、それは……大変だね」

 

「確かに最初は、色々と面倒があったねー。ソウヤの代わりに服買いに行くことになったし。……そういえば、あの貸しまだ返してもらってないよね?」

 

「あれ貸しだったのか?」

 

 そんなの聞いてないぞ。

 しかし俺の不満を無いものとして扱うように無視された。チクショウ。

 

 

 ……と、ケイの策略に打ちのめされそうになっていると、会話の輪に入れていないメアリーがこっちに歩み寄って来ているのに気付く。

 そういえば、知らずの内に会話の輪から外してしまったなと、小さな罪悪感を覚える。

 

 しかし、俺のもとに来て一体どんな御用なのだろうか。

 屈んで目線を合わせると、メアリーの方から話しかけるのを待つ。特徴的な赤い瞳が、俺を見つめていた。

 その様子に気づいた2人が、会話を止めて俺とメアリーの方に目を向けた。

 

「あ、あのね。ソウヤおにーちゃん。あの、えっと……」

 

 一言一言を発するたびに、緊張のためか目線の角度がじょじょに下がっていっている。

 「何かな?」と返事する代わりに、わざとらしく首を傾げてジェスチャーする。

 

 すると、メアリーの俯いていた顔は真正面を向き、次に俺の目を見て、そして――

 

 

「わたしもね! えと……、呪われてるの」

 

 ――告げた。




少女と言うには幼くて、幼女というには一回り大きい。
どう呼べば良いんだろう。

……女児とか?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。