「ソウヤおにーちゃん、ケイおねーちゃん。これすっごくおいしい!」
「やっぱり、日本人が焼く肉は柔らかくて良いねえ!しかも可愛らしい女の子のお手製と来た!」
「……お肉はいつも食べてるのに、今まで食べてたのと全然違う」
「美味しいですね、なんかお母さんの味って感じです。ソウヤさんの家ではいつもこれを食べてるんですね」
俺とケイの合同で作った料理を口にして、皆が三者三様の反応を示してくる。美味しい美味しいと言いながら食べていくものだから、あっという間にお代わりの分を開放することになってしまった。
一応ご飯も用意したのだが、アイザックやケイを中心にたくさんお代わりしてくるから、すぐに残り少なくなってしまった。
メアリーもドラゴーナである事に加え、育ち盛りだからなのだろうか、彼女もお代わりをしていた。物理的な容量の限界は超えられないだろうが。
「よく食べるな、ケイもそうだが」
「んー、メアリーも沢山食べて大きくなるんだよー」
「立派なレディーになるんだぞ」
「もごもご。もーい」
食べ物を口に含んだまま返事する。
お行儀の悪いそれに、いつもは注意するか眉をしかめるのだが、今回は例外。
健気なメアリーを、どうして叱ることができようか。
「そういえばレイちゃん、散歩の話なんだけどさ……」
「あ、それはですね、お買い物とちょっとした観光をするつもりなんですよ。街の復興も殆ど終わったようですし、いいと思うんですが」
「なるほど、お買い物……」
すると突然、ケイが黙りこくる。そしてこっちを見る。
これはもしや、ゲーム用語の謎について質問する前兆だろうか。しかしその様な単語や言い回しは出て来なかった筈だが。
「どうした」
何も言わずに俺をじっと見るものだから、いい加減にと用事の催促をした。
それでようやく出てきた言葉は、俺が予想するものとは全く異なっていた。
「女の子の買い物って……、どう言うものなの」
「お前は何年女の子やってんだよ」
全く……。
ケイは女子力が低いなと、つくづく思う。しかも俺は男だ。そんなこと訊かれても困る。
「そうだな……。洋服とか、装飾品みたいな、そういったものかな」
「……なるほど」
まあ現代人としての意見なのだが。
ケイが生きていたような世界ないしこのゲームの世界における時代背景では、多少なりと違うだろう。
「……服ねえ」
「お前みたいなヤツが、並のファッションセンスを備えているようには見えないな」
「む、ぐ……」
この食卓に俺以外の人がいる以上、声を上げて俺に反論はできない。
言葉を口を詰まらせて、結局言葉は飲み込まれた。
「丁度いいですし、ケっちゃんもすこし服を見繕ってみたらどうですか?」
「俺の予想が当たったな。折角の機会だし、一度可愛くなってみたらどうだ?」
「…………」
俺が話に乗じてオシャレを薦めてみるも、ケイは口をつぐんだままである。
その表情は苦笑を抑えているようだった。
なるほどなるほど、この様子は……、
「嫌だけど、レイナを失望させたくない、って奴だな。なるほど」
一瞬、目線がこっちに向く。図星のようだ。
「ずっとシンプルな服というのも飽きますし、良いと思いませんか?」
「ケイおねーちゃんの可愛い服、見たい!」
「ええと……あー……」
目が泳ぐ。海を渡る勢いで泳ぐ。
確かに元男性として、女性のファッションと正面から向き合うのには引け目を感じることがあるかもしれない。
……ここはアレだ、背中を押すところだろうな。
「行け、そなたは美しい」
当然の如く、恨めしそうに睨まれた。
・
・
・
「結局頷くケイもケイだよな」
「うっさい」
全員ノリノリで、とまではギリギリ行かなかったものの、全員で外出することになった。
計5人の大所帯となると、人の多い道は中々歩きづらい。
「メアリー、ちゃんと手を握ってるんだよ」
「うんっ」
こうして見ると、アイザックとメアリーは親子そのものである。
アイザックは顔立ちや体格が如何にも外国人風だが、メアリーも外国人風かと言われればそうでもない。そんな違いがあるのに親子らしさがあるというのは、それだけ家族としての愛が確立しているのだろう。
「わあああ……!」
通りすがりに見える、特にこれと言った特徴のない街並み。それでもメアリーはどれもこれもが新鮮に見えるようで、あちこちへと興味を移している。
「ねえ、あのお家、お花がいっぱい!」
メアリーが目を光らせて指差す方を見ると、確かに窓や玄関の辺りに花で飾り付けがされていた。
やはり女の子は花を好むのだろうか。
「……ケイにとっては、正に花より団子か」
「何それ?」
「文字通りだ、花なんか眺めているよりも美味いものを食べていたほうが楽しい。と言う言葉だ」
「へえ」
ケイが納得して前方に目線を戻す。
メアリーにとっては目新しいアレコレに、色々と質問していく。
「わー!ねえあれ何?!」
「あれはねー」
見るもの全てに質問していくが、子供付き合いの良いアイザックとレイナが全て答えていく。確かにメアリーは可愛いが、俺であれば面倒になってしまいそうだ。
しかし好都合なことに、あんな風に騒いでいるもんだから、俺たち二人が会話していても違和感を持たれない。
「蚊帳の外だな」
「あ、その言葉はなんとなく分かる」
「そうか」
食事のハンバーグで元気でも付いたのか、メアリーはまだまだ疲れを知らない様だ。
騒ぎつつも歩き、辿り着いた先は服屋だった。現代を彷彿とさせる外装からするに、ここの経営者はプレイヤーだろう。
ガラスの向こう側には、
「……」
見ると、メアリーが俺とマネキン達を見比べていた。それどころかアイザックやレイナまで。
……ふむ。
「俺がああいう風におめかししても、人々の見る目は変わらないと思うが」
「皆が言いたいのはそれじゃないと思うんだけど」
そうだろうか。
この場全員が、マネキンを目にしたとたんに俺を気にし始めている。そのタイミングからして、俺の予想は割と合っているのではなかろうか。
というのは冗談だ。
だが本当に、気にするべきではないと俺は思っているのだが。
……そうだ、良いことを思いついた。
俺は口の無い顔でニヤリとすると、そのプランを早速と紙に書き始める。
「……よし、ケイ。頼むぞ」
大雑把ではあるが、一応読める字である。
そのプランが書かれた紙を渡すと、任せたと肩を叩く。
「はい?」
「なに、ちょっとしたサプライズプランだ」
「はあ?えっと……うっわ」
俺が書いたプランを読んで、俺の頭脳に感服するような言葉を漏らした。
どうだろう、と俺はウィンクする。
「この短時間でこの密度の文字って……」
しかし効果は無かった。
いや、ツッコミどころが違うと思うのだが。
「とにかく頼んだ」
「……全く」
「??」
「あー、ソウヤはここで待ってるって。大丈夫、こいつって泣き言は女にフラれた時しか言わないから」
俺とケイの、片方の声が欠けた会話に違和感を持たれ始める頃、ケイは早速とプラン実行の合図となる一言を発した。
しかし一言余計である。
「じゃ、行こう」
「ええっと……分かりました。えっと、ごめんなさい?」
「謝る必要なんかないって。さ、行こう」
「ちょ、ちょっと」
「アイザックもメアリーも、早く行こう!」
「あ、ああ……」
強引にも見えるが、ケイがさっさと服屋の店内に皆を押し込もうとしている。
もう少し賢い方法で納得させられなかったのか、と思うが……まあ良いか。
「よし、次のステップを実行するまで、少し間を開けて……」
……数分ぐらいすれば丁度いいだろう。それまで俺は、道端から人通りを眺めることにした。
「しかし、この感覚も久しぶりだな」
言葉と記憶を失った事で、周囲の人々には必要以上に気を配られ、遣われてしまう事。
俺が「呪いを受けた男」として活動していた頃から、この世界でもそういう事が増えてきた。今回もそれだ。
個人的には気にしなくてもいいのだが、他の障害者にとってはそうではない事もあるから、一概に言えない。面倒な物だ。
「……あの姿は」
人通りをぼんやりと眺めていると、見覚えのある姿が見える。
先ほど会ったばかりの、小柄な猫耳娘。
「キャット」
しかしキャットは俺と同じようにローブを纏い、猫耳や尻尾を隠している。
俺とキャットが並んでいると、怪しさが倍増である。裏路地で並んでいればある意味怪しくないのだが。
「御機嫌よう、デス。先刻の忠告はお役に立ったデスか?」
肩を竦めて、肯定も否定もしない曖昧な仕草で返す。
あの言葉はケイの事を示しているわけではない、という予想はされているが。
それにしても、キャットのご主人である紳士仮面こと、イツミの姿を最近見ていない。
キャットにはよく会うのだが。
『イツミは今頃どうしてるんだ?』
「む、さっそく質問デスか。肝っ玉が据わってマスね」
おや、質問をするのはキャットにとってあまり印象の良くない事らしい。情報網の価値を落としたくないのだろうか。
こちらとしては、ちょっとした世間話のつもりだったのだが。
「……まあ良いデス。ご主人はドラ姉と戯れてるのデスよ」
ドラ姉……誰だろうか。予想するに、イツミペットの一員だと思うのだが。
声のトーンがほんのり下がって、彼女にとってはあまり面白くない事だと察する。これは嫉妬か何かだろうか、意外とかわいい物である。
「ところで、なぜ貴方だけ外に居るんデスか?」
と、自分の良いように予想を建てて一人ニヤニヤとキャットを見ていると、そんな質問をされる。
それはとある計画の為、一時待機をしているというだけなのだが。
しかしそれをキャットに教えるには気が進まない。
こういうサプライズは、最低限の人間とプランを共有しないと、どこかでボロが出てしまう。
『キャットとちょっとだけ話がしたくて』
だから、代わりに口説き同然の言葉で返した。
「……私と、デスか?」
驚きつつ言葉をひねり出す様子から動揺が透けるように見えて、俺は内心ほくそ笑む。
口頭では恥ずかしくて言えない言葉も、文面ならば小石を投げるように簡単に伝えられるのだ。
『俺の事、どう思ってる?』
「……これは新手の情報収集か何かデスか?」
どうやら簡単には答えてくれないらしい。
俺は頷くと、キャットの眼差しが心なしか鋭くなった。警戒心丸出しである。
「ふん、何も話すつもりも無いのデス」
そうか。嫌われたものである。まあ仕方ないか。
さて、そろそろ次のステップと行こうか。
『仕方ない。悪いけど、そろそろ行く』
「ふんっ」
敵意を隠さないまま見送られるというのは、中々に恐ろしく、そして可笑しいものだ。
俺は店内に居る彼女らの動向に気を付けながら、店内に入っていった。
・
・
・
「うへえ……」
「あ、この服ケっちゃんに似合うんじゃないですか?」
なんなのだ、このフリフリは。
「落ち着いた大人って感じも良いですけど、思いっきり可愛い物を着ても良いと思うんですよ!」
個人的には前者が精神的なダメージが少なそうだ。
……いや、ダメージを受ける前提の時点で色々とおかしいが。
「ええっと……あー、どれが良いというか……むしろな」
「あ、これも似合うと思います!」
「私の声聞こえてる? ねえ」
服選びに夢中なレイちゃんに、思いっきり溜息を吐きたくなった。
吐いたら吐いたで、彼女を傷つけそうだからやらないけど。
こっちはレイナから黄色い声が上がっているけど、一方アイザックとメアリーの方は……。
「わー!わー!」
「可愛いぞ!可愛いぞ!」
あっちはあっちで凄まじい。
メアリーはあちこちの洋服を手に取り、子供らしい歓声を上げる。
アイザックは……分かりやすく親バカしてる。
「……レイちゃん。私なんかよりメアリーの服を」
「ケっちゃん、これ持ってください!」
「え、ええ?」
「あ、違います!それをもうちょっと肩のあたりまで持ち上げて……そう、そうです!」
なにが”そう”なのだろう。私は自分の身体を見下ろした。
服が丁度いい感じに私の身体をカバーしていて……ああ、なるほど。
「あっ、どうして離しちゃうんですか?可愛いのに……」
「いやー……私には似合わないかなー、って」
「とんでもない!」
……どうしよう、これ。
もう少し、食い下がってみるか?
「ええっと、そもそもね?この服から変えたくないなー、って……」
「変えたくない……ですか?あ、もしかして特殊な効果のある防具だったんですか!?」
「いや、そうじゃないんだけど」
「それじゃあ」
「あー、えっとね……」
詳しいことを話そうとしても、その事は前世に関わる話になるから、言おうにも言えない。
どう言えば良いのだろうと、悩みに悩んで……言葉を見つける。
「……思い入れがある、って言えばいいのかな」
「思い入れですか?」
「まあ」
その他にどう言ったものか。
この「思い入れ」の理由を辿るには、数年では済ませられない程に遠い記憶を、掘り起こさなければいけない。
それは、ある休日の事だ。あの時俺は、恋人であるエルに服屋へ連れて来られていた。
エルは、何が似合うか、これは似合うのかなどと、様々な服を持って当時の俺に問い詰めていた。
確かにエルの事は好きだし、何の服でも似合っていた。
しかし、それをそのまま伝えれば「どれも似合ってるじゃダメ!」と言われてしまった。
ならば仕方なしと、一つ選んだのが……。
「……」
この服だ。
シンプルなシャツに、控えめな首元のリボン。加えて、このスカート。
マントだけは私が旅をする上で必要だったから、本来無いのだけれど……。
「……ちょっと、この服から変えたくないんだよね」
エルが私を見つけた時、この服装を覚えてくれていれば、と思ってこの服装にしているのだ。
何も事情を知らない人から見れば、本当にワケの分からない理由だろうけど。
「そうなんですか……。そんなに気に入ってるんですね」
「まあ、ね」
生半な理由だけで変えるつもりはない。
私は目を逸らしつつ、言った。
―――この言い訳も、言葉も、本当は今の私には矛盾していると自覚しながら。
「それより、ごめん。私の為に色々考えてくれたんだよね」
「ううん。ケっちゃんの事、一つ知れて嬉しいです」
……やはりレイちゃんは優しいな。
まるで全てを赦すシスターの様だ。これでプリーストじゃなくて魔法使いだというのだから、驚きだ。
「……そうだ、レイちゃんに似合いそうな服、探してみようよ」
「え、良いんですか?」
「うん。……でも、私のセンスに期待はしない方が良いよ」
そう言って、場所を移す。
この場所には、様々な服がハンガーにかけられたり、等身大の
探せば……。
……。
「……マジで?」
「はい?」
「あ、いや。なんでもない」
危うくプランの事を忘れかけるところで、それを無理やり思い出させるような衝撃を受ける。
……ソウヤの奴、本気でやりやがった。
「えーっと……」
「……あれ、ケっちゃんどうしたんですか?その紙……」
「あ、いや、これは……秘密?」
「えー」
ソウヤから渡された紙をしまいつつ、あの方を見る。
あの人形、ソウヤに目線を投げかける。
気合の入った服装をしたマネキンに紛れて、それにも負けないぐらい気合の入った服装のソウヤが、ポーズを取っていた。
見れば見る程、私は”本気だったのかコイツ……”という呆れの思いが強くなる。
見つめていたら、したり顔でウィンクを投げられた気がした。彼には目も口も無いと言うのに。
「次は、あの場所に全員連れていく……ね、何をするつもりなんだか」
「なあに、ちょっとしたサプライズだよ」
オイ、擬態したまま返事するんじゃないよ。
そろそろ