『ステップ1 ケイ、レイナ、アイザック、メアリーが店内に先行。予定通り買い物を楽しむ。
ステップ2 ソウヤは店外で数分ほど待機、機会を伺いつつ店内に侵入。この時ケイのグループに見つかってはならない。
ステップ3 ソウヤが店内のマネキンに擬態する。変装に使う服装はこっちで用意する。
ステップ4 ソウヤの周辺にケイのグループが集まったタイミングでサプライズ。
グッドラック』
何がグッドラックだ。
……と、私は声を上げずにはいられない。上げたら上げたで奇怪なものを見る目らやらないけど。
代わりに溜息を吐いて、ソウヤからもらった紙を懐にしまう。レイちゃんは服を選ぶのに夢中で、この私の様子には気づかない。
しかし、このプランの言う”ケイのグループ”、現在は二つに分かれてる。私とレイちゃんのペアと、あっちのアイザックとメアリーの親子だ。
勿論ソウヤは4人まとまった状態でサプライズをしたいだろうから、私は違和感なく合流させなければならない。
「んー……」
服を眺めつつ悩んでる風を装って、どう合流させるかを考える。
……考えていたのだが、その思考を上書きするようなものが視界に入る。
「……下着?」
そう、下着……の様な物だ。
しかし生地が特殊な物が使われてている様に見えるし、材質も普通の服では使われないような物ばかり。
「あ、あれは水着ですね。夏の季節ですし、ああいうのも着てみたいですよね」
水着。滅多に聞かないのだが、以前の旅の中で聞いたことはあった。
水が身近な所。例えば港町では、海などで水遊びをする文化がある。そして、水遊びの為に着る服も、その場所では作られている。
実際にその場所に訪れ、試しにと浜辺の辺りを歩いてみたことがあるのだが……。ああ、確かに下着のような物を来た住民たちが戯れていた。
「でも、ここらへんって水遊びする場所無いよね?」
「まあそうなんですけど……でも港町までは遠いわけじゃないですし、買っても良いと思いますね。あ、あの水着とかどうですか?」
「え?」
私があの下着……もとい水着を着ている様子を想像する。
下着としての用途ならまだ良い、かつて訪れたあの浜辺の様に、大衆の目がある中で着るとなると……。
「え……遠慮します……」
「えー? きっと似合いますよ!」
「いや、いやいや。こればかりは似合うとか似合わないの問題じゃないんだよ。レイちゃん……」
「はい?」
いや、本当に無理だって。というか、絶対にあんなの着てやるものか。
こればっかりは譲らない。つもりもない。認めない。
「えーっと……今は良いかな」
「そうですか?」
「うん、せめて……じゃなくて、今のところは普通の服だけ買ってこうよ」
「……そうですね、そうしましょう!」
良かった、納得してくれた。私は彼女の死角でガッツポーズした。
うん、あれ着るぐらいならフリフリスカートの方がマシだもの。
「あ、これとかどうかな」
気を取り直して、私は服を一つ手に取ってそう提案してみた。
センスが無いなりに、直感での選択したみた物だけども……。
「これですか?」
「うん。自信ないけどね」
他の人の服を選ぶ、と言う経験はあまり無い。エル相手でさえもだ。
試しにと、私が持っている服をレイちゃんの身体に宛がってみる。
大雑把に選んだが、サイズは問題なさそうに見える。デザインに関しては……。
「レイちゃんには明るい色が似合うね」
なんというか、子供っぽい。
いや、元から見た目は子供なのだけど。
「あ、それ私のお友達にもよく言われます!ほら、私ってリアルもこっちも小柄ですからっ」
「リ……?あー、うん、そうだね」
リアル、という単語が出てきて、思わず唸りたくなった。
ソウヤからこういった単語の説明は受けているから、分からないって訳じゃないけど……。
「とにかく、本人が気に入ってくれれば嬉しいんだけど」
「ケっちゃんが選んだものなんですから、もう気に入りましたよ」
―――「ケイが選んだんだから、もうずっとこれを着ようかな?」
「……あ、そ、そっか」
……まずい。
目線を逸らして、額に手を当てて俯く。
今の言葉で、エルの姿を幻視してしまった。奥底にある筈の記憶から、声が響いてきた。
永らく聞いていない、あの懐かしい声を。
どうも、この服屋に入ってから昔の記憶が溢れるように出てきている気がする。いや、出てきている。
「……」
「……どうかしたんですか?」
「え?あ、いや。ちょっとレイちゃんが眩しくて見ていられないなって。アハハ」
「えーっ、そんな大げさですよー!」
……これ以上買い物を続けたら、また記憶を思い出してしまいそうで、怖い。
どうにか出来ないかと考え、一先ずはソウヤの計画に従う事に集中して、少しでも忘れようと努めることにした。
それならまずは合流か、と計画の内容を再度思い出す。
「えっと、それで、レイちゃん。どう?その服」
「買いですっ!」
そこまで気に入るのか、と私は困ったようにしながらも笑顔を見せる。
なんだか申し訳ないから、お金は私が出そう。
この世界では服は比較的安いようだし、そう沢山買わない限り大きな出費となることはないだろう。
「気に入ってくれて嬉しいよ」
「えへへっ!」
・
・
・
「メアリーちゃーん!」
「あ、レイナちゃん!ねえ、これザックが選んでくれたんだよ!」
「わー、すっごく可愛いです!」
服を買い、早速合流した。
どうやらこの服屋は、寛大なことに試着ができてしまうらしい。
試着の為の個室、所謂試着室の辺りにメアリー達は居た。それも見慣れない服装を着ている。
「やあ、アイザック。娘さんの様子はどう?」
「メアリーは大分気に入ってくれたよ。俺が服を選んでくれとせがまれた時は、どうしようと思ったけどね」
あはは、と苦笑いを挟むが、文面からはそう思えないぐらいに服選びが順調だったように見える。
「だけど……意外と何とかなるもんだね。俺のセンスの賜物、とは言い難いけど」
「っていうことは、これってもしかして……」
「そう、あの童話に出てくる『メアリー』の服を参考にしたのさ」
「なるほど、やっぱりそうだったんですね!」
青いリボンに、青と白のエプロンドレス。
小柄な身体には不釣り合いな筈の大きなリボンには重量感が無く、髪と一緒にふわふわと揺れていた。
「でもリボンは青いんですね」
「あくまで”参考にした”ってだけさ。これに関しては悩んだけど、正解だったよ」
「なるほどです」
参考したにしろしてないにしろ、アイザックが私よりもマトモなファッションセンスを備えていることに、若干の劣等感を覚える。
アイザックが選んだ方が、レイちゃんもより可愛い服を……とまで考えたところで、思考を中断させる。
今、その事を考えるべきではない。
「さ、服も皆決まったわけだし……ちょっと良いかな?」
「どうしたんだい、ミス・ケイ?」
「ミスって……ちょっと、皆に見せたいものがあるんだ」
「見せたいもの?」
「はい、これが私が皆に見せたいものでーす」
ソウヤの目の前で、皆に向けてそう言ってみせる。
展示されている普通のマネキンに紛れているソウヤは、身動きが出来ずに居る。
「これがですか?」
「男用の夏服だね。もしかして俺へのプレ」
「あ、ゴメン。それじゃないんだ」
「……残念だ」
アイザックが勘違いして、項垂れた。私はそこまで気の回る女ではないのだ。
「おい、ケイ。こりゃどういう事だ」
擬態しているソウヤが、堪らず私に話しかけた。その声は私以外には届かない。
どういうも何も、私は全員をここに集めただけだ。
「いひひ。さあ、世界を股にかけるこの大魔法使いが、簡単な手品を披露したいと思いまーす!」
「チョット待て、それは計画に……」
「あ、ケっちゃんの手品ですか?!そんな特技があったんですね!」
「てじな?なんか凄いことするの?!」
「ふふん」
「……ケイ」
「おっと。そうそう、皆はこの3人のマネキンさんを注目してねー」
そうすると、私の言葉に従って皆がマネキンを観察し始める。
ここにあるマネキンは3体。その内真ん中に居座っているのがソウヤだ。その姿はいつものローブ姿ではないが、わかる。
「ケイ、なぜ注目させた」
「ふふ。さあ、この人形たちの姿を目に焼き付けたかなー?」
「はーい!」
「良い返事だ。今度は私、の合図と同時にほんのチョットだけ目を閉じてね?」
「閉じる?」
私の指示に、皆が不思議そうに聞き返す。
擬態しているソウヤも困惑している。中々愉快だが、今の彼は手品のアシスタントだから笑わないでいてやる。
「そう、次の瞬間には……人形のポーズが変わってまーす!」
「「おー!」」
「……なんかプランが乗っ取られたんだが」
文句を垂らすソウヤを無視して、手品の進行を続ける。
「まさか……。ミス・ケイ、これはもしかして」
「しーっ、ふふ。勿論、私が直接マネキンに触れるようなことはナシ!その証明に、皆には私の手を握っていてね!」
そう言ってみせると、手を握ってもらうよう私の手を差し出す。
レイナは私の左手を、メアリーは右手を握った。アイザックは少し迷うと、メアリーの手と一緒に私の右手を握った。
アイザックは察しつつも、この茶番に乗ってくれるらしい。
「さて、皆は私が逃げないように抑えといてね?」
「はーい!」
「よし、3秒前! 2!1!」
手品にノリノリなメアリーの返事に続いて、カウントダウンを一気に始める。
ソウヤにアイコンタクトを送って、私が言っていた通りに行動するよう促した。
「0!」
「……むう」
慈悲深く、そして心優しいソウヤはこの茶番に乗っかってくれた。
まあ、この茶番の始まりは私の気まぐれなのだけど。
ソウヤはポーズを変え終わった所で、丁度全員が目を開く。
「わー!わー!すごーい!これどうやったの?!」
「わあ、本当にマネキンが動いて……マネキンが動く?」
「ははは、確かに凄いな。いつの間に動いたんだろうな?」
メアリーは素直に関心しているが、レイナが薄々と感づいている様子。
ここいらが潮時だと思い、ソウヤの傍に歩み寄った。
「さ、ここで早速種明かし……と言っても、レイちゃんはもう気付いちゃったか」
「ていうことは、やっぱり……」
私は頷いて、この期に及んで擬態を続けているソウヤの背中を叩く。
それなりの力で叩いたものだから、ソウヤは大きく前によろける。
「ちょ、お前力つよ……」
「わ、わ、もしかしてソウヤおにーちゃん?!」
「そう、ソウヤが態々お洒落してまで手品に協力……手伝ってくれたんだ」
「おー!」
すると、メアリーが感激してソウヤの元へ駆けつけた。
そしてソウヤの服の端を掴み、買ったばかりのリボンを揺らして飛び跳ねる。
「すごい!ぜんぜん気がつかなかった!」
「気付かれないように動いたからな」
そりゃそうだと、私はソウヤの声に頷いた。
「……もしかして、俺たちがソウヤに呪いに気を遣ったことを気にしていたのか?」
「ん、正体どころか、そこも分かっちゃったのか。ま、おおかた正解だよ」
「え、どういうことですか?」
しかしレイちゃんはそこまで理解が及ばなかったらしい。
私は、はしゃぐメアリーとソウヤを横目に説明を始める。
「ソウヤは、君たちの心配を”余計な気配り”だと感じてたんだよ。姿を隠すのは混乱を隠すためで、別に劣等感とかは感じちゃいない。だから、ソウヤは今回のことを企てた。心配ご無用、って事を伝えようとね」
「そうだったんですか……なんだか、申し訳ないです」
「あはは。それこそ余計な心配だよ。これまで言っておいてなんだけど、動機の6割は悪戯心だからね」
「い、いたずら……。意外と子供っぽい理由でした……」
「でしょ?」
・
・
・
「ところで、その服はどうしたのさ。買ったの?」
「いや、借りた」
サプライズも済んで、中断されていたお買い物に一旦区切りをつけるため会計を行っていた。
そこで思いついたように質問をされた。
別にこの服は買ったものではなく、店員に事情を伝えた上での借用だ。
「店員に事情を言って?八百長面だなあ」
「万が一迷惑になったら嫌だからな。因みに、何時ものように呪いということで通した」
「へえ……っと、なんかレジの人がこっち見て」
「あ、ソウヤさーん!ドッキリはどうよ?大成功だった?!」
「……で、彼女が件の協力者だ」
俺の姿を見るなり、レジから店員が飛び出てきた。
このテンションの高い女性が、ドッキリの許可を出してくれたのだ。
「因みにこの服装も彼女が選んでくれたものだ」
「へ、へえ……」
まあ、その服もこの後すぐに返す予定だが。
見ると、店員の第一声から俺との関与を知ったレイナが、わいのわいのと騒いでいた。
「あ、もしかしてソウヤさんのアレ……人形の姿を知ってたんですか?」
「モッチのロンよ!ソウヤさんの姿には驚きはしたけど、話してみれば意外と気があってさー!筆談だから話しづらいかなーと思っても、そりゃもーデ○ノートのアイツみたいにスラスラ文字を書くもんだから意外と円滑に会話できてさあ!」
「え、えっと……?」
「……元気な店員だろう?」
店員のマシンガントークに戸惑うレイナを眺めながら、同意を求めるように言った。
「なんか、疲れそう」
「そうか?最初の二言ぐらいまで聞いていれば、大体話しは通じるぞ」
「結局話し聞いてないんじゃん」
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・
・
『服を返します。ありがとうございました』
店員のマシンガンガントークでレイナ達が制圧されている間に着替え、その服をキレイに畳んだ状態で持っていく。
「うっわあ!キレイに畳まれてるじゃん!しかも渡した時と同じ形じゃない、これ?!ソウヤさんって意外と細かい所気にすんだねえ。そんなんじゃカノジョも」
『ドッキリにも協力してくれてありがとう』
「いーっていーって!なんならお返しになんか買っていっても良いんだぞー?」
遠慮しておこう。俺は首を横に振る。
「ふへーっ、つれないなあ。はい、お会計」
「……なんか安いね。値札を見てたときも思ってたけど」
提示された金額に、ケイは不思議そうに言う。
「そう?普通だと思うけどなあ~」
「あー、こっちだとこれが普通なんだ」
「なるほどまるほど、そう言うんなら、ちょっとだけ値段を釣り上げちゃおっかなー」
「ちょちょ、冗談でしょ?」
「あははっ、本気にしないでよー。はい、お値段ちょーど頂きましたー」
支払いが済んで、ケイが服の入った紙袋を持ち上げる。
「またのご来店、おまちしてまーす」
おてんばな店員のテンプレートを背に、お店から去っていく。
「……なんか、お買い物一つでここまで騒いだのは初めてかもしれない」
「90年の中で?」
「うん。
まあ、俺があんなことを計画したからな。
あれで騒がしくならないワケがない。
「で、どうだった?」
「何が?」
「俺のサプライズ。後半乗っ取られたけどな」
「……まあ、悪くはなかったんじゃない?」
そのセリフなら、もう気に入っているようなものと考えても良いだろう。
俺は上機嫌に笑ってみせた。しかし俺には表情筋がなかった。
「安心したよ。なぜだか知らないが、なんか表情が曇っているように見えたからな」
「……私が?」
「お前が」
「そんなまさか。その目、節穴なんじゃないの?」
「穴さえも無いんだが……」
ケイがそう言うのなら、そうなんだろう。
俺が彼女の言葉に納得すると、ふとレイナ達がこちらを見ているのに気付く。
レイナ達には俺の声が届かない故、怪しまれでもしたのだろうか。
ダミーとしてメモ帳とペンを持って、筆談をしていると見せかけているから大丈夫だと思うのだが。
ならば何事だろうと、疑問に思っているところにメアリーがこっちに寄ってきた。
「ね、ね。ケイおねーちゃんとソウヤおにーちゃんって、仲良しなの?」
ああ、そんなことか。
態々俺が筆談で伝えることでもないと、返答をケイに任せる。
「仲が悪いか良いかと言えば、良い方だね。でもレイちゃんとも仲良しだし、メアリーちゃんとも――」
「それじゃ、それじゃあ!」
「うん?」
「ふたりって、
その瞬間、世界の時間が止まった……気がした。
次回予告
「大変なことになる!」
以上