ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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39-ウチのキャラクターと俺の失踪事件

「はあ……」

 

 不機嫌そうにケイがため息を吐く。手元の紅茶から出る湯気が、吐息で散った。

 

 俺も不機嫌に机を口を垂れ流したいところだが、この喫茶店ではあまり騒ぎたくない。

 いや、いくら騒いでもケイ以外に迷惑はかからないのだが。

 

 あの買い物の後、休憩がてらに寄ったこの喫茶店だが、中々人が多い。

 計5人の大所帯で来ても、人口密度が全然変わってないように見えるぐらいだ。

 

「あの、ごめんなさい」

 

「いや、気にしなくていいんだよ、メアリー。勘違いしただけだもんね」

 

「……うん」

 

 ケイは寛大な心をお持ちのようで。俺は感心しつつ、ゆらめく湯気を眺めた。

 

 

 ……この喫茶店に入る前、メアリーが俺たちに送ったあの衝撃の言葉の後、俺たちは大混乱を極めた。

 俺はペンを落とし、レイナは硬直し、アイザックは小さく歓声をあげた。

 一方ケイは、子供相手に大人気なく反論した。

 

 それでまあ、ケイとメアリー、お互いが機嫌を損ねたわけだが。

 俺に関しては、まあ……。

 

『気にするな』

 

 この一言に尽きる。

 むしろケイの面白い反応が見れてご満悦である。

 

「ほら、ソウヤも気にしてないって言ってる」

 

「……ごめんなさい」

 

「あはは……許すよ。私も、ちょっと言い過ぎちゃった」

 

 そうケイが言って見せると、不安げなメアリーがちらっとケイを見上げた。

 

「ともだち……じゃなくなっちゃった?」

 

「そんな、とんでもない」

 

 ケイがメアリーの頭を撫でる。

 どこか男らしい、やや豪快な撫で方だが。

 

「友達だよ」

 

「……!」

 

 うむ、うむ。一見すると正に姉が妹を慰めている、なんとも感動的な場面なのだが……。

 ケイ、泣きそうな子供はとりあえず撫でて慰めればいいと思ってるだろう。

 

「う、うにぃ」

 

「うりうり」

 

 しかも2割ほど押し付けるような撫で方だから、メアリーの髪が荒れかけている。

 ……大丈夫か?

 

 とにかく、あの様子なら仲直りしたも同然だろう。ブラボー、俺は心の中で拍手を送る。

 

 

「それにしても、アイザックさんはお茶を飲まれるんですね。コーヒーとか、紅茶を飲む印象だったんですけど」

 

「チッチッ。あと一つ足りないぞ、コーラを忘れてはいけない」

 

「そうでしたね!」

 

「まあ、流石にここには無いようだけどね」

 

 炭酸飲料を備えた喫茶店もあるにはあるだろうが、この世界においてはそんなものレア物だ。

 

 しかし、炭酸飲料を生産するとしたら、一体何が必要なのだろう。

 まず必要スキルが謎だ。『料理』か、『ポーション生産』か、『錬金術』か……。

 『錬金術』はカレー粉を作り上げた実績があるが、果たしてどうなのだろうか。

 

「初めて会った時から思いましたが、アイザックさんって外国人っぽいですね」

 

「おや、言ってなかったか?俺は生まれも育ちもアメリカの、立派なカウボーイさ」

 

「へえ、そうだったんですか!それにしても日本語が凄く上手ですね!」

 

「ハハ、これにはちょっとした秘密があるんだが、いくら可憐な乙女でも教える訳にはいかないな。デートでなら、考えない事もないかもしれないかな?」

 

「え、はい?」

 

「おや、お気に召さない?」

 

「……はい?」

 

 アイザックの言葉に、レイナは目を点にして空返事をした。

 それから奇妙な間が出来て、それを見かねたケイが口を開く。

 

「……一応訊くけど、君、そう言う趣味?」

 

「そう言う趣味とは……いったいどう言う趣味だ?」

 

「あ、やっぱいいわ」

 

 衝撃の事実が明らかになる前に、蓋をした瞬間であった。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 どうも、この一行に含まれる3人の女性の内二人は、大分お喋りを好むらしい。

 本日出会ったばかりのレイナとメアリーは、既にお互いニコニコと語り合う関係になったらしい。ケイと友だちになった時と言い、見敵必殺とか言うレベルですぐ絆を結んでくる。友達百人も夢じゃない。

 

「ケイは混ざらないのか?」

 

 同じ女性なら楽しく割り込めるだろうと、そう進言してみる。たった今物凄い嫌そうな顔をしたのだが、それも想定の上で言ってやった。

 

「冗談キツいよ……。私があの輪に入り込める様子が全く想像できない」

 

「ハハハ。そりゃそうだ」

 

「んー、ケっちゃんどうかしたんですか?」

 

「いや、なんでもないよ。レイちゃん」

 

 気怠そうに頬杖を付いた所で、レイナが心配そうに覗き込んでくるから、簡単に苦心を表に出せないと来た。これではケイの心労も溜まりそうなものだ。

 

 

 と、疲れ気味のケイの顔を横から覗き込んでいると、店の外から何なやら聞き慣れない……と言うのに、どこか聞き慣れた曲がフェードインしてくる。

 チリンチリンと言った音色で構成された曲は、陽気な子供らしさと、それと何故か涼しげな印象を受けた。

 

「なに、この曲?」

 

「お、これは……」

 

 窓を見ると、大きな箱を抱えた荷車を引く人間……正確にはエルフの様だが、居た。

 荷車には、その大きな箱の中身がなんたるかを示す装飾が幾つか施されている。それらを見るに、アレは……、

 

「アイスクリーム屋か? 珍しいものだな」

 

 アイスクリーム屋さんとは、またもや現代の匂いが漂ってくるお店である。

 しかしそんなお店は、この街に来てから一度も見ていない。窓から大衆の表情を見てみると、俺達と同じ様に物珍しそうな顔で、引かれる屋台を見つめていた。

 ……あ、カップルっぽい二人が興味津々に屋台に近づいてきた。

 

「私も初めて見ます。最近開店したんでしょうか?」

 

「……”あいすくりーむ”ってなに?」

 

「冷たいお菓子さ。柔らかい種類から、固い種類のアイスもあるよ」

 

「へえぇぇぇ……!」

 

 メアリーが、興味津々といった顔でアイザック見上げて質問する。

 その答えは、ケイにとっても興味深いものだったようだ。彼女も興味津々な顔である。

 

「買ってこようか?」

 

「いいの?! いいの?!」

 

「勿論だとも。よし、ちょっと待っていてくれ」

 

「わかった! いい子にする!」

 

「ハハハ。じゃあ行ってくる」

 

 この店は、他所の飲食物を持ち込んでも良いのだろうか。という野暮な心配をする俺だったが、アイザックはそれすら気にせず買いに行った。まあ、迷惑をかけない限り大丈夫だろうし、そこまで心は狭くないだろう。俺は気にしないことにした。

 

「アイス、ケイが居た世界には無いんだよな?」

 

「まあ……」

 

「……」

 

「……」

 

 曖昧な返事を返すケイ。

 俺は彼女の顔を観察しつつ、一つだけ提案をする。

 

「……行ってくればどうだ?アイザックがケイの分まで買ってくるとは限らないぞ」

 

「え?」

 

「アイス。食べたいって顔してるぞ」

 

 ニヤっとしつつ指を指して指摘すると、ケイは目を逸らす。

 

「……食べたことのないお菓子に興味をもつのは、別に変なことじゃないと思うんだが?」

 

「そだね」

 

「……」

 

「……」

 

 ケイは再び無言に戻る。この90歳児には困ったものだ。

 俺はメモ帳にペンを走らせると、レイナに見せる。

 

『アイス、食べるか?』

 

「あ、私ですか?えっと、是非食べてみたいですね。……えへへ、ちょっと子供っぽいですかね?」

 

 子供っぽいのはケイだ。

 と言いたくなるのを堪えて、言葉を書き、見せる。

 

『アイザックに全員分買ってくるように言ってくる。一応』

 

 俺は立ち上がって、かるく手を挙げてからアイザックを追いかけに行く。

 まあ、アイザックがもとから全員分買うつもりだったら、俺の判断は無駄に終わるのだが。

 

 

 店の壁越しに聞こえていたアイスクリームのテーマ曲が、店の扉を開いた瞬間から新鮮に聞こえてくるようになる。

 勿論、あるいは当たり前だと言うべきか、興味を持っていたのはアイザックや俺たちだけでは無かったようで、保護者の目線を浴びながら子どもたちも集まり始めていた。

 

 俺は何も考えずに屋台に歩み寄ろうとして、寸での所で思いとどまる。

 

「ううむ、どうしたものか」

 

 いまの俺は、見るからに不審者である。そんな俺があの中に行けば、数秒で子どもたちの阿鼻叫喚が始まるだろう。

 ……以前、村で子どもたちに囲まれて何故か人気者になっていたのだが、その前例が参考になるかもわからない。

 アイザックが気付くまで、ここで佇んでいるべきだろうか。

 

「……なんだ?」

 

 屋台から数メートル離れたところから見ていると、視界の端に何か気になるものが見えた。

 久しぶりではあるが、見覚えのある姿。黒ずくめの服に加え、見るからに怪しい仮面が顔に張り付いている。

 

「イツミ……?」

 

 俺がその姿の名を口にした直後―――

 

 

 

【カラン……】

 

 何かがアイスクリームの屋台のそばに落ちてきて、人々がどよめく。

 その音の正体は屋台のすぐ横に転がっているが、それは缶のような見た目をしていた。

 

 一体何の缶だ?

 興味本位でその正体を見極めようと注視する。しかしそれは、見れば見るほどに、缶と呼称するには相応しくない見た目だと分かって……。

 

「グレネードだ!」

 

【パンッ】

 

 ―――誰かが叫び、人々がその単語の意味を理解する前に、その物体は()()した。

 爆発と言うには威力と重みが全く感じられないそれは、爆発で人を傷つけるよりも先に、”耳を貫くような音”と”視界いっぱいの白”を撒き散らした。

 

「――――!」

 

 視覚と聴覚を潰され、上下左右の感覚も狂ったのだろう。

 俺は訳も分からないまま背中を打ち付けられ、必死に瞼を閉じる。

 

 混乱する頭をどうにか鎮めようと、覚束ない動きで頭を手で抑える。

 

 

 

 気がつけば、鼓膜が破れるほどの爆音は、小さな耳鳴りとなり、失明を予感させる閃光は、しばらく視界が霞む程度の障害を残した。

 目を開けば、俺と同じ様に地面にうずくまっている人が沢山居た。

 幸運にも爆心地から遠くに居た人々は、大きな被害を受けた人々に手を差し伸べていた。

 

「い、ったい何が……?」

 

「ソウヤ!」

 

 耳鳴りに混じって、俺を呼ぶ声が聞こえる。

 一瞬、誰の声だか判別がつかず、その声の主が目の前に出てきた所で漸く見当がつく。

 

「ケイ……」

 

「大丈夫?怪我は?」

 

「……無いが、耳が遠い、目がかすむ。しかも、吹き飛ばされたのか?」

 

 視界がぼやける中、俺は立ち上がろうと足を動かす。

 するとケイが何も言わずに俺に肩を貸し、持ち上げてくれる。

 

 徐々に回復していく視界をあちらこちらに回し、状況を把握する。

 そして、その状況を頭の中でぼんやりと整理し……その中で、何かが足りないのに気付く。

 

「アイザック……そうだ、アイザックはどこに行った?」

 

「アイザック?」

 

 ケイが俺のつぶやきを拾い上げて、彼女も辺りを見渡す。

 

「居ない……攫われた?あの男が?」

 

「そうか、居ないのか」

 

 ……頭も大分動くようになってきたから、改めて現場を観察していく。

 爆心地から数歩もしない距離に居た人間は、一切動く気配がない。恐らく……、

 

「爆心地に近い人は気絶したんだろう。気絶したなら、抵抗も受けずに攫うことができる」

 

「気絶したとしても、人をひとり抱えて、しかもこの短時間で姿を消すなんて……」

 

 いや、高い筋力ステータスを備えていれば、不可能ではない。

 人には簡単にできないことが、この世界では簡単にできる。

 

「……どうする、ケイ。気配と追跡のスペシャリストなんだろう?」

 

「出来ないことは無い。けど……」

 

 ケイが言い淀んで、どうしたんだろうと思って彼女の方を見るが、俺の顔を見つめていた。

 なるほど、俺のことが心配ということか。

 

「心配なら俺たち3人をあの宿屋に送れ。この現場からは遠い、安全だろう」

 

「そう……私はアイザックを探すつもりだけど。ソウヤは……歩ける?」

 

「ああ。意識もハッキリとしてきた」

 

 もう肩を借りなくて良いと、俺はケイの肩から離れ、軽くジャンプしてみせた。

 彼女は少し悩んだが、意を決したように頷いた。

 

「分かった。レイナやメアリーは店の中で待たせてる。一緒に転移してもらうよ」

 

 そこから二人で店内へ、扉のベルを鳴らしながら入っていく。

 店内に居たはずの客はほとんど居ない。怯えた人と、それを見守る店員が数人居る程度だ。

 その中から、俺の姿目掛けて小走りで向かってくる2つの姿が出てきた。

 

「ソウヤおにーちゃん!」

 

「おごっ」

 

 幼くても流石にドラゴーナ。それなりの衝撃を伴って、メアリーに勢いよく抱きつかれる。

 腹から空気が押し出されるのを感じながら、俺はその衝撃を受け入れた。

 

「良かったです。ソウヤさんが無事で……。何があったんですか?突然大きな光と音がしましたけど」

 

「それなんだけど、アイザックが……」

 

「ねえ、ザックは?ザックは居ないの?」

 

 メアリーの声が、ケイの言葉を遮る。

 事実を伝えれば、少なからずメアリーを傷つけることになる。非常事態である今、子供の精神状態を不安定にさせるのは好ましくない。

 

「ケイ」

 

「分かってる。……メアリー。アイザックは、悪いことをした人を追いかけてる。だから、戻ってくるのに時間がかかるかもしれない」

 

「……わるいひと?」

 

「そう、アイザックは良い人だから、悪は見逃せないってね。だからその間、メアリーは……良い子にして待てるかな?」

 

「……」

 

 ケイの言葉に、メアリーは俯く。

 反応は上々ではないが、事実を伝えるよりかはマシだ。

 

「レイナ、私はアイザックを追いかける。3人一緒に転移で宿屋へ送るから、そこで待ってて」

 

「わ、分かりました」

 

「ソウヤ」

 

「分かってる」

 

「それじゃあ……メアリー、ちょっとだけ目を瞑っててね。レイナとソウヤは手を」

 

 言われたとおりに、俺とレイナはケイの手を。対してケイは、もう片方の手をメアリーの肩に置く。

 メアリーはぎゅっと目を瞑り、その時を待っている。

 

「……よし、『転移』」

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

「……もう良いよ、目を開けて」

 

「うんっ。……あれ?」

 

「ふふ、ちょっとした手品だよ。悪いけど、種明かしは私が帰ってきてからね」

 

 一瞬で移り変わる視界に、メアリーは混乱して辺りを見渡している。俺は慣れているから良いが、一般人にはとんだサプライズである。

 

「ケっちゃん。気をつけてくださいね」

 

「大丈夫。無傷で帰ってくるよ。じゃあまた……『転移』」

 

 すぐにケイは二度目の転移魔法を唱え、行ってしまった。

 

 

 

「……なんか、凄いことになってしまいましたね」

 

 反論の余地もなく賛成だ。

 アイスクリームなんてものが出てきたと思ったら、突然のあの事態である。

 明らかにアイザック個人を狙った犯行に、俺は嫌な予感ばかりを募らせる。

 

「ザック、だいじょうぶかな……」

 

「大丈夫ですよ。アイザックさんもケっちゃんも強いですから、どんな悪者でもへっちゃらです」

 

「へっちゃら?」

 

「はい。だから安心してくださいね、メアリーちゃん」

 

「……うん」

 

 ……そうだ。

 一応来客という事で、お茶を用意するとしようか。お茶を淹れたことはないが、まあ紅茶と変わらないだろう。

 俺は便利な魔道具で沢山のキッチンに向かおうとして……、

 

「ね、ねえ、ソウヤおにーちゃん」

 

 幼い声で、呼び止められた。

 どうしたんだい?とは口に出さないが、目線を合わせて話しやすいような体制にする。

 

「アイザック、帰ってくるよね……?」

 

 無闇に心配させる気の無い俺は、何も考えずに頷いてしまった。

 だけど、大丈夫。彼がプレイヤーなのであれば、心配の必要はないのだから。




イツミ・カド
彼は一体何を企んでいる?

次回、「異世界からの訪問者」

こーごきたい

追記・時間が経つほどいい構想が出来上がってくる
問題は、それに伴って過去話の内容を改ざんせねばならない事だ

というわけで、一部描写を変更

追記・ニュータライザ。炎と風属性魔石を使った魔道具の一種。音も光も、ついでに衝撃波も付いてきます。
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