ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

50 / 78
44-ウチのキャラクターと俺の厄災竜撃滅

 呪いを生まれ持っていること以外は、種族がドラゴーナなだけの幼い女の子。メアリー

 

 ドラゴンの出現と同時に宿屋から姿を消した彼女が、ここに居た。

 

「メアリー。君は……、君は一体何だ?」

 

 吹き荒れる魔力の中心は、彼女の下にある。つまり、メアリーがそれだけの魔力を内包していると言うことになる。

 人間が持つ魔力を感知できる私が、なぜそれを見落としていたのか。その疑問を抱いて、しかし今は考えるべきではないと頭を振る。

 

「ねえ……ケイおねーちゃん」

 

 先程から目から涙を流している彼女は、縋るように私を見つめている。

 輝く瞳が、涙で歪んだ。

 

「ぜんぶ、ゆめだよね?」

 

 夢?

 ああ、夢ならばどれだけ良かったことか。ドラゴンの襲撃によって、一体どれだけの人が死んだのだろう。それを考えると、夢であってほしいと願いたくなる。

 

 だが、この世界は夢ではない。紛れもなく現実だ。

 

「……」

 

 私は無言でメアリーの元へ近づく。

 

 この世界は夢だと言って、慰めるため?

 あるいは現実だという事実のみを突きつけるため?

 

 生憎と、その二択を選ぶつもりはない。

 剣に力を込める。

 

「ケイおねーちゃん……。ぜんぶ、わたしのせいなの? まちがこわれちゃったのは、わたしのせいなの?」

 

「……君は、呪われている。そして、それは厄災をもたらす」

 

 アイザックは言っていた。彼女の呪いについて、具体的なものは分からないと。

 しかし、私は呪いの真実を目前にしている。

 

 ……今の彼女が背負っているのは、片方しかない大きな翼。

 ついさっきの戦闘で切り落としたのは右翼。そして彼女が背負っているのは左翼だ。

 翼の見た目も、あのドラゴンの物と全く同じ。

 

 もう、何の疑いようもないだろう。

 

「のろい……」

 

「……きっと、私がどうにかする」

 

「……?」

 

 私は足を止める。

 剣が届く距離に、間合いを置く。

 

 口ばかりの慰めに、彼女の涙は多少収まったように見えた。

 

「その前に、質問だ」

 

「しつもん……?」

 

「……ソウヤは、どこに行った?」

 

「ソウヤおにーちゃん……ぁ……!」

 

「……?」

 

「あ、わ、わたし……ぅあ、いや……だ」

 

 彼の名を口にして、ほんの少しの間をあけてからメアリーの態度が急に変わる。

 その場に屈みこんで、勝手に否定の言葉を並べ始めた。

 

「……どうして君は否定をする?」

 

 ……答えろ。

 

「言い方を変える。ソウヤに一体何をした?」

 

「わたし…………ごめんなさい……ごめんなさい!」

 

 なぜ謝る? 私は謝罪など求めていないのだ。私が聞きたいのは事実のみ。

 「子供相手に」という抵抗、忌避感を無視して剣を向ける。

 

「……?」

 

「ごめんな、さ、う、うあ」

 

 すると、ひたすらに謝罪を続けるメアリーの様子が変わった。

 まず最初に現れた変化は、彼女の指先。そこから腕、肩へとかけて、あの忌々しい魔力に包まれる。

 

「ああ、あああ……!」

 

 考えるまでもない。メアリーは、直ぐにでもドラゴンの姿に変わり果てるだろう。

 魔力に包まれた後の体表は、ドス黒い鱗へと変わっていた。

 

「いや、イヤぁ!」

 

 自らの姿が変わってゆくのを認識した彼女が、鋭い爪が備わった両手で顔を覆う。

 見ているだけで痛々しい。けど、心の何処かで、“都合が良い”と安堵する。

 私は、幼い女の子を殺さなくていいのだ。醜いドラゴンを、殺せば良い。

 

「ああ、そうだ……殺さなければ」

 

「イヤ、イヤ! ワタシハ……チガウノ……!」

 

 

「せめて、幸せな来世を期待してくれ」

 

「ぁ……」

 

 

 そのとき、彼女を中心に渦巻いていた魔力が止んだ。

 手に感じる生々しい感覚が、一際と大きい”何か”を私の心に残した。

 

 

 ……。

 

 

 ……しかし、彼女は動き出した。

 

「ッ?!」

 

「イタイ、イヤ、オネーチャン、ドウシテ?!」

 

「なんで生きて……!」

 

 ―――ふと、この現状と似た光景が脳裏に浮かんだ。

 人形姿の胸に剣を突き立てたあの時と、全く同じだった。元人間のモンスターを、この剣で、その胸に一突きする。そんな瞬間。

 それでも(ソウヤ)は生きていた。しぶとく語りかけてさえいた。

 

「ア、グァ、ァァァァアアア!」

 

「くぅッ?!」

 

 だが、その記憶を思い起こしている暇さえ許されなかった。

 固まっていた私に振り下ろされた鋭い爪に、本能だけで反応した。

 

 ……しかし間に合わなかった。 

 

「がッ!」

 

 爪は私の装備越しに肩を裂いた。

 痛覚が未だにやってこない内に、後ろに飛び退いた。敵は爪を地面まで振り下ろした直後、周囲には砕けた地面や土煙が舞っている。

 今この瞬間が隙だと判断すると、ポーチを探り、敵が居る場所を睨みつつポーションを飲む。

 

「はぁ……クソッ。ドラゴンの姿に戻ったか」

 

 先程まで戦っていた巨大なドラゴンの姿が再び、晴れた土煙の向こう側で見えた。

 

 ついさっきの回復ポーションで、私が負った傷は癒えた。

 彼女に、ヤツに与えた傷も見えない。形態が変わったせいだろうか。

 

 ……とにかく、ヤツを殺さなければ。

 

 

「はぁッ!」

 

 大きく前に踏み出し、加速しながら斬りつける。振り抜く寸前に、魔力によって剣の刀身が延長される。

 ドラゴンが翼と魔力で風を生み出し、飛び上がって回避する。片翼しか無くともある程度は飛べるようだった。

 

「『堕とせ』!」

 

 通り抜けざまに岩の槍を飛ばす。牽制程度の威力でしかない魔法だ。

 それらは丁寧に爪で弾かれ、そしてドラゴンが反撃してくる。

 

「―――ガァ!」

 

 小さく息を吸ったかと思えば、火の玉を吐いてくる。ブレスとはまた違った攻撃。

 大きく避ければ、着弾した方から爆炎が襲いかかる。

 

「『水を』!」

 

 魔力で水を生み、爆心地へ向けて放つ。

 水の塊は私が火の粉を被らぬよう守るに留まらず、瞬時に弾けて、濃い水蒸気が辺りを覆う。

 

「『貫け』!」

 

 霧の中から攻撃する、私からも視界が遮られているから、音で判断するしかない。

 攻撃の効果を確認する前に、霧を間に挟む位置関係を保ちつつこの場から離れる。

 

「ガァア!」

 

 私が()()霧の中にむかって、火の玉がとんでいく。

 頭の中で構築していた魔法を、武器を握りつつ発動する。

 

「『転移』」

 

 その直後、私の足は踏みしめる地面を失う。私の姿はドラゴンの左後、つまり左翼が間合いに入る位置にある。そこへ武器を振りかぶった体制で転移した私は、空中でそれを振り抜いた。

 直前に送られた魔力によって刀身が鋭く、そして長くなった剣がヤツの左翼を切り裂く。それは右翼と同じく無力化した。

 

「ガ、グガアアアアア!」

 

 両翼を失ったドラゴンが落下するも、元々高度が低かったからか、着地する。

 そのかわりに怒りを顕にして私を睨んだ。翼を失ったヤツは、もはやトカゲ同然だ。

 

 機動力を失い、そして人間と同じく地面を踏みしめて戦わねばならない。

 

 切り落とされた翼と共に着地すると、怒りが込められた眼差しで睨まれる。

 私は睨み返しつつ、嘲笑ってやった。

 

「ガアアアアアァァァァ!」

 

 今度は咆哮だ。

 ドラゴンの象徴でもある広大な翼を両方失って、プライドを傷つけられたらしい。

 

 それで良い。

 私に敵意を向けろ。

 他の人間に手を出すな。

 

 そして、私に殺されろ。

 

「『さあ』」

 

 土属性魔法と火属性魔法、その2つを同時に詠唱する。

 薄く紅く輝く岩が、時間を掛けて巨大な槍の形となって現れる。そしてその形が完成した後、槍はヤツの元へと放たれる。

 

「『今、ここで』」

 

 詠唱と共に、ドラゴンの首ほどの大きさはある槍は輝きを増し、紅を増し、依然としてヤツの命を目掛けて飛び続ける。

 ドラゴン詠唱する私を妨害しようと、息を溜める。

 

 けど、どうせ間に合いやしない。

 

「『崩壊せよ』」

 

 その瞬間、一定の速度を保っていた槍が一瞬で加速して、ヤツが身を護る隙さえ与えずに胸元まで辿り着く。

 槍の先がヤツの鱗を貫くか貫かないかの間際、

 

「―――死ね」

 

 紅を纏っていた巨大な槍が、爆ぜた。

 

「――――?!?!?!」

 

 ドラゴンが声を上げている。それが悲鳴か、怒号かは分からない。

 全てが爆風で掻き消される。

 ヤツの声も、体も……。

 

「――――――………」

 

 

 

 

「……驚いた、まだ生きてるのか」

 

「…………」

 

 黒い煙が晴れて、両足で立ち続けるドラゴンの姿が見えるようになる。胸には抉られたような傷口があり、そこから赤黒い血を垂らしている。

 

 数分もすれば、人一人沈めるには十分な程の量の血が溜まるだろう。あれぐらいの巨体ならば、それだけ流しても意識を保ちそうなものだが。

 

「殺すつもりだった。鱗を貫通した槍が、爆発で内側から肉を焼き、吹き飛ばす。姿を保てれば良いほうだ。四肢がそこら中に散ってもおかしくない」

 

 私の言葉が聞こえていないのか、あるいは理解していないのか。

 ドラゴンは、ただ無言で私を見つめている。

 

「マトモに動けない……いや、瀕死なのか。流石ドラゴンだな、絶命するその時まで立ち続けるなんて」

 

 ヤツの瞳はしっかりと私を捉えているが、焦点がぶれている。意識が朦朧としているのだろう。

 力も入らないのか、腕がだらんと垂れている。

 

「……今度こそ、仕留める」

 

 剣を構える。

 ヤツが一度瞬きをする。

 

「……」

 

 相も変わらず、物を言わないドラゴンだ。

 何も待つ必要はない。

 

 ジリ、と足を動かす。

 そして――――、

 

「ギアアアアアアアア!」

 

「……?」

 

 ドラゴンの鳴き声。

 しかし、目の前のヤツの物ではなかった。声は上空からだった。

 

「友達か」

 

 こんなドラゴンにも、仲間がいるものなのだろうか。

 眼の前の存在はもう脅威ではないと判断し、警戒の対象を上空の方へと変える。

 

 戦闘前に上空へ放った、照明代わりの光属性魔法は既に消えていたが、建物から立ち上る炎がその姿を照らしていた。

 

「あれは……」

 

 その姿には見覚えがあった。

 この世界で目撃したドラゴンは、今瀕死となっているヤツを含め2体しか居ない。記憶を探る必要もなく、自然と思い出す事ができた。

 

 以前、ドラゴーナの村付近で遭遇した、若いドラゴンだ。

 あの時はリザードの拠点を攻撃しているのを見送ってからすぐ帰還したが、まさか再び出会うとは思わなかった。

 

「で、リザードの次は私が標的、か」

 

 後ろへ飛び退く。

 私が居た場所に、衝撃波を伴って2体目のドラゴンが着地する。

 

 たった今着地したドラゴンは、騎士の鎧のような銀色の鱗を持っていた。

 しかし体長は、あの瀕死のドラゴンの半分ほど。先程の鳴き声からも分かるように、声が高い。

 

「……やっぱり、子供じゃないか。君、生まれて何年も経ってないだろう?」

 

「グアア……」

 

「……」

 

 しかし、黒いドラゴンと、銀色のドラゴン……まるで対極の存在だ。

 漆黒を纏った魔王と、白銀の鎧を身に着けた勇者。そんな印象だった。

 

「勇者、ね……」

 

 勇者の慈悲は、手負いの魔王を庇うほどのものであるらしいが……。魔王は、どこまでも魔王でしかないようだ。

 

「『転移』」

 

 勇者の存在を無視し、魔王の直ぐ横に転移する。

 ヤツは、”大口を開き、今にも勇者の後ろ首に噛み付こうとしていた”。

 

 私は、その無防備な姿に剣を振り降ろす。

 

 

 ……勇者の慈悲に、魔王が改心するなんて事はないんだ。もしあるとして、それはおとぎ話の中の出来事だ。

 

 現実では、そのおとぎ話と同じことをするのは愚かな勇者だけ。

 じゃあ魔王はどうするかと言えば……、たった今死んだこのドラゴンがやったように、裏切るのだ。

 

「……君、ヤツの友達じゃなかったんだな。じゃなきゃ裏切ったりしない」

 

「ギ……ア……?」

 

 勇者……銀のドラゴンが振り返って、地面に落ちている漆黒のドラゴンの首を見つける。

 その直ぐ横では、力なく倒れる胴体があった。

 

「……ギ」

 

「で、君はどうする? 幾ら若いとはいえ、助けられたことは自覚してるだろう?」

 

「……」

 

 ドラゴンが、ゆっくりと私を見る。

 敵意があった。だというのに、殺意はない。噛み合わない2つの意思に、私はそこに”迷い”にあるからだと理解した。

 

「私と戦うか? 戦力差は承知していると思うんだけど」

 

「ギ……、ギアアアアアア!」

 

「……そうか」

 

 再び戦う事になるが、なんの問題は無い。

 魔力に余裕があるとは言い難いが、目の前のドラゴンと戦う分には足りる。

 

「『私を飛ばせ』」

 

 風属性魔法で、私の身体を大きく後ろへ吹き飛ばす。

 

 そして足を地面の上で滑らせつつ、魔法を構築する。

 

「『降り注げ』」

 

 槍を、純粋な土属性魔法で形成する。

 1つ、2つ、3つ……5つまで作り上げて―――

 

 

「なーにーをー、やってるんデスか?!」

 

「……え?」

 

 ―――遠くから覚えのある声と、とんでもない音量の破裂音が聞こえて、その瞬間に槍の1つが何かに弾かれて砕ける。

 

 誰かが乱入してきたのか?

 感覚を集中させると、これまたやはり見慣れた魔力を感じ取った。その方を見ると、先ほど別れたばかりの2人と、あの黒尽くめのイツミがいた。

 

「何をやってるのかと思えば、本当に何をやってるんデスかケイお姉さん?!」

 

「ドラもんも、一体どうしたんだ?」

 

「キャット……と、イツミ?」

 

「ケっちゃん! 助太刀に……あれ、違うドラゴン? それも2体……」

 

「レイちゃんまで……! なんで君が」

 

「ドラもん! 協力者の事を聞いてないとは言わせないのデスよ!」

 

「……えっと」

 

 キャットはご乱心といった態度で、その剣幕に私は言葉を中断せざるを得なかった。

 私が言葉を選びかねていると、ドラゴン達とキャットの様子を見たレイちゃんが、私に向かって問いかける。

 

「……もしかして、付いちゃってます? ……決着」

 

「まあ、そうなるのかな?」

 

「そうですか……えっと、無駄足でしたね。えへへ」

 

 ……それよりもさっきの破裂音は、彼が……?

 随分と長い形をした、恐らく銃と似た類のそれを見て、改めて銃という武器に恐れを抱いた。

 

 

「ギ、ギイ」

 

「ギもイも無いのデス! さっさと頭を下ろして一発殴らせろデス!」

 

「ギ……ぎう」

 

 そ、それにしても何時にも増してキャットがアグレッシブだ。

 そしてキャットの命令に素直に従うドラゴンも意外だ……いや、待て。

 

「ドラもん……? まさか、イツミのペットの……」

 

「てやっ! ふん、少しは反省するのデス」

 

「ぎうう……」

 

「……もう良いだろう。ほら、こっちおいで」

 

 ……ど、ドラゴンが人間の、それも仮面を被った黒尽くめの人に頬ずりしてる。

 英雄とドラゴンが絆を結ぶ物語と似ているようで、どこか逸脱している。一体何処にこんな怪しい姿の人間と友好を結ぶというのか。

 

「ぎう、ぎい」

 

「よしよし」

 

 ここに居た。

 

「……さて、ケイお姉さんに紹介するのデス。このバカドラゴンはドラもんという名前で……知っての通り、私と同じペットデス」

 

「私のペットが失礼を働いたな。ドラもんに代わって、私が謝罪させてもらおう」

 

「ぎうう」

 

「は、はあ……、そっか」

 

 色々と言いたいことはあるが……、まあ、連戦で疲れていたところだ。これ以上戦う必要が無くなったのは助かる。

 張り詰めていた緊張も、既に解けている。さっきまで敵対してたドラもんも、申し訳なさそうに頭を下げているし。

 

「……」

 

 私が殺したドラゴンが、光となって散り始める。

 死は平等に訪れるというが、ドラゴンでさえ死に様が他のと一緒だとは…………む、なんだ?

 

 死体の中から……いや、これは……。

 

「元の姿に……戻った?」

 

 ドラゴンが消えた跡には、メアリーが……彼女が倒れていた。

 

 私は心底驚いた。ドラゴンが死ねば、メアリーも死ぬと思っていた。

 だがそれは勘違いだったらしい。

 

「え、え、メアリーちゃん?!」

 

「……」

 

 レイちゃんがその姿を見つけて、予想通りの反応で駆け寄る。

 キャット達は、その様子を見守るという行動をとった。

 

 メアリーは、その胸に大きな傷口を抱えていた。

 魔法の紅い槍で与えた、抉るような傷ではない。彼女がドラゴンへと変身する直前に与えた、私の剣による傷だった。

 

「ぁ……」

 

 ドラゴンの死体がメアリーの姿に変わったことに、疑問を抱く余裕さえなかったらしい。

 力なく倒れるメアリーに向かって、レイちゃんが彼女の名を呼びかける。

 

「メアリーちゃん?! その傷……!」

 

「……あ……え?」

 

 まだ息がある……。

 

「私です。レイナちゃんです!」

 

 ……もしかすると、回復ポーションが効くかもしれない。

 だが、回復させて大丈夫なのか? またドラゴンになって私たちを襲わないとは限らない。

 

「ぁ、お……は、よう」

 

「安静にしていてください! ……あうう、一体どうすれば」

 

 ……そうも言ってられないか。

 

「レイナ、これを飲ませて」

 

「あ……回復ポーション! そうでした、まだ息があるってことは、まだHPが……!」

 

「ほら」

 

 まあ、あんまり期待していないが。

 こんなポーション一本で、死にかけの女の子が生き返る可能性は低い。望み薄というものだ。

 

「メアリーちゃん、口を開けてください。あ、無理しなくて良いです。そう、ゆっくり……はい」

 

 とりあえず、やるだけやっておこう。”最善は尽くした”、と言うやつだ。

 

 

 さて、この街を混乱に陥れる存在は居なくなった。ソウヤでも探しに行こうか。

 まずは何処から探すべきだろうか。やはり失踪する直前まで居た宿屋を中心に捜索するべきだろうが。

 

「あ……あれ? 痛く、ない?」

 

「メアリーちゃん! 良かった、本当に……!」

 

 ……んん?

 

 思わず二度見する。

 メアリーの胸の傷が無くなっていた。それももう、きれいさっぱり。

 

 

 ……え、マジで?

 

 

 思わず目を疑ったものだから、瞬きしたり目を拭ったりもした。それでもやはり、傷は癒えていた。

 

「……マジ、か」

 

 ……これを元の世界に持ち帰りでもすれば、奇跡の水薬だとかなんとかで騒がれて、最終的に城の宝物庫に収まってしまうことになるだろう。

 飲むだけで傷をある程度癒すだけでも、かなり有用なんだけれど。

 

「おくすり……あまい」

 

「えへへ、良かったです。私が作ったんですよ。でも助けたのはケっちゃんです! ほら、ケっちゃんもこっち来てください!」

 

 ……彼女に剣を振るった私が、親しい態度で関わる資格は無いと思うんだけれど。

 私が戸惑っていると、レイちゃんの無邪気な眼差しが私を見つめているのに気づく。

 

 う…………負けた。

 

「仕方ないなあ、もう」

 

 私は2人の傍で屈みこむ。

 メアリーの赤い瞳に見つめられて思わず動揺するが、それが表情に出さないように意識する。

 

「ええっと……」

 

「け、ちゃん? えっと、あ、ありがとう……ございます?」

 

「あー、どういたしまして?」

 

 ……なんで疑問形で会話してるんだろう。

 むう、ていうかレイちゃんが聖母みたいに慈悲深い眼差しなんだけど。非常に肩身がせまい気分だ……。

 

「ああもう、ソウヤの奴どこ行った?」

 

「そうや……?」

 

「そ、君のお友達だよ。全く、本当なら子供相手は私じゃなくてソウヤの仕事なのに……」

 

 メアリーは今のところなんともないし、この子は放っておいていいだろう。奇跡の水薬の製作者も居ることだし。

 

 とりあえずソウヤの捜索に移ろう。アイツの足ならそう遠くまで行かないはずだし……何処かで避難しているのだろうか? 地下室とか。

 ドラゴンを目撃してすぐに離れたのかもしれないが、そうするとレイナが彼の事を知らないのに説明がつかない。

 そうすると……。

 

「……」

 

 ……この世界の生き物は、死ぬ時には例外なく光となって消えてゆく。死体さえも残らない世界なのだ。

 

 いや、これはあくまでも可能性だ。まだ確定していないのだ。

 それに、どっちにしろ元凶はもう居ない。避難しているにしろ、死んでいるにしろ、急いで捜索する必要はない。

 

 集中力をかき集めて、しかしじっくりと魔法を構築し始める。転移魔法、目的地はとりあえず宿屋。戦闘中でもないから、急がなくていい、気が楽だ。

 

 ……ありゃ。思ったより早く完了した。はは、何でだろうな……?

 

「じゃ、私はここで……」

 

「あ、はい。……あれ、ケっちゃん、どうしました?」

 

「え、何が?」

 

「だって……ケっちゃんが」

 

【ピロピロン】

 

「っ……?! あ、メールか……」

 

「あ、メールですか? えっと、私の方は後でで構いませんよ」

 

「あ、うん。……ゴホン」

 

 な、なにもこのタイミングで鳴らすことないじゃんか……。

 キャットが訝しげな目で見てきた。もう何も言わないでくれ。

 

「ったく、一体誰が……。えーっと、『システム』」

 

 そこからメールという項目を選んで、そら来た。

 えー、最新のものは……、『件名:生存報告 ソウヤからケイへ』。

 

 ……ソウヤ?!

 

『生きてるか? 俺は生きてる。相も変わらず人形姿だが。

 送信のタイミングが悪ければケイは戦闘中だろう、良ければ戦闘後だ。あんまり邪魔したくないんだが、大丈夫だったか?

 で、俺の居場所だが、今俺は教会に――

 

 

「教会! 『転移』!」

 

「ふぇ?」

 

 移動する先の座標を一瞬で変更、転移を発動し―――、

 

「ソウヤアァァ!」

「しい゛?!」

 

 ―――無愛想な人形面に向かって突撃した。




近いうちに修正する可能性

・追記
修正完了。彼には消えてもらいました


・追記

『崩壊』

―――「命も力も亡くした文明は、瓦礫へと崩れ行った」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。