呪いを生まれ持っていること以外は、種族がドラゴーナなだけの幼い女の子。メアリー
ドラゴンの出現と同時に宿屋から姿を消した彼女が、ここに居た。
「メアリー。君は……、君は一体何だ?」
吹き荒れる魔力の中心は、彼女の下にある。つまり、メアリーがそれだけの魔力を内包していると言うことになる。
人間が持つ魔力を感知できる私が、なぜそれを見落としていたのか。その疑問を抱いて、しかし今は考えるべきではないと頭を振る。
「ねえ……ケイおねーちゃん」
先程から目から涙を流している彼女は、縋るように私を見つめている。
輝く瞳が、涙で歪んだ。
「ぜんぶ、ゆめだよね?」
夢?
ああ、夢ならばどれだけ良かったことか。ドラゴンの襲撃によって、一体どれだけの人が死んだのだろう。それを考えると、夢であってほしいと願いたくなる。
だが、この世界は夢ではない。紛れもなく現実だ。
「……」
私は無言でメアリーの元へ近づく。
この世界は夢だと言って、慰めるため?
あるいは現実だという事実のみを突きつけるため?
生憎と、その二択を選ぶつもりはない。
剣に力を込める。
「ケイおねーちゃん……。ぜんぶ、わたしのせいなの? まちがこわれちゃったのは、わたしのせいなの?」
「……君は、呪われている。そして、それは厄災をもたらす」
アイザックは言っていた。彼女の呪いについて、具体的なものは分からないと。
しかし、私は呪いの真実を目前にしている。
……今の彼女が背負っているのは、片方しかない大きな翼。
ついさっきの戦闘で切り落としたのは右翼。そして彼女が背負っているのは左翼だ。
翼の見た目も、あのドラゴンの物と全く同じ。
もう、何の疑いようもないだろう。
「のろい……」
「……きっと、私がどうにかする」
「……?」
私は足を止める。
剣が届く距離に、間合いを置く。
口ばかりの慰めに、彼女の涙は多少収まったように見えた。
「その前に、質問だ」
「しつもん……?」
「……ソウヤは、どこに行った?」
「ソウヤおにーちゃん……ぁ……!」
「……?」
「あ、わ、わたし……ぅあ、いや……だ」
彼の名を口にして、ほんの少しの間をあけてからメアリーの態度が急に変わる。
その場に屈みこんで、勝手に否定の言葉を並べ始めた。
「……どうして君は否定をする?」
……答えろ。
「言い方を変える。ソウヤに一体何をした?」
「わたし…………ごめんなさい……ごめんなさい!」
なぜ謝る? 私は謝罪など求めていないのだ。私が聞きたいのは事実のみ。
「子供相手に」という抵抗、忌避感を無視して剣を向ける。
「……?」
「ごめんな、さ、う、うあ」
すると、ひたすらに謝罪を続けるメアリーの様子が変わった。
まず最初に現れた変化は、彼女の指先。そこから腕、肩へとかけて、あの忌々しい魔力に包まれる。
「ああ、あああ……!」
考えるまでもない。メアリーは、直ぐにでもドラゴンの姿に変わり果てるだろう。
魔力に包まれた後の体表は、ドス黒い鱗へと変わっていた。
「いや、イヤぁ!」
自らの姿が変わってゆくのを認識した彼女が、鋭い爪が備わった両手で顔を覆う。
見ているだけで痛々しい。けど、心の何処かで、“都合が良い”と安堵する。
私は、幼い女の子を殺さなくていいのだ。醜いドラゴンを、殺せば良い。
「ああ、そうだ……殺さなければ」
「イヤ、イヤ! ワタシハ……チガウノ……!」
「せめて、幸せな来世を期待してくれ」
「ぁ……」
そのとき、彼女を中心に渦巻いていた魔力が止んだ。
手に感じる生々しい感覚が、一際と大きい”何か”を私の心に残した。
……。
……しかし、彼女は動き出した。
「ッ?!」
「イタイ、イヤ、オネーチャン、ドウシテ?!」
「なんで生きて……!」
―――ふと、この現状と似た光景が脳裏に浮かんだ。
人形姿の胸に剣を突き立てたあの時と、全く同じだった。元人間のモンスターを、この剣で、その胸に一突きする。そんな瞬間。
それでも
「ア、グァ、ァァァァアアア!」
「くぅッ?!」
だが、その記憶を思い起こしている暇さえ許されなかった。
固まっていた私に振り下ろされた鋭い爪に、本能だけで反応した。
……しかし間に合わなかった。
「がッ!」
爪は私の装備越しに肩を裂いた。
痛覚が未だにやってこない内に、後ろに飛び退いた。敵は爪を地面まで振り下ろした直後、周囲には砕けた地面や土煙が舞っている。
今この瞬間が隙だと判断すると、ポーチを探り、敵が居る場所を睨みつつポーションを飲む。
「はぁ……クソッ。ドラゴンの姿に戻ったか」
先程まで戦っていた巨大なドラゴンの姿が再び、晴れた土煙の向こう側で見えた。
ついさっきの回復ポーションで、私が負った傷は癒えた。
彼女に、ヤツに与えた傷も見えない。形態が変わったせいだろうか。
……とにかく、ヤツを殺さなければ。
「はぁッ!」
大きく前に踏み出し、加速しながら斬りつける。振り抜く寸前に、魔力によって剣の刀身が延長される。
ドラゴンが翼と魔力で風を生み出し、飛び上がって回避する。片翼しか無くともある程度は飛べるようだった。
「『堕とせ』!」
通り抜けざまに岩の槍を飛ばす。牽制程度の威力でしかない魔法だ。
それらは丁寧に爪で弾かれ、そしてドラゴンが反撃してくる。
「―――ガァ!」
小さく息を吸ったかと思えば、火の玉を吐いてくる。ブレスとはまた違った攻撃。
大きく避ければ、着弾した方から爆炎が襲いかかる。
「『水を』!」
魔力で水を生み、爆心地へ向けて放つ。
水の塊は私が火の粉を被らぬよう守るに留まらず、瞬時に弾けて、濃い水蒸気が辺りを覆う。
「『貫け』!」
霧の中から攻撃する、私からも視界が遮られているから、音で判断するしかない。
攻撃の効果を確認する前に、霧を間に挟む位置関係を保ちつつこの場から離れる。
「ガァア!」
私が
頭の中で構築していた魔法を、武器を握りつつ発動する。
「『転移』」
その直後、私の足は踏みしめる地面を失う。私の姿はドラゴンの左後、つまり左翼が間合いに入る位置にある。そこへ武器を振りかぶった体制で転移した私は、空中でそれを振り抜いた。
直前に送られた魔力によって刀身が鋭く、そして長くなった剣がヤツの左翼を切り裂く。それは右翼と同じく無力化した。
「ガ、グガアアアアア!」
両翼を失ったドラゴンが落下するも、元々高度が低かったからか、着地する。
そのかわりに怒りを顕にして私を睨んだ。翼を失ったヤツは、もはやトカゲ同然だ。
機動力を失い、そして人間と同じく地面を踏みしめて戦わねばならない。
切り落とされた翼と共に着地すると、怒りが込められた眼差しで睨まれる。
私は睨み返しつつ、嘲笑ってやった。
「ガアアアアアァァァァ!」
今度は咆哮だ。
ドラゴンの象徴でもある広大な翼を両方失って、プライドを傷つけられたらしい。
それで良い。
私に敵意を向けろ。
他の人間に手を出すな。
そして、私に殺されろ。
「『さあ』」
土属性魔法と火属性魔法、その2つを同時に詠唱する。
薄く紅く輝く岩が、時間を掛けて巨大な槍の形となって現れる。そしてその形が完成した後、槍はヤツの元へと放たれる。
「『今、ここで』」
詠唱と共に、ドラゴンの首ほどの大きさはある槍は輝きを増し、紅を増し、依然としてヤツの命を目掛けて飛び続ける。
ドラゴン詠唱する私を妨害しようと、息を溜める。
けど、どうせ間に合いやしない。
「『崩壊せよ』」
その瞬間、一定の速度を保っていた槍が一瞬で加速して、ヤツが身を護る隙さえ与えずに胸元まで辿り着く。
槍の先がヤツの鱗を貫くか貫かないかの間際、
「―――死ね」
紅を纏っていた巨大な槍が、爆ぜた。
「――――?!?!?!」
ドラゴンが声を上げている。それが悲鳴か、怒号かは分からない。
全てが爆風で掻き消される。
ヤツの声も、体も……。
「――――――………」
・
・
・
「……驚いた、まだ生きてるのか」
「…………」
黒い煙が晴れて、両足で立ち続けるドラゴンの姿が見えるようになる。胸には抉られたような傷口があり、そこから赤黒い血を垂らしている。
数分もすれば、人一人沈めるには十分な程の量の血が溜まるだろう。あれぐらいの巨体ならば、それだけ流しても意識を保ちそうなものだが。
「殺すつもりだった。鱗を貫通した槍が、爆発で内側から肉を焼き、吹き飛ばす。姿を保てれば良いほうだ。四肢がそこら中に散ってもおかしくない」
私の言葉が聞こえていないのか、あるいは理解していないのか。
ドラゴンは、ただ無言で私を見つめている。
「マトモに動けない……いや、瀕死なのか。流石ドラゴンだな、絶命するその時まで立ち続けるなんて」
ヤツの瞳はしっかりと私を捉えているが、焦点がぶれている。意識が朦朧としているのだろう。
力も入らないのか、腕がだらんと垂れている。
「……今度こそ、仕留める」
剣を構える。
ヤツが一度瞬きをする。
「……」
相も変わらず、物を言わないドラゴンだ。
何も待つ必要はない。
ジリ、と足を動かす。
そして――――、
「ギアアアアアアアア!」
「……?」
ドラゴンの鳴き声。
しかし、目の前のヤツの物ではなかった。声は上空からだった。
「友達か」
こんなドラゴンにも、仲間がいるものなのだろうか。
眼の前の存在はもう脅威ではないと判断し、警戒の対象を上空の方へと変える。
戦闘前に上空へ放った、照明代わりの光属性魔法は既に消えていたが、建物から立ち上る炎がその姿を照らしていた。
「あれは……」
その姿には見覚えがあった。
この世界で目撃したドラゴンは、今瀕死となっているヤツを含め2体しか居ない。記憶を探る必要もなく、自然と思い出す事ができた。
以前、ドラゴーナの村付近で遭遇した、若いドラゴンだ。
あの時はリザードの拠点を攻撃しているのを見送ってからすぐ帰還したが、まさか再び出会うとは思わなかった。
「で、リザードの次は私が標的、か」
後ろへ飛び退く。
私が居た場所に、衝撃波を伴って2体目のドラゴンが着地する。
たった今着地したドラゴンは、騎士の鎧のような銀色の鱗を持っていた。
しかし体長は、あの瀕死のドラゴンの半分ほど。先程の鳴き声からも分かるように、声が高い。
「……やっぱり、子供じゃないか。君、生まれて何年も経ってないだろう?」
「グアア……」
「……」
しかし、黒いドラゴンと、銀色のドラゴン……まるで対極の存在だ。
漆黒を纏った魔王と、白銀の鎧を身に着けた勇者。そんな印象だった。
「勇者、ね……」
勇者の慈悲は、手負いの魔王を庇うほどのものであるらしいが……。魔王は、どこまでも魔王でしかないようだ。
「『転移』」
勇者の存在を無視し、魔王の直ぐ横に転移する。
ヤツは、”大口を開き、今にも勇者の後ろ首に噛み付こうとしていた”。
私は、その無防備な姿に剣を振り降ろす。
……勇者の慈悲に、魔王が改心するなんて事はないんだ。もしあるとして、それはおとぎ話の中の出来事だ。
現実では、そのおとぎ話と同じことをするのは愚かな勇者だけ。
じゃあ魔王はどうするかと言えば……、たった今死んだこのドラゴンがやったように、裏切るのだ。
「……君、ヤツの友達じゃなかったんだな。じゃなきゃ裏切ったりしない」
「ギ……ア……?」
勇者……銀のドラゴンが振り返って、地面に落ちている漆黒のドラゴンの首を見つける。
その直ぐ横では、力なく倒れる胴体があった。
「……ギ」
「で、君はどうする? 幾ら若いとはいえ、助けられたことは自覚してるだろう?」
「……」
ドラゴンが、ゆっくりと私を見る。
敵意があった。だというのに、殺意はない。噛み合わない2つの意思に、私はそこに”迷い”にあるからだと理解した。
「私と戦うか? 戦力差は承知していると思うんだけど」
「ギ……、ギアアアアアア!」
「……そうか」
再び戦う事になるが、なんの問題は無い。
魔力に余裕があるとは言い難いが、目の前のドラゴンと戦う分には足りる。
「『私を飛ばせ』」
風属性魔法で、私の身体を大きく後ろへ吹き飛ばす。
そして足を地面の上で滑らせつつ、魔法を構築する。
「『降り注げ』」
槍を、純粋な土属性魔法で形成する。
1つ、2つ、3つ……5つまで作り上げて―――
「なーにーをー、やってるんデスか?!」
「……え?」
―――遠くから覚えのある声と、とんでもない音量の破裂音が聞こえて、その瞬間に槍の1つが何かに弾かれて砕ける。
誰かが乱入してきたのか?
感覚を集中させると、これまたやはり見慣れた魔力を感じ取った。その方を見ると、先ほど別れたばかりの2人と、あの黒尽くめのイツミがいた。
「何をやってるのかと思えば、本当に何をやってるんデスかケイお姉さん?!」
「ドラもんも、一体どうしたんだ?」
「キャット……と、イツミ?」
「ケっちゃん! 助太刀に……あれ、違うドラゴン? それも2体……」
「レイちゃんまで……! なんで君が」
「ドラもん! 協力者の事を聞いてないとは言わせないのデスよ!」
「……えっと」
キャットはご乱心といった態度で、その剣幕に私は言葉を中断せざるを得なかった。
私が言葉を選びかねていると、ドラゴン達とキャットの様子を見たレイちゃんが、私に向かって問いかける。
「……もしかして、付いちゃってます? ……決着」
「まあ、そうなるのかな?」
「そうですか……えっと、無駄足でしたね。えへへ」
……それよりもさっきの破裂音は、彼が……?
随分と長い形をした、恐らく銃と似た類のそれを見て、改めて銃という武器に恐れを抱いた。
「ギ、ギイ」
「ギもイも無いのデス! さっさと頭を下ろして一発殴らせろデス!」
「ギ……ぎう」
そ、それにしても何時にも増してキャットがアグレッシブだ。
そしてキャットの命令に素直に従うドラゴンも意外だ……いや、待て。
「ドラもん……? まさか、イツミのペットの……」
「てやっ! ふん、少しは反省するのデス」
「ぎうう……」
「……もう良いだろう。ほら、こっちおいで」
……ど、ドラゴンが人間の、それも仮面を被った黒尽くめの人に頬ずりしてる。
英雄とドラゴンが絆を結ぶ物語と似ているようで、どこか逸脱している。一体何処にこんな怪しい姿の人間と友好を結ぶというのか。
「ぎう、ぎい」
「よしよし」
ここに居た。
「……さて、ケイお姉さんに紹介するのデス。このバカドラゴンはドラもんという名前で……知っての通り、私と同じペットデス」
「私のペットが失礼を働いたな。ドラもんに代わって、私が謝罪させてもらおう」
「ぎうう」
「は、はあ……、そっか」
色々と言いたいことはあるが……、まあ、連戦で疲れていたところだ。これ以上戦う必要が無くなったのは助かる。
張り詰めていた緊張も、既に解けている。さっきまで敵対してたドラもんも、申し訳なさそうに頭を下げているし。
「……」
私が殺したドラゴンが、光となって散り始める。
死は平等に訪れるというが、ドラゴンでさえ死に様が他のと一緒だとは…………む、なんだ?
死体の中から……いや、これは……。
「元の姿に……戻った?」
ドラゴンが消えた跡には、メアリーが……彼女が倒れていた。
私は心底驚いた。ドラゴンが死ねば、メアリーも死ぬと思っていた。
だがそれは勘違いだったらしい。
「え、え、メアリーちゃん?!」
「……」
レイちゃんがその姿を見つけて、予想通りの反応で駆け寄る。
キャット達は、その様子を見守るという行動をとった。
メアリーは、その胸に大きな傷口を抱えていた。
魔法の紅い槍で与えた、抉るような傷ではない。彼女がドラゴンへと変身する直前に与えた、私の剣による傷だった。
「ぁ……」
ドラゴンの死体がメアリーの姿に変わったことに、疑問を抱く余裕さえなかったらしい。
力なく倒れるメアリーに向かって、レイちゃんが彼女の名を呼びかける。
「メアリーちゃん?! その傷……!」
「……あ……え?」
まだ息がある……。
「私です。レイナちゃんです!」
……もしかすると、回復ポーションが効くかもしれない。
だが、回復させて大丈夫なのか? またドラゴンになって私たちを襲わないとは限らない。
「ぁ、お……は、よう」
「安静にしていてください! ……あうう、一体どうすれば」
……そうも言ってられないか。
「レイナ、これを飲ませて」
「あ……回復ポーション! そうでした、まだ息があるってことは、まだHPが……!」
「ほら」
まあ、あんまり期待していないが。
こんなポーション一本で、死にかけの女の子が生き返る可能性は低い。望み薄というものだ。
「メアリーちゃん、口を開けてください。あ、無理しなくて良いです。そう、ゆっくり……はい」
とりあえず、やるだけやっておこう。”最善は尽くした”、と言うやつだ。
さて、この街を混乱に陥れる存在は居なくなった。ソウヤでも探しに行こうか。
まずは何処から探すべきだろうか。やはり失踪する直前まで居た宿屋を中心に捜索するべきだろうが。
「あ……あれ? 痛く、ない?」
「メアリーちゃん! 良かった、本当に……!」
……んん?
思わず二度見する。
メアリーの胸の傷が無くなっていた。それももう、きれいさっぱり。
……え、マジで?
思わず目を疑ったものだから、瞬きしたり目を拭ったりもした。それでもやはり、傷は癒えていた。
「……マジ、か」
……これを元の世界に持ち帰りでもすれば、奇跡の水薬だとかなんとかで騒がれて、最終的に城の宝物庫に収まってしまうことになるだろう。
飲むだけで傷をある程度癒すだけでも、かなり有用なんだけれど。
「おくすり……あまい」
「えへへ、良かったです。私が作ったんですよ。でも助けたのはケっちゃんです! ほら、ケっちゃんもこっち来てください!」
……彼女に剣を振るった私が、親しい態度で関わる資格は無いと思うんだけれど。
私が戸惑っていると、レイちゃんの無邪気な眼差しが私を見つめているのに気づく。
う…………負けた。
「仕方ないなあ、もう」
私は2人の傍で屈みこむ。
メアリーの赤い瞳に見つめられて思わず動揺するが、それが表情に出さないように意識する。
「ええっと……」
「け、ちゃん? えっと、あ、ありがとう……ございます?」
「あー、どういたしまして?」
……なんで疑問形で会話してるんだろう。
むう、ていうかレイちゃんが聖母みたいに慈悲深い眼差しなんだけど。非常に肩身がせまい気分だ……。
「ああもう、ソウヤの奴どこ行った?」
「そうや……?」
「そ、君のお友達だよ。全く、本当なら子供相手は私じゃなくてソウヤの仕事なのに……」
メアリーは今のところなんともないし、この子は放っておいていいだろう。奇跡の水薬の製作者も居ることだし。
とりあえずソウヤの捜索に移ろう。アイツの足ならそう遠くまで行かないはずだし……何処かで避難しているのだろうか? 地下室とか。
ドラゴンを目撃してすぐに離れたのかもしれないが、そうするとレイナが彼の事を知らないのに説明がつかない。
そうすると……。
「……」
……この世界の生き物は、死ぬ時には例外なく光となって消えてゆく。死体さえも残らない世界なのだ。
いや、これはあくまでも可能性だ。まだ確定していないのだ。
それに、どっちにしろ元凶はもう居ない。避難しているにしろ、死んでいるにしろ、急いで捜索する必要はない。
集中力をかき集めて、しかしじっくりと魔法を構築し始める。転移魔法、目的地はとりあえず宿屋。戦闘中でもないから、急がなくていい、気が楽だ。
……ありゃ。思ったより早く完了した。はは、何でだろうな……?
「じゃ、私はここで……」
「あ、はい。……あれ、ケっちゃん、どうしました?」
「え、何が?」
「だって……ケっちゃんが」
【ピロピロン】
「っ……?! あ、メールか……」
「あ、メールですか? えっと、私の方は後でで構いませんよ」
「あ、うん。……ゴホン」
な、なにもこのタイミングで鳴らすことないじゃんか……。
キャットが訝しげな目で見てきた。もう何も言わないでくれ。
「ったく、一体誰が……。えーっと、『システム』」
そこからメールという項目を選んで、そら来た。
えー、最新のものは……、『件名:生存報告 ソウヤからケイへ』。
……ソウヤ?!
『生きてるか? 俺は生きてる。相も変わらず人形姿だが。
送信のタイミングが悪ければケイは戦闘中だろう、良ければ戦闘後だ。あんまり邪魔したくないんだが、大丈夫だったか?
で、俺の居場所だが、今俺は教会に――
「教会! 『転移』!」
「ふぇ?」
移動する先の座標を一瞬で変更、転移を発動し―――、
「ソウヤアァァ!」
「しい゛?!」
―――無愛想な人形面に向かって突撃した。
近いうちに修正する可能性
・追記
修正完了。彼には消えてもらいました
・追記
『崩壊』
―――「命も力も亡くした文明は、瓦礫へと崩れ行った」