今回は形式を一部変えたり。所謂台本形式というヤツ。
それから俺たちの生活はすっかり変わってしまった。
先日の件は、あまりにも多くの影響を俺たちに与えてきた。
俺が弁当を売る事はなくなって、代わりにあの副団長の元で訓練を続けている。戦闘能力を少しだけでも上げておきたいのだ。
ケイの方は弁当販売に割いていた時間が空き、代わりにとレイナの素材採集を手伝いに行っていたりする。
弁当売りの
……けれども、悲劇の女の子の為だけに、俺たちは変わらぬ日常を振舞っている。
弁当を作る事自体は続けているが、商売としてではなく、メアリー個人の為に行なっている。勿論、作ったからにはそれを受け取りにアイザックが来るのだが、その度にメアリーの近況について伝えてくれる。
俺たちと出会う前まで記憶が巻き戻った彼女は、以前と変わらず家の中に引きこもっていると。
幸いなのは、メアリーが平和な日常を、本当の意味で何時も通りに過ごしているということだろうか。
他には、呪いをどうにかしようと、レイナが呪いを取り払うポーションを贈ったらしい。それは効かなかったのだが。
以前に俺の呪いを治そうとして作られた物をそのままプレゼントしたらしいが、その一本を作成するために”フェニックスの血”というものが使われている。
因みにその結果だが、不死鳥の血でもってしても、厄災竜の呪いには歯が立たなかった。
……あの高価なポーションを無駄にしたと聞いたケイは、軽く恐慌状態に陥っていたのだが。彼女は意外と貧乏性なのだろうか。
とにかく、厄災竜の呪いが健在である今、その事実を知る俺たちは軽く落ち着きを失くしている。
その現れだろうか。ケイの様子がおかしい。ついでに言うとレイナも。
……レイナに関しては恐らくメアリーの件とは関係ないと思うのだが、ケイの方はどうだろう。
「おかえり」
「ただいまー」
「ただいまです!」
素材採集からケイが返ってきた。ケイの手からは植物が詰められた袋がぶら下がっているが、歩く度に”ふぁさ”と軽やかな音を立てて揺れる。
幾らでも持ててしまうと止め時がわからなくなるという理由で、普通の袋を持って行ったとの事だ。
宿屋に2人が帰ってくるのを待っていた俺は、前もって用意していた紅茶を出す。
『お疲れ様』
「わあ、頂きますっ。いつもありがとうございますね!」
「火傷しないでよ」
「それにしても、商売がなくなってから随分と暇になっちゃったなあ」
「ケっちゃんってば、朝に空っぽの弁当袋を持って売りにでかけちゃいましたからね!」
「ううっ、掘り返さないでよ。……ちょっと日々の癖が抜けきらなかっただけで。ソウヤもそんな感じの事あったでしょ?」
そんなことを言われても、間違えてお客さん向けに弁当を作るなんて事は無いのだが。
作ってもメアリー宛のものオンリーである。
『無いぞ、というかそんな事があったのか。俺は知らなかったぞ』
「あ……知らなかった?」
『?』
「あぐ、ハテナ単体の返答って、なんかムカツク!」
……ふむ。
「そういえば、街の復興もあっという間に殆ど終わっちゃいましたね。あとは細かい所だけです」
「ああ、確かに……。というかドワーフの作業現場って見てて不自然なんだけど。なにあのスピード、あの空間だけ時間加速してない?」
ドワーフといえば、生産やらのスキルや関連する能力値に補正がかかったりするという種族特性である。
しかし、ケイにそこまで言わせる程だとは思えないが。
「戦争の件もありますし、2度目の修復という事ですから作業が楽らしいですよ」
「直接聞いたの?」
「ポーションを販売する時、ちょびっと」
ちょびっとずつ紅茶を飲んでいたレイナがそう言う。
確かに、見知らぬ建物の修復と、見知った建物の修復では作業効率も段違いだろう。
『それじゃあ俺は上に戻る。何か用があったら遠慮せず来てくれ』
「はい、紅茶ごちそうさまです!」
うん、やはりレイナは純粋だな。高校生だとは思えないぐらいだ。
「それはそうとケイ。どのタイミングでも良いから、昼飯までにこっちに来てくれるか?」
「?」
わざわざメモ帳をしまって声で伝える。その意図を読み取ったケイは、疑問でも抱いたような表情をしても返事は一切口にしない。
その代わりにこくりと頷いたから、俺は上の階へ昇って行った。
・
・
・
ケイ。
ケイと言えば、先日俺が一度死んでリスポーンをした時、それとフェニックスの血が使われたポーションがメアリーに贈られた時に、大きく、それもかなり取り乱したのが記憶に新しい。
加えて例の件以来、ケイの様子がどこかおかしくなっていた。
理由は知らない。推測するには手掛かりが無い。そもそも彼女は友人だ、直接訊く方が早い。
「ということで、お前を呼ばせてもらった。すまないな」
「”ということで”って……、なんか前にもこんな事なかった?」
「あったな」
「……まあ、突拍子がないのはともかく、君は私の保護者にでもなったの?」
「生憎だが、どちらかと言えば俺は守られている方だ。だろう、
「……まあ」
軽口を叩かれたので、俺も少しジャブをきかせることにした。
騎士という言葉に反応して、けども努めて顔に出さないようにしている様子だった。
「どうせ余計なお世話だなんて思うかもしれないが、何か問題を抱えていたら聴こうじゃないか」
「別にない、と言ったら?」
「問題を見つけるまでストーキングしよう」
「うへえ」
「それが嫌なら話せ。別世界関係に理解を示せるのは俺だけだぞ?」
すると、ケイは黙りこくってしまった。
やや強引だったかもしれないが。……ケイの事だ、強がりにはこういう態度が良い。
俺の考えが正しかったのか、俺の顔を見て大きくため息を吐かれる。きっと”コイツしつこいなあ……”と思われていることだろう。
しつこく振る舞ったのだから当然である。
「うん、うん。わかった。話すよ」
「ほん、口を割る気になったか」
「うっさい。……と言っても本当に些細なことだよ」
「……些細?」
「黙って聞く。……別に難しいことじゃないよ。ただ、エルの事を思い出してただけ」
エル……。ふむ、やはりそれ関連か。
なんというか、眼の前の友人の過去は、大体がエルという人物が中心になっている。恋人だと言う話だったのだし、当然か。
「でも、エルは私の事を覚えていないんだろうなって。そう思ってた」
「成る程ね。”メアリーが記憶を失くして、恋人ももしかしたら……”って感じか」
「納得してくれたようで結構。前々から薄く感づいていたけど、今回の件で強く感じたよ。……そもそも時間を巻き戻すなんて事をやったんだ。記憶も巻き戻されるに決まってたさ」
時間を巻き戻す前に気づかなかったのか、と俺は思うのだが、そこまで気を回す余裕は無かったんだろう。
何もかもを捨てて、時間遡行の魔法の開発に打ち込む様子が容易に想像できる。
「で、話はそれだけ? この尋問の為だけに呼んだだけじゃないだろうね」
尋問とは失礼な。ただ相談してもらおうと機会を設けただけだ。たしかに強引だったかもしれないが。
「悪いか?」
「まあ」
「……そうかい」
俺が悪かったよ。
「さて、話も済ませたことだし……別の話をしよう」
「え、もう話すことないんじゃないの?」
「ないとは言ってない。こっちも話すには良い機会だからな。ちょいとばかし、冒険しようと思うんだ」
そう言うと、ケイがぎょっと目を見開く。どういう意味で驚いているのか、俺は気になるところなのだが……。
「そんなに意外か」
「いやまあ、キミみたいな男に旅ができると思えないだけで。それよりどういう意図で冒険するって?」
「確かにこの体は貧弱だが……俺は元々冒険者やろうとしてたんだぞ。人形になったり戦争起きたりドラゴン出たりしてそれどころじゃなかったが」
「冒険者? キミが?」
「そうだ。なんか言いたいことでも?」
「……いんや、別に」
「なら良い。そんな訳で、今までの稼ぎを使ってその準備をしようと思う、以前使ってたやつも引き続き使うが。……異論は?」
冒険するということは、ダンジョンを潜ったり、クエストを請けたり、その戦利品や報酬で高級な装備をゲットしたりするワケである。
つまりはハクスラである。ケイという存在が現れなければ、俺は今もそうしていたかもしれない。何が悲しくて最初の街で商売プレイをせねばならないのだ。
「え、でも色々と問題が……あー、ない」
「なるほど、異論が喉まで出かかった所を我慢してくれてありがとう。幸い、ここにセンパイが居るんだ。ゆっくりと冒険活動を始動させていこうじゃないか」
なんならケイの力でいきなり高難度のクエストに挑んでも良い。俺の経験にはならないが、その報酬を傍受することができる。
寄生プレイ? そんな単語知りません。
「……でもなあ」
「なんだ、やはり心配事が?」
何やら深刻そうな顔で、考え込んでいる。
やはり俺の身が傷つく様な事はしたくないのだろうか。俺がちょっとリスポーンしただけで取り乱すようなケイの事だ。それもありえなくはない。
冒険は取りやめか、とぼんやり思う俺だったが、その予想はまんまと裏切られた。
「冒険者ってことは、依頼処に行ったりするんでしょ?」
「まあな」
「……依頼処に入ったら大変なことになると思うんだ」
「……ああ」
あそこにはもう随分と足を運んでないが……ケイの言葉に含まれる意味を察し、納得の声を上げる。
「私とキミ、とんでもないぐらい有名人になってるのは知ってるよね。ほら、例の件でさ」
「無論だ。生存者が居るかさえ怪しい状況だったとはいえ、戦闘は街のど真ん中でやったんだろう? 生還した目撃者が居てもおかしくない」
プレイヤーならば生還したか否かなど関係ないが……とにかく、俺たちは今や有名人だ。
ドラゴンとケイの戦闘を目撃したどこぞのプレイヤーが、情報をばらまいてくれやがったのだ。お蔭で弁当の商売も止めることになってしまった。
「幸い、広まっているのはキミの
ほう、確かにな。
頭から足先まで全て鎧……って。
「チョット待て」
「うん?」
「全身鎧なんか装備したら、王宮にある飾りのアレみたいに動けなくなるぞ」
現代人に分かりやすく言うならば、全身にダンベルを貼り付けるようなものだ。筋力の能力値が少ない俺には、色んな意味で荷が重い。
「そこはほら。私の魔法でなんとか。それに一部は革素材の防具にすれば良いでしょ」
「それ以前に俺後衛のハズなんだが。弓使いなんだが」
「弓兵が軽装備じゃないといけない理由がどこにあるの?」
ええ……。
そしてどういう訳か、俺の鎧、そしてその他冒険に必要なアイテムを買いに出かけることなった。
・
・
・
「おかいもの?」
「そうだ、メアリー。すぐに帰ってくるけど、お留守番は……」
「わたし、いつもおるすばんしてる」
「……そうだな、メアリー。これぐらいへっちゃらだったな?」
「うん」
「強くなったもんだな、メアリー。それじゃあ俺は行ってくるよ」
「いってらっしゃい……」
「……家族愛とはこの事かな? アイザック殿よ」
「聞いていたのか、イツミくん。玄関のすぐ横で盗み聞きだなんて」
「怪盗たるもの、情報の見落としはあってはならないからね。私は貴方の事を深く知りたいと思っている」
「へえ、どうやら俺はこっちでも人気者みたいだね。参った参った」
「ああ、もうすっかり虜になってしまった。……それはそうと、貴方に見せたい物がある」
「それは……私の手帳か。君が入手していたんだね」
「これでも私は立派な日本人でね。中身を読まずに返そうと思ったぐらいだ」
「それは有り難い。それで、読んだ感想は?」
「うむ……アイザック殿。貴方はドラゴンの事を、全て知っているのだろう?」
「……まさか、メタ目線での考察かい?」
「お気に召さない?」
「いいや、まさか。大歓迎だよ! 是非とも君の考察が聞きたいものだ!」
「では、お披露目は向こうでやろう。キャットが音を遮断してくれるから、夕飯の話から機密情報のやり取りまで、なんでもござれだ」
「ほう、ここは君の家といったところか?」
「生憎、家に招くのなら美しい女性が望むところでね。ここはあえて、アジトとでも言おうか。……さて、アイザック殿」
「……ああ、聞こうじゃないか」
「まず大前提だが……貴方は普通のプレイヤーではない」
「へえ、どうしてそう思う?」
「例の手帳の情報をもとに調べた。貴方が
「よく知っているじゃないか!」
「貴方がそのゲームの世界から訪れたのは間違いない。別ゲームのサーバーと繋ぎ合わせるなんて、狂気の沙汰だと言うほかないが……。それはともかく、あちらの世界とこちらの世界はまだ本格的に繋がっていない。来るのはNPCばかり、まだ向こうではアップデートはされていないのだから、当然か。だがそんな中で、貴方がいる」
「NPC達に混ざっているのは悪いかい?」
「私としては別にいいと思うのだがね。仕事でここにいるのなら、だが。 ……貴方はデバッガー、あるいはテスター、いずれかの目的を持ってここで活動しているというのが私の考えだ」
「……ビンゴ。大当たりだよイツミ君! そうさ、私はとある目標のためにここに居る!」
「そう、そして貴方の目的は……ここからは確証のない予想になってしまうな。アップデートに伴い、恐らくレイドボスも追加されるのだろう。そのボスのキーとなるのが……」
「……」
「厄災竜。あるいはメアリーと呼べばいいだろうか? 誠に痛ましい事であるが……」
「気にしなくて良いさ。……彼女はNPCだ」
「ほう……? まあ、誰がなんと思おうが自由だろう。とにかく、テスターかデバッガーなのかは知らぬが、特殊な立場である貴方が四六時中彼女を見守っている。まるで管理者であるかのように思える立ち振る舞いだが。……実際、そうなのだろう?」
「ああ、勿論だとも」
「これはこれは、予想が的中して一安心だ。つまり、貴方の目的は、今後発生するであろうレイドボスに備えて、メアリーを管理する事。……だがそれでは向こうゲームのプレイヤーが担当する理由がないな。やはり別の仕事を兼任しているんだろうが……向こうのキャラクターを送り込む際の問題を発見する為に居る?」
「それは俺が答えよう。既に君は100点中80点を手にしているよ。あとの残りは私に任せるんだ」
「……」
「まず、翻訳機能のテスト、銃火器の動作確認、こちらの世界の戦闘システムと掛け合わせた際の戦闘バランスの情報収集もある」
「戦闘バランスの情報収集……?」
「
「なるほど……あの戦争も、その情報収集の一環か」
「アップデート前の賑やかしの意味もあるけどね」
「それで、話は終わりかい?」
「答え合わせの為だけに会った訳ではない。確証を持つのは確かに大事な事だが」
「君も欲張りなものだね。次はなんだい?」
「……彼女の事だ」
「おや? これは驚いた、まさか君がメアリーにお熱だとは」
「厄災竜だ。ヤツの出現条件はどうなっている?」
「……流石に欲張りだね。ここから先は
「私が気掛かりなのは、知りすぎた私が密かに消される事ぐらいだ」
「なら問題ない。私たちは寛容なスタンスだからね。……さて、厄災竜の出現条件だったかい? 条件は、いわば彼女次第となる。彼女の呪いは、彼女自身の感情が不安定になることにより、姿形を得る」
「それは怒りや、悲しみなどといった感情か? あるいは喜びや楽しいと言う感情がそれを引き起こすのか?」
「なかなかゾッとしない事を言うね。無垢な笑顔が厄災を齎すだなんて、これ以上ない理不尽だ。だが安心してくれ。不安や悲しみこそが、厄災のトリガーさ」
「……私としてはそれだけでも安心できないのだがな。ソウヤ殿から聞いたが、メアリーはトラウマによって記憶を封じているのだろう?」
「……彼はそう言っているね?」
「今回は1度目だから問題ないだろうが、その後はどうなる? 厄災竜に化ける度に心の傷をふやし、その度に記憶を覆い隠すのか? そうしてちぐはぐになった心は、以前より不安定になるのでは?」
「……」
「そうすると──」
「失礼、考察は1人でやってはどうだい?」
「おっと、これはこれは、心から謝罪を申し上げる」
「……では、知識欲を十全に満たした私は、ここを去るとしよう。十分すぎる情報の提供に、感謝する」
「構わないよ。ただ、これだけは言わせてくれ」
「聞こう」
「君が何をしようと、どのように力を尽くしても、彼女の運命は変わらない。覚えておいてくれ」
あらすじに書いておいた「更新不定期」が活きる時が来たようだ。
いつものことか