ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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これを旅行と言って良いものか。


51-ウチのキャラクターと俺の旅行出発

 出発日の当日、予め定められていた合流場所には、()()()()()()()()()()()()()かなり異質な物があった。

 

「驚いた、これが……」

 

「これが……メチャくんの言う”車”?」

 

「もうっ、ボクの名前はメチャちゃんだっテ!」

 

 小さなドワーフの男の子が反論する横を、俺は通り過ぎる。

 そうして車に近づいた俺は、この車を注意深く観察した。

 

「……車だ。それも、オフロードカーだ」

 

 車にはあまり詳しくないが、大雑把なことは知ってる。

 道路とは違って、起伏の多い野道での移動に適した車種だ。特徴的なのはその運用目的に適応するように作られた頑丈な体。ある程度の起伏や段差ぐらいであれば、登るなり乗り越えるなりしてしまう様なタイヤとエンジン。

 そして見た所、食料を含む大量の物資がトランクと天井に積まれている。……そして、

 

「座席にも荷物が積まれてるな」

 

 これは窮屈な旅になるだろうな……。

 

 車に近づいて観察する俺に気付いたのか、メチャちゃんくんが俺に近づいてくる。

 

「もしかして、ソウヤにいはこういうのに詳しいノ?」

 

 そ、ソウヤにい……?

 もう少し呼び方を変えたら、何処ぞの小さなドラゴーナを思い出してしまうが……まあ良いや。

 別に俺は詳しくないと、首を横に振る。

 

「そっカ……。もし改良案があったら、幾らでも言ってネ」

 

 やはりこの車を作ったのはこの子か。製作者としては、改善するべき箇所があれば、すぐにでも改善したいのだろう。

 わかった。車について気になることがあれば、後部座席からちょいちょい口出しするとしよう。俺に口は無いが。

 

「というか、誰が運転するんだ、これ?」

 

「……ねえ、これって誰が運転するの?」

 

 俺の疑問はケイ以外の誰にも届かなかったから、ケイが仕方なしにと代弁する。

 するとメチャちゃんくんが真っ直ぐ手を挙げる。

 

 それを見た俺は、その挙げられた手の意味を理解して、

 

「え、子供が?」

 

 と思わずつぶやいた。

 無免許運転だとかいうレベルではない。出来の悪いAIにでも運転を任せた方がマシではないのだろうか。

 

「あっ、今ボクにはまだ早いって思ったでショ?」

 

「間違いなく早いな」

 

「ヒドイ! ノータイムで頷くなんて酷いヨ、ボク泣いちゃう! おーいおいおい」

 

 そしてメチャちゃんくんは嘘くさく泣き始めた。しかしその泣き方はなんか違くないか?

 ケイが嘘泣き小僧を見る目が胡散臭い物を見るそれに切り替わってきた所で、メチャちゃんくんがあっさりと泣くのを止める。

 

「でも大丈夫! ちゃんと操縦できるし、何かあればエミータに任せるからネ!」

 

「はい、マスター。ワタシには車両操縦APIが既にインストールされています。端子を接続し次第、コントロールを行えます」

 

「うんっ、頼りにしてるヨッ」

 

 ……こちらとしては、子供が操縦するよりも、このアンドロイドさんに全部任せた方が安心するのだが。

 

「まあ、子供が御者をするような所もあるし、良いんじゃない?」

 

「車と馬車はまるで違うからな……?」

 

 そりゃあ馬車だって扱いには技術が要るし、間違えれば命の危険だってあり得るが……、それも含めて、車は馬車の上位互換だ。

 速度が高い分、やらかした時の危険性が特に……。

 

「ああ、なんだか行きたくない気分になってきた。……よし、こんな所に居られるか! 俺はもう帰る!」

 

「なにが”よし”、だ。逃げるんじゃない」

 

「へぶっ」

 

 く、首を掴むな。息が詰まる!

 いや本気で息が……これ、気管が完全に塞がれて……!

 

「それで、私達は何処に座れば良いのかな?」

 

「……! ……!」

 

「疑問、何故ソウヤさんはケイさんによって拘束されているのでしょうか」

 

「ああ、ソウヤは突然呼吸を止められても意識を保つ訓練をしててね。こうでもしないと訓練にならないんだ、ごめんね」

 

 こ、この力、とんでもない……!

 さっさと解いてくれ、とケイの腕を叩く。ペチペチと肌を叩く音が鳴る。

 

「理解。疑問を解消しました、感謝します。護衛者2名は後部座席に待機してください」

 

「うん、ありがと」

 

「……なんか首根っこを持ち上げられた猫みたいダネ。すごく苦しソウ」

 

「まあ、確かに。……そろそろいっか」

 

 手を離されて、そのまま地面に倒れ……なかった。どうやら首を掴まれている間にシートに座らせられたらしい。

 後部座席の左端のスペース、俺のすぐ隣には荷物が積まれていたが、それすら気にならない様な感情で湧き上がっていた。そんな俺は、首にかけられていた圧迫感から開放された直後に犯人を睨んで、恨み言を―――

 

「ゲホッ……おま、今回ばかりは、ケホッ、ゴヘッ……」

 

 ―――恨み言をぶつける代わりに咳が出た。

 息を整えている間にドアを閉める音が聞こえるが、それを無視して改めて口を開く。

 

「なにをする!」

 

「いや、逃げるのが悪い。一度やると決めた依頼なんだから、最後までやりなさい」

 

 不思議な事に窒息した感覚はあっても、苦しいという感覚だけが無かった。……が、今でも喉に何かがつっかえた様な感覚が残っている。お蔭で息をするだけでも違和感が一杯だ。

 

「なに、車が怖いの? 子供じゃあるまいし」

 

「その子供が運転する車なんて怖いに決まってるだろ。何時で事故を起こすか分かったもんじゃない」

 

 例えるなら、朽ちたレールでジェットコースターをするような感覚だ。もし車体自体が新品でも、肝心の物が頼りないのであればやはり恐ろしい。

 

 ああ……どうやらエンジンがかかったようだ。現実の車と殆ど同じような音と振動が始まる。

 

「うわっ、走ってないのに揺れた」

 

「動力源が振動してるから、ちょっと酔っちゃうかモ、気をつけてネ」

 

「なるほど、気にとめておくよ」

 

「……」

 

 もう何が起きても知らないぞ。

 俺は運転席にある小さな姿を確認して、ため息をつく。子供の運転に何か嫌な思い出があるわけではない。あっても忘れているだろうが。

 しかし子供が運転しているという事実は、それだけで俺を不安にさせる。……考えすぎだろうか。

 

 俺が葛藤している間に、車が加速し始めた。もう出発らしい、これは後の祭りと言えば良いのだろうか。 

 

「へえ、速い速い。どんな馬よりも速いかも」

 

「……よく考えたら、この速度だとモンスターも野盗も関係ないよな」

 

 窓を目を向ける。今まで俺たちが居た場所がどんどん離れていくのが見える。

 常識外の速度を持つモンスターに会わなければ、2日間交戦せずに過ごせるだろう。

 

 ……冷静になって1つ気付いたことがあるのだが、この運転手がプレイヤーであるのなら、年齢はそこまで問題じゃないのかもしれない。現実の常識にとらわれていたが、そもそもメチャちゃんくんの中身は免許を持つ成人かもしれないのだ。

 そうすると俺の心配は無意味なのかもしれない……。いや、それでも見た目がああでは、どうしても不安を感じる。ちゃんとアクセルに足は届くのか。

 いや、それでも、ああでも、それじゃあ……と、様々な葛藤が俺の頭の中で繰り広げられ、最終的には「成るように成れ」という所に行き着いた。

 どうせ俺はプレイヤーだ、俺が事故死しても大きな問題はない。ケイは転移でどうにでもなるだろう。

 

 一先ずは安心することにしよう、表面上はだが……。

 そうする為に大きく深呼吸して、落ち着く為に横の()()に寄りかかった。

 

「……?」

 

 肩に感じたのは、シートの背もたれでは無い何か。

 俺は背中にある物の正体を確認すべく、それを見た。

 

 ……視界に入ったそれの正体は、()()()()とも形容できるモノだった。しかしそれは、塔というには不安定であった。衝撃を与えれば、すぐにでも崩れてしまうような……―――

 

「あ」

 

 ―――否。衝撃を与えれば、という仮定ではない。たった今、この塔に俺が衝撃を与えてしまったという、過去形に成り代わっていたのだ。

 そう、俺が寄りかかった事による振動を切っ掛けにして、崩壊の時を迎えようとしていたのだ。

 

 崩壊、それは……、

 

「ぎゃ」

「あ」

 

 この状況において、それに寄りかかっていた俺が犠牲になる事を示す単語であった。

 

 ああ、この身に降りかかる災厄はメチャちゃんくんの運転によるものではなく、人の体重を優に超える質量の荷物だったのだ。諸行無常。事実はいつも予測を裏切るのである。

 

「ソウヤにい、大丈夫?!」

 

 俺が押しつぶされ、先ほどとは違う意味で息苦しくなっていく中……微かにメチャちゃんくんの声を聞き取った。

 ああ、こんな無様な俺に心配をかけてくれるなんて。こんな子供に運転させるなんてとんでもないと思っていた俺だが、それを撤回しても良いかもしれない。

 

 

 ……いや、今それはどうでも良いから、とにかく助けてはくれないだろうか。

 死ぬほどのダメージを負っているわけじゃないし、息苦しいとはいえ呼吸が出来ないわけじゃないのだが。

 

「あー……」

 

 ケイが同じく後部座席に座っているはずだ。彼女がどうにかして助けてくれないだろうか。

 

「うん、見た所大丈夫そうだね。放って置いても良さそうだ」

 

「いや助けてあげてヨ」

 

 

 

 

「ふう……、荷物をどけてる間にもう街が見えなくなっちゃった。感謝しなさいよ」

 

「ああ、ああ、感謝する。……マッチポンプだろ、それ」

 

「いや、キミが勝手に荷物崩したんでしょ」

 

 このケイは……。まあいい、今回はもう何も言わない。疲れた。

 シートの左側を見ると、崩れづらくなるように積み上げる高さは半分に抑えられた荷物があった。代わりに横のスペースを倍に増やすことになった。今や後部座席の左半分は貨物室同然だ。

 必然的に俺とケイは右側に追いやられたのだが、仕方ない。

 

「しっかし、結構な量を積んでるねー。これだけ積んでるとかなり重いはずだけど……それでもかなり速いんだね、この車」

 

 後ろのトランクや天井、そして後部座席まで使って積み込んでいるのだ。これだけあれば重くなるのは当然。動きも鈍重になるだろう。

 重い分、加減速が効きづらくなる筈だ。そうすると、事故が起こす可能性を高めてしまうような……。

 

 ……いや、この事はもう考えないようにしよう。俺はもう知らん。

 

「さっき、動力源が振動してるって言ってたよね。それってどんな仕組みなの?」

 

「んー。エミータ、お願いしても良いカナ?」

 

 流石に運転中に難しい話はしたくないのか、その説明をエミータの方に任せた様だ。

 エンジン音は現実のものと似ているが、全く同じ構造なのだろうか。

 

「簡潔に説明します。魔結晶駆動四輪車シリーズの動力源は、魔結晶エンジン、別称魔法発動機を使用しております。火属性、水属性の魔結晶を使用し、魔導制御機器を用いて精密制御を行っています」

 

 やはりと言うか、化石燃料を使わないらしい。不安を紛らわすために、エコな車だなと感心する事にした。

 しかし専門用語が出てきた。『魔導制御機器』、聞き覚えのない言葉だ。

 

「魔導制御。そこら辺にあるからねえ。やっぱりここでも使ってるんだ。で、その魔結晶からどうやって動力を?」

 

 え、そこら辺にあるもんなの?

 

「火属性魔結晶をシリンダー内で爆発させ、発生した動力を回転力に変換しています。その影響で熱を帯びた部品に対しては、水属性魔結晶でクールダウンを行っています」

 

「しりんだーとな?」

 

「筒です。シリンダー内部では爆発による力が一方向に集中するので、変換率が向上します」

 

「……ああ、なるほど。理解」

 

 ……俺にはぼんやりとしか理解できなかったが、大体はそういう事なのだろう。

 そんな俺に対して、ケイはスッキリした顔である。もしかしたら、既に頭の中でエンジンの考察を……設計までやりはじめてるかもしれない。

 いや、それは流石に無いか。ケイの頭はコンピュータでも何でも無いのだ。

 

「到着後になりますが、必要に応じ設計図を共有する事を提案します」

 

「良いの?!」

 

「はい。基本的に、魔結晶駆動四輪車シリーズの情報は非公表ですが、マスターの判断で共有する事は可能です。ただし、製作には非常に精密な工程を必要とし、現状では生産可能なのはマスターのみであります。実質的にマスター以外がこれの製作を行うことは不可能と判断します」

 

 車なんて物を一人で作れるというのは、こちらとしては素直に感心するしかない。しかも、聞く限りでは生産職のトップクラスであるらしい。

 

 ……それぐらいの人に会えたことにまず驚きだが。

 有名企業の社長に鉢合わせたぐらいの貴重な経験かもしれない。こんな子供姿の彼を社長と思うには無理があるが。

 

 

「そういえばケイねえって、何かを生産するような事ってやった事あるノ?」

 

「あるよ。魔法の補助に使う道具を作る時に、ちょっとだけね」

 

「そっかー。ソウヤにいはドウ?」

 

 ちょっと記憶がない現代人な俺には、何かを作るような経験なんて料理ぐらいである。

 この人形に関しても同様、生産面では料理特化の人形だ。精々振るうのは包丁ぐらいだ。

 

「ソウヤは料理しか作れないよ」

 

「あ、お料理作れるノ? ボクもだヨ!」

 

 なんて事だ。この子供は、機械いじりが出来るだけではなく、なんと料理も作れてしまうらしい。

 一体なんなのだこの万能ボーイは。これでは俺が下位互換だ。

 

「だらしなーいお姉さんが居るから、いつもボクが作ってるんダ」

 

「へえ、お姉さんが」

 

「うん」

 

 一人っ子の俺にとっては、兄弟姉妹のことはあまり良くわからない。けれど、姉の方を弟が世話するというのは、常識的に考えてイレギュラーではないだろうか。あるいは俺の常識が間違っているのかもしれない。

 

「……その人は、テクニード帝都の方に住んでるの?」

 

「一緒の家にいるヨ。普段は家の中でだらだら~ってしてるけどネ」

 

「へえ。変な人だね」

 

「……うん、すっごく変なお姉さんダヨ」

 

 バックミラーを覗くと、その言葉に反して誇らし気な表情をしている彼が見えた。

 ケイもその表情に気付いたらしく、興味深そうな顔をして、言い放った。

 

「もしかしたら、キミも変なのかもね」

 

「えー、ボクは変じゃないヨ!」

 

 はあ、なるほど。

 血が繋がっているからには、やはりお互い似た所があったりするのかもしれない。

 もし機会があれば、この弟姉が共に住んでいる所を観察してみたいものである。

 

 

 

 

 車というのは、馬車と比べて速い上に振動も比較的少ない。

 だがこうして後部座席でじっとしているというのも、限界がある。

 

 時間に非常に忠実なエミータが言うに、出発から4時間と23分、そして18秒が経過したとのこと。秒単位で伝える必要はあったのだろうかと思ったが、今はそれはどうでもいい。

 

 狭い。そう、非常に狭いのだ。

 左半分には山積みの荷物。その右には俺とケイ。俺の使えるスペースは、この肩幅とちょっとのスキマ程度だ。

 女性と肩が触れ合うかもしれない状況とは中々ロマンスなものだ、……と思われるかもしれないが、俺たち2人は体格が隠れるぐらいの防具を着込んでいる。肌の触れ合いなんてあったもんじゃない。

 そもそも俺にはケイに劣情を抱く余地がない。

 

「ケイ、もうちょっと端に寄れるか」

 

 彼女は首を横に振った。やはり無理か。

 

「じゃあ、荷物の一部を四次元ポケットに入れてしまうのはどうだ? 座席を占領してるやつを片付ければ、少なくとも2倍の空間は確保できる」

 

「……」

 

 少しだけ考え込むような仕草を見せてから、しかし首を横に振る。何故だ。

 いや、理由がわからないわけじゃない。今の俺らは正体を隠している身。使える技を知らせてしまうというのは、その目的に反してしまうのだ。

 

 俺は項垂れてシートに深く沈む。正直な所、防具が固くてシートのふかふかを感じられない。非常に辛い。

 

 ああ、もういっその事寝てしまおうか? 寝てしまえば楽になる。索敵はケイやエミータに任せれば良い。

 特にエミータは飽きもせずに、左右にそして後ろ、と常に周辺に警戒を巡らせている。

 

「……そろそろ昼休憩しない? 隣のアホが落ち着かなくなってきたんだけど」

 

「誰がアホだ」

 

「……ケイさんの提案に同意します。マスター達は昼食と休息を取るべきです」

 

「そっか、そろそろお昼の時間だもんネ」

 

 ケイのさりげない悪口はともかく、確かにそういう時間だ。俺は改めて周囲の景色を見る。

 この4時間の移動で結構な距離を移動した筈だ。時速60キロメートル辺りで移動していたとして、計240キロメートルとなる。

 コレが2日続くというわけだから……、1200キロメートル以上も旅するのか? かなり遠いな……。

 

「ソウヤも疲れてるみたいだし」

 

「こういう旅って、ソウヤにいは初めてなんだっケ?」

 

「うん、昨日話した通りだよ。私はもう慣れっこなんだけどね」

 

「へえ。……あ、そこらへんが良さそうだネ。車止めるヨ」

 

 お、休憩か!

 やはり話してみるものだなと、足を伸ばせる所に出られる事に歓喜する。

 

 減速して、メチャちゃんくんの言う良さそうな場所に停車した。

 そしてケイがドアを開いて出ていって、それに続いて俺も出る。辺りを見渡すと周囲一体は起伏のある丘という感じで、岩が点在している。見える範囲には森は存在しなかった。

 

「……モンスターの気配はあんまりかな。視界も遠くまで届くし、安心できそうだ」

 

「そこも考慮して停めたからネ。じゃあボクは車から食べ物を……あ、今回は別に大丈夫なんだっケ?」

 

「そうそう。初日の昼食はソウヤが用意してるんだった」

 

 そう、今日の昼飯に弁当を持ってきている、朝作ってから昼に食べるまでなら腐らないし、美味い飯を食べられるならば作ってくるべきだと思ったのだ。

 勿論ケイと俺の分、そしてメチャちゃんくんの分も用意している。アンドロイドでロボットなエミータは物を食べないという事で、用意していない。エネルギー源とメンテナンスさえあれば稼働するとの事だが。

 

「ソウヤ」

 

「ああ、待ってろ」

 

 車の中に置いていた鞄を取り、中から3つの弁当を出す。

 それぞれ赤、黄、緑と、見事な信号機色となっている弁当箱の中には、俺が真心込めて作った料理が入っている。

 まあ、どれも中身は同じなのだが。

 

 ケイとメチャちゃんくんに弁当を渡すと、ケイが魔法で作った土の椅子に座る。ちゃんと机まで用意されている。衛生面に不安はあるが、無いよりマシだ。そもそもこの世界でそういう微生物とかがあるのかわからないのだが。

 

「……本当にエミータは食べなくて良いの?」

 

「はい。一般的な食物の経口摂取は、ワタシの動作不良に繋がります」

 

「口にするのは水かポーションぐらいなんだよネ」

 

「ほん?」

 

「オーバーヒート……えっと、つまり体が異常に発熱した時や、極端に魔力が少ない環境の時は、水とか魔力ポーションを飲んで対処できるんだヨ」

 

「なるほど」

 

 見るからに人間であるエミータだが、こういう話を聞くと、あれでも生き物ではないのだなと再確認する。

 完全な道具扱いなんて出来ないが、エミータのあのような態度を見ると、人間扱いをするという行為がムダな様に思えてくる。

 

「椅子ありがとうネ。いただきまス」

 

「ああ、これぐらい良いよ。頂きます……あれ、スプーンとフォークは?」

 

「箸で食え」

 

「むう……苦手なんだけど」

 

 確かにケイの世界では箸はあまり普及していないが、旅の中で使ったことはある筈だ。確か、彼女は旅の一環で日本と似た国に訪れたことがある。

 そう思って、特に問題ないと思ったのだが。

 

 そういえば、宿屋の朝食で和食が出た時、彼女だけスプーン等で食べていたのを見かけた記憶がある。別のテーブルで食べていたから特に気に留めてなかったが。

 実際はどんな食べっぷりなのだろうかと、ケイの方を観察する。

 

「……ヒドイな」

 

 邪魔な頭部装備を外し、代わりにフードで顔を隠しつつ箸を操るケイだが……食べ物を掴むことは出来ず、なんとか口に運べたと思ったら噛む直前に食べ物が落ちる始末。

 なるほど、確かに苦手なようだ。初めて箸を使う外国人の様子と完全に一致だ。

 

「仕方ない、スプーンとフォークを持ってくる」

 

「……」

 

 ケイがなんとも言えないような顔で俺を見る。差し詰め、子供扱いされたようで気に食わないとでも思ってるんだろう。

 

 

 食器類は車の中に置いていった鞄の中だ。車の中に入ると、座席に放置された鞄から食器を取り出す。

 使用するであろうと思われる道具は四次元ポケットに仕舞わず、こうして鞄の中に入れているのだが……。

 

「こういうシチュエーションで使われるとはな」

 

 思わぬ一面を見て満足しつつカチャカチャと鞄の中を探り、それらをようやく取り出せた所で車を出る。

 扉を閉め、草が生える地面に足を付ける。

 

「……?」

 

 そしてケイの所へこれを渡そうと思った所で、エミータの様子が妙な事に気づく。

 俺の方を……いや、俺が居る方向を凝視している様に見える。

 一体何なのだろうと、俺も振り返ってみる。しかし車しか見えない。

 

 エミータは幽霊でも見つめているのだろうか?

 製作者であるメチャちゃんくんは、箸を器用に使って食事中。このアンドロイドの行動を解説する暇など無さそうだ。

 

 ……まあ良いか。ケイにこれを渡して、俺も昼食を食べるとしよう。

 

「ほら、ケイ」

 

「うん、ありがとう。……あれ、エミータはどうしたの?」

 

「んー?」

 

 エミータという名前が出てきて、弁当から目を離すメチャちゃんくん。

 このアンドロイドは相変わらずあの方角を見ている。

 

「あれ、なんだろう……警戒中かな? エミータ、レポート」

 

「レポート、ステータス。現在索敵中。方位343、俯角8度に不明な人間の足音を検知。視覚、聴覚共に感度を最高状態に引き上げ、警戒中です。これにより、戦闘セーフティがアンロック状態です」

 

「……えっと?」

 

「あー、なるほど。いわゆる野盗って奴だネ」

 

 ……ゲームだからなのだろうか、それとも脅威として見ていないのか。気楽な態度でそう言い放ったメチャちゃんくん。

 護衛としてここに居る俺は、その態度に引き摺られ、緊張感を抱かないまま―――

 

「敵対存在を確認」

「これは……皆!敵は銃持ちだよ!」

 

『パアン』

 

 ―――乾いた銃声を、背後から聞き取った。




戦闘描写は……苦手だ……。
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