ウチのキャラクターが自立したんだが   作:馬汁

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料理回


53-ウチのキャラクターと俺のキャンプ

 ケイが戻ってくるまでの間、俺はぼんやりと火を見つめていた。

 既に沸いたお湯をメチャちゃんくんのコップに注ぎ、後はこっちの方で火の番だ。あんまり早くに料理を始めてもなんだから、水だけ沸かして待機中である。

 その間、俺は2()()()をどうしようか考えていた。

 

 その場で調達した食材で腹を満たすと決めた俺らだが、全てそれで作ってしまうつもりではない。1品目は調達したもののみで作り、2品目はある程度持参した物を使う。

 

 コレには理由がある。

 現地で食材を、しかも選ぶ余裕が無い可能性が浮上するような状況の場合、マトモに食べられる料理を作れる確証が無いためだ。

 一応食べられる、と言えるレベルなら別に良いが、明らかに毒があったり歯が欠けるほど硬いとかいう物が出てきたら、問答無用でレトルト食品に方向転換だ。

 

 それに現実での生活とは違って、サバイバル生活では母から教わった料理技術が役立つ確証がなくなる。

 肉屋でも無い俺には動物を解体する技術を持たないし、調理する環境だって控え目になるのだ。

 

 幸いこれはゲームだ。倒せばアイテムとして出てくるから、解体等に関しては心配せずとも良い。

 

 

 よし、クリームシチューにでもしよう。俺は焚き火から離れて、車のトランクを開けて探り始める。

 他人の車の積荷ではあるが、ある程度目星は付けている。ほんの少し手探りではあっても、迷いはない。

 出発前に行ったあの会議の功績だ。お蔭様で積まれた食料は大体把握している。……ほら、見つけた。現実でも見かけるクリームシチューのルーだ。

 

 今回は使わないが、他にも各種缶詰があったりする。塩漬け、干し肉や干し野菜といった物は少ない。

 

 そう、缶詰だ。街でも所々の店で見かけるが、基本的に高価な上に、以前やっていた弁当作りでも使うことはなかったから買うことは無かった。

 しかしこれが存在すると知った時は、中世ファンタジーという言葉が何処かへ逃げていった様な感覚がした。

 ……いや、ファンタジーだからこそ存在するのだろうか。もしかしたら、何処ぞの転生者が技術・知識チートで広めたのかもしれない。

 

「あ、それ使うノ? だったらマカロニも入れようヨ!」

 

「え、ああ」

 

 ……まあ、それも良いか。

 メチャちゃんくんも、姉さんとやらの世話している関係で家事慣れしているらしいからな。1人で作ろうと思っていたが、彼が協力してくれるのも悪くない。

 手分けする程のものじゃないけども。

 

 

「あ、戻ってくるみたいだヨ」

 

「?」

 

 下拵えでもしておこうか、と早速缶詰を開封しようとすると、メチャちゃんくんがそんな事を言う。

 何が戻ってくるのだろうと思っていると、彼がパーティミニマップの画面を見せてくる。

 なるほど、画面上に映る味方の座標を示す点が近寄ってきている。

 

「やあ、戻ってきたよ」

 

「どこ行ってたノ? ふと見たら範囲外に行っちゃったから、ちょっと心配しちゃっタ」

 

「ごめんごめん。あんまり良さそうなのが見つかんなくてさ」

 

 ふむ、ケイはこういう狩りが得意な筈なんだが……。気配察知に長けているのだし。最近は『魔力特定』という単語を強調して自慢してきた事もあったぐらいだ。

 

 まあ、そこまで言うのなら苦労してきたのだろう。戻ってきたケイの手には、すっかり絶命した動物の死体……ではなく、普通にアイテム化されたものが抱えられていた。

 イノシシでも狩ってきたのだろう。肉以外にも皮や角が見える。

 

「私の身長ぐらいイノシシが居たから、そいつをやってきた。大きさの割に肉が少なかったけど」

 

 言葉には出していないが、困惑しているような雰囲気だ。

 ケイもこの世界に馴染んできた筈だが、ケイの世界での癖で自ら処理しようとしたのかもしれない。

 

 しかしイノシシか。ケイの証言から予想するに、俺がケイとしてレイナと一緒にレベル上げしている時に会ったものだろうか。

 あの時はそれほど街から離れていなかったが。

 

「うーん? イノシシなんてこの近くに居たっケ?」

 

「さあ。迷い込んだんじゃない?」

 

「……ああ、なるほど」

 

 恐らく、ミニマップの範囲外に出てから転移して、好みの獲物を態々取ってきたのだろう。

 なんて魔法の無駄使いなのだ。

 

「転移して狩ってきたんだろう」

 

「……」

 

 ほらやっぱり。

 

「で、でもこいつを見つけられて本当に幸運だったよ? これ以外で

何とか食べられそうな奴と言ったら、蜂とか……私の顔ぐらいの大きさで。見かけた時は群れてた」

 

 食べられそう……頭ほどの蜂が……? 受動態じゃなくて?

 そういえば蜂を食べる所があるって聞いたことがある。……だからといって俺は食べないぞ。

 

『他にはなかったのか?』

 

「他に? 高さにして膝ぐらいの蟻の群れとか、単体だったけど人間食えそうなぐらい巨大な蜘蛛とか。まあ食えたもんじゃないと思うよ」

 

 なんだその魔境は。俺絶対そんな所に行きたくないぞ。

 

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 狩りの失敗を想定してのプランBが役立ちそうで役立たなかった一幕だったが、どっちにしろ十分な食材が揃った。

 俺はさっそく調理を始める。

 

 まずは鍋を満たすお湯を捨てる。二つも調理器具は用意していないし、鍋一つでも十分だ。

 

 店売りの物より一回り、いや二回りは大きい肉を、とりあえず加工しやすい形に大まかに切る。それを手早く下拵えして、薄切りにして炒める。全部使うと肉盛りのシチュー和えになってしまいそうだから、一部だけ使う。

 次に肉以外の具を缶詰から引きずり出す。豆や野菜が鍋の中にごろごろと落ちていく。

 

「……意外と多いな。まあ好都合か」

 

 3人分には丁度良いだろう。それに缶詰を開けておいて缶の中に半端に残すのもアレだ。

 万が一残ってしまっても、朝食の分に回しておけばいい。

 

 鍋の中で具をある程度炒めると、水とシチューのルーを入れて今度は煮る。

 さて、次は……。

 

「残った肉はどうする? 私が凍らせておこうか?」

 

 もちろんだ。この量の肉を3人で食べられる訳がない。しかし待ってほしい、全部とまではいかないが、まだ使うのだ。

 残った肉を、今度は厚切りしてから串に刺す。串は薪の中に混ざっていた枝を使っている。

 

「焼き鳥!……あ、鳥じゃなかったネ」

 

「串焼きだね。タレが欲しいところだけど、流石に無いよね。……そうだ、あの蜂から蜜を貰おう。ちょっと行っ」

「いや待て」

 

「シロップなら持ってるヨ」

 

 そういう問題ではな……くはないか。はちみつとかを使って肉を軟かくするのは別に変ではない。

 でも貰うってなんだ、貰うって。近所からの差し入れとかじゃないんだから。

 

「常識的に考えて、一人で蜂の巣に突入するのはおかしいぞ……」

 

 ”常識的”という単語がポイントだ。今の俺らは一般冒険者を装っているのだ。

 

「……じゃあシロップを」

 

「それもダメだ。ここで調達した物だけで作ると決めただろう」

 

「……」

 

 このケイは……、すごく面倒くさそうな顔をして精一杯の抗議をしてきている。そんなことをしても、ケイの変顔レコードが更新されるだけだ。

 でもダメだ。一度決めた事は絶対に覆さない。

 

「全く……。ほら、この肉残ったから、よろしく」

 

「ち、はーい」

 

 彼女は時たまこんなふうに幼稚な態度を取る。歳を考えろ、歳を。

 

 

 

 

「さあ、出来たぞ」

 

 手の空いている2人に用意してもらった食器にシチューをよそう。

 火の側に差し立てられた串焼きも十分焼けている。

 

 なんとなく自分のステータスを確認してみれば、料理スキルがまた1つ上がっていた。

 何も考えずに適当な調理をしても、補正が働いて良い感じの料理が出来上がることだろう。

 

「いただきマス!」

「いただきます」

 

「おう、食え食え」

 

「……その兜、食べる時邪魔じゃないノ?」

 

「ああ、そう言えばそうだね」

 

 すると、気軽な感じで頭の装備を外した。

 俺たちは今正体を隠している状態なのだが……と思ったが、ケイがとっていた対策を思い出して考えを改めた。

 

「おお、見た目は似合ってるぞ。何故だかな」

 

 黒髪になったケイの口の端が、俺の言葉に反応してピクリと動いた。

 髪の色だけでなく髪型も変え、ポニーテールの形に纏められていた髪は解けていた。

 黒い髪という、日本人にとって馴染みのある髪色になったことで、見た目から親近感が感じられるようになった。

 

 よほど勘の良い人物でなければ、このケイが”ドラゴンハンター”だと気付かれる事は無いだろう。

 

「まあお前の性格を知っている俺からすれば、違和感しか無いが」

 

 黒い髪を下ろしているという髪型だけ見れば、清楚な印象がある。

 しかし……ケイだからな。

 

「はっ」

 

「笑うな」

 

「わー、お姉さんキレイだネ!」

 

「え、ああ……。うん、ありがとう?」

 

 まあ、ケイを弄ってやるのはコレぐらいにしよう。メチャちゃんくんは素直に褒めているようだし。

 

 俺は装備をそのままにして食べることにする。2人から少しだけ距離を取り、俯きつつ肉に齧りつく。串から引き抜くと、咀嚼する。

 本当に肉だけの串焼きだ。調味料もなにもない。あるとすれば焚き火の煙の香りだろうか。匂いと言い換えたほうが適切かもしれない。

 シチューの方にも手を付けよう。……うん、普通にうまい。

 

「……思ったより柔らかい。このまま食べるのが勿体無い美味しい。そういえば焼く前になんかやってたよね」

 

『下拵えしたからな』

 

「そうそれ。……でもそれだけじゃないね。元から肉が柔らかかったのかな? でも肉の見た目からして部位は……」

 

 ……なんかケイが考え込みだした。

 確かに、アイテムとしてドロップした肉の質が良かったという可能性もある。それと俺の料理スキルの補正もあるだろう。

 

 ちょっと叩いたり、要所を切ったりしてから焼いただけの肉が美味しい理由に心当たりのある俺は、何も言わないことにした。彼女に向かってそういう話をしても、まあ通じないことはないだろうが。

 

 

「ところで、お昼の事なんだけどサ」

 

「あー、アレの事? ソウヤとの口喧嘩と言うか」

 

「うん。筆談してなかったのに話せてたよネ。……あ! えっとっ、言いたくないなら、ボクはこれ以上何も言わない……けド……」

 

「ふん、知ってしまったなら仕方ない。キミには申し訳ないけどその生命を―――」

 

「ひうーっ」

 

 あーあー、変な所でふざけるからメチャちゃんくんが縮こまってしまったではないか。

 

「ケイ。子供を虐めてやるな」

 

「……はあ。はいはい分かってますよー」

 

 このメチャちゃんくんを子供と言えるかどうかは別の話になるのだが、それはともかく大人げないと思う。

 しかしまあ、この事はどう説明すればいいか……。

 

「大丈夫、何もしないし、普通に話すよ。特別秘密にしたいわけじゃないし」

 

「そ、そうなノ……?」

 

「うん。どうしてか、私とソウヤは普通に話せるんだよ。解き方も原因も不明の呪いの事だから、理由もわからないし」

 

 俺の考えが纏まる前に、ケイがあっさりとした答えを返した。

 ケイが曖昧な理由と共に説明を果たしてしまってから、俺はなるほどと内心で関心する。

 呪いということで説明しているこの身体。正体も分からないような呪いというのは、この世界において非常に()()()ものだ。

 だから、呪いの謎はいくらあってもおかしくない。別に完璧な理由をつけなくても良かったのだ。

 

 ふむ、またひとつ賢くなった

 

「……それだけなノ?」

 

「それだけだよ? まあ嘘だと思うのは自由だけど」

 

「んー! 全然嘘だなんて思ってないヨ! 信じてるモンッ」

 

「そうなんだ? それは良かった。嫌われちゃったら大変だ」

 

「嫌わないからネッ」

 

「わぁかってるよー」

 

 ケイがけらけらと笑い飛ばす。

 この合法ショタの扱いには慣れてきたようだ。良いことである、と俺は頷いた。

 

 

「あ、お肉解凍するから追加頼んでも良い?」

 

「ええ、そんなめんどくさい」

 

 でも俺の扱いには少しぐらい気を遣ってほしい。最近ガサツになっている節があるのだ。

 

 

 

 

 ゲームの世界であるという事や、メチャちゃんくんの車の備蓄が豊富だということもあって、想像以上に快適な食事を取れた所で、俺達は飲み物片手にちょっとした雑談をし始めた。

 

「2人はすごく仲が良さそうだけド、何時からの付き合いなノ?」

 

「10日ぐらい?」

 

『10日以上だな』

 

「10日?!」

 

 おーおー。目が飛び出るかってぐらい驚かれた。そこまでの事じゃないだろう。

 10日は10日でも、常識の上で考えるそれとは違う。

 

 友人としての付き合いは、同級生や同僚であれば教室か職場で毎日顔を合わせるだろうが、それ以上の付き合いは毎日とは行かない。

 ましてや殆どの時間において共に行動しているとも慣れば、それはもう立派なカップルである。

 

 ……うん? その理論だと俺たちは……いや、無いわ。

 とにかく、俺たちはこの10日分の24時間を俺たちは一緒に過ごしてきたのだ。睡眠中、弓の訓練や弁当売りなどを除けば、殆どそうしている。

 ここまでくれば、僅か10日でお互いの思考を目線だけで理解する事だって出来る。

 

「だろう、ケイ?」

 

「え? ……まあ、うん。正確には覚えてないけど、それぐらいの日数だとは思うよ」

 

 通じなかった。違う、そうじゃない。

 

 人知れずがっくりと野たれている俺によそに、2人は話を続ける。

 

「まあ、会う前からお互いの事をよく知っていたって所はあるんだけど」

 

「へえー……あれ? 会う前から知ってるって……矛盾してナイ?」

 

「ふふ、ここから先は秘密だよ。流石にプライベートに迫りすぎちゃうからね」

 

 ……まあ、ケイの言うそれも、お互いの理解を深める一因となっているだろう。

 ケイは、俺のことを”別世界の自分”だと認識しているらしい。そんな事はない筈なのだが、そう思うに値する何かがあるのだろう、ケイとしてはそこで納得しているようだ。

 俺は、ケイの事を”過去の俺が書いた主人公”だと認識している。正直言ってここで言う理解は、俺の方からやや一方的になっている感じがある。

 

 そんな所で、合う前からお互いの特徴を把握しているのだ。好感度が初期から高めになるのも頷ける。

 

「ま、色んな事があってこうして一緒に行動してるんだよね」

 

「そうなんダ。だから仲が良い……良い? のかナ?」

 

「そうそう、こうしてつるむぐらいには仲が良いんだよ。力も経験も釣り合ってないのに、釣り合っていないのにも関わらず! ね!」

 

『うるさいやい』

 

「まあデク人形だもんね」

 

 デクっ……。

 

「えっと……これって本当に仲良いノ……? 今日だけでも何回か口喧嘩してるように見えるんだけド」

 

「そうかな?」

 

「そうだヨ!」

 

 おうおう、言ってやれメチャちゃんくん。お前の言葉で俺の将来の精神的平穏の有無が決まるのだ。

 

「でもほら、ぶっきらぼうな態度を取るけど仲良しの兄弟とか居るじゃん」

 

「ぶっきらぼうナ? ……ああ、確かニ」

 

「少なくとも私の人生では、幾つかそういう家族を見かけた事があったねー」

 

「なるほド……」

 

 いや、納得しないでほしい。ここで諦めたら終わってしまう。俺が。

 しかし俺の心からの応援は届かず、メチャちゃんくんは俺たちの関係性に納得してしまった。

 

 

『そういえば姉とはどうなんだ?』

 

「うーん? ケイねえ達みたいなやり取りはあんまり。ボクのお姉さん、身体が弱いカラ……」

 

 あ。……まさか、地雷だったか?

 

『すまない』

 

「え? どうして謝るノ? 別にソウヤにいは悪いこと言ってないヨ」

 

 メチャちゃんくんがそう言うのなら、その言葉を信じるが……。しかし、彼の姉が病弱な人だったとは。

 

「もし良かったら、姉のことを詳しく聞いても?」

 

「モチロン!」

 




作者が料理の実際に試したりした事もなく、十分な知識を持ってもいない。よってこの料理は現実性に欠けるものとする。
まあVRだし。

しかしシチューばっか出てきているような。手軽な料理だという印象だからだろうか。


さてここで豆知識

ミッド・センタル王都、サウス・テクニード帝都という表記があるが、一応表記の法則がある。
ミッドやサウスは国名を示し、センタルやテクニードは首都名を示す。
故に国を指す場合はミッド国などと呼び、都市を限定して指す場合はテクニードなどと呼ぶ。

因みについさっき考えた。ちょっと過去話を弄ろうかと思ったけど、既にこの設定でも矛盾がない状態だった。珍しい。

・追記
妙だ……書いた内容がロールバックみたいな感じで戻ってる……。
気付かないまま投稿したけど、続きはこのまま次の話に
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